現役役者も「心がチクチク痛い」リアルな傑作映画『Page30』/役者をうんと憎んで、ものすごく愛している作品

※本記事は、『Page30』作中描写に関わる表現があります。
──突如、集められた4人の売れない女優たち。彼女たちは30ページの台本と、たった3日間だけを託される──
今回は現役の役者・俳優である藤井太一さん、吉岡そんれいさんに映画『Page30』を観ていただき、感想を伺いました。映像や舞台経験を重ねてきたお二人だからこそ、役者の“リアル”そして、この作品の“リアル”についてお話いただくことができました。ややスレスレの“舞台裏”トークをご堪能ください。

<藤井太一>
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宮城県仙台市出身、1973年生まれ
映画:『Mothers マザーズ』『ルカノパンタシア』『温泉シャーク』『BY THE WAY 波乱万丈』『たいせつなひと(仮)』『マリッジカウンセラー』『おっさんずぶるーす』『21世紀のおじさん』
テレビ:仰天ニュース『耳かき店員殺人事件』『95』
CM:中外製薬『母の味噌汁』など
https://2014bootleg.wixsite.com/my-site-1/taichi-fujii[リンク]直近の出演作品は
映画『Mothers マザーズ』、
https://mothersfilm.studio.site/ [リンク]
ザ!仰天ニュース 再現ドラマ『秋葉原耳かき店員殺人事件』再編集版
https://www.ntv.co.jp/gyoten/articles/324l4luy3ay1tx115mp.html [リンク]
<吉岡そんれい>
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埼玉県出身、1974年生まれ
映画:『BY THE WAY 波乱万丈』『東京組曲2020』『ぬけろ、メビウス!!』『お別れの歌』『喝 風太郎!!』『あいが、そいで、こい』『セデック・バレ』『KANO1931海の向こうの甲子園』
https://x.com/songreatshow [リンク]次回舞台は『シホウドウセキ』2025/6/4(水)~2025/6/8(日)
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/0286zfv66yc41.html[リンク]
『Page30』ストーリー
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30ページの台本。スタジオに集まった4人の女優たちは、この台本に3日間かけて向き合い、4日目に舞台公演をすると告げられる。配役は未定。閉ざされた環境でスマホや時計を預けさせられ動揺するものの、やりたい役を掴むため、4人は稽古に打ち込んでいく。
二流の役者、売れない役者、大根役者、言われるがまま演じることに満たされなくなった役者…稽古を通して、次第に各々の後には引けない事情が浮き彫りになり、人間の本質が暴かれていく。
演出家、監督不在という演技の無法地帯で、役者人生を賭けた芝居がぶつかり合う。
ついに4日目、仮面をつけた観客が見守る中、4人は役者としての本質を発揮し、舞台を成功させることができるのか。
──舞台の話だというのをお知らせしない状態で、お二人に『Page30』を観ていただいたわけなんですけれども、観て、まず最初の感想を教えてください。
吉岡そんれい: 俳優やっている身としては、作中の状況は絶対嫌な状況なんだけど、でもやってみたいなって思いました(笑)。
藤井太一 :僕もです。絶対ストレスすごいけどやってみたいなって。あと、あれに近い状況に陥ったこともあります。
──具体的にはどんな? まさか、缶詰状態になってとか?
藤井:いや、さすがにあんな状態とかじゃないんだけど、台本のラスト10ページが本番3日前に来るっていうのはありました。
吉岡:劇団によっては、それが普通みたいなところもありますね。
藤井:僕の時は、稽古があと1日しかないっていう段階でラスト10ページが来て。もうとにかくその日のうちに、稽古つけなきゃいけないという状況でした。
──すごい。
藤井:なんとか覚えようとしたけど、その時は1日では無理でしたね。僕の場合、せめて次の日まで1回家に持って帰りたかった。
──セリフを入れる作法って役者さんによって違うとは思うんですが、藤井さんの場合は1回家持って帰って帰ると。
藤井:持って帰りたいですね。歩きながら覚えるタイプなんです。
──歩きながらは家の中?それとも外で?
