【オフィシャルレポ】吉澤嘉代子、すてきな仲間たちと夢のステージで10周年を締めくくった野音ライヴ
昨年デビュー10周年を迎えた
寸劇を交えてコンセプチュアルなライブを展開した本公演の舞台は、吉澤の楽曲をモチーフとした店が立ち並ぶ、不思議な商店街だ。ステージには各店舗の看板が設置されている。「ご通行中の皆様、“夢で会えたってしょうがないで商店街”へようこそ。本日この商店街に、あの伝説の寿司屋“鮨 よし澤”が待望のオープン!」というアナウンスが流れると、吉澤の愛犬ウィンディ(人形操演・山田はるか)が、ねじり鉢巻きを巻いて登場。「僕は嘉代子ちゃんが大将を務めるお店“鮨 よし澤”の看板犬なんだ!」と自己紹介した。
“鮨 よし澤”は生演奏が名物とのことで、ウィンディがバンドメンバーを呼び込む。伊藤大地(Dr)、伊賀航(Ba)、伊澤一葉(Key)、弓木英梨乃(Gt)、ゴンドウトモヒコ(Bandmaster, Horns, Sequence)に続き、吉澤も呼ばれたのだが、ここで吉澤のお面をかぶった“10人の吉澤嘉代子”が現れ会場がどよめく。“誰が嘉代子でショー”と名付けられたクイズが始まったものの、全員明らかに偽物である。そこで、観客が本物の吉澤に会いたいという想いを大きな拍手で表すと、しゃもじを持ち寿司屋の格好をした吉澤嘉代子が登場。そのまま彼女の大好物である寿司について歌った「ガリ」でライブをスタート。意表を突いた選曲に続き、人気曲「鬼」「月曜日戦争」をファンシーなサウンドに乗せて届けていく。
「大将、オープンおめでとうございます!」と元気よく現れたのは、1人目のゲストのハマ・オカモト(OKAMOTO’S)。ハマは吉澤と同学年で、過去のライブや作品に参加するなど付き合いの長いミュージシャンだ。ここから「あいよっ!」が口癖の江戸っ子気質の大将・吉澤と、ベースが得意な青果店“ヤオハマ”に扮したハマによる寸劇が始まる。軽妙なアドリブとツッコミで笑いを誘いつつ、ハマが注文の品を確認すると、野菜かごの中には大量のアボカドが。大将いわく、本日のオススメはすべてアボカド料理だという。大将の考えにいまいち共感できない様子のハマだったが「いつも野菜を買っていただいてありがとうございます」とお礼を述べる。そんなハマに対し吉澤が「アボカドは野菜じゃなくて、果物やで」と強引にツッコむと、男女ボーカルのハーモニーが心地よい「アボカド」をデュエット。ハマのメロディアスなベースやふたりの歌が、爽やかに響き渡った。
続けて、私立恵比寿中学の真山りか・小林歌穂が登場し、真山が「ねえ大将! 今日実は、クレームを言いに来ました」と告げる。テイクアウトしたアボカド寿司を食べたところ、面皰(ニキビ)ができてしまったというのだ。そこで吉澤は「じゃあ、ニキビが消える振り付け、特別に教えてやるよ!」と、真山と小林にレクチャー。「なんだそれ」とハマにツッコまれつつも見事にニキビが治ったところで、吉澤が私立恵比寿中学に書き下ろした「面皰」を3人で歌い上げる。ハマのファンキーなベースも加わり、有機的で温もりのあるアンサンブルが生まれていた。ハマが配達のためにステージを去ると、吉澤の愛情たっぷりのファンいじりを挟み、同じく彼女が私立恵比寿中学に提供した「曇天」を歌唱。数日前までの雨予報を回避した曇天の空の下、吉澤がかき鳴らすエレキギターの音色に、真山と小林の強く切ない歌が乗る。ちょうどその頃には日が暮れて、客席にはペンライトの明かりが灯っていた。
真山と小林を見送ったのち、サイケデリックなナンバー「恥ずかしい」を披露。吉澤がステージ袖に下がったあともバンドメンバーによるダイナミックな演奏で魅せ、会場は歓声で沸く。そしてウィンディが「“鮨 よし澤”の大将の出番はここまで!」と第一幕を締めくくった。
暗転したステージに“すなっく嘉代子”の看板が煌々と光り、第二幕がスタート。「黄昏時の商店街をさまようと、あなたはやがて、小さな店にたどり着く。その名も“すなっく嘉代子”」というナレーションが流れ、煌びやかなスパンコールのドレスに身を包んだ嘉代子ママが登場。まずは最新シングル「たそかれ」を、伊澤と吉澤のふたり編成で届けていく。流麗な鍵盤の調べに乗せて、吉澤は歌詞のひとつひとつを丁寧に歌い上げた。
