【50代の住み替え】築103年の古民家を購入&リノベーション。”子育てのための家”から”夫妻二人のための暮らし”にシフト 福岡県・Aさん夫妻

【50代の住み替え】築103年の古民家を購入&リノベーション。子育てのための家から夫妻二人のための暮らしにシフト 福岡県・Aさん夫妻

人生で暮らし方が変わる節目となるひとつが、50代・60代あたりではないだろうか。今回取材した福岡県南部に住むAさん夫妻は、子ども部屋が空き部屋となる、定年前のタイミングが節目だったそう。子育ての利便性前提だったそれまでの暮らしから、より自分たち二人のためを考えた暮らしを求めて行きついた、住み替えという選択。築103年の家をリフォームし、豊かな暮らしを送るAさん夫妻が振り返る住み替えの決め手とは?

住まいのグレードを少し上げたい。ローンが組めるうちに計画始動

住所福岡県中部→福岡県南部家族構成Aさん夫妻(夫65歳、妻63歳)、猫3匹
※娘(姉)、息子(弟)は別居旧居築25年一戸建て(建売)
4LDK・110.54平米(土地面積254.82平米)新居築103年一戸建て(リフォーム)
5LDK・170.77平米(土地面積337.87平米)購入費415万円工事費2,650万円

Aさん夫妻(夫65歳、妻63歳)が以前の家を購入したのは30代初めのころ。上の子の小学校入学を機に、福岡県の中部、学校やスーパーが近く、住環境のいい場所にある新築建売住宅を選んだ。子ども部屋が2つある4LDK。「住み心地は悪くなかったのですが、約20年暮らして子どもたちも巣立ち、子ども部屋が空き部屋になりました。余った部屋をつなげてリビングを広くしたいと考えましたが、ツーバイフォー住宅(※)だから構造に影響するリフォームはできないと。床や壁紙を張りなおす程度しか手を加えられないと聞いて残念な気持ちになって」と二人は振り返る。

ツーバイフォー住宅:床・壁・天井の「面」で支える「面構造」で、外力を1点に集中させず、バランスよく分散させて建物の変形や崩壊を防ぐ

そのころ、夫は56歳で定年前。「家のローンは終わっていました。銀行からは、会社員であれば新たなローンが組めると聞いて、間に合ううちにリフォームや住み替えをしたいという考えがありました」
さらに勤めていた会社はフリーアドレス、スーパーフレックス制に変わっていたため、どこで暮らしても生活パターンが変わらないというメリットもあった。

そんなとき妻が見つけたのが、空き家バンクのホームページに出ていた古民家だった。もともと、夫の実家は、熊本にある明治10年築の古民家。「この雰囲気は実家のようだと思いました」と夫もすっかり気に入り、さっそく動き始めることに。
ただ、古民家で心配なのは、家の傷みや耐震性。リフォームにどの程度の費用が必要かも分からなかったため、まずは専門家を訪ねることにした。

購入当初はここが玄関で、屋外に階段があったそう。現在は趣味の間 兼 前室に。骨董の刀箪笥には妻が趣味で集めた布類が納められている(写真撮影/加藤淳史)

購入当初はここが玄関で、屋外に階段があったそう。現在は趣味の間 兼 前室に。骨董の刀箪笥には妻が趣味で集めた布類が納められている(写真撮影/加藤淳史)

2階の寝室。床脇部分に収めた棚は行きつけの骨董店で選んだ。寝室の隣の部屋はウォークインクローゼットとして使用している(写真撮影/加藤淳史)

2階の寝室。床脇部分に収めた棚は行きつけの骨董店で選んだ。寝室の隣の部屋はウォークインクローゼットとして使用している(写真撮影/加藤淳史)

大正時代に建てられた築103年の家。リフォームして暮らせる?

地域の古民家再生協会を訪ね、古民家の状態を確認することにしたAさん。古民家は、中を調査しないことには、リフォーム費がどのくらい掛かるのかも分からないものなのだと知る。まずはインスペクション(建物状況調査)を依頼し、そのときの調査の記録は、「古民家鑑定書」「古民家の伝統耐震等性能評価」「古民家床下インスペクション調査報告書」にまとめられている。

「床下が腐食していないか、まずこれが重要でした。白アリ被害や腐食、ゆがみを確認してもらいました。基礎から工事をするとなると、リフォームの金額もかなり上がるそうです。天井の雨漏りなども調べ、ひとまずそれが問題ないということになって、じゃあいけるのでは、と」
石場建て(礎石の上に直接柱を立てる伝統工法)で今でいうところの免震の効果があったため、耐震についても問題なかったそうだ。

古民家再生協会にインスペクションを依頼した。特に床下の腐食やゆがみは以後のリフォームの金額を左右する重要な部分(写真撮影/加藤淳史)

古民家再生協会にインスペクションを依頼した。特に床下の腐食やゆがみは以後のリフォームの金額を左右する重要な部分(写真撮影/加藤淳史)