藤井:外です。ある程度ガッと頭の中にセリフを入れて、本(脚本)は手に持ってるけど、見ないで歩きながらを繰り返します。で「詰まった」ってなったら、確認してもう1回頭からやります。
吉岡:僕、以前に外国の古典戯曲やった時に「一字一句絶対に」って言われたことがあったんですよ。それ以降、「てにをは」含め、ずっと一字一句を気にして覚えるようになってますね。それ以前はそこまで気にしなかったんですが。
藤井:そういうのがあると気にするようになるよね。
──そんれいさんがセリフを入れる作法とかはありますか。
吉岡:仕事中に覚えることが多いですね。電気工事なんですけど、作業中に頭の中でセリフを繰り返したりしてます。先に台本の写真撮っておいて、休憩の時間にスマホで見返したりして。
藤井:声は出す?
吉岡:出せる状況だったら小声で出すかな。ただ、あんまりできる状況がないですね。
藤井:僕はもう明らかに声を出すタイプなんで、それもあって外を歩くんです。そんな大きい声出さないけど、基本的には声出しながら歩いて覚えてますね。あと、外歩いてると基本的に歩く以外には何もできないので集中しやすい。
でも『Page30』の4人みたいにホテルで缶詰だと、僕はちょっと覚えられないかもしれない。あれは辛いなぁ。

吉岡:唐田えりかさんの役(平野琴李)で最初、早口で感情を入れないで読んでる場面あるじゃないですか。あの読み方って、覚えるための読み方ですよね。
藤井:うんうん。
吉岡:あれ、やりたいんですけど、あれが未だにできない。毎回自分の気持ちで読んじゃう。以前メジャーな人がそういうやり方してるって言ってたからやりたいんだけど、まだできたことがない(笑)。
藤井:あれは多分、文字を記号のようにまず覚えちゃう。で、そこに感情を乗っけてくっていうやり方ですよね。記号で覚えるのが僕はダメなんだよなあ。
僕の場合はある程度感情のっけてやらないと覚えられないんだけど、その感情を完全に固めちゃうと今度は後で対応ができなくなっちゃう。ただ、その「初めて読んだときに出た感情」って意外と大事なんですよね。
吉岡:1番最初のが当たってたりしますよね。
──人によって全然違いますね。藤井さんの感情固定しない、っていうのは現場で切り替えられるように?
藤井:そうですね。覚えてる時にも「この感情はもしかしたら違うのかもしれない」って思いながらやってます。読んだ時に出てくる、自分の解釈の感情があるので、まずはそれで一回動いてはみますけど、それで固定しないように気をつけてます。
吉岡:逆に完全に固定しちゃう人もいますよね。
藤井:いるね。
吉岡:ガチガチに感情を決めて入れて、現場行くっていう人ね。
藤井:昔に感情も固めて現場に行ったりしたこともあるんだけど、全然できなくて苦労したり。今は「この感情でやってるけど、こっちになったらどうなるんだろう」みたいなのを試しながら歩いてます。
吉岡:いろんな遊びをしながら覚えますよね。
藤井:ね。それが役者の一番楽しいところだと思う。
吉岡:そうですね。
藤井:台本をいただいて作ってく間というか、稽古するまでの合間「このキャラクターってこうかも」っていうのを想像して、「じゃあ、こういうキャラクターだったらこういう感情になるかもね」みたいなのを自分で勝手にこねくり回す。それが僕は一番楽しい時間。
吉岡:みんなで集まって稽古重ねていく段階だと、演出の人に言われて(見せ方の)変更もありますよね。そういう時「えー、それじゃあ全部初めから(キャラを)作り直さなきゃいけないじゃないですか!!」って言いだす人もたまに居ますよね(笑)。
──チームの中で柔軟じゃない人がいる。
吉岡:多分、もう自分の中で決めてかかっちゃって覚えてる人とかは、おそらくそういうリアクションになっちゃう。
