【ライブレポ】anoの呪いと復讐は、やがて誰かが生きる理由へ──日本武道館初ワンマン「呪いをかけて、まぼろしをといて。」
それはあまりにもポップで、ピースフルで、カオスで、切なくて、そして美しい復讐劇だった。
2025年9月3日、日本武道館にて開催された
会場中央に設けられたのは、三重構造の円形ステージ。上下に動き、360度回転するその仕掛けは、楽曲ごとに表情を変え、約1万2000人の視線を彼女へと集中させる役割を果たしていた。
開演の時刻を迎え、スクリーンに投影されたオープニング映像でこれまでのライブの軌跡が断片的に映し出されると、観客の高揚感は一気にピークへ。「呪いをかけて、まぼろしをといて。」のタイトルコールに続いて、骨のような羽根を背負ったドレッシーな姿のanoが登場すると、武道館は歓声で揺れた。
1曲目は、彼女を一躍スターダムに押し上げた代表曲「ちゅ、多様性。」。ダンサーを従え、会場全体を一瞬で“あのちゃんワールド”に引き込んでみせると、続く恋に落ちる衝動をコミカルに描くファニーなナンバー「許婚っきゅん」へ。間奏では円形ステージを走り回り、東南西北の観客に笑顔を振りまく。テレビで見せる、ひらがな“あのちゃん”の延長線上にある、ポップな一面が存分に放たれていた。
その後披露された「F Wonderful World」「Bubble Me Face」では、ano特有の「甘さと毒」のバランスが際立つ。ファニーでカラフルなサウンドに、社会への風刺を潜ませた歌詞を乗せることで、単なるポップソングでは終わらない強度を獲得しているナンバーだ。序盤は、彼女の二面性を“遊び心”として体現したブロックだった。
最初のMCでは、自己紹介もそこそこにコール&レスポンスを仕掛ける。「好きな食べ物は〜?」「貯金残高は〜?」と投げかけると、客席からはバラバラの声が飛び交い、当然答えは揃わない。だが「好きな人は〜?」と問いかけた瞬間、観客が一斉に「anoちゃーん!!!」と叫び、会場は一体に。これにはanoも照れながらも大層ご満悦のご様子であった。
続くブロックでは、様々なアーティストたちとコラボをした楽曲が並ぶ。ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)との共作による「スマイルあげない」は、無邪気さと皮肉が同居するダンサブルな楽曲。シリアスな社会観をポップに昇華するケンモチ節とanoの声色が絶妙に重なり、観客の体を自然と揺らした。尾崎世界観(クリープハイプ)作曲の「愛してる、なんてね。」では、感情の奥底を抉るようなセンチメンタルなリリックが印象的だ。自嘲気味に「愛してる」を口にする姿に、anoのパフォーマンスに深い陰影を与えていた。
さらに、の子(神聖かまってちゃん)との共作による「涙くん、今日もおはようっ」では、の子特有の“破滅と優しさ”が混ざり合う楽曲を、anoは元気いっぱいに歌い上げ、大きな「ららら」のシンガロングが会場を包み込む。それは「最低な気持ちごと」叫んで吹き飛ばすような、とても温かな時間だった
まるでまぼろしでも見ているかのような、アブストラクトな幕間映像を経て、anoがアコースティック・ギターを抱えて登場。披露したのは「SWEETSIDE SUICIDE」。派手な映像演出もバンドサウンドもない。日本武道館のステージには、彼女ひとり。研ぎ澄まされた弾き語りは、飾り気のない言葉の強度と声そのものの生々しさを際立たせた。観客があっと息を呑むほどに、そこに立つanoの姿は堂々としていた。
その後「ハッピーラッキーチャッピー」「YOU&愛Heaven」「AIDA」へと続く。明るくキャッチーな楽曲の裏に、anoは人間の孤独や愛の切実さを忍ばせる。時折見せる無邪気な笑顔と、観客を慈しむように見つめる眼差し。その二面性こそが、彼女の歌声に説得力を与えていた。
インターバルを挟んだあとのステージは、anoのもうひとつの顔であるロックなモードへと突入。彼女のトレードマークとも言える水色のGibson SGを抱え、唸るようにかき鳴らすと、「デリート」の冒頭から、場内の空気は一変する。激烈なサウンドに乗せ、anoは「“あのちゃんは1人で武道館なんかに立てないよ”って言ってきたアーティストども、ざまあみろ!舐めんじゃねえぞ!」と絶叫。魂を削り取るようなそのシャウトは、聴く者の心を直撃した。