これからの暮らしを見据えた際の条件も、Aさん夫妻に合っていた。駅も高速のインターチェンジも車ですぐ、スーパーも近くにある。以前の環境と遜色(そんしょく)ない、不便を感じることのない暮らしがイメージできたのも大きかった。

家の敷地もちょうどよかったという。
「田舎だとよく納屋があったり畑があったりするけれど、ここはそれがなかった。庭だけなので身の丈に合った暮らしがイメージできた。近所の家はみんな畑を持っているので、『むしろ畑はなくていいよ』と言われてね」と笑い合う。

ほかに確認したのは、地震や水害などの自然災害が起こった場合、どんな土地なのかということ。地震については活断層マップを、水害については川が近かったものの、国土交通省の洪水ハザードマップを確認して、安全面を確かめた。
所有者との交渉も滞りなく進み、購入後にいよいよリフォームの計画を進めていった。

天井と梁の大きさが気に入っていて、当初のまま活かしている。2階の障子は夫がエクセルを使ってイメージをデザインした(写真撮影/加藤淳史)

天井と梁の大きさが気に入っていて、当初のまま活かしている。2階の障子は夫がエクセルを使ってイメージをデザインした(写真撮影/加藤淳史)

キッチンと居間を仕切る引き戸も、夫がエクセルでデザインしたもの(写真撮影/加藤淳史)

キッチンと居間を仕切る引き戸も、夫がエクセルでデザインしたもの(写真撮影/加藤淳史)

(写真下)棟札には「大正三年」と時期や棟梁の名前が。工事の後、棟札は元あった場所に戻され、家を見守り続ける(写真撮影/加藤淳史)

(写真下)棟札には「大正三年」と時期や棟梁の名前が。工事の後、棟札は元あった場所に戻され、家を見守り続ける(写真撮影/加藤淳史)

自分たちにとって使い勝手よく。余白のある住まいに

現在、住み始めて8年目になるという古民家は、黒光りする梁の重厚感が部屋の一番のポイントとなっている。3匹の猫と一緒に暮らし、彼らもそれぞれに居心地のいい場所があるよう。建物は吹き抜けになっていて、2階から居間を見下ろすと、ぽかぽかと冬の日差しが入る縁側と無垢材の床の色合いが温かな雰囲気を醸し出している。どこを切り取ってもかっこいいと感嘆のため息がもれてしまう。

3匹の猫たちもそれぞれお気に入りの場所があるらしい(写真撮影/加藤淳史)

3匹の猫たちもそれぞれお気に入りの場所があるらしい(写真撮影/加藤淳史)

縁側でひなたぼっこ。妻の趣味でそろえているじゅうたんの上がお気に入り(写真撮影/加藤淳史)

縁側でひなたぼっこ。妻の趣味でそろえているじゅうたんの上がお気に入り(写真撮影/加藤淳史)

「一番大事にしたのは、この家が持っているポテンシャルをなくさないことでした。あとはゆとりがあればいい。自分たちでどうデザインするか、それがおもしろかった」と笑顔のお二人。
設計を依頼したあとは、何度もイメージを打ち合わせ、同時に費用もすり合わせていった。
夫妻二人の生活。必要な部屋は決まっている。寝る場所、食事する場所、食事をつくる場所、過ごせる場所の4つのスペース。それに物を置くスペースが適度にあれば十分だった。

当初の室内は、昔ながらの日本家屋そのもの。ほとんどは畳敷きの和室、部屋の周囲には外廊下があり、2階に上がる階段上には納戸もあった。

リフォーム前の外観(写真提供/Aさん)

リフォーム前の外観(写真提供/Aさん)

リフォーム前の縁側の写真(写真提供/Aさん)

リフォーム前の縁側の写真(写真提供/Aさん)

リフォーム前のリビング・ダイニングの写真(写真提供/Aさん)

リフォーム前のリビング・ダイニングの写真(写真提供/Aさん)

「天井を外すと、艶を帯びた大きな梁が見えて、これは活かしたかった」と、迷わず梁を見せた吹き抜けに。玄関の位置を変更し、もともと、玄関だった場所は広い前室に造り変えた。靴が玄関に置きっぱなしにならないよう、客人とは別に夫妻用の入口をつくり、シューズクローゼットを設けてすっきりと。タイル張りだった浴室にはシステムバスを入れ、一部屋を脱衣所に変更した。

客人は正面から居間へ、ご夫妻はシューズクローゼットの側から上がり、すぐに靴を収納できる(写真撮影/加藤淳史)

客人は正面から居間へ、ご夫妻はシューズクローゼットの側から上がり、すぐに靴を収納できる(写真撮影/加藤淳史)

玄関から続く広々とした前室は、季節ごとに趣向を変えて(写真撮影/加藤淳史)

玄関から続く広々とした前室は、季節ごとに趣向を変えて(写真撮影/加藤淳史)

収納もたっぷり取った。キッチンの奥にはパントリーを設置し、寝室隣の1部屋は夫妻の洋服がほとんどすべて入るクローゼットに変えた。1階には車を横付けして荷物を入れられる物置きもある。

