『禁足地~青鬼の窟~』レビュー:『青鬼』の魅力と独自の魅力とミックスしたスピンアウト的ホラーゲーム

ホラーゲーム『青鬼』をベースとした、新しい和風ホラーゲームが出ると聞き、トレーラーでビジュアルを確認してからずっと楽しみにしていた。その名は、『禁足地~青鬼の窟~』。なんと、開発には人気ホラーゲーム「零」シリーズのスタッフもかかわっているという。
もちろん、発売後即購入! クリアするまでプレイしたので、この記事で本作の魅力について語らせて欲しい。
なお本作はストーリーが重要な魅力となっているので、ネタバレは避ける方針だ。しかし、ゲーム内容を紹介する以上、本作の設定についてまるで紹介しない……というわけにはいかない。なので、まっさらな状態で本作をプレイしたい人は、記事を読む前に、ぜひ本作をプレイして欲しい。
『青鬼』をベースとした和風アクションアドベンチャー! 『禁足地~青鬼の窟~』
『禁足地~青鬼の窟~』は『青鬼』をベースとした、サイドビュースタイルの和風アクションアドベンチャーだ。ベースと書いた通り、本作は『青鬼』の世界観をストレートに継承した作品ではない。もちろんクリーチャーとしての青鬼は登場するが、それ以上に本作オリジナル要素の比重が大きいのだ。

まず見た目でわかる本家『青鬼』との違いが、サイドビュースタイルという点だろう。本家『青鬼』は、見下ろし型視点。視点の違いは単純に見た目だけの差に留まるものではない。ゲーム性そのものにも、大きな変化を及ぼしている。

本作も本家『青鬼』も、いずれもプレイヤーの目的は、青鬼と呼ばれる謎の怪物が巣食う閉鎖空間から脱出する……というものだ。脱出のために閉鎖空間内を移動し、様々な謎を解くという点も共通している。だが本家『青鬼』が「謎解き」を重視しているのに対し、本作は「移動」と「青鬼との対峙」にフォーカスしている。

本家『青鬼』は閉鎖空間内を移動して様々なアイテムを入手し、そのアイテムを適切な場所へ使うことが求められる。アイテムのある場所がわからなかったり、どこで使うのかがわからなかったりすることも多い。そのため必然的に閉鎖空間内を行ったり来たりすることとなる。
この移動時に、クリーチャーである青鬼がランダム出現し、プレイヤーを追いかけ回す。青鬼が現れるとプレイヤーは本来の目的地への移動を中断し、青鬼を撒くための逃走を行うこととなる。
一定時間逃げ続けたり、クローゼットなどの避難場所に隠れたりすると逃走成功。青鬼がいなくなったら再び謎解きのための移動を行う。つまり本家『青鬼』は「謎解き」をメインとし、スリリングな味付けとして「青鬼」とのチェイスが存在している。

一方、本作においては、プレイヤーがどこを目指すべきか、基本的に「ひみつ会議」というかたちで明示される。アイテムの獲得や使用といった要素はあるものの、訪れた場所をくまなく探せば必要なアイテムはほとんど手に入るし、必要なアイテムを保有していれば自動的に使ってくれるので、「どのアイテムを使うべきか……?」と悩む必要がない。
このため、閉鎖空間内を行ったり来たりすることは、あまり多くないのだ。……もちろん、ゼロというわけではないが。
そして、ほとんどの青鬼はマップに対し固定で出現する。どんなにマップ移動を繰り返しても、ゲームオーバーから再読み込みしたとしても、青鬼が登場するポイントは同じ。移動を繰り返すタイプの青鬼であっても、特定の区間を往復している。
つまり本作は、「あらかじめマップに配置された青鬼を回避しつつ、決められた目的地へ到達することを目指す」というゲーム性になっているのだ。

ではどのように青鬼を回避するのか? 本家『青鬼』では、入り組んだマップを的確、かつスピーディーに進む操作技術が重要だった。
しかし本作はサイドビューで構成された横長の廊下に、教室への入り口が存在するというシンプルなマップ構造。このため、的確・スピーディーな指裁きは必要ない。
代わりに必要なのは、青鬼に遭遇しないルートを考え出すパズル的思考と、青鬼の目を逃れるためのステルスアクションだ。

