【山口市】ケンミン困惑「なぜNYタイムズに『行くべき場所』と推されたのか分からない」。ヒントは超個性あふれる”レコードB面”スポットにあり!? 編集部体験記

室町時代からの大内文化を残す山口市。今なお、現代のアートシーンに影響力2

2024年1月ニューヨークタイムズの「2024年に行くべき52の場所」として選ばれた山口県山口市。住んでいる人からも「なぜ選ばれたんだろう?と思った」という声がちらほら上がるが、県庁所在地でありながら人口約19万人で、コンパクトだからこそ人と人の繋がりが生まれやすい。変わったことを始めても、警戒されない心地よさがある。別の記事では山口市の魅力を暮らす場所や人々の観点からお伝えした。今回は、“観光スポットにもかかわらずひと味違う、クリエイティブな発想が生まれる場所”をテーマに取材。ユニークなお寺に、独創的なゲストハウス…山口市のユニークな現場で出会った人々から感じた魅力を、この記事で存分に紹介したい。

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山口市には室町時代に大内氏による明や朝鮮との貿易で栄えた歴史があり、必然的に多様な文化が交わる場所だった。大内文化を伝える国宝 瑠璃光寺五重塔は、日本の伝統的な仏教建築に中国の建築様式を融合した例のひとつ。

一方で、現代アートや新しい文化イベントも盛んだ。「特に、2003年に開館した山口情報芸術センター(通称『YCAM』ワイカム)はメディア・テクノロジーを用いた新しい表現の探究を軸に活動している施設。国内外のアーティストや技術者・研究者などとのコラボレーションによる展示やワークショップが催されていて、世界でも現代アートシーンに影響を与えている存在です」と山口市と近隣市町村を対象にした旅行社を営む丸本華代(まるもと はなよ)さんは話す。

市内を見て回れば、至る所に山口市ならではのクリエイティブの痕跡を発見できる。今回は、それらを発展させ、クリエイティブな新しい挑戦をしている場所や人々を丸本さんに紹介してもらった。

サウナ+カフェ+ショップ、ときどき焚き火。旅人と住民をごちゃ混ぜでつなぐ紅花舎(こうかしゃ)

丸本さんに「独創的な発想やアイデアがたくさん詰まっていて、地元の方も観光客も訪れる場所がある」とまず案内してもらったのは、ゲストハウスと名乗りつつ、サウナとカフェとセレクトショップを併設するユニークでアートな場所。
山口市中心部から車で10分ほど、父の他界をきっかけに息子の杉田宗一さんがユースホステルを引き継いでリニューアルオープンした紅花舎だ。

緑に埋もれるように建つ紅花舎 カフェ 緑に埋もれるように立つ紅花舎。入口のドアを開けるとそこにはフロントではなくカフェがあり、コーヒーを淹れていた杉田さんが出迎えてくれた(写真撮影/内田伸一郎)

緑に埋もれるように立つ紅花舎。入口のドアを開けるとそこにはフロントではなくカフェがあり、コーヒーを淹れていた杉田さんが出迎えてくれた(写真撮影/内田伸一郎)

紅花舎は父が経営していた時代はユースホステル連盟に属し、料金を抑えることで若者にも安心な宿泊を提供してきた。各地から多くの旅行者をもてなし、ファンも多かったが、「建物も老朽化が目立っていたしコロナ禍のタイミングにも重なった。ゲストハウスとして再生することを決意しました」と杉田さん。

杉田さんの父親が経営していた、山口ユースホステル時代の2枚。現在の紅花舎は、そんなホステル時代の古き良き面影をうまく活用しながら、現代にも響くクリエイティブな仕掛けづくりを多く取り入れている(写真提供/杉田宗一)

杉田さんの父親が経営していた、山口ユースホステル時代の2枚。現在の紅花舎は、そんなホステル時代の古き良き面影をうまく活用しながら、現代にも響くクリエイティブな仕掛けづくりを多く取り入れている(写真提供/杉田宗一)

オープンは2023年。そんな紅花舎にはわざわざ訪れて泊まりたくなる仕掛けが盛りだくさんだ。

サウナ好きな杉田さんがこだわった薪ストーブサウナは、柔らかな肌あたりが特徴。ロウリュのアロマ水には自家製のハーブを使用しており、サウナ室に入った瞬間にいい香りが鼻を抜ける(写真撮影/内田伸一郎)

サウナ好きな杉田さんがこだわった薪ストーブサウナは、柔らかな肌あたりが特徴。ロウリュのアロマ水には自家製のハーブを使用しており、サウナ室に入った瞬間にいい香りが鼻を抜ける(写真撮影/内田伸一郎)

(写真撮影/内田伸一郎)

(写真撮影/内田伸一郎)

サウナには水風呂も用意されているが、裏手の小川にドボンして緑の中でととのうのがおすすめ(写真撮影/内田伸一郎)

