IWD特集:芋生悠『解放』インタビュー
3月8日の国際女性デーを記念し、女性アーティストがつくりあげた作品や表現を通して、女性の主体性のありかたや連帯についての対話を試みるIWD特集。
『極悪女王』での名演も記憶に新しい芋生悠が、初の監督、脚本、主演を務めた映画『解放』が4月11日よりテアトル新宿にて上映される。
「身体の解放」に着目し、自分の身体がもっと自由で豊かな乗り物になるようにとの願いが込められた本作の制作動機や女性の身体への視点、共演の小川未祐とのシスターフッドについてなどを、芋生悠に伺った。
──映画をつくられた制作動機から教えてください。
芋生悠「芝居に対して純粋に楽しめなくなり、悩んでいた時期があったんです。でも、そんなときでも台本を握っていて。やはり私は芝居が好きで、芝居に救われているのだと実感しました。だからこそ、自分が芝居をできる場所を自分でつくりたいと思ったのが今回の映画制作のきっかけです。映画が好きなので、映画に恩返しをしたいという思いもあります」
──モノクロかつ台詞のないノンバーバルな作品であることにもこだわりを感じました。
芋生悠「まさにそこはこだわった部分です。というのも、情報が少ない作品にしたいなと思ったんです。主人公が徐々に心と身体を解放していく様を描いているのですが、その肝となる部分は特に、画面の中に情報が集まりすぎると伝わりづらいだろうなと思っていました。なるべく情報を遮断するためにモノクロの映像にして、主人公の内面が反映された物語なのでセリフで語ることのない映画になりました」
──本作はタイトルでもある「解放」がそのままテーマとしてはっきり出ている作品だと思います。なぜ「解放」を主題にしようと思われたのでしょうか。
芋生悠「自分の心と身体がシンクロしない感覚がずっとありました。私は緊張すると、身体がガチガチになってしまうんです。自分の心はこう動きたいんだけど、身体がついてこないという感覚です。人によって様々な身体の状態があると思いますが、意識までも不自由になる必要はない、どんな状態でも自分の心と身体を愛してあげれたらと、ある時『身体から自由に 魂の解放』と自分でメモ書きしていたことがあり、これを表現すべきだと思いました。自由に好きと言えるようになったり、楽しいものを身体で表現できるようになったらいいですよね」
──芋生さんは以前から身体表現を学ばれていたんですよね。
芋生悠「身体をもっと動かせるようになりたくて、バレエを習いました。ただ本作では、『踊れない自分を救ってあげたい』という意識で制作しています。別に踊りの基礎がなくても、踊りたくなったら不格好なまま踊ればいい。自分で卑下する必要もないし、それを誰かにバカにされる必要もない。さして踊りと呼ばずとも自己表現として、心の檻を取り払うように表現する。
表現することは生きることとイコールだと思うのでそういう気持ちを肯定したかったんです」
──特にバレエなどの身体表現は、美しさやしなやかさなど、女性性を意識せざるを得ない場面もあると思います。身体表現に関するジェンダー観について意識されたことはありますか?
芋生悠「私は逆に、女性性とか男性性とか、どっちも考えないタイプ。そういうのを抜きにして、誰かに見られるためにやらなくてもいいと思うし、どう見られているかより、自分がやりたいことを意識したいなと思っています」
──それは過去に自分が女性として見られて傷ついた経験が反映された考え方でもあるのでしょうか。
芋生悠「無意識の範疇かもしれないですけど、それはあるかもしれないですね。基本的には女性っぽさをあまり出したくないと思うところはあります。ただ、本作で私は白いワンピースを衣装として着ています。白のワンピースは少女性などを帯びた記号のようにも捉えられがちですが、私は好きです。着たいから着る、かわいいから着るという、シンプルな部分を大事にしたいなとは思っています。そういう気持ちは守られて当然だと思うので」
──演者として普段、見られる側である芋生さんが、女性の解放をテーマに表現するということに意義を感じました。
芋生悠「幼い頃は私も開放的な性格だったんですけど、集団行動が基本となる学校生活の中で、みんな同じ髪型になり、同じような思考になり、はみ出してはいけないという教育を受けることに、ずっと生きづらさを感じていました。はみ出ないように自分の中にしっかりしまい込んでいた部分も多く、それからはどんどん縮こまっていってしまった。その積み重ねで生きてきてしまったけど、芝居でならそのことに向き合えるのではないか。表現ができるのではないかと感じ、『解放』をつくりました」
──実は他者から「こうであれ」「これはするな」と強要されることの多くは、セクシズムが由来であることが多いと感じます。
芋生悠「スカートの丈とか、なんであんなに厳しいんだろうと思っていました。丈を気にするのって、見られ方じゃないですか。『短い=ふしだら』みたいな思考ですよね。でも女性側からしたら、おしゃれの感覚に近いはずなんですよ。そもそも背丈によって自分に似合う丈があるはずですし。それなのに、みんな一緒にされるのはなんでだろうと疑問に思います」
──芝居をしているときは自由を感じますか?
