山田裕貴&古田新太「ベートーヴェンは破壊者」愛が重すぎる秘書シンドラーじゃないと守れなかった?奇人と変態の映画『ベートーヴェン捏造』インタビュー

バカリズムさん脚本による“音楽史上最大のスキャンダル”を描いた映画『ベートーヴェン捏造』より、山田裕貴さんと古田新太さんの撮り下ろしインタビューをお届けします。

19世紀ウィーンで巻き起こる音楽史上最大のスキャンダルの真相に迫った、歴史ノンフィクションの傑作『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(かげはら史帆著/河出文庫刊)が実写映画化。

バカリズムさん脚本×関和亮監督の最強タッグと、ベートーヴェンへの愛が重すぎる忠実なる秘書・シンドラー役の山田裕貴さん、シンドラーから熱烈に敬愛されるベートーヴェン役の古田新太さんの豪華共演で贈る『ベートーヴェン捏造』が全国公開中!

偉大なる天才音楽家、ベートーヴェン。誰もが知るそのイメージは、秘書による“でっちあげ”だった!

耳が聞こえないという難病に打ち克ち、歴史に刻まれる数多くの名曲を遺した聖なる孤高の天才ベートーヴェン。しかし、実際の彼は――下品で小汚いおじさんだった…!?
世の中に伝わる崇高なイメージを“捏造”したのは、彼の忠実なる秘書・シンドラー。

憧れのベートーヴェンを絶対に守るという使命感から、彼の死後、見事“下品で小汚いおじさん(真実)”から“聖なる天才音楽家(嘘)”に仕立て上げる。
シンドラーはどうやって真実を嘘で塗り替えたのか?果たしてその嘘はバレるのかバレないのか―?


・『ベートーヴェン捏造』本予告
https://www.youtube.com/watch?v=_nkkKQe85nQ

愛が重すぎる秘書・シンドラーと手のかかる天才・ベートーヴェンを演じた山田裕貴さんと古田新太さんに、本作でのベートーヴェンとシンドラーの魅力やお互いの印象などお話を伺いました!

奇人と変態「演じていて、シンドラーのことはそんなに嫌いではないんだ、と思った」

――元々抱いていたベートーヴェンの印象を教えてください。

山田:本当に僕はもう天才だと思っていましたし、そこは音楽を残しているので事実なんですけど、今回のいろんな会話帳から出てくる裏側みたいなのは全く知らなくて。耳が聞こえなかったとかは聞いたことがあったので、そんな中どうやって音楽を作っていたんだろう?という、小学生、中学生でも感じるような感覚でした。

古田:いわゆる交響曲というものをちゃんと発明したのはベートーヴェンなんだろうなと。それまでクラシックは室内楽だったから貴族のためのものであって、コンサートホールでやることを考えて曲を作ったのはベートーヴェンが初めてなんじゃないかなと思います。
それまでの作曲家は、貴族の部屋で演奏するのを想定して作っているので。

まず第九(交響曲第9番)ってもう頭がおかしいから。コーラス隊を100人呼んで、ちゃんとフルオーケストラで舞台でやるなんてことを考えた人はそれまでいなかった。ベートーヴェンの以前の人は。だから、まあ頭がおかしい人だと思いますね(笑)。

山田:その当時からすると、そういうことなんですね。そんな馬鹿げたことやる人いないよ!?みたいな。

古田:思いついてもできないじゃん!ってことを考えた人だから、ベートーヴェンは。素晴らしく頭がおかしな人だったんだろうなと思います。

――シンドラーについては?