藤井:それでもできる人は全然いいんだけど、できない場合は「困ったなあ」ってなる。昔、そのパターンで「俺はこうやって作ってきたんだよ!!」って稽古中に怒る方がいて大変だったことがあります。ただ、その人、全然役者が本職じゃなかったんですけどね……(笑)。
「あるある」
藤井:本当によく見てるなぁと思ったのが読み合わせのシーンです。一番初めの読み合わせを4人でやるでしょう。あの時に、棒読みの琴李さん(平野琴李/演・唐田えりかさん)もいて、オーバーアクトの咲良さん(宮園咲良/演・広山詞葉さん)もいて、それをちょっとなんか上から見てる感じの遥さん(宇賀遥/演・林田麻里さん)がいる。で、訛りがすごい樹利亜さん(演・MAAKIIIさん)がいて。これはもう、本当、「あるある」が凝縮されてると思いました。

──現役の役者から見ても、やっぱりそうなんですね。
吉岡:舞台本番が始まるまでも、すごく面白い! これまで僕自身が経験したこととか、共感できるようなことが詰まってますね。もちろん本番始まってからも面白い。
──そこまででも既にもう、役者あるある、だと。
吉岡:あります。ちょっとした目線とか、この役者の事をこう思ってるっていう表情とか、そういったディティールもすごく共感しやすい。
藤井:そうそうそう(笑)。ちょっとデフォルメして描いてるけど「こういうこと思ってるわ、俺」っていうのが出てる(笑)。
吉岡:ね。こういうことを思ってる時、こういう顔しちゃうなとか。
藤井:作中はカメラで抜いてるから表情がひときわ目立つけど、「俺、絶対こういう顔してるわ」と。
吉岡:そうそう!
──演じる人も脚本を書いてる人も監督も「こういう顔してる役者いるよね」を強く演出している。
藤井:そうだと思う。すごいことだと思います。だから、なんか刺さってる。ドキドキするし、チクチクチクチク刺さる(笑)。
吉岡:これすごいですよね。僕、2回観たんですけど、2回観ると凄さがよりわかる。
これもしかしたら、この本編に描かれていない部分──作中で見れない30ページ丸ごとを、何度も通し稽古をして演じ切っているんじゃないかな、っていうぐらい全部生々しい。
藤井:“全部”やってんじゃないかってね、思う。
吉岡:本編用に選んだこのページだけ、このシーンだけ、じゃなくて30ページ稽古と本番全部撮ってるんじゃないかなって思うぐらいの。
──ドキュメンタリー感がすごいですね。
藤井:そうそう。そういう風には見せてないけど。
吉岡:そうは見せてないけど、そうやって撮ったんじゃないかなっていう、巧さとか生々しさがすごい作品です。
「セリフを入れる」リアル

藤井:読み合わせのことで言うと、台本を手放すのが早かった琴李ちゃんね。
吉岡:あれはすごい。あれできる人ね。
藤井:ああいう人、実際に居るの。あそこまでじゃないけど、もう次の日にはもう「(台本を)放して来ました」みたいな人。
──あれ見ると、うわ!すごい!ってなりますね。圧もある。
藤井:でも、そういう人って、逆にいろんなことが不安な人でもあるんです。
吉岡:本をあの早さで放したのは凄いけど、まだそのセリフは覚えようとしてる発し方でしたね。
藤井:早口のね。感情の乗ってない、棒読みに近い。
吉岡:ページで言えてるから、きっと写真で覚えるタイプなんですかね。“カメラアイ”みたいな。
藤井:僕、それもあるよ。
吉岡:羨ましい!
藤井:もちろん、ちゃんと覚えるにはさっき話したみたいに口には出すんだけど。結構字面でも覚えてるよ。
吉岡:はっきり文字が見える?
藤井:ページのどの辺にこういうセリフがあって、とかはあるの。ページめくる感じで。あくまで音できちんと覚えたうえで補助に使ってる。なんかあった時に「あれ。これってあの辺の行にあって、そうだそうだ、初めの言葉これだ」みたいな感じ。
──琴李さんももしかしたらそういう感じなのかな。ところで、その「不安だからこそ脚本を手放す」っていうのは?
