映画『宝島』大友啓史インタビュー 「今の時代とは比較にならないくらい、死というものが傍らにあった時代」真藤順丈による傑作小説を映画化

戦後アメリカ統治下の沖縄を舞台に、史実に記されてこなかった真実を描いた真藤順丈さんによる同名小説を実写映画化した映画『宝島』が公開中です。
妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太という日本映画界を牽引する豪華俳優陣が集まり、混沌とした時代を全力で駆け抜けた“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちの姿を、圧倒的熱量と壮大なスケールで描いた本作。
脚本と監督を務めた大友啓史監督にお話を聞きました。

●本作の制作にあたり、NHK連続テレビ小説の「ちゅらさん」撮影の頃から沖縄にきちんと向き合いたかったと言われていましたが、映画が公開した今、いかがでしょうか?
公開した今でも、やり残したことはないかなという心境ですね(笑)。全国を試写で回るキャラバンをやり、スタートの沖縄の地で、多くの方から「作ってくれてありがとう」というリアクションをいただいて。その後の29か所でも「知らないことを教えてくれてありがとう」と、映画を観て「ありがとう」と言ってくださる方が少なくなかった。それは嬉しい驚きでしたね。
でも、その言葉に触れれば触れるほどあの時代の沖縄の想いを、本当にこの映画はきちんと伝えきれたのか、という背筋を伸ばすような気持ちにもなります。取材をし尽くし、いろいろな声に耳をそばだてながら作ってきたつもりだけれども、沖縄のあの時代を生きた、既に亡くなられた方々も含め、いろいろな想いがあったはずですからね。沖縄は、死者の魂とともに生きていくという感覚が、すごく強い土地で、そのエネルギーを感じながら撮影したのでね。

歴史に目を向けるということは決して抽象的なことではなく、そこにいたひとりひとりの人間に思いを馳せることでもあって、その考えを問い詰めてくと、例えばコザ暴動の民衆数千人ひとりひとりにもしっかりと違う考えがあったはずなんです。“暴動”を決して「怒り」という言葉でひとつに括るのではなく、個々にキャリア、想いも異なり、そこにはグラデーションがあったであろうと。そんなことを注意しながら演出していました。公開して、改めて多くの方に観ていただくにつれて、その時の気持ちが今、またよみがえってきつつあるんですね。いろいろな人たちの考えや想いを、ちゃんと汲み取れたかどうかもう一度気になり始めて、沖縄に行きたいな、あの空気に触れたいなという思いが募ってきて。それで、思い立って先日はプライベートでまた沖縄に行ってきました。取材の原点でもあるいくつかの場所をたどり、なんとなくまた沖縄という土地に背中を押してもらったような気がしています。

●全国キャラバンでの先行上映会では、戦果アギヤーの存在を含め、コザ騒動なども本作で初めて知った方も少なくなさそうな反応でしたよね。
沖縄がまだアメリカに統治されていた「宝島」の物語が描かれた時代、本土では高度経済成長期を迎え、自由・平等・個人の権利などが保証され、身体的な危険、肉体的な消滅、直接的な死というものから離れ、どんどん豊かになっていきました。安全な国になった。一方の沖縄はその過程で、相変わらずの状態が続いていた。撮影時、僕たちは俳優たちとずっと話していたのですが、今の時代とは本当に比較にならないくらい、死というものが傍らにあった時代だったなと。死生観も含めて、現代との大きな違いはそこなんです。
戦後は食べていくだけで一生懸命、生きていくだけで大変な時代だったから、どう生きるかではなくて、むしろどう死ぬかという時代だったのではないかという感覚さえ持ちました。なので、撮影している最中にも亡くなられた方たちに花を手向けるような想いで、この映画を作っていかなくてはいけないと。

