団地の暗がりに潜む邪神たち~カリベユウキ『マイ・ゴーストリー・フレンド』

団地の暗がりに潜む邪神たち~カリベユウキ『マイ・ゴーストリー・フレンド』

 第十二回ハヤカワSFコンテストは、選考委員のひとり、東浩紀が「今回の最終候補作は過去十二回のなかでもっとも粒が揃っていた」と述べるほどで、選考委員のあいだで推す作品が割れたようだ。議論の結果、大賞受賞作が二篇、優秀賞受賞作が一篇というかたちに収まった。大賞を射止めたカスガ『コミケへの聖歌』、おなじく犬怪寅日子『羊式型人間模擬機』は、この欄ですでに紹介した。本書『マイ・ゴーストリー・フレンド』は、優秀賞受賞作である。

 現代日本の日常に異形の存在たちが侵入するSFホラー。ストーリーテリング、メリハリの利いた演出、宇宙論まで包括する設定の独自性……エンターテインメントの出来映えとしては、大賞受賞作にいささかも引けを取るところはない。

 主人公の町田佐枝子は売れない役者。騙されてAVに出演されそうになって逃げだし、行き場をなくしているところ、昔、チョイ役でかかわったホラー映画の脚本家とばったり再会し、ドキュメンタリー映像のレポーターの仕事を得る。

 早稲田大学近くの団地群から少し外れた場所にある、埴江田団地。いっけん何の変哲もない集合住宅だが、ここで最近、人間がすこしずつ消えているという。佐枝子はその団地の一室に入居し、怪奇現象を探るのだ。ドキュメンタリーといっても、取材陣は佐枝子とカメラをまわす学生アルバイトの映研部員ひとりきりだけである。

 彼らはつぎつぎに不可解なことに出くわす。浴室の壁に付着した巨大なウロコ(クローネンバーグの映画ばりにモノと生物が一体化している)。部屋の窓を階上から覗きこんでいた怪人(一瞬だが蛇男のように見えた)。行方不明となった先代の管理人の噂(その管理人は姿をくらます前、老人を楽器で殴ったり、子どもを焼却炉に投げこんだという)。非常階段から佐枝子の部屋へ双眼鏡をむけていたファミレスのウェイトレス。団地内で佐枝子に話しかけてきたオカルトマニアの欧米系の大男。団地の屋上で謎の儀式をおこなっていた女子高生たち。壁に書かれた「666 封印は入口でもある」の文字。

 佐枝子たちは恐怖に苛まれながら、そして身の危険をくぐり抜けながら、団地に潜むいくつもの謎を集めていく。それらピースが結びつく過程で、ギリシャ神話からつながる因縁、戦前の軍部の計画、秘密結社の暗躍、はては超物理的な宇宙論まで浮上する。半村良ばりの伝奇ロマンだ。作中にばらまかれた、過去の怪奇作品や特撮映画にまつわる言及(くすぐりのツボを的確に押さえている)も、ホラーファンにとっては嬉しい。

(牧眞司)

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