芋生悠「そうですね。私は自分自身にずっと自信がなかったんです。これまでも芝居をしている時間はちょっと息ができるというか、呼吸ができているような感覚がありました。それはいつも以上に心を開いて、いろんな状況を感じ取りながら芝居をするからだと思うんですけど、日常の中だと呼吸の仕方を忘れてしまう、そういう時期が長かったです」
──作品を通して、芋生さん自身に変化はありましたか?
芋生悠「もう変化だらけです。自信がついたことが一番だと思います。いろんな人が支えてくれたおかげで、ゼロから作品を生み出せた事実は、心の支えになっています。今まではどこかに寄りかかっていないと自立できないという意識もあったかもしれませんが、ちゃんと芯となるものを自分の中に通せた気がします」
──作品の中では、もう一人女性が登場します。主人公にとってイマジナリーな存在なのか、実在するのか。鑑賞者によって自由に解釈していい人物ではあると思いますが、女性同士が踊っているシーンに、ある種シスターフッド性を感じました。意識はされたのでしょうか。
芋生悠「まず相手役が小川未祐さんだったから表現できた部分はとても大きいです。感覚的なことをお伝えしても、それを全身全霊で表現してくれるんですよ。映像で見ていても、ぞわっとくる素敵な表現をしてくれました。そして私にとっては、女性同士だからという繋がりと共に、お互い表現の核の部分で通じ合っていたと思います。鏡に映る自分を見ているかの様に自問自答し、相手を愛す、シスターフッドでもありセルフシスターフッドでもあるかもしれません。
自分で自分を描いていく、そこから次には隣人を愛すことができる、小川さんの表現力をお借りして伝えたかったことです」
──連帯によって戦えることもある。それこそ俳優業はメンタルが強いと思われがちですが、当たり前にメンタルヘルスも大切ですよね。
芋生悠「メンタルケアは本当に課題だと思います。今、私は思ったことを全部書き出すようにしているんです。マイナスな思考になったときも、なにが問題なのかを一度書き出してまとめてみる。思考としてネガティブなものが頭にへばりつく前に、思考を整理するようにしています。特に役者は不安定になることが多い職業でもあるので、生身の人間として必要なケアをしてくれる、相談できる部署・窓口が必要だと思います」
──近年の映画界ではメール・ゲイズへの政治的なカウンターアプローチである、フィメール・ゲイズの作品が増えてきていると感じます。その世界的な流れについてどう感じていますか?
芋生悠「日本でも女性の監督は活躍していますよね。しかも表現がすごく豊かじゃないですか。たとえば性の描き方とかも、案外女性だって奔放で、滅茶苦茶な部分があったりすることを当たり前に描いてくれている。神格化するのではなく、人間味のあるディープな一面が垣間見えたり、自立していてあらゆる選択肢を選ぶ側にある女性の尊厳が視覚化する。女性の監督が増えることによって、どんどん面白い作品が増えていきそうですよね。一方で、『女性だから』という部分ではなく、当たり前にその人がそのまま評価されるようになればいいなと思っています」
──今後も俳優以外の形で、なにか他の表現をしていく予定はあるのでしょうか。
芋生悠「映画をつくったことで、いろいろやりたいことが増えました。趣味の油絵も続けていきたいし、今回は台詞のない作品でしたが、書き物にもチャレンジしたいなと思います」
──鑑賞者に届いてほしい思いがあれば伺いたいです。
芋生悠「今の状況から少しでも何か変わってくれと一歩踏み出した先が映画『解放』の上映であれば、あなたの手を掴んで光のある方へ連れて行きたいです。この身体の全てでそれを表現して行きます。しかしどうか気負わず、ふらっと劇場へ会いに来てください」
photography Sachiko Saito(https://www.instagram.com/komsms/)
style KOTONA
hair&make-up TSUKI
text Daisuke Watanuki(https://www.instagram.com/watanukinow/)
映画『解放』(本編22分+パフォーマンス30分)
2025年4月11日(金)よりテアトル新宿にて上映
https://note.com/kaihoumovie
企画・プロデュース・監督・脚本・芋生悠
出演:芋生悠、小川未祐
撮影:岩澤高雄
照明:斉藤徹
配給:MomentumLabo.
2024/日本/22分/モノクロ/4KUHD/2ch
製作:「解放」製作委員会
Ⓒ2025「解放」

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