吉岡:おそらく、中2日でやらなきゃいけないっていうストレスがものすごいから。
藤井:まず覚えちゃおう、と。
吉岡:この中で自分が一番売れてて「この主演をやるのは私だ」っていう気持ちも強い。一番先に前のめりで出たいところが描かれてる。
──なるほど。怖さゆえにそれをやってしまう。
吉岡:みんなすごいストレスでしょう。それもリアル。
地獄みたいな舞台裏経験
吉岡:セリフ入れる話で思い出しました。昔、本番までそもそも稽古期間が1週間あるかどうかの、キャスト7人の座組で、めっちゃセリフ量ある台本でみんなでヒリヒリしながらがんばってたんですが、早々に突然ひとりやめちゃったことがありました。「自分には無理です」って言って。
藤井:1週間前にキャスト降りるってこと?!
吉岡:そう。こんな稽古期間も無いのに、また誰かキャスト探さなきゃいけない……!って、それこそ、すごいストレスでした。役者の知り合いを呼んでなんとか終わりましたけど。
藤井:その流れでいくと、本番2週間前に演出家がいなくなったことがあるよ。
(一同笑)
吉岡:えっ! そのまま消えちゃったんですか?
藤井:うん。「もうできません」って言って。
──『Page30』も演出家は出てきませんでしたが、舞台における演出の役割ってどのくらい重要なんですか?
藤井:演出は、ほぼイコール監督ですよね。演出家って船頭というか、舵取りというか。「この作品の方向性はこっちに持ってきます」っていうのをやってくれる人だと僕は思ってます。
──そんな人が2週間前にいなくなるって、相当やばい話。
藤井:この『Page30』の遥さんじゃないけど、結局、僕が役者しながらそのかじ取りをしてなんとか形にした、という経験があります。で、「演出料ください」って言ったけどくれなかったっていうところまで含めて(笑)。
それがやっぱりその船頭の舵取りがズレてると揉めたりはするんだけど「どこに向かいたいの」っていうのがハッキリしていると僕らは付いていける。
吉岡:なんかね、役者個々のそれぞれの思いや意見は良かったとしても、「こっち側です」って方向を示す人がいた方が作りやすい。
藤井:作りやすいですね。
──良い現場もあれば、さっきの話みたいにキツい地獄みたいな現場もあると思うんですけど、体感的にはどのくらいの割合なんですか。
吉岡:僕はそこまで最悪だったっていう経験はそんなにないです。さっき言ったような人が飛んだようなのは、ほんとその1回だけでしたし。
藤井:僕、4割ぐらい……(笑)。
──結構ある!
藤井:やっぱりね、やっちゃいけない人がやってるってところに当たるのは避けたい。演出家が、千秋楽の日(公演最終日)に来ないっていうのもありました。
──もう芝居は出来上がってるから大丈夫だと思って来なかったんですか?
藤井:ね。「忙しいのかな」って思うんですよね。で「なんで来ないんですか」って言ったら、ファミマのバイトがあって、って(笑)。
吉岡:千秋楽だからっていうことはまあ、わかるけど、バイトするなよって(笑)。
藤井:そういう現場って、二度はやりたくないじゃないですか。そういうのは4割ぐらいあるかな。
──なるほど。
藤井:演出家と意見が違う、は全然いいんです。それは役者と演出家のエゴのぶつけ合いでもあるから。
──人どうしで何かを作るときには避けられないことではありますね。
吉岡:演出するべき人が役者頼みで、全く演出しないって、いうのも結構地獄ですね。「うーん、このシーン……このシーン、なんかもっとないですかね……?」みたいなのの連続。
藤井:あるある。映画でもあるよね。ただそれって、監督が役者に任せてくれてるのとは違って、こっちがやることだけを待ってるだけの場合だよね。ちゃんと任せてくれる人と、何もしてないのを「まかせる」という言葉で放棄している違いね。
吉岡:任せたうえで取捨選択とかできる人はいいけど、できない人はどうしたいのか一向にわからない。
藤井:わからない人ほど、ダメ出しが細かくて。何も言ってくれないから自分でやるんだけど、それに細かい注文がついてくるんです。
吉岡:多分、自分の中で行き先が見えてないから目先の小さいことが気になっちゃって、そういう状況になっちゃうんでしょうね。
藤井:だから演出家が居ないって、恐ろしい状況に陥るわけですよ。結局、誰の言うこと聞きゃいいのかわからなくなる。だから『Page30』の4人のあの稽古は、恐ろしい空間ですよ。
──ずっと演出家が不在ですね。
藤井:遥さんは「皆さんの好きなようにやってください」って言うしかないけど、遥さんの言うことを聞いてればいいというわけでもない。
──彼女は彼女で役者としての自我もある。
藤井:うん。「私もやりたいんです」っていう気持ちもある。その難しい中でやってるなっていうのは、感じましたね。
『Page30』の描写のリアル
吉岡:役で言うと、琴李さんは後半ちょっと伸び悩んでる印象がある役だと感じたんだけど、そういうポテンシャルまで唐田さんが演じきっているのはすごい。
──出ていた役の中で共感を覚えた方はいますか?