続く「普変」は、尾崎世界観(クリープハイプ)が、作詞・作曲のナンバー。この曲では、武道館に大量のアンチコメントが書かれたウィングハート型の紙が降り注ぐ演出が加わった。痛烈な現実を突きつけるその光景の中で、anoは怯むことなく、全身を音楽に捧げるかのように歌い切った。嘲笑や否定すらも自らの表現の燃料へと変える姿は、まさにアーティストとしての矜持そのものだった。
さらに「猫吐極楽音頭」から「骨バキ☆ゆうぐれダイアリー」へと続く流れでは、会場の熱狂がさらに高まる。重低音と炎がうねるステージで、anoはデスボイスをぶちまけ、会場を圧倒。かわいらしさと残酷さ、コミカルさと凶暴さを行き来するその姿は、“多面体”としてのanoを象徴していた。やがて彼女はステージに寝転がり、全力を出し切った安堵に包まれる。そこには、呪縛から解き放たれたかのような開放感が漂っていた。
後半のクライマックスは、久々の披露となったすりぃ作詞・作曲・編曲の「絶対小悪魔コーデ」から始まった。SNS発のボカロ文化を思わせるような、挑発的で中毒性のあるメロディに観客が歓声をあげる。続く「ロりロっきゅんロぼ♡」では、キュートとロックが交差するカオティックなポップソングを全身で体現した。
anoの音楽のスタイルは、なににもとらわれない。ダンサーと踊り、アコースティックで聴かせ、バンドセットで吠える。いかなる形式であれ、すべてを自分のスタイルに昇華してしまう彼女の対応力の高さはさすがのひとこと。anoがファンやいわゆる芸能人のみならず、多くのアーティストからの愛されている理由がそこにあるのだろうと感じた。
本編ラストを飾ったのは、映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」前章の主題歌「絶絶絶絶対聖域」。破滅的な世界観と疾走感あふれるサウンドが融合したこの曲で、anoはステージを転がりながら歌い叫び続けた。時に笑い、時に苦しみながら提示される“クソヤバイ”世界。その混沌こそが、彼女自身の絶対聖域であり、最後まで守り抜いたプライドだった。
ステージを去ったあと、会場に響き渡ったのは「アンコール」ならぬ、恒例の「あのちゅーる」コール。最初はバラバラだった声が徐々にひとつに揃っていく光景は、孤独を抱えていた人々がanoの音楽によって結びつき、共鳴していくことを象徴しているかのようだった。
呼び戻されたanoは、パジャマ姿で再登場。新曲「ミッドナイト全部大丈夫」を披露する。曲中に繰り返された「全部、全部大丈夫になるよ」というメッセージは、呪いや苦しみを抱えたまま生きるファンたちへの最大のエールとなったに違いない。
歌い終えた後には、客席をスマートフォンで撮影しながら「みんなに自慢する」と語るano。ファンを“誇れる存在”とするその言葉に、会場は再び温かさに包まれた。
anoは、ここで胸の内を吐露した。「武道館に特別な思い入れがあったわけじゃないけど、『あのちゃん1人じゃ武道館には立てない、厳しいと思う』って言われて……そういうのも含めて自分自身がいろんな呪いにかかっていて」彼女の言葉に会場は一瞬、張り詰めた空気に包まれる。
デビュー以来、anoは「誰かを救おうとか、誰かのヒーローになろうとか、何にも思ってなくて、ただ自分の呪いに復讐するために音楽を続けてきた」と明かす。しかし、その“復讐”の道のりで彼女の音楽を見つけた人々が集まり、いま目の前に広がる観客席を埋め尽くしている。「気づいたら、みんなのことを考えてることが多くなって。いっしょに呪ってくれているなって思えています」。その言葉に、胸が熱くなった。
さらにanoは力強く宣言する。「僕が、僕の敵を倒していくように、みんなが傷つけられたものとか、呪われているものを、僕が呪ってやりたい。これから僕が呪うし、あなたは、あなたの敵を自分で倒します。必ず倒せるので大丈夫です」。彼女の真っ直ぐな眼差しに、会場の観客はじっと耳を傾けていた。
「いつも敵ばっかりだなって思って生きてるんですよ。でもこうやって僕のファンがいると思うと、もっと見返さなきゃって思える。挫けそうになることもあるけど、こいつらがいれば、強くなれる」。その声は、まるで自らを奮い立たせると同時に、ファン一人ひとりに向けられた誓いのようだった。
そして最後に、彼女は深い感謝を込めて語りかける。「みんなが死にたいと思った時、死ななかったからここにいます。死ぬことを諦めてくれてありがとう。生きてくれて、ここまで来てくれて本当にありがとう。よく頑張りました」。anoが放った言葉は、彼女自身の“呪い”を超えて、観客の心に強く刻まれていた。
