疲れやすさの陰に潜む肝臓のSOS──「歩くこと」ができる最大のセルフケア

疲れやすさの陰に潜む肝臓のSOS──「歩くこと」ができる最大のセルフケア
「最近なんとなく疲れが取れない」「朝の目覚めが重い」。そうした疲労感を年齢や忙しさのせいにしてそのまま過ごしていませんか。実は、こうした慢性的な疲れやだるさの背景に、“肝臓の働きの低下”が隠れている可能性があります。

肝臓は、代謝・解毒・栄養の貯蔵といった生命維持に欠かせない機能を担っていますが、自覚症状が現れにくく、「沈黙の臓器」と呼ばれています。だからこそ、何も異常がないように見えても、疲れやすさや倦怠感といった“曖昧な不調”を通じて、静かにSOSを出していることがあるのです。

肝臓の働きは、血液の流れによって支えられています。全身の血液のうち、約30%が肝臓を通過します。しかし、血流が滞るとその代謝機能は鈍り、解毒や栄養処理がうまくいかなくなります。すると、疲労感や集中力の低下といった症状が現れやすくなります。

このような状態に対し、特別な薬や器具を使わずに、自分の力で肝臓をサポートする方法があります。それが、「歩くこと」です。歩行には、下半身の筋肉を使って静脈血を心臓へ押し戻す“筋ポンプ作用”があり、血液の流れをスムーズにする役割があります。その結果、肝臓への血流も改善され、代謝機能が活性化しやすくなるのです。

たとえば、軽く息が上がる程度の速歩を1日30分、週に4〜5回続けるだけでも、肝臓のコンディションが整いやすくなります。ふくらはぎの筋肉を意識して歩くと、筋ポンプ作用がより効果的に働きます。また、適度な水分補給は血流の粘度を保ち、肝臓まで血液を届ける“燃料”の役割を果たしてくれます。

こうした日常の歩行習慣が、疲労の軽減だけでなく、脂肪肝や生活習慣病の予防にもつながることが、近年の研究でも示されています。私は医師ではありませんが、病院で「なるべく歩いてくださいね」と言われる理由は、まさにこうした血流改善や代謝の底上げを期待してのことなのだろうと感じています。

肝臓が沈黙する臓器だからこそ、わたしたちはその存在を忘れがちです。しかし、疲れやすさを放置していると、知らないうちに肝臓に負荷がかかり、将来的な疾患リスクにもつながりかねません。「ちょっと疲れたな」と感じたときこそ、あえて歩き出す。それが、自分の体に対する敬意であり、未来への投資なのだと思います。

血液検査でALTやAST、γ-GTPといった肝機能値に異常が見つかった場合でも、「とりあえず様子を見る」だけでは不十分なこともあります。体を休めることに加えて、「歩いて整える」という視点を持つことで、日常から体を立て直す手助けになります。再検査の結果を良くするには、数値ばかりを見て一喜一憂するよりも、生活の質を変える一歩が大切だと考えています。

歩くことに医療的な副作用はありません。特別な知識も、高額な機器も不要です。体調や年齢に合わせて、無理なく続けることができ、しかも効果は全身に広がります。肝臓という“見えない臓器”をいたわるには、見える動作である「歩行」が最も確かな味方になるのです。

疲れたから座るのではなく、疲れたからこそ歩いてみる。そうした選択が、沈黙する臓器に届く最大のエールになるのではないでしょうか。

参考文献:Peng et al., The Role of Exercise in Steatotic Liver Diseases, Liver International, 2024
山口県立大学ら,座位時間減・ウォーキングにより脂肪肝リスク22%減少, Alimentary Pharmacology & Therapeutics, 2023

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