サウナには水風呂も用意されているが、裏手の小川にドボンして緑の中でととのうのがおすすめ(写真撮影/内田伸一郎)

灯籠の基盤を利用した宿泊者専用の焚き火コーナーがある。薪や焚き付けなどのセットが用意されているので、その日の気分で夜を過ごすことができる(写真提供/紅花舎)

灯籠の基盤を利用した宿泊者専用の焚き火コーナーがある。薪や焚き付けなどのセットが用意されているので、その日の気分で夜を過ごすことができる(写真提供/紅花舎)

ラウンジスペースはゲストがくつろげる場所。絵のような風景が広がる大きな窓はユースホステル時代のまま(写真撮影/内田伸一郎)

ラウンジスペースはゲストがくつろげる場所。絵のような風景が広がる大きな窓はユースホステル時代のまま(写真撮影/内田伸一郎)

ワーケーションにうってつけなフリースペースも用意されている(写真撮影/内田伸一郎)

ワーケーションにうってつけなフリースペースも用意されている(写真撮影/内田伸一郎)

リニューアルで杉田さんが意識したのは旅行者のおもてなしだけではなく、地元コミュニケーションのクロスポイントとして場を磨くことだった。
「もともとユースホステルでしたから宿泊した若者同士の交流は活発でしたけど、住民には無関係な場所だったんですよね」(杉田さん)

さまざまなタイミングも重なり、Uターンを決めた杉田さんの挑戦を、友人たちが応援してくれた。
「子どものころに両親を手伝ったことはありましたけど、経営はノータッチで素人同然でした」と杉田さん。
そのぶん、自由に発想できた。
「新しいことに乗ってくれる仲間が多くて、リニューアルプランから手伝ってもらいました」(杉田さん)

そして山口市には新しい表現を探求するアートセンター、山口情報芸術センターYCAM(ワイカム)がある。
「スタッフに知り合いもいます。移住者が多いので、地元のモノづくりをする人と出会ったり、面白い人同士で繋がったり、アイデアを試してみたり、そんなコミュニティが広がる基地になることを目指しています」、と杉田さんは語る。

手仕事の作品 東京ではスタイリッシュな日用品の物販を生業としていた杉田さん。クリエイター応援のためショップを入口すぐ脇につくった。手仕事の作品を中心にセレクトしている。素敵な発見を求めてふらりと訪れる地元民が多数(写真撮影/内田伸一郎)

東京ではスタイリッシュな日用品の物販を生業としていた杉田さん。クリエイター応援のためショップを入口すぐ脇につくった。手仕事の作品を中心にセレクトしている。素敵な発見を求めてふらりと訪れる地元民が多数(写真撮影/内田伸一郎)

現在、旅行者・住民問わずつながるコミュニティが出来上がっているが、ただ場をつくっただけではつながりは広がっていかない。杉田さんが心掛けたのは、紅花舎を軸にした“仕掛け”をたくさんつくることだった。

例えば、週に4日間営業しているカフェ。コーヒー、クラフトビール、軽食、全部が美味しい。美味しいものをいただいていると「美味しいですね」と隣の人と共有したくなる。時間が許す限りカウンター席やラウンジで会話が続く。
ほかにも、「読書会&ヨガ」などのイベントは、日帰りでも宿泊者でも参加できるように。趣味を通しての出会いは会話が尽きない。
そして、大人気のサウナでは、ととのいながらお互いのサウナー歴を語り合い、次のサウナ同行を約束する仲になっていることもある。

フロント兼カフェで提供している自家製のパンやマフィン類は妻の智子さん担当。「子育てしながらでもできるし楽しいです」(智子さん)

フロント兼カフェで提供している自家製のパンやマフィン類は妻の智子さん担当。「子育てしながらでもできるし楽しいです」(智子さん)5歳と3歳の子どもを自然の中で育てたいと考えていたこともUターンのきっかけだった(写真撮影/内田伸一郎)

イベントの様子 東京時代からの仕事仲間であるカワウソチーム(上写真左・右)のレシピ本「しみじみパスタ帖」(誠文堂新光社)出版祝いをネタにイベントを開催した。山口市内外から集まった参加者との交流を一番楽しんだのは杉田さん(上写真中央)自身だった(写真提供/紅花舎)

東京時代からの仕事仲間であるカワウソチーム(下写真左・右)のレシピ本「しみじみパスタ帖」(誠文堂新光社)出版祝いをネタにイベントを開催した。山口市内外から集まった参加者との交流を一番楽しんだのは杉田さん(下写真中央)自身だった(写真提供/紅花舎)

テントサウナで各地を回る「さうすぽやまぐち」とのサウナミーティングを紅花舎敷地で開催。サウナし放題で、サウナー垂涎のイベントとなった(写真提供/紅花舎)

テントサウナで各地を回る「さうすぽやまぐち」とのサウナミーティングを紅花舎敷地で開催。サウナし放題で、サウナー垂涎のイベントとなった(写真提供/紅花舎)