藤井:僕は遥さんかな。キャリア的なところも含めて、さっき言った、演出家がいなくなるようなトラブルの経験もあるから余計にね。

吉岡:僕は琴李さん、遥さん、咲良さん、樹利亜さんそれぞれ、部分ごとにシンパシーを感じるところがありました。
藤井:全員そうだよね。あるある。
──役者さんはもちろんだと思うんですが、舞台、映像に関わったことのある人だったら『Page30』は響きそうですね。
藤井:すごく引っかかると思う。「あれ。これ私?」って思う人もいっぱいいるかもしれない。咲良さんのオーバーアクトで思い出したんだけど、昔、舞台で共演した人で、セリフで話しかける相手を全員指差す人がいたの。癖でね。で、それがまったく直らない。
たとえば(吉岡さんを指さしながら)「ヨシオカさんさあ!」って。
吉岡:キツいなあ(笑)。

藤井:でも、結局その人は直せなかったの。で、ほんとに本番近い稽古のとき、こう指さされた時に、僕、思わずパッって(その指を)払っちゃった。琴李さんも作中でやってたでしょ、あれ。あの場面観て、思わず「わかる!!」って(笑)。すごいディティール。
あともうひとつ、樹利亜さんが芝居している時、琴李さんにボディタッチしようとしたときなんだけど、琴李さんが触られないように、(身をよじって)こう、避けるのがあったでしょ。あれはね、すごくわかる。舞台上でも意味のない時に触られたくないの。
──触るべき芝居だから、というわけではなく?
藤井:例えば、「お昼美味しかった?」って言いながら、こうやって(筆者の肩に手を乗せながら)触れてきたら、そこに意味が出るでしょう?
──やらなくてもいいことをやる意味、ですね。
藤井:「この関係性でこの距離で触る」って芝居の上での意味があると思うんだけど、そういう計算じゃなく、おそらく不安になって触っちゃう人がいると思うんだよね。でも「今触るとこじゃないよ」と。
樹利亜さんも不安だから寄ってって思わず触りたくなってる、琴李さんが避ける、っていうアレはものすごいリアルですごく面白かったです。
──そういうことが起きるのって、舞台が特別な場所だから、普段やらないことをやってしまう感じ?