既に触れた通り、本作の青鬼の配置はほぼ固定だ。そのため、ルートを適切に選べば、青鬼に遭遇することなく目的地へ到達できる。ただ青鬼の中には、周期的に移動を行っているものもいるため、適切なルートを導き出すためにはパズル的な発想が求められる。
また多くの場合で、青鬼に一度も遭遇せず目的地へ到達することは難しい。この場合、足音が発生しない「忍び足」を使って移動したり、懐中電灯の灯りをオフにしたり……といったステルス的なアクションが求められる。
青鬼に見つかってしまった場合は、本家『青鬼』のようにロッカーや教室といった避難ポイントへ逃げなければならなくなるが、それはあくまで最終手段。基本的には、青鬼に見つからないように移動することが前提と言えるだろう。

本作が持つ、こうした本家『青鬼』からのゲーム性の変化について、筆者は成功していると感じた。本家『青鬼』のような切迫した恐怖はないが、青鬼に気づかれぬよう移動する感覚は、間違いなく怖い。そして、マップ上を青鬼が常にうろついているため、本家『青鬼』以上に、クリーチャー・青鬼の存在を実感できる。

ただ、ゲーム性の面で不満がゼロではなかった。ひとつめは、キャラクターの操作に関する点。筆者が今回プレイしていたSteam Deckでは、あるマップから別のマップに移動する際、入力が途切れてしまうという現象が発生していた。
たとえば、移動スティックを倒しっぱなしのまま1階から2階へ移動すると、2階到達時には移動がキャンセルされ、直立状態となってしまう。再度移動するためには一旦移動スティックをニュートラルに戻し、再び倒さなければならない。
もちろんこの問題は、ゲームが進行不能になるような致命的なものとはいえない。ただ、青鬼によってはマップを超えて追ってくる場合もあり、移動スティックの再入力が遅れるとゲームオーバーになってしまうこともあるので、状況によっては多大なストレスを受ける。

ふたつめの不満は、中盤に冗長なイベントが発生する点。本作には、仲間キャラクターの救護というイベントが存在している。舞台である廃校内で仲間を見つけたら、安全な教室まで肩を貸して移動する……というイベントだ。
プレイヤーは肩を貸して移動する間はダッシュ移動ができなくなる。「青鬼を回避するための適切なルートを考えて移動する」というゲーム性をクローズアップしたイベントと言えるだろう。本作の構成にメリハリをつける上で、欠かせないイベントだと思う。
しかしながら本作中盤において発生するイベントは退屈に感じてしまった。というのも、このイベントではこれまで助けたキャラクター5人を新たな教室まで送り届けることになる。ダッシュ移動を封じられた状況で、出発地と目的地が固定されたルートを4.5往復しなければならないのだ。
ネタバレを避けるため詳細な解説はしないが、一応このイベントでは出発地・目的地固定という状況を逆手にとったギミックも用意されている。とはいえ筆者は、ギミックの楽しさ以上に退屈さを感じてしまった。

少年少女の成長をダークに描く! 本作ならではのストーリー
ここまで紹介した通り、本作のゲーム性は若干の課題を抱えながらも、「青鬼」シリーズであることの魅力と、本作独自の魅力を併せ持つものとなっている。ただ筆者は、ストーリー部分こそ本作の魅力の核心ではないかと思う。

そもそも、本家『青鬼』には「ストーリー」と呼べるものが、ほとんどない。もちろん、「肝試しのために青鬼の館を訪れる」「青鬼に出くわす」「謎を解きつつ脱出」……といった状況は用意されている。しかしそれらは、あくまで状況説明であって、「ストーリー」とは呼べない。
ここでの「ストーリー」とは、作品のテーマに基づく、キャラクターの精神的変化のこと。たとえば昔話の「桃太郎」ではキャラクターの精神的変化がなく、「ストーリー」と呼べるものがない。
仮に「桃太郎」の物語冒頭で、子ども時代の桃太郎が、自身の持つ神通力ゆえに人間の子どもたちより圧倒的に強く、子どもたちを泣かしては「弱い奴が悪い!」と思っていたという心情が描かれていたら? おそらくこの場合、「桃太郎」中盤において鬼たちが人里を襲うシーンが描かれ、「弱い奴が悪い! 強い俺たちがモノを奪うのは当然」という鬼の心情が描かれるに違いない。
そして鬼退治を決意する桃太郎はきっと、「弱い奴が悪いなんて思っていた自分が間違っていた」と考えることだろう。そうでなければ、心情的に鬼退治を決意するはずがない。「弱い奴が悪い!」という価値観のままであれば、鬼たちが人里を襲い、人を殺し、食料を奪ったとしても、何の問題もないからだ。
こんなふうにキャラクターの精神的変化を描くと、描写された状況に意味が生まれ、作品世界の奥行きが増す。このことは、テキストを主体とした作品であっても、状況描写を主体とした作品であっても変わらない。