山田:この原作と台本に出会うまで全く知らなかったです。ベートーヴェンをどうやって守るか、そんな人が多分シンドラー以外にもいただろうし、業界もそういうところはあったと思うので、何が本当なんだろう?というのは、もうわからないなと思いました。それは、現代にも通じるものがあるなと。

古田:シンドラーについては知っていましたけど、シンドラー自体の記録はそんなにないから、この本を読んで、そこまで動いていたのかと知りました。
でも、ベートーヴェン自体が奇人であるっていうのはいろんな文献で書いてますから。そもそも人付き合いもあんまり良くない、みたいな。だから、マネージャーとして身の回りの世話をする人がいなきゃダメだったんだろうな、とは思いますけどね。

――本作でもシンドラーが過剰に守って人を遠ざけたりしてしまうじゃないですか。ベートーヴェン自身は劇中で「俺まで面倒くさいやつみたいなイメージついちゃうからやめろよ」みたいに迷惑がっている描写もあったので、本当のベートーヴェンの人柄や気持ちはどうだったんだろう?となりますよね。

古田:いや、本当のところはわからない。だって、この原作だって、原作者が捏造しているかもしれない(笑)。

山田:そうなんですよ。わからないですよね。

古田:作り話は作り話だからね。そこからまたバカリちゃん(バカリズムさん)が作っているから。

山田:僕らも「絶対こうだ!」という信念のもとやっているというよりは、「こうだったのかもしれない」というのを膨らましていく感覚でした。

――本作はバカリズムさんの脚本がテンポよく、会話もとても面白いですが、バカリズムさんの脚本の魅力はどんなところだと思いますか。

古田:バカリちゃんの脚本は2本目なんだけど、面白さを入れてくるから、お客さんにはすごく見やすいと思う。
ベートーヴェンとシンドラーの仲だって、もっと醜く書こうと思えば書けると思うんだけど、バカリちゃんの台本だと、ちょっとチャーミングに見えるというか、本当に憎み合っているんじゃない、みたいなところがある。そこは結構、おいらはバカリちゃんの台本を信用しています。

――登場人物で嫌な人が誰もいないですよね。

古田:ちょこちょこ出てくる他の作曲家たちも、みんなあんまり嫌なやつがいない。そこら辺はバカリちゃんの脚本は楽しいです。

山田:僕はその分、少し難しさを感じていました。それこそもっと大げさに描こうと思えば描ける部分も“リアルな流れの中で”というところだったので、その中で面白さを出すために、自分の顔や音でどうにか表現しなきゃいけない部分が、すごく自分の中でプレッシャーではありました。

しかも僕はほぼ筆談なので、音を発することすら少ない。バカリさんの脚本だから、確実に面白いと信頼があるんですけど、大丈夫かな?と思いながら芝居をしていました。

――古田さんは今作でどのようなベートーヴェンを意識しましたか?

古田:おいらは基本的に役作りしないので。監督に言われた通りにやりました。第九の指揮のときも、指揮の先生がいて目の前でやってくれて、その人の真似をするという。
おいらたちの仕事は言われたことをやれれば早く帰れるんで(笑)。

山田:マジでベートーヴェンじゃないですか(笑)。

古田:
でも、このベートーヴェンの話が来た時に「ドイツ人かよ」って、まずそこから思いました(笑)。ついに、おいらもドイツ人やるのかあ、みたいな感じでしたね。

山田:大阪城の役もやったと言っていましたもんね(笑)。

古田:そうそう。ちなみに今回の撮影で、前回のバカリちゃんの本の時もそうだったんだけど、全部CGだった。それで、もう海外ロケとかないんだな、って。

山田:行きたかったですけどね(笑)。

古田:ウィーンとか行きたかったよな。それを全部東京で済ませて(笑)。

――ベートーヴェンに対し、シンドラーは筆談で会話するシーンが多かったですが、筆談でコミュニケーションを取るお芝居の面白さと難しさはどのようなところでしたか?

山田:撮影を進めていくうちに、古田さんがぽろっと「なんかあんまり芝居してる感じしないよな」と、確かにそうだなと。
声をちゃんと交わしていないから、ぶつかり合いもないし。ベートーヴェン側からぶつけてもらうことはあっても、僕は何かを封じられている感覚というのはあって。でも、そこがこの作品の面白いところなのか、それ故に色々受け取り違えていくみたいな。

――会話帳を通して、シンドラーは一人で妄想を膨らませる場面もあります。

山田:自分をよく見せようとか、誰かをよく言うってことは、日常的にあることだとは思うんですけど、さすがにあそこまで至るには、ベートーヴェンへの愛や憧れという大きな感情がない限りは、この人を守らなければと、あそこまでのめり込んでイメージを捏造するまでにはいかないと思うので……。

古田:奇人と変態だよな。

山田:そういう人じゃないと守れなかったと思うし、ついていけなかったと思うんです。

――今作を経て、ベートーヴェンに対する印象の変化はありましたか?