藤井:いや、どちらかというと役者としての積み重ねだと思う。さっきも一言一句間違えるなって言われてからそうなったって吉岡さんの話もあったでしょう。多分それに似てると思う。
「舞台なんだからおっきく見せなきゃダメよ」って言われて育ってきたら、大きい芝居になっちゃうよね。
吉岡:なるほどね。
──ちょっと変わった癖がついたら、そのまま出てしまうと。
藤井:そう。だから、まだ役者として経験の少ない樹利亜さんが一生懸命、他の人のコピーをしようとしてたでしょ。言い方だったり。あれはね、すごく良い描写!って思った。他の3人が自分の哲学とプライドでぶつかってる中、一人だけわからないから全員から盗んじゃおう、っていう。

──学んでいく過程がリアルでした。
藤井:「私はこういう芝居なの」「あなたのやってることはオーバー過ぎるの」「何でもやってごらんなさい、私は認めないけどね」って3人のぶつかり合いの中で、樹利亜さんだけは、「ああ、アレいいなあ」「この人のコレいいなあ」っていうのを取ってた。
吉岡:ミュージシャンから俳優に、っていうのが、また、ね。ミュージシャンも俳優も手段は異なるけどやっぱ自分の表現なんだなっていう魅力が凄く出てて本当に良かった。
ディティールの話で言うと、本番前の「よろしくお願いします」も人間性が出てましたよね。
藤井:出てたねー。
吉岡:なんか染みついたものをやってる感じかもしれないけど、どう挨拶するかとか。
藤井:いろんなタイプいるね。ガチガチで、もうなんかもう何にもできない人も居れば、過度に陽気にふるまう人も居るし。今回は「足引っ張んないでよね」って言葉にしてたけど、あの感情を本当に出す人もいっぱいいる。
あと、咲良さんがスタッフさん2人にも「よろしくお願いします」って本番前に言ってたけど、あれはもうルーティーンとして言ってるんだろうな。すごく上手だと感じました。

吉岡:もう本当、細部を見れば見るほどね、全部すごい。さっきも言いましたけど、期間かけて全編ちゃんとみんなでやったのかなって思うぐらい染みついてる感じがする。
わからないですね、やったことないので、
藤井:一回全部やってる気がするよね、それを感じさせる。
吉岡:力量がすごい人たちが集まってる、と思わざるを得ない。生っぽい臨場感もあるんですけど、ドキュメンタリーっぽくしていないところも好みでした。結果的に予期せぬステージになりましたね。
「映像」と「舞台」の比較
藤井:咲良さんと琴李さんとで「映像」と「舞台」っていうのをすごく言ってたでしょ。あそこも面白かった。その区分けすること自体は個人的に好きじゃないんだけど、カテゴライズしているのが面白かった。そういう風に言う人居るよなあ、って。
吉岡:分けてる人いますね。
藤井:映画やりたい人もテレビやりたい人もいるし。
吉岡:舞台だけが好きっていう人もいるよね。
藤井:もうそこは単純に好みの問題なんだけど、そこの区分けを言う人、結構いるよね。
──その描写も、きちんとわかってる人じゃないと踏み込めなさそう。
藤井:そう、だからこの脚本含め『Page30』を作った方たちは、本当に役者のことをものすごく憎んだ上で、役者を心から愛した人なんだろうな、と思いました。
吉岡:僕個人も映像に出たくて始めたけど、出方がわからなくて舞台を始めたという側面もあるから、ああいう発言でマウントとっちゃう人は想像できます。これも含めて、全部“あるある”ですね。あるあるだからこそ、逆に「これは無いよ」っていう描写はありませんでした。
藤井:そうだね。 デフォルメはしてるけど、「うん、そうそうそう!」っていう共感がある。
──だから2回も観てくださって。
藤井:1回目は「痛い痛い痛い!!!」「心がチクチクする!!!」って(笑)。2回目は「ああ、なるほどー」って納得しながら観られました。

役者という生き物
吉岡:とにかく役者の周辺を解像度高く描いてますよね。
藤井:30ページっていうのもリアルでした。舞台の台本って1ページ1分から2分って言われてるんです。30ページだと60分以内だろうから、あの構成が可能だし現実的だなあって。当然、その辺のことも知り尽くした方たちが関わってるんだろうなあ、というリアルがありました。
──脚本30ページをあの環境で覚えるってリアルですか?