本作において精神的変化が描かれるのは、主人公の少女「ひまり」と、その仲間たちだ。「ひまり」は、両親を探して廃校となった「越知岩尋常小学校(おちいわじんじょうしょうがっこう)」を訪れる。しかし怪我を負ってしまい、動けなくなってしまう。
そこで、和人形に宿る霊「こまり」が、「ひまり」の代わりに身体を動かし、「ひまり」は「こまり」に変わって和人形へ宿ることとなる。

ネタバレを避けるため詳しい説明は避けるが、「ひまり」も学校にいる他の仲間たちも、いずれも子どもだ。肉体的に子どもというだけでなく、他者に依存する甘えた精神性を持っていたり、親や周囲の大人との関係が良好ではなかったり……と、精神的な部分でも子ども。もちろん、そもそも年齢的に子どもなのだから、精神的にそうなのも当然の話だ。
ただ、青鬼の窟となった廃校は、子どもであり続けることを許さない。それぞれが「どうやって生き延びるか」に向かい合わなければ、生き残ることが難しい状況なのだ。
つまり本作では、少年少女の成長物語が描かれている。ただ、単なる成長物語じゃない。それは、ホラーという世界観を巧みに使った、ダークなものだ。

また、「ひまり」のストーリーに並行する形で、和人形に宿っていた「こまり」のストーリーも描かれていく。こちらは、仲間との絆が主体。

先に書いた通り、本作において少女「ひまり」の身体を動かしているのは霊(和人形)の「こまり」なので、少女「ひまり」の仲間たちを実際に救出するのは霊(和人形)の「こまり」。このため霊(和人形)の「こまり」は、少女「ひまり」として振舞いながら、少女「ひまり」の仲間たちとの交流を重ねていくこととなる。
また同時に、霊(和人形)の「こまり」にも仲間が存在する。過去の世界において、「こまり」の友だちだった者たちだ。彼らは既に霊体となっており、廃校のどこかに存在している。

本作では、操作対象を少女「ひまり(の身体)」から霊(和人形)の「こまり」へと切り替えることができる。「ひまり」は自身の身体を動かすことができないため、操作対象を切り替えると「ひまり(の身体)」はその場に倒れてしまう。一定時間以内に「こまりの精神」が「ひまり(の身体)」に戻らなければ、ゲームオーバーだ。
霊(和人形)「こまり」への操作切り替えはこうしたデメリットを持ちつつ、明確なメリットも持っている。まず、少女「ひまり(の身体)」では侵入できないような狭い空間へ侵入することが可能だ。さらに、霊(和人形)「こまり」の操作時にのみ、「こまり」の友だちの霊を見つけ、話しかけることができるのだ。

本作をクリアするだけなら、「こまり」の友だちの霊を発見しなくとも構わない。ただ本作はマルチ・エンディングとなっており、「こまり」の友だちの霊の発見によって、エンディングが変化する。
また、「こまり」の友だちの霊を発見することで、少女「ひまり」を中心とした現代のストーリーに、霊(和人形)の「こまり」を中心とした過去のストーリーが融合する。本作の体験が変化し、本作の世界観をより深く理解できるようになるのだ。

少女「ひまり」を中心とした成長物語と、霊(和人形)の「こまり」を中心とした絆の物語。こうした本作のストーリー要素は、本家『青鬼』が持っていない、本作だけの魅力といえるだろう。
『青鬼』の魅力をしっかり引継ぎ独自の魅力とミックスした良作ホラー
結論として本作は、『青鬼』の魅力をしっかり引継ぎ、独自の魅力とミックスして仕上げた良作ホラーだと感じた。確かにゲーム性の面で若干の課題を抱えているし、5時間程度でエンディングまで到達できるので、ボリューム的に豊かとまではいかない。ただ、1320円という価格を踏まえると、良作と呼んで差し支えないだろう。
また開発陣は本作の課題について認識しているようで、中盤のイベントやそのほかの仕様についてアップデートによる改善が告知されている。このアップデートによって、今後本作の魅力をよりダイレクトに体験できるようになることだろう。
ただ、本作はあくまで『青鬼』をベースとした別ゲームであって、ストレートな続編ではない。いつもの『青鬼』を期待すると肩透かしをくらう部分があると思うので、プレイの際にはあくまで別作品として臨もう。

(文/田中一広)

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