●主演の妻夫木さんが本作の宣伝アンバサダーを務め、全国を積極的に回っていくという、かなりの熱量を感じていました。
彼は撮影のかなり初期の頃から全国を回りたいと言っていたんですよ。僕はその頃は映画をどう成立させるかで頭がいっぱいの頃で、妻夫木君は『ウォーターボーイズ』(01)の頃にやっていたように、自分が劇場を回って直接映画を届けたいと。その感覚は僕にもよく分かります。僕もフリーになって『るろうに剣心』(12)の一作目で劇場を回りました。特に「龍馬伝」(10)でお世話になった高知、長崎を丁寧に回ったりして。
もともと僕はNHK時代の最初の赴任が秋田だったし、地方出身者なので地方が好きということもあるんですけど、『るろうに剣心 最終章』がコロナ禍で苦しんだ時に、地方のみなさんが「大都市で公開できなかったから都心で観られない人たちの分、俺たちが観る」と言って何十回も通って応援してくれたこともありました。そういう経験もあったのでね、地方に直接届けたいという妻夫木君のアイデアに僕は大賛成でした。
妻夫木君自身も『涙そうそう』以来沖縄に想い入れがありましたからね、
構えはこれだけの大作ですが、まるで個人のプライベート映画を観てくださる人たちのお手元に届けたいという、そんな想いで動いていた感覚があります。6月からずっと、普段ならあまり行けないような劇場にも足を運びましたね。

●完成した映画は、<沖縄がアメリカだった時代>の史実をシリアスに描く一方で、いくつものジャンルが一緒になったようなエンターテイメント映画でもありますね。
どうしても想いが深いから真面目な話になっちゃいがちですが、基本的には原作を読んで、自分が感じたことをお客さんと共有したい、届けたいと思ったんですよね。。原作に描かれている、どんなことが起きてもあきらめずに生きる彼らのたくましさ、しぶとさ、今の時代ではちょっと忘れられていることも含めて、僕はワクワクした。それと沖縄を舞台にしたこの物語の豊饒さですよね。あの時代ならではの、生きることへの強い思い、アメリカ統治下だからこそ生まれた、チャンプルー文化の土壌。音楽もあふれ、今でいうヴィンテージカーが街中を走り、そこには最新のアメリカ文化もある、脈々と続く琉球文化もある、そういうものを交えながら生きる力の強さ、豊かさを描こうと。とても真面目な映画ではあるけれども、そんな豊かな映画にもしたかった。僕が培ってきたものを全部詰め込んで、最後には大事なメッセージを辿り着ければいいかなとワクワクドキドキしながら観てもらって、最後の最後に大事なところへ知らず知らずのうちに連れていかれるようなことは目指したつもりです。

■公式サイト:https://www.takarajima-movie.jp/ [リンク]
■ストーリー

1952年、沖縄がアメリカだった時代。米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちがいた。いつか「でっかい戦果」を上げることを夢見る幼馴染のグスク(妻夫木聡)、ヤマコ(広瀬すず)、レイ(窪田正孝)の3人。そして、彼らの英雄的存在であり、リーダーとしてみんなを引っ張っていたのが、一番年上のオン(永山瑛太)だった。全てを懸けて臨んだある襲撃の夜、オンは“予定外の戦果”を手に入れ、突然消息を絶つ…。残された3人は、「オンが目指した本物の英雄」を心に秘め、やがてグスクは刑事に、ヤマコは教師に、そしてレイはヤクザになり、オンの影を追いながらそれぞれの道を歩み始める。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた環境では何も思い通りにならない現実に、やり場のない怒りを募らせ、ある事件をきっかけに抑えていた感情が爆発する。
やがて、オンが基地から持ち出した“何か”を追い、米軍も動き出す――。
消えた英雄が手にした“予定外の戦果”とは何だったのか?そして、20年の歳月を経て明かされる衝撃の真実とは――。



■作品情報
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太
監督:大友啓史
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社
©2025「宝島」製作委員会
(執筆者: ときたたかし)

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