古田:おいらは、かなりイメージしてたベートーヴェン像に近かった。きっと癇癪持ちで、そうでないと、あんな作品を書けないと思う。
そもそも破壊者だから、ベートーヴェンは。それまでのバロック音楽というものを、交響楽までもっていった。バレエ音楽とか出てきたのはそのあと。それまでの室内楽を交響楽としてコンサートホールでやるという概念を作った人で、それがないとヨハン・シュトラウスやチャイコフスキーとかのバレエ音楽は出てこなかった。

それで言うと、ベートーヴェンは発明家であり破壊者であるから。おいらの中ではもう完全なるデストロイヤーだったから、今回台本読んだ時に「やっぱりね」と。
そんな人だったからやっぱりシンドラーみたいな人がいないと成り立たなかったんだろうなって思いますけどね。

山田:めっちゃ勉強になります!
天才と言われる人たちって、やっぱりどこか常識とは桁外れな思考だったり、そういうところに行きついていないと、そう呼ばれる人にはならないんだろうなと。世間体だったり、一般的という言葉を気にしてるような人は天才にはならない。

だから、僕も何か外れたことをやれるような人になりたいなと思いながら、でもその考えすらもう凡人というか。そんなことすら思わずやっている人が偉大な人として語り継がれると思うんです。
人間性の欠如だったり、それをサポートする人たちや環境がないと成り立たないと思うので。

アーティストという面において、その常識とか何かを破壊していけるような人じゃないとつまらないんだろうなと思っていたので、ベートーヴェンがそういう人物で逆に「良かった」と思いました。

これで聖人君子でめちゃくちゃ人に優しくて、とかだったら「こんな綺麗な人がこんなことできるの?それ無理だよ、そんな人になれないよ」と諦めそうだけど、こういう人がいるんだったら自分も大丈夫かもしれないと思えたというか(笑)。

古田:でもシンドラーはそこら辺のセンスがいいよね。

山田:多分、目の付けどころがちゃんとしていたんだろうなと思います。

古田:周りにいるのは、ちゃんとしてる音楽家が多いんだけど、破壊者であるベートーヴェンを「いやいや、実はこういう人なんですよ」っていう嘘をついているシンドラーがいたから残ったわけで、サポートする人間がいないと天才は遺らないんだと思う。
この映画の中でのベートーヴェンはパパゲーノ(シンドラーのあだ名)のこと嫌いじゃないんですよ。そうでないとそこまで信用していないと思うし。

さっきの筆談の話じゃないけど、シンドラーは文字で書いていかなきゃいけないけど、ベートーヴェンは喋れるもんだから感情はぶつけられるわけなんです。
でもシンドラーはそれを聞いて答えを字に起こさなきゃいけないから、大きな感情は出せない。筆談で「バカヤロー!!」って書かないでしょ(笑)。

山田:ベートーヴェンは話すことはできるから、もしかしたらその姿が広まっていっちゃっただけで。でも周りに居る人たちは全員筆談だから、みんな冷静な人に見えるじゃないですか。絶対、内心「なんだこのやろう」と思っていたところもあるだろうし。

古田:だからパパゲーノとはすごく信頼関係があったんじゃないかなとは思います。演じていて、「シンドラーのことはそんなに嫌いではないんだ」と思いました。

――本作は偉人のベートーヴェンの話ですが、お互いの後世に伝えたいエピソードはありますか?