吉岡:わからないですね、やったことないので。
藤井:ありえなさそうだけど、できなくはないのよね。
吉岡:劇中の“彼女”みたいになっちゃうかもしれないし、自分だったらできるのかできないのか、という……やっぱ興味わいちゃうね。
藤井:塩梅がいいのよ。絶対無理にはならないの。できるかも、っていうギリギリ。あとね、女優さん4人ではあるけど共感する部分が、男女関係ない。すごくうまいよね。
吉岡:女性の方が爆発力の部分でどうなるかわからない、というのはありそう。いずれにしても役者が共感できる内容でした。
藤井:すべての役者に観てほしいですね。
吉岡:僕、コンディションによって「今、映画観たくない」とか「今、舞台観たくないな」という時期もあるんだけど、これ(Page30)観たら、多分1回リセットされてまたやりたくなる気がする。……ていうかリセットされました。ただ、今回たまたまひさしぶりに6月に本番(舞台)があるから、今は余計にシンクロしちゃうのかもしれない。
藤井:実際の現場も、プライドと哲学と技術のぶつけ合いから入っていくんだけど、やっていく中でこれが生き様とか魂のぶつけ合いになってくると、どの現場も結果的にいい作品になるんだよね。
この『Page30』の中でそれをやったのが樹利亜さんだと思うんだけど、「魂ぶつけろ」っていうのをずっと言い続けてたなと思いました。彼女はじめ、最終的には全員、自分だけに向いてたベクトルが外に向いたんだなあ、と感じました。
セリフでもあったと思うんだけど、まさしく“役者っていう生き物”を描いた作品。失敗ばかりしている役者という生き物の、弱い部分や生きづらさを本当にうまく引き出している。
吉岡:役者は「自分じゃない人間を演じて、それが評価される」って言うけど、評価されないことばかりでもある。俳優として、やるからには何か一歩先に行きたいって思うことはあるけど、叶わないことが多い。でも、極限状態でやり切ったらその先があるかもしれない──ていうポジティブを受け取りました。ポジティブ。
藤井:役者って、NGを出されて、生まれかわらなきゃいけない仕事でもある。1回死んで、ゾンビのように立ち上がれない人はどんどんいなくなっていくわけですし。ポジティブに輪廻転生してる(笑)。
吉岡:自分がやりたいことをもう、結局やっちゃう。それがうまくいかなくても何にもなってないんじゃないかなと思ってても、結局本人が思ってるやりたいことに向かうし、向かっちゃってるんでね。
藤井:真剣にできる遊びをずっとやってる、っていうのが根本にあるかな。その中には売れるとか売れないとか、映画だとか舞台だとかっていうのもあるけど、根本は真剣な遊び。遊びってずっとやりたいじゃん。一生やりたいなと思って。
吉岡:自分でも止められないんすよね。その止める現実把握能力が無いのかわかんないけど、止められない。向かっちゃってるんですよね、結局。
藤井:何かが欠けてるんだよね(笑)。この映画もどこか欠けた人しか出てこないから、だからこそのリアルなんじゃないかな。面白かったです。吉岡さん、最後に何かありますか?
すべての役者が見てる夢
吉岡:『Page30』観てて思い出したことがありました。役者あるある。
藤井:なんです?
吉岡:本番当日にセリフ1行も覚えてない夢を見る、っていう(笑)。
──そんな怖い夢!
藤井:見ます。
吉岡:いろんな役者が見てる夢です(笑)
藤井:「もう出番です」って言われて「なんだっけ」ってなる。なんとかして出ないようにしようと、いろんな言い訳を作って粘ったり(笑)。
吉岡:僕は出ちゃうけど、喋れない夢。いつも出ちゃう。あとは衣装の靴が見つかんなくて、右往左往してるとか。舞台も映像も両方ありますね。
藤井:あるねー。
吉岡:本番に向けての焦りを作中の琴李さんに見たせいか、そんな自分の悪夢を思い出しました(笑)。
──リアルな話ばかりでした(笑)。本当にありがとうございました。
『Page30』
渋谷 ドリカム シアター他 全国映画館にて公開中
主演:唐田えりか 林田麻里 広山詞葉 MAAKIII
原案/監督:堤幸彦 音楽:上原ひろみ 中村正人
エグゼクティブプロデューサー:中村正人
脚本:井上テテ 堤幸彦 劇中劇「under skin」脚本:山田佳奈
製作/配給:DCT entertainment,
映画公式HP:https://page30-film.jp/[リンク]
映画公式X:https://x.com/page30_movie[リンク]
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/page30_movie/[リンク]
#Page30

© DCTentertainment

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