そして「これから絶対大丈夫です。ついてきてください。ありがとうございました」。と力強く叫んだのち、最後に「Past die Future」を熱唱。どこまでも真摯な歌声を響かせ、初の日本武道館ワンマンは大団円を迎えた。
anoが掲げた“復讐”の誓いは、孤独な叫びではなく、武道館を埋め尽くしたファンとともに響き合う祈りへと変わっていた。anoは呪いを解くのではなく、そのまま呪いを抱えながらも生きることで、誰かを照らす光となったのである。それは、傷を抱えたまま生きることを肯定し、夜を共に越えていくための合図のようでもあった。
anoが自分自身に呪いをかけて始まったはずのまぼろしは、誰かの生きる理由になった。この夜、音楽でひとつの復讐を果たしたano。しかし彼女の復讐劇はまだまだ終わらない。anoの復讐はもっともっと多くの人を救うのだろう。
取材&文:ニシダケン
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ライブ情報
「呪いをかけて、まぼろしをといて。」
2025年9月 3日(水)日本武道館セットリスト
01. ちゅ、多様性。
02. 許婚っきゅん
03. F Wonderful World
04. Bubble Me Face
05. スマイルあげない
06. 愛してる、なんてね。
07. 涙くん、今日もおはようっ
08. SWEETSIDE SUISIDE
09. ハッピーラッキーチャッピー
10. YOU&愛Heaven
11. AIDA
12. デリート
13. 普変
14. 猫吐極楽音頭
15. 骨バキ☆ゆうぐれダイアリー
16. 絶対小悪魔コーデ
17. ロりロっきゅんロぼ♡
18. 絶絶絶絶対聖域
En1. ミッドナイト全部大丈夫
En2. Past die Future
■ano、初の日本武道館公演「呪いをかけて、まぼろしをといて。」をU-NEXTにて独占配信決定!
視聴ページ:https://video.unext.jp/livedetail/LIV0000010049
ライブ配信:10月25日(土)19:00 ~ライブ終了まで
見逃し配信:配信準備完了次第~11月8日(土)23:59まで
配信公演:9月3日 東京・日本武道館 公演
※視聴可能デバイスに関してはこちらをご確認ください
https://help.unext.jp/guide/detail/supported-devices-of-live-distribution
ツアー情報

【ano HALL TOUR 2026】
・2026年3月7日(土)神奈川/厚木市文化会館 OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年3月14日(土)愛知/Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年3月28日(土) 宮城/東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館) OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年4月4日(土)香川/サンポートホール高松・大ホール OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年4月19日(日)福岡/福岡市民ホール 大ホール OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年5月9日(土)広島/広島JMS アステールプラザ 大ホール OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年5月16日(土)新潟 /新潟テルサ OPEN 16:00 / START 17:00
・2026年5月22日(金)北海道/札幌市教育文化会館 大ホール OPEN 17:30 / START 18:30
・2026年5月31日(日)大阪/グランキューブ大阪 OPEN 16:00 / START 17:00
券種・料金:全席指定 8,800円(税込)
特設サイト:https://ano-special.com/halltour2026/
主催・企画・制作:トイズファクトリー
制作協力:ハンズオン・エンタテインメント
アーティスト情報
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