臓器の血液型を変更し重篤な拒絶反応を回避! “万人向け”臓器の重要な一歩(彩恵りり)
「臓器移植」で問題となるものの1つは免疫系による拒絶反応であり、分かりやすいのは血液型の不一致によるものだよ。理論的には、どうにかして血液型を変更すればこの問題を回避できるけど、これまではあくまで理論に留まっていたのよね。
今回紹介する研究は、そんな難題に挑戦した、試験段階なものの重要な成果を挙げたものだよ。ヒトへの移植を見据えたケースとして家族の同意を得た脳死状態の患者を対象に、酵素によって血液型をO型へ変更した腎臓を移植した結果、重篤な拒絶反応が見られなかったという結果が得られたんだよね!
今はまだ試験段階ではあるものの、これは“万人向け”の移植用臓器を生み出すための重要な一歩だと言えるよ!
拒絶反応は臓器移植の大きな課題
「臓器移植」でしか治らない病気、助からない命が存在するのは、医療における大きな課題の1つになっているよね。そういった課題があるからこそ、臓器移植が不要な治療法を見つけたり、細胞培養で臓器を作る再生医療の研究が進んでいるわけだけど、そうした努力が花開くのがまだまだ先なものも多いのが実情なのよね。
そしてよく知られている通り、臓器移植そのものにも課題があるよ。まず、移植用の臓器そのものが少ないというのもあるんだけど、じゃあ臓器が用意さえできれば何でもいいかといえば、そういう話でもないのよね。移植される側 (レシピエント) と移植する側 (ドナー) との間で適合するかどうか……軟らかく言えば相性が合うことが必要なんだよね。さもなくば、身体の免疫系は移植された臓器を攻撃する「拒絶反応」を起こし、臓器をダメにするだけでなく、患者そのものの身体を危険にさらすことになる、と言う問題があるのよ。
臓器と患者の相性の良し悪しは、実に様々な基準をクリアしないといけなくて、一口には語れないものになるよ。ただ、その中でも分かりやすいものの1つが「ABO血液型」なのよね。これもよく知られている通り、ABO血液型はO型・A型・B型・AB型の4種類があり、それぞれに相性があるよ。そしてABO血液型の相性は何も血液に限った話ではなく、全ての臓器でも気にしないといけないのよね。
【▲図1: 血液型は抗原と呼ばれる部位の形によって決定され、それぞれに相性があるよ。 (Credit: 彩恵りり) 】
ABO血液型は、簡単に言えば、細胞の表面にある「抗原」と呼ばれる部位の形によって決まるよ。この抗原の形は、最も基本となる「H物質」を基盤に、どの種類の「糖鎖」がくっついているかによって決まるのよね。O型はこのような血液型を決定する糖鎖を持たないため、H物質を基盤としたH抗原を持つよ。一方で、A型とB型はH物質にそれぞれ決まった糖鎖を持つためA抗原とB抗原を持ち、AB型は両方の糖鎖を持つためにA抗原とB抗原をダブルで持っているよ。
免疫系は、自分にとってなじみのない糖鎖を持つ細胞を異物と判断し攻撃するため、輸血や移植ではこの組み合わせに注意しないといけないのよね。例えばA型の人にB型の血液や臓器を入れると、糖鎖の違いによって異物と判断し、拒絶反応が起きてしまうよ。一方でそもそも糖鎖を持たないO型は、そのような判断をすり抜けるのよね。このためにO型は “万人向け” と呼ばれることがあるのよね。
一応、血液型が異なる臓器を移植する方法も無いとは言えないけど、これを実行するには異なる血液型に身体を慣れさせる必要があるのよね。これには強い免疫抑制という患者に負担がかかる期間が必要になるし、その後も長期にわたって免疫抑制を必要とする場合があるなど、患者への負荷が高い方法になるのよね。
酵素によって臓器の血液型を変更!
中国とカナダの国際研究チームは今回、解決が難しい臓器移植の問題に10年間取り組み、その集大成となる重要な研究成果を公表したよ。その研究成果とは、とある方法で腎臓をO型にして、その性能を確かめたというものなんだよね。
そのとある方法とは、細菌から見つかった酵素を使うこと。この酵素は、血液型を決める糖鎖と反応して除去する性質があるのよね。この酵素を使えば、原理的には、他の血液型の臓器をO型の臓器に変換させることが可能になるよ。患者ではなく臓器の方にアプローチする方法なので、患者が受ける負担も最小化するよ。
【▲図2: 今回の研究では、血液型がA型になる部分の糖鎖を切断する酵素を使い、O型へと変換する処理を行った腎臓を移植する試みが行われたよ。 (Credit: 彩恵りり / いらすとやより一部の画像を使用) 】
ただ、理論的にできるかどうかと、実際にできるかどうかは別問題よね。それを確かめるために、研究チームは10年も研究を重ねたんだよね。この研究では、より使いやすく安全性の高い酵素の選定、身体に移植する前段階で確実に血液型を変更できるかのテストや、酵素などの有害な副作用がないかどうかのチェックも含まれているよ。
そして2019年になって、非常に効率の良い酵素を発見し、2022年までに、体外では血液型の変更ができたこと、特に有害な状況が出なかったことが確認されたよ。
【▲図3: 移植前に酵素による処理を行っている腎臓の様子。 (Credit: Nature Biomedical Engineering) 】
このため研究チームは、さらに一歩進んだ実験を行ったよ。家族の同意を得て、脳死状態のO型の患者に対し、酵素で処理した腎臓を移植する手術を行ったよ。この腎臓は元々はA型であり、もし何も処理せず移植すれば急激な拒絶反応 (超急性拒絶反応) を招く恐れがあるものだよ。
移植後の観察の結果は驚きだったよ。移植後最初の2日間、急激な拒絶反応の兆候はなかったんだよね。これは酵素による血液型変更の処理がうまく行っていることを示唆しているよ。一応、3日目にはA型の糖鎖が復活した兆候が見られたものの、これに伴う免疫系の反応は、普段よりずっと穏やかだったんだよね。これは、患者にとって小さい負荷の免疫抑制によって、長期的に臓器が安定して定着する可能性を示唆しているよ!
“万人向け”臓器の開発へ重要な一歩
今回の研究結果は、あくまで初期段階であることには注意しないといけないね。前例がほとんどないことから、酵素による血液型の変更がいつまで持続するのかは未知数だし、長期的に免疫系が過剰反応しないかどうかも未確定だからね。
しかし今回の観察結果は、少なくとも短期的に臓器が拒否されることがないし、また長期にわたって臓器が定着する可能性を示唆するものなんだよね。たとえ短期間に留まったとしても、もっと適合性が高い臓器を移植するまでの “つなぎ” として使えることは、移植を待つ患者にとって朗報には違いないんだよね!
この研究がどのように発展するのかはまだ分からない点が多いけど、もし “万人向け” の臓器が作り出せるようになれば、臓器移植のいくつかの課題が克服されることになると思うのよ!
(文/彩恵りり・サムネイル絵/島宮七月)
参考文献
● Jun Zeng, et al. “Enzyme-converted O kidneys allow ABO-incompatible transplantation without hyperacute rejection in a human decedent model”. Nature Biomedical Engineering, 2025. DOI: 10.1038/s41551-025-01513-6
● Erik Rolfsen. (Oct 3, 2025) “UBC enzyme technology clears first human test toward universal donor organs for transplantation”. University of British Columbia.
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