【オフィシャルレポ】んoon、〈FIRST LOVE TOUR〉ファイナル公演で見せた結成10年の集大成
結成10年という節目に、
今回のツアーは、んoonの4人に加えて、ドラマーの岸田佳也、そして一部の楽曲に稲泉りんがコーラスで参加するという5~6人編成でのパフォーマンス。さらに、この日は活動初期からんoonのMVを手がけてきたメディア・アーティストの谷口暁彦がDJとVJで参加し、んoonの世界観が開演前のSEから終盤の視覚的な要素に至るまで貫かれていた。
開演予定時刻の午後7時、静謐なフリー・ジャズのSEが止んだところで、いよいよ6人がステージに登場。6弦ベーシストの積島直人が多動フレーズを弾き始めると、岸田がそこに重たいキックを乗せていく。なかなかシリアスな導入…と思いきや、JCの繊細なソプラノ・ヴォイスを合図にそれぞれのメンバーが音を重ねてゆき、瞬く間に華やいでいくバンド・サウンド。その流れを受けてボッサ風の跳ねるようなフレーズが鳴った途端、待ち構えていたオーディエンスの歓声が上がる。1曲目は「Amber (Summer ver.)」。暗闇に忽然と光が差し込んでいくような幕開けだ。
積島の“にゃんにゃん”から始まるコズミックなファンク「Age」、ウエスユウコによるハープの美しいリフレインがアンサンブルを先導する「Freeway」と、ライヴは序盤から新旧織り交ぜたセットリストが展開されていく。スムース&メロウな印象も強いんoonだが、ライヴにおける出音はレコードよりもはるかにヘヴィでラウド。江頭健作によるクラヴィネットのフレーズが粘っこいファンクネスを醸し出す「Lobby」ではゲスト・ラッパーの
このバンドのネオ・ソウル、あるいはアンビエント的な側面を垣間見せた中盤を経て、今度は台湾のインディ・バンド=I’m difficultのヴォーカリスト、アーネスト・リンが「Pillow」に参加。ブレイクビーツをナマに置き換えたエッジーなサウンド上で楽しげに歌う姿がなんとも微笑ましいデュエットだった。
即興も含む自由度の高いセクションを踏まえて、演奏はどんどん加速していく。デイデラス(Daedelus)をサンプリングしたマッドヴィレイン(Madvillain)のカヴァーやア・トライブ・コールド・クエストのマッシュアップ曲も挟み、披露されたのはスクエアプッシャー「A Journey To Reedham」。原曲におけるプログラミングとグリッド・ノイズの高速ドリルンベースを人力で再現していくバンドの超絶技巧ぶりにフロアは狂喜し、ライヴは早くも最高潮を迎えようとしていた。
ところが、ここでちょっとしたアクシデントが起こる。会場の熱気が高まりきったところで、バンドは演奏を急停止。体調不良の観客を見つけた彼らは、その人を救助するようにステージから指示を送っていたのだ。そして無事が確認できたところで、んoonは先ほどのピークに達したところから「A Journey To Reedham」を再開。結果として演奏のテンションはさらに高まり、その勢いのままゲスト・ラッパーの
ここまで既存のジャンルや固有名詞を引き合いにしながら彼らの楽曲に触れてきたが、正直それは表面的な説明でしかない。というか、この初見では絶対に読めないバンド名が物語るとおり、んoonは決して“わかりやすい”バンドではないのだ。言い方を変えれば、んoonは自分たちの音楽的な欲求にどこまでも忠実なバンドであり、それが今こうして熱狂的な反応を集めていることに、思わず本人たちも胸を熱くしているようだった。
「私たちはバンドです。自分たちのやりたいことをやりたいように、誰に言われるでもなく、やらずにはいられないことを自分たちでやると決めてやってます」
ライヴ後半でそう語ったJCは、自分たちの“やらずにはいられないこと”に共鳴してこの場に集まった人々への感謝を静かに伝えていた。
ツアー・ファイナルもいよいよ大詰め。控えめな伴奏がJCの歌声と
アンコールは「Tokyo Family Restaurant」。オーディエンスに捧げるラヴ・ソングでこの夜はエンディングを迎える…はずだったが、その後もアンコールを求める声が止まず、んoonは再びステージに登場。2回目のアンコールを想定していなかったバンドは、本編中に一度中断したカヴァー曲、そしてゲスト・ヴォーカル全員をステージに上げた状態で「Summer Child」を急きょ再演。2時間に及んだ宴はこれにて大団円となった。このまま夜が明けるまで続いてほしい――思わずそう願いたくなるほどの、完璧なツアー・ファイナルだった。
文:渡辺裕也
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