「この街の平和は、住人がその姿を見ただけで震え上がる、ある警察官によって保たれている。誇り高きその警察官の名は、巡査部長ファーストサマーウイカ!」というナレーションから、客席中央にスポットライトが当たると、そこ立っていたのはサングラスをかけて竹刀を担いだ警官姿のファーストサマーウイカだ。ものすごくガラの悪い風貌のウイカ巡査は、「あんたら、グッズ買うたか!?」「何見とんじゃ!しばくぞワレ!」と観客を威嚇しながらメインステージへ移動する。街角マチオ(ザ・ぷー)扮する従者が「商店街の皆様、怖がらないでください。我々は警官です」と説明。さらにサングラスを取ったウイカは「おつかれ嘉代ちゃ~ん!」と、にこやかに嘉代子ママに話しかける。現実世界の吉澤とウイカも、生年月日が同じという共通点から親交を深めた“マブダチ”。コミカルな演技で会場を沸かせつつも、ウイカの言葉には吉澤への友愛の気持ちが滲んでいた。そして「そんなマブダチの嘉代ちゃんと一緒に、今から歌ってもいい?」「盛り上がる準備、できてますか~!」と煽ると、「化粧落とし」をデュエット。パワフルな歌声と艶やかなパフォーマンスで魅了し、客席ではOiコールが起こった。
ウイカが街の巡回に戻ったあとも、吉澤は「シーラカンス通り」「地獄タクシー」をエモーショナルに歌い上げ、会場の熱はグングン上昇。そしてステージに置かれた電話の受話器を手にかけると「もしもし、真央さん? 占ってほしいことがあるんだけど、お店に来てくれないかな?」と電話して、来訪者を待つ間にアコースティックなサウンドに乗せて「綺麗」をしっとりを歌唱。吉澤と弓木のハーモニーが、切なく温かく会場にこだました。
ステージが怪しい雰囲気に包まれると、占い師に扮した阿部真央が登場。ふたりはかつて同じ事務所に所属しており、プライベートでも大の仲良し。阿部は吉澤にとって苦楽を共にした唯一無二の先輩だ。“副業で占いをしているシンガーソングライター”という設定の阿部に、商店街に住む女の子たちの近況を占ってほしいとせがむと、阿部は「嘉代ちゃんは、いろんなことに感情移入しすぎなんだよ」と慮る。すると、心を許せる先輩を前に吉澤は演技を離れて素で語り始める。「真央さんは事務所で会うたびに“かわいいね”“大丈夫だよ”って言ってくれるの」「いつも自信がない自分にとって、真央さんの声は仄暗い底を照らしてくれる光になってくれた」と明かし、感極まる吉澤。そんな彼女を、阿部がそっと抱きしめた。吉澤が「本当の気持ちを伝えようとすると、涙が出ちゃうことがあって。大人なのにすぐ泣いちゃうの嫌だなって」と吐露すると、阿部は「大丈夫。泣いていいんだよ」と優しく語りかけ、「泣き虫ジュゴン」へ。周囲が夜暗に沈む中で青く照らされた野音のステージは、まるで楽曲で描かれている海の底のよう。そこに阿部のしなやかで深みのある歌声と吉澤の繊細な歌声が響き渡り、感動的なムードに包まれる。パフォーマンス後に吉澤は阿部に駆け寄り、ふたりは再び熱い抱擁を交わした。
すべてのゲストが出演し終わると、コンサートは終盤に突入。しんみりとした空気の中、「ぶらんこ乗り」を披露する。ステージにはぶらんこに乗った少女の影絵が投影され、吉澤はポツリポツリと言葉を置くように歌唱する。さらに代表曲「残ってる」では、儚くも力強い歌と温かなサウンドが観客の心を揺さぶった。
いまだに商店街に住む女の子への心配が尽きない吉澤に対し、ウィンディは「嘉代ちゃん、そろそろ気づきなよ。すべては嘉代ちゃんの妄想。この商店街で出会う女の子たちは、みんな嘉代ちゃんが作り出した曲に出てくる主人公なんだ」と諭す。さらに10年以上前に録音した未発表曲「春樹」のデモ音源を聴かせてみせた。かつて商店街にあった“春樹”という本屋。その本屋が閉店した原因は、この曲を吉澤がボツにしたことだというのだ。「わかったでしょ! この商店街の人たちは、吉澤嘉代子の作り出した夢の世界の住人にすぎないのさ」「そこにいるたくさんのお客さんも、今目の前にいるステージの上の嘉代子ちゃんも、夢の中の存在なんだ」と、何かに取りつかれたように強い言葉を投げるウィンディ。しかし吉澤は「そんなことない! 私たちはこの中で確実に生きている。私は今、ここに立ってる! だって…“夢で会えたってしょうがないでしょ”!」と述べ、公演名と同じフレーズを歌詞に含む楽曲「未成年の主張」を披露。会場は再びヒートアップし、合唱が起きる場面も。ファンの温かな反応を受け、吉澤は「(この光景は)夢じゃなかった! ありがとう」と喜んだ。
