ロシアの小さな町で育ったクィア・アーティストを追ったドキュメンタリー『クイーンダム/誕生』

LGBTQ+の活動が弾圧されるロシアに突如現れた、21歳(作中で22歳、23歳を迎える)のクィア・アーティスト、ジェナ・マービン(本名:ゲンナジー・チェボタリョーワ)。首都モスクワから約10,000キロ離れた極寒の田舎町・マガダンで祖父母に育てられたジェナは、幼い頃から自分がクィアであることにを自覚し、異質さゆえに暴力や差別の標的とされてきた。ロシア社会においてLGBTQ+は「存在しないもの」とされ、その当事者たちは日常的に抑圧を受けている。ただ道を歩くだけで、怒鳴られたり、殴られたりすることすらある。
だがジェナは、その痛みやトラウマを、アートという武器に変えた。スキンヘッドにハイヒール、身体を締め上げるテープや有刺鉄線。まるで“クリーチャー”のような姿で街に立ち、無言のパフォーマンスによって抗議の声を上げる。それは美しくも恐ろしく、見る者の感情を深く揺さぶる“静かな叫び”だ。
その芸術性はSNSでも注目を集め、やがて「VOGUE RUSSIA」誌面にも登場する。だが、派手な活躍の裏側にあるのは、終わりのない葛藤と孤独。祖父母はジェナを愛しながらも、その存在を理解しきれず、時に衝突を生む。進学した大学ではパフォーマンスが原因で強制的に退学処分を受け、故郷に戻らざるを得なくなる。そこでも、周囲との隔たりは消えない。
「ジェナになり外に出ればいつでも最強になれる。ここロシアでも誰ひとりとして僕を脅かせない。鎧を着た騎士の気分だ」そう語るジェナのまなざしはまっすぐで、強い。だがジェナは、常に自身のアイデンティティや未来に不安を抱え、模索を続けている。
やがて、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発する。「反戦」の意思を固めたジェナはモスクワでのデモに参加し、逮捕されてしまう。さらに徴兵の危機が迫り、国外脱出を決意。出国までに残された時間は、わずか2週間。果たしてジェナは、厳しい状況の中でパスポートを取得し、無事に国を出ることができるのか。抑圧と暴力の社会から、自らの手で自由をつかみ取れるのか。
このドキュメンタリーが映すのは、“強さ”だけではない。将来への不安、自分との葛藤、そして世代を超えた理解のむずかしさ。家族との関係に悩み、自分自身とも闘い続けるひとりの若者が、アーティストとして、そして人として花開いていくその瞬間が、私たちの胸を打つ。
逮捕、排除、そして沈黙の強制ーー
そのすべてを背負いながら、それでも前へ進む。
恐怖と絶望を超え、痛みと美しさを纏って、“孤高のクイーン”は誕生する。
『クイーンダム/誕生』
2026年1月30日(金)全国ロードショー
https://ellesfilms.jp/queendom
監督:アグニア・ガルダノヴァ
製作:イゴール・ミャコチン、アグニア・ガルダノヴァ
主演:ジェナ・マービン
QUEENDOM(英題)
上映時間:91分|⾔語:ロシア語|制作年:2023年|製作国:フランス、アメリカ
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