【ライブレポ】なとりが日本武道館で描いた『深海』の物語──3rd ONE-MAN LIVE「深海」

日本武道館という巨大な「深海」のなかで、なとりは大きな輝きを放っていた。
2026年2月19日、日本武道館にて、音楽クリエイターの
開演前、場内に広がるのは不穏で静謐な空気だった。会場は青い照明に包まれ、どこからともなくゴーッという信号音のような低い音が響く。日本武道館という特別な場所は「深海」へと姿を変え、観客は海の底へと潜っていくような没入感に包まれていった。定刻を迎えると、オープニングSE「うみのそこでまってる」が流れ出し、透過LEDがゆっくりと上昇。深海の奥底を思わせる映像が広がったのち、暗闇の中に現れたなとり。その姿は、水圧すらものともせず浮上してきた「深海の王」のようで、圧倒的な存在感を放っていた。

1曲目「セレナーデ」では、モノクロ基調のゴシックなビジュアルとともに、静かな熱を帯びた歌声が武道館を包む。続く「ヘルプミーテイクミー」で一気にバンドサウンドのエッジを立たせると、「EAT」ではシルエット映像と交錯するように、ダンサーと共に身体を揺らす。ハイコントラストな映像演出が印象的だった「FLASH BACK」まで、序盤から緊張感のある楽曲群で畳みかけた。
ここで挨拶とコール&レスポンスを挟み、「じゃあまずは皆さんの歌声を聞かせてください」と呼びかけてから「フライデー・ナイト」へ。客席に向けられたカメラが、その熱気をスクリーンに映し出す。そこに広がっていたのは、まるでなとりの深海に引き込まれた魚の群れのようだった。映し出された日本武道館の観客は、小さな子どもからその祖父母世代まで実に幅広い。男女比もほぼ半々で、その支持層の広さにあらためて驚かされる瞬間だった。
この日のライブでは、観客席を映し出し、そして観客と共に歌う場面も多かった。これは「深海」というものを体感させるための仕掛けのひとつだったのではないかと推察する。深海では、ひとりでは生きてはいけない。だからこそそれぞれが助け合い、大きな塊になることで、深海で生きていくこと、を表現しようとしたのではないだろうか。

ライブは「プロポーズ」「恋する季節」「帰りの会」と、なとりの楽曲の中でもポップでロマンチックなナンバーが続いていく。しかし、彼のラブソングに綴られる言葉には、どこか「不安」や「迷い」といった感情がほのかに滲む。恋に胸を高鳴らせ、確かな幸福を感じているはずなのに、ふとした瞬間にネガティブな思いが顔を出してしまう。それはきっと、多くの人が経験する感情だろう。なとりは、そんな恋の光と影、その両方を丁寧にすくい取り、リアルな心情として描き出す。それが、なとりというアーティストが多くの人を惹きつける魅力のひとつだ。
ライブはさらに日替わり曲「ターミナル」「聖者たち」を挟み、後半戦へ。「細胞単位で踊りましょう!」と声をかけると、ミラーボールが回る中、Yohji IgarashiによるRemixの「DRESSING ROOM」では奥行きを強調するLED演出がステージを多層化し、日本武道館を巨大なダンスフロアへと変貌させていく。さらに、「非常口 逃げてみた」では無数の非常口ピクトグラムが、派手にスクリーンに現れ、観客の脳内にエンドルフィンを過剰分泌させていく。「逃げ出したい!」と歌いながらも、激しく踊り、そして観客を踊らせるなとりの姿は、自分も含め、日本武道館に集ったすべての人の本能を解き放とうとしているように映った。なとりは、そこから代表曲「Overdose」、「SPEED」と、ダンサブルな楽曲を連発。縦横無尽に動き回りながら、会場を沸かし続けた。