アンコールでは、夢から目覚めたことを示すように吉澤がパジャマ姿で登場。「17歳のときにこの野音でサンボマスターを見て、ステージの向こう側に行きたいと思いました。あれからさらに17年が経って、二度目の野音公演を迎えることができました。みなさんのおかげです。お家から外に出られなかった子供が、こんなに素敵な場所で、素敵なミュージシャンのみなさんと歌をお届けできること、本当に感謝しています」と述べる。そして「私は3000人に歌いにきたんじゃない。あなたに歌いにきたんです」と、当時彼女の胸を打った山口隆の言葉を引用。「私を見つけてくれて、ありがとう!」と感謝の気持ちを伝え、山口が吉澤に提供した楽曲「ものがたりは今日はじまるの」を高らかに歌い上げた。たくさんのシャボン玉が飛び、幸福感に包まれる野音。MCでは涙声だった吉澤も、歌い終える頃には満面の笑顔を見せた。
さらに、10月からバンド編成でライブハウスツアーを開催することと、デビュー日の5月14日に新曲「メモリー」を配信リリースすることを発表。同曲は地元・埼玉県で行われる《第75回全国植樹祭》の大会テーマソングとして書き下ろした楽曲だ。吉澤は「うまく向き合えなかったふるさと。でも、ずっと歩いていたらいつの間にかそのふるさとに繋がっていた、という曲です」と語り、「メモリー」を披露。爽快感のあるサウンドと彼女のルーツに触れる歌詞がドラマティックに響いた。
バンドメンバーに続いて吉澤がはけようとすると、ステージ上の電話が鳴る。電話に出た吉澤はラジカセを再生。「最後の曲を歌います」と、受話器をマイクにして「らりるれりん」を子守歌のように優しく歌唱。「おやすみなさい」と言い残し、ステージをあとにした。
豪華ゲストと共に3000人の心を躍らせた本公演は、エンターテインメント性に富んでいただけでなく、彼女のアーティストとしての足跡が感じられるものとなっていた。2013年に行われた《ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~》を彷彿とさせる公演タイトルはもちろん、2013年公演と同じ「未成年の主張」で本編を締めくくっている点も偶然ではないだろう。他にも本公演で行われたパフォーマンスは過去のライブを思い起こさせる場面が多く、初期からのファンも最近彼女の音楽に触れたファンも楽しめる演出が散りばめられていた。過去と現在を交差させつつ、ゲストやファンなどこれまでの活動で紡いだ縁を縒り合わせた、10周年の集大成に相応しいショー。縁を大切にする吉澤の心意気は、この先もファンの心を明るく照らしてくれるに違いない。
文:神保未来
写真:山川哲矢
ライヴ情報
吉澤嘉代子「夢で会えたってしょうがないでショー」2025年4月20日 日比谷野外音楽堂
〈セットリスト〉
01. ガリ
02. 鬼
03. 月曜日戦争
04. アボカド
05. 面皰
06. 曇天
07. 恥ずかしい
08. たそかれ
09. 化粧落とし
10. シーラカンス通り
11. 地獄タクシー
12. 綺麗
13. 泣き虫ジュゴン
14. ぶらんこ乗り
15. 残ってる
16. 未成年の主張
<アンコール>
17. ものがたりは今日はじまるの
18. メモリー
19. らりるれりん
アーティスト情報
・Instagram
https://www.instagram.com/yoshizawakayoko
・X
https://twitter.com/kayokogadaisuki
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