夏のバカンスは宇宙に疑似トリップできる「深宇宙展」がおすすめ(辛酸なめ子)

猛暑が厳しい夏、どこにも避暑に出かける予定がない……そんなときに現実逃避&トリップ感を得られるのが、日本科学未来館で開催されている「深宇宙展 ~人類はどこへ向かうのか To the Moon and Beyond」です。
宇宙はどこから始まるのかというと、一般的には地球から100kmの距離から、と定義されています。果ては138億光年以上まで、気が遠くなるほどのスケール感ですが、今回「深宇宙」とされているのは200万kmよりも遠いところ、とされているようです。月を超えて火星やその先にある深宇宙の謎に挑戦する、人類の尽きせぬ探求意識に触れられる展示です。


日本の誇る「H3ロケット」(最先端部にあるフェアリング)の実物大模型や、小惑星探査機「はやぶさ」や「はやぶさ2」が持ち帰った粒子、最新の人工衛星など、最先端の日本の宇宙探査・開発についても大々的に展示されています。

最初の展示室から「トラスロッド」「タンネルカバー」「フィードラインカバー」「バッフル」といったマニアックなロケットのパーツが展示。鉄オタみたいな感じでロケットオタの方がいたらテンションが上がりそうです。ガラスケースが一部開いている展示もあり、「フィードラインカバー」などは黒光りする部品に実際に触れるようになっていました。

地球の環境を守り、暮らしに役立つ人工衛星のコーナーでは、「雲エアロゾル放射ミッション」という目的で気候変動の予測をする「はくりゅう」や、地表の形や変化を観測する先進レーダ衛星「だいち4号」、地球観測する小型SAR衛星「QPS-SAR」など、マニアックな最新の衛星の模型が集合。気象観測やGPS測位、通信、環境保護などの分野で、日常を支えてくれている衛星たち。いつの間にか日本の衛星技術がこんなに発展していたことに驚かされます。

展示の見どころの一つは、前澤友作氏が搭乗したソユーズ宇宙船(実機)や宇宙服の展示。黒く焦げた外壁に、大気圏突入時に燃えた痕跡が感じられ、命がけの宇宙旅行だったのだと伺い知れます。宇宙船の内部はかなり狭く、操作のインターフェースが昔のSF映画のような物理的なボタンでした。原始的な物理ボタンのほうが揺れる船内で押しやすいのかもしれません。

国際宇宙ステーションに到着した前澤友作氏が「本当にあったよ宇宙が!」と感動する懐かしい映像も流れていました。先日発覚した前澤氏の資産管理会社の申告漏れの件など、宇宙という広大な空間の前では些細なことなのかもしれません。
アポロ計画からおよそ半世紀ぶりとなる有人月面探査「アルテミス計画」の関連展示も充実していました。ただ、トランプ政権はNASAに大幅な予算削減を要求したので実際はどうなるかわかりませんが……。

巨大なTOYOTAの車の模型が展示されているのが目を引きましたが「有人与圧ローバー」と説明に書かれていました。無人での稼動も可能な車な上、宇宙飛行士が宇宙服を着ずに月間活動できるように設計されているとのこと。この巨大な車を月まで運ぶのは大変そうですが、夢が膨らみます。

宇宙の謎に迫る大規模望遠鏡の模型や、遠い銀河や星雲、ブラックホールの写真も展示されていて、宇宙に思いを馳せることができます。

すばる望遠鏡がとらえた、オリオン大星雲や、アンドロメダ銀河、かに星雲、クラゲのように重なる銀河など、人間の知覚を超えた形態でした。日常で何か悩んでいる人も、宇宙の銀河や星雲が織りなすスペクタクルなアートを見れば、地球規模の小さな心配事など消え去りそうです。

展示の中で最も宇宙旅行感が得られたのは、大画面映像で体感する火星ツアー。火星探査機が捉えた最新のデータを素材に製作された映像で、かなり没入できます。足の下と目の前に火星の映像が広がり、火星の渓谷を抜けてクレーターに近付いたりと、その場にいるような臨場感が。火星の地表写真がたくさん出てくるので、つい人工的な構造物がないか探してしまいます。赤い巨大な山が迫ってきたと思ったら、オリンポス山という太陽系最大の火山で、高さは2万7000メートルもあるそうです。日本における富士山どころではなく、太陽系で最大のパワースポットです。夏に海にも山にも行く計画がなかったですが、太陽系最大の火山を体感できて満足しました。
展示の最後には、大画面映像で旅する深宇宙を体感する映像コーナーがありました。星の一生を眺めながらブラックホールの迫力を疑似体験。「私たちの体を作る細胞も星のかけらから生まれた……」そんなナレーションを聴きながら、疑似宇宙旅行は実家に帰るような旅でもあったのかもしれない、と感慨に浸りました。なかなか実家に帰れない人にもおすすめの展示です。
特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」To the Moon and Beyond
会期:2025年7月12日(土)~9月28日(日)
開館時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:7月15日(火)、9月2日(火)、9日(火)、16日(火)
会場:日本科学未来館 1階 企画展示ゾーン
(イラスト・文:辛酸なめ子)

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