中盤のMCでは「23歳になりました」と報告し、23歳の目標として「なとりのすべてをマッスルに変えること」と宣言。「こないだ2回目のジムに行って筋肉痛で手が挙げられないので、みなさんが僕の代わりに手を挙げてくれたら」と呼びかけ、笑いを誘った。またサポートメンバーのベーシスト、西月麗音との軽妙なトークも展開。麗音は先ほどのジム通いの話について触れ、「なとり君、ジムに全然いないです」「この前、俺はお前の先を行くとか言ってたけど、ジム2回目とかでマッスルとか言わないで!」と互いのやり取りを披露し、バンドメンバーやスタッフと築いてきた関係性を垣間見せた。また、2年前の初ライブを振り返りながら「俺と共にMCも成長している」と語り、全国から集まった観客へ感謝を伝えた。
話題は、今回のライブのテーマでもある2nd Album『深海』の話へと及ぶ。なとりは「このアルバムが自分の中で、呪いのようになっていた」と吐露。制作過程で大切にしてきたものを失っていく感覚があったとしながらも、「どうしても無くせない夢」があると続けた。それは、具体的な会場や規模を目標にすることではなく、「自分の背中を見て育った誰かが、いつか武道館に立ち、『あなたの背中を刺すためにここまで来た』と言ってくれること」だという。自身もまた、先輩アーティストの武道館公演に憧れて音楽の道を志した一人であると明かし、「ここにいる中に、俺に憧れて音楽を始めたやつがいたら、それが一番の夢」と語った。さらに「もしアーティストになりたい、俺の背中を追い越したいと思うやつがいたら、手放しに応援する」と力強く宣言。「いつか武道館に立って、俺の背中を見返してやってください」と未来の後輩たちへエールを送った。
そして最後に、「何が言いたいかというと、先輩アーティストたちの背中を刺したい」と決意を表明。「まだ俺一人の力じゃ足りない。お前らが俺のために力を貸してください」と観客に呼びかけ、会場は大きな拍手と歓声に包まれた。MC明けに披露された「にわかには信じがたいものです」からは、一気にギアを上げ、より激しいロック・サウンドを展開。赤い照明が鮮烈に差し込むなか、「君と電波塔の交信」ではサーモグラフィ風の映像を背負い、バンド感あふれるアンサンブルを響かせる。

続く「IN_MY_HEAD」ではバンドメンバーの紹介を挟みながら、フロアの熱量をさらに引き上げていく。そして「絶対零度」ではステージに炎が立ち上り、楽曲の激情を視覚的にも体現。暗闇の中でも歌い続け、爆走しながら突き進む、なとりの姿は「先輩アーティストよりすごいモノを見せたい」と願う闘志と、「ここまで上がってこい」という後輩へと叱咤激励のようにも映った。
終盤、ストリングスのカルテットチームも交えて、「糸電話」をじっくりと歌い上げると、ここでなとりは「次でやる曲で、この『深海』は完成します」と切り出した。「僕にとってもすごい思い入れのある曲」と前置きしながら、「多くの人を傷つけて、多くの人の大切なものを奪いながら“セレナーデ”を作った後に、できた曲」と、制作当時の葛藤を率直に明かした。本来は「誰かのため」に届けるつもりで制作した楽曲だったが、「気づけば自分の深層心理みたいなものを表す曲になった」と振り返る。この曲は結果として、自身の内面を映し出す一曲へと変化していったという。

そして「この曲をもって『深海』をいったん終わらせたい」と宣言。そして「生まれ変わった私のバースデイ・ソングを、ぜひみなさんと一緒に作り上げたい」と未来への展望を示し、「バースデイ・ソング」をパフォーマンス。深海という暗闇のなかで、新たな命が誕生したような、そんな幸せに満ちた空間が、日本武道館に広がっていた。
こうして深海の物語を締めくくると、なとりはマイクを握り、音楽を始め、初めて作った曲を友人に聴かせた日のことを回想する。その友人は本気で「お前の曲は世界を救う」と言ったという。当時は照れくさく受け止めていたものの、振り返ればその言葉が「自分には世界を救う力があるのかもしれない」と錯覚させてくれたと語る。その存在こそが、自身を「なとり」として歩み続けさせてくれた原動力だった。
東京に来て、初めてレコーディングした楽曲「Overdose」の制作日にも、その友人はそばにいた。夜の散歩の末、偶然たどり着いた武道館の前で「絶対にここに立つから、その時は見に来てくれ」と約束を交わし、写真を撮ったという。「いまだにその写真を大切にしている」と振り返り、「本当に彼のおかげで、ここまで続けてこられた」と感謝を伝えると、会場からその友人へ向けて大きな拍手が送られた。
さらに、家族への思いも語られた。夢を軽々しく口にできない性格だったという、なとりだが、初めて作った曲を聴かせた際、家族は大げさではないながらも確かな肯定で背中を押し続けてくれたという。「音楽が聴かれない」と悩んでいた時期も、「曲を作っているお前がすごい」と声をかけてくれた。その支えがあったからこそ、今こうして何万人の前で楽曲が歌われている現実があると、成長を報告した。そして最後に、「僕の初めて作った曲を歌って、今日は終わろうと思います」と宣言。「最後は武道館で踊りましょう」と呼びかけ、ラストを飾ったのは、なとりがはじめて作ったという楽曲「金木犀」。油絵のような温かみあるビジュアルがスクリーンに映し出されるなか、銀テープが舞い、ライブは大団円で幕を閉じた。