山田:古田さんはすごくモテていたと聞いたことがあって。それは後世に語り継がれるんじゃないかなと思います。

古田:カノジョは常に複数いました。

山田:古田さんはペースとか変わらないんですよね。同じっていう言葉もないぐらいどっしりしてる。古田さん的には「セリフやべえ」とか思ってる日があるのかどうかわからないけど、そういうのが全く見えないし、古田さんの唯我独尊みたいなペースがある。
それは今までの積み重ねたものでしか出せないものなんだろうなと思いました。

古田:山田はおいらの中ではすっげえ真面目な俳優さん。信用できる。

山田:ええ、嬉しい!

古田:以前一緒にやった映画で難聴の人の役をやってたんだけど、あまりにもそれが見事で、当時「本当に聞こえない人をキャスティングしたのか?」と思って。そこまでちゃんとできる人はいないと思うし、すごい信用できる後輩だし。舞台も一緒にやりたいですね。

山田:それは確かに!

古田:映画やドラマで一緒になることはあっても、舞台は一緒にやったことはないんで。舞台だともう面と向かってでしか芝居できないから、やりたいなと。

山田:『髑髏城の七人』やりたいです、天魔王やってみたいですね。

――では、好きな偉人や有名人のエピソードがあれば教えてください。

古田:伊東四朗先輩。伊東四朗先輩もお酒が大好きで。「古田くん、休肝日作ってる?」って聞かれて、「作ってないっすよ、もう毎日。人間ドックの前の日も飲みますね」と返したら、「週に1日決めるんだよ、休肝日。僕は火曜日なんだけどね。火曜日に飲めないっていうことで、水曜日が待ち遠しくなるんだよ!」と言われて(笑)。そういう考え方もあるんだなって。伊東先輩のその言葉が大好き。まだやれてないんですけど(笑)。

山田:偉人ではないんですけど。シンドラーはベートーヴェンにすごく憧れているじゃないですか。『BLEACH』っていう漫画で、「憧れは理解から最も遠い感情だよ」というセリフがあって、それを見て育ったので、憧れちゃダメだとは思うんですけど、この世界は憧れそうになる方にたくさん出会うので、いつもすごく戦っています。

それは古田さんに対しても思っていますし、それこそ本当にベートーヴェンみたいな人なんだろうなと思っていて、いや、でも憧れちゃダメだと思いながら現場にいました。
だから、シンドラーとはちょっと違うなと思いながら、その言葉をすごく大事にしています。

――でも、その言葉はまさに今作の暴走とも言える憧れを抱いたシンドラーを表しているように感じますね。

山田:そうですよね。だから、大谷翔平より先に僕は憧れるのをやめています(笑)。

――ありがとうございました!

【撮影:冨田望】

山田裕貴
【ヘアメイク】 小林純子
【スタイリスト】 森田晃嘉 / AKIYOSHI MORITA

古田新太
【ヘアメイク】 田中菜月
【スタイリスト】 渡邉圭祐 / keisuke watanabe


・映画『ベートーヴェン捏造』本編映像
https://www.youtube.com/watch?v=jngoNT1sfVw

作品情報

映画『ベートーヴェン捏造』
全国公開中
原作:かげはら史帆『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』(河出文庫刊)
脚本:バカリズム
監督:関和亮
キャスト:山田裕貴、古田新太、染谷将太、神尾楓珠、前田旺志郎、小澤征悦、生瀬勝久、小手伸也、野間口徹、井ノ原快彦、遠藤憲一 ほか
メインテーマ曲演奏:清塚信也(ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第 23 番 「熱情」第3楽章)
製 作:Amazon MGM スタジオ 松竹 ♬制作プロダクション:松竹 ♬制作協力:ソケット ♬企画・配給:松竹
撮影期間:2025 年 2 月〜3 月
公 開:2025 年 9 月 12 日
(C)2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates and Shochiku Co., Ltd. All Rights Reserved.
公式 HP:https://movies.shochiku.co.jp/beethoven-netsuzou/
公式 X/Instagram:@beethoven_movie

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アニメや可愛いものが大好き。主にOtajoで執筆中。

ウェブサイト: http://otajo.jp/

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