新規オープンしてから1年半余り。
「発見だったのは、地元からも定期的に宿泊してくれる人がいることでした。自宅以外でリラックスしたり考えたりする場所が地方では少ないのかもしれません。ラウンジやサウナでの思いがけない出会いも楽しんでもらえているようです」

毎日コーヒーを飲みに来てくれる常連さんもずいぶんいるのだそう。
「ちょっと辺鄙なところだけどそれがいいのかも。適度な密度だから知り合いやすいし、逆にゆっくりしたい人は自分だけの空間を持つことができる。どちらも選べるのがうちの良さかな」(杉田さん)

「自分も20代のころ、誰かに出会える、何かを見つけられるかも、ってカフェに通っていた時期がありました。観光客にも地元の人にも、そんな場所や企画を提供できる役割ができたら、と思っています」(杉田さん)

来るもの拒まず。世界に門を開き、繋がりをチャンスに広げる洞春寺(とうしゅんじ)

次に訪れたのは、ニューヨークタイムズ「2024年に行くべき52の場所」に山口市が選ばれた理由のひとつとして挙げられている洞春寺。

洞春寺は毛利元就の菩提寺として名高い古刹。1400年頃大内盛見による建立とされる山門と1430年大内持盛により建立された観音堂は国の重要文化財に指定されており、国宝・瑠璃光寺五重塔に次ぐ山口市の重要な史跡だ。

重要文化財の観音堂。大内持盛の菩提寺観音寺の仏殿として1430年に建立とされている。1915年当地に移された(写真撮影/内田伸一郎)

重要文化財の観音堂。大内持盛の菩提寺観音寺の仏殿として1430年に建立とされている。1915年当地に移された(写真撮影/内田伸一郎)

洞春寺に一歩踏み入れてみると、敷地内にある児童養護施設の子どもたちが元気にあいさつしてくれた。
境内には畑、本堂に干された布団がはためいていて、由緒あるお寺でありながら実家に帰ってきたような温かみを感じる。

本堂前の小さな畑は学僧の「野菜を育てたい」という希望を叶えたのだそう(写真撮影/内田伸一郎)

本堂前の小さな畑は学僧の「野菜を育てたい」という希望を叶えたのだそう(写真撮影/内田伸一郎)

洞春寺・深野宗泉(ふかのそうせん)住職。和歌山県出身。京都南禅寺での修行ののち2012年に洞春寺の副住職、2014年に住職に就任した。修行僧時代はシリア、トルコ、ネパールなどの寺院でバックパッカー的修行を重ねていた(写真撮影/内田伸一郎)

洞春寺・深野宗泉(ふかのそうせん)住職。和歌山県出身。京都南禅寺での修行ののち2012年に洞春寺の副住職、2014年に住職に就任した。修行僧時代はシリア、トルコ、ネパールなどの寺院でバックパッカー的修行を重ねていた(写真撮影/内田伸一郎)

一方で、威厳あるお寺を訪れたはずが、門をくぐると予想外の情報を次々と目の当たりにし、頭の整理が追いつかない状況に陥った。

まず、入ってすぐのところでヤギが飼われていて頭に「?」が浮かぶ。

子どもに読ませたくない雑誌などを入れると、ヤギが食べてなかったことにしてくれる(!?)遊び心ある悪書ポストのアート。(実際に食べさせているわけではありません)「ポストにいれるギリギリまで読んでいられるグレーゾーン」なのだそう(写真撮影/内田伸一郎)

子どもに読ませたくない雑誌などを入れると、ヤギが食べてなかったことにしてくれる(!?)遊び心ある悪書ポストのアート。(実際に食べさせているわけではありません)「ポストにいれるギリギリまで読んでいられるグレーゾーン」なのだそう(写真撮影/内田伸一郎)

さらには、敷地の奥に馬も鶏も飼われている。

深野住職に尋ねると、馬は毛利家の現当主の娘さんが馬術競技で乗っていた愛馬で、引退後の世話を依頼されたのだそう。
「児童養護施設の情操教育に役立つと思って引き受けました」「寺で馬を飼うなんてお叱りがあるかもしれませんでしたけど、毛利家の依頼を断るなんてできません。世が世なら切腹ものですから」と住職は笑顔だ。

しまうま模様を着せられた馬の散歩係を務めるのは、国際ボランティアで滞在しているドイツ人大学生。彼女のTシャツもしま模様。写真の左にあるのは鶏小屋(写真撮影/内田伸一郎)

しまうま模様を着せられた馬の散歩係を務めるのは、国際ボランティアで滞在しているドイツ人大学生。彼女のTシャツもしま模様。写真の左にあるのは鶏小屋(写真撮影/内田伸一郎)

極め付きは、本堂の廊下ある、妖精アニメキャラが佇むブース。

この企画で誕生した架空のお寺である「萌春寺」