華やかな演出や圧巻のパフォーマンス、そのどれを切り取っても特別な夜だった。しかし、この公演を決定づけていたのは、なとりが言葉にした「人」の存在だったのではないだろうか。友人の無邪気な断言、家族の静かな肯定、共に音を鳴らす仲間たち、そして目の前で歌い、踊り、声を重ねた観客たち。そのすべてが折り重なり、「深海」という孤独にも似たコンセプトは、いつしか大きな共同体の物語へと変わっていった。深く潜るほどに孤立するのではなく、深く潜るからこそ、強くつながる。そんな逆説を、この夜の武道館は体現していた。
深海の物語は幕を閉じた。しかし、なとりと観客が分かち合った熱は、まだ確かに脈打っている。日本武道館という「深海」で生まれた共鳴は、それぞれの日常へ持ち帰られ、やがて新たなうねりとなるはずだ。その先に広がる景色こそ、なとりが本当に見たい未来なのかもしれない。

取材&文;ニシダケン
セットリスト
なとり 3rd ONE-MAN LIVE「深海」
2026年2月19日@日本武道館
SE : うみのそこでまってる
01. セレナーデ
02. ヘルプミーテイクミー
03. EAT
04. FLASH BACK
05. フライデー・ナイト
06. プロポーズ
07. 恋する季節
08. 帰りの会
09. ターミナル
10. 聖者たち
11. DRESSING ROOM(Remix.)
12. 非常口 逃げてみた(Remix.)
13. Overdose
14. SPEED
15. にわかには信じがたいものです
16. 君と電波塔の交信
17. IN_MY_HEAD
18. 絶対零度
19. 糸電話
20. バースデイ・ソング
21. 金木犀
SE : 深海
ライブ情報
■『なとり ONE-MAN LIVE TOUR「行進」』ツアー情報

【日程・会場・お問い合わせ】
2026年6月12日(金) 開場 18:00 / 開演 19:00
2026年6月13日(土) 開場 15:00 / 開演 16:00
宮城 東京エレクトロンホール宮城
お問合せ:EDWARD LIVE
022-266-7555(平日11:00~15:00)
2026年6月27日(土) 開場 17:00 / 開演 18:00
2026年6月28日(日) 開場 15:00 / 開演 16:00
愛知 愛知県芸術劇場 大ホール
お問合せ:キョードー東海
052-972-7466(月~金12:00~18:00/土10:00~13:00 ※日祝休業)
2026年7月4日(土) 開場 17:00 / 開演 18:00
新潟 新潟県民会館
お問合せ:キョードー北陸チケットセンター
025-245-5100(火〜金12:00〜16:00/土10:00〜15:00 ※月日祝休業)
2026年7月5日(日) 開場 16:00 / 開演 17:00
石川 本多の森北電ホール
お問合せ:キョードー北陸チケットセンター
025-245-5100(火〜金12:00〜16:00/土10:00〜15:00 ※月日祝休業)
2026年7月11日(土) 開場 17:00 / 開演 18:00
2026年7月12日(日) 開場 15:00 / 開演 16:00
京都 ロームシアター京都 メインホール
お問合せ:キョードーインフォメーション
0570-200-888(12:00~17:00 ※土日祝休業)
2026年9月22日(火祝) 開場 17:00 / 開演 18:00
2026年9月23日(水祝) 開場 16:00 / 開演 17:00
東京 昭和女子大学人見記念講堂
お問合せ:DISK GARAGE
https://info.diskgarage.com/
2026年9月26日(土) 開場 17:00 / 開演 18:00
香川 サンポートホール高松 大ホール
お問合せ:DUKE高松
087-822-2520(平日11:00~17:00)
2026年9月27日(日) 開場 16:30 / 開演 17:30
福岡 福岡市民ホール 大ホール
お問合せ:キョードー西日本
0570-09-2424(平日・土曜11:00~15:00)
2026年10月11日(日) 開場 17:00 / 開演 18:00
2026年10月12日(月祝) 開場 15:00 / 開演 16:00
大阪 グランキューブ大阪 メインホール
お問合せ:キョードーインフォメーション
0570-200-888(12:00~17:00 ※土日祝休業)
2026年10月28日(水) 開場 18:00 / 開演 19:00
北海道 カナモトホール
お問合せ:ウエス
https://wess.jp
[email protected]
2026年10月31日(土) 開場 17:00 / 開演 18:00
広島 広島文化学園HBGホール
お問合せ:キャンディープロモーション
082-249-8334(平日11:00〜17:00)
2026年12月5日(土) 開場 17:00 / 開演:18:00
2026年12月6日(日) 開場 15:00 / 開演:16:00
東京 東京ガーデンシアター(有明)
お問合せ:DISK GARAGE
https://info.diskgarage.com/
▼アジア公演
7月18日(土)
Seoul Olympic Hall
info : LIVET
[email protected]
7月25日(土)
Singapore The Theatre at Mediacorp
info : SOZO
website: www.sozo.sg
contact: [email protected]
7月28日(火)
Bangkok UOB LIVE
info : Avalon Live
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8月8日(土)
Taipei Taipei Music Center
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Mon–Fri 11:00〜18:00
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