気に入った骨董品がぴったりと収まるように設計したり、建具を自分でデザインしたり、住まいを造る過程を聞くと、お二人の楽しむ様子が伝わってくる。工事中は毎週通い、その都度、希望を伝えてきた。無理な場合はその理由を教わりながら、納得して工事を進めてきたという。

夫が骨董店で調達した建具は、大工さんに調整を依頼。家の雰囲気にぴったり(写真撮影/加藤淳史)

夫が骨董店で調達した建具は、大工さんに調整を依頼。家の雰囲気にぴったり(写真撮影/加藤淳史)

気になる最終予算について尋ねると、「最初に考えていたリフォーム予算は約1,000万円でした。今の家の購入代金とリフォーム代から以前の家の売却益を引いて、ちょうど最初に考えていた予算ぐらいになったので、トントンです」とのこと。ちなみに、以前の家はこちらに引越して約2年後に売却でき、以前のAさんと同様、子育て中のご家族が入居したそうだ。

Before

Before間取り図

※購入時、階段はなくなっていたとのこと

After

After間取り図

※灰色の部分は壁で囲み、現在は使用していない

古民家のポテンシャルに驚く日々。無理のない省エネな暮らし

リフォームの相談をした古民家再生協会では、家の素材についても教わったという。この家の柱や部材は、すべて自然乾燥材を使用している。柱の所々にあるひび割れは、今も木々が呼吸し、しっかりと締まっているから。熟成を重ね、年を経るごとに強度を増していく。

壁は漆喰塗りで、落ち着いた雰囲気がいい。天井は断熱材を入れ、窓は複層ガラスをはめているので、断熱性も問題なし。この家での暮らしも8年目を迎え、特に驚くのは「快適さ」と口をそろえる。
「冬は寝る前までエアコンで寝室を暖かくして、寝るときはエアコンを切ります。以前の家は夜中にかなり部屋が冷えていましたが、ここでは毛布いらずなんですよ。夏は早朝、窓を開けて外の空気を入れ、外気温が上がる前に窓を閉めると、ずっとひんやりしています。春も秋も過ごしにくくなっているけれど、それでもその季節に窓を開けておくと、心地よくて。土壁のポテンシャルにはびっくりしますよ」(夫)

広さは以前の家の倍ぐらいになっているが、光熱費はほぼ変わらないそう。「エアコンを使わなくていい。これが本当の省エネなんだと気づかされました」(夫)

居間の奥に設置されているのはペレットストーブ。これ1台で吹き抜けの上まで暖かな空気で包まれる(写真撮影/加藤淳史)

居間の奥に設置されているのはペレットストーブ。これ1台で吹き抜けの上まで暖かな空気で包まれる(写真撮影/加藤淳史)

当初の屋根は土葺きだった。天井は梁だけ残し内側に断熱素材を入れ、新しい板で張り替えている(写真撮影/加藤淳史)

当初の屋根は土葺きだった。天井は梁だけ残し内側に断熱素材を入れ、新しい板で張り替えている(写真撮影/加藤淳史)

50代の住み替え。これからの人生を豊かに

実は住み替えを前に、少し心配していたこともあった。ご近所さんとの付き合い方だ。周囲は生まれも育ちも地元という方がほとんど。よそ者が入っていくことに少しの不安もあったが、妻は「皆さん、ウェルカムでした。人が減っていたからよかったと迎えてくれました」と話す。
「50代、もういろいろ経験しているので、もちろん挨拶はきちんとして、よそ者というのをわきまえつつ溶け込むことができました」

夫も「地域の草刈りなどはみんなで集まってします。それは地域でやるべきもの。地元の神社も守る。しめ縄もみんなでつくる。移り住んだ人もやるべきことはやる。それだけです」と続ける。

現在は、珍しい古民家リフォームということもあり、訪れる人の絶えない日々を送る。「息子や娘たちはもちろんですが、近所の人や音楽仲間、長年、会えていなかった同級生が遊びに来ます。みんなが『行ってみたい』って言うんですよ。ご縁が広がって、いろんな話が聞けること、情報が集まることは人生の財産だなと思います。『思い切ったね』とよく言われるけれど、そんなに頑張っていないし、終の棲家と気負っているわけでもありません。自分たちが居心地のいい家で暮らして、満足度は上がりましたね」(夫)

自分たちの好きなものに囲まれた、心落ち着く空間での暮らし。「エネルギーのいる住み替えは、体力的にも精神的にもまだまだ充実している50代がいいんじゃないかな」というお二人の言葉には、理想の暮らしを手に入れた充実感がみなぎっていた。

ガレージは夫から大工さんにイメージを伝えて依頼した。庭の樹木も選び「造っていく過程も楽しかった」と話す(写真撮影/加藤淳史)

ガレージは夫から大工さんにイメージを伝えて依頼した。庭の樹木も選び「造っていく過程も楽しかった」と話す(写真撮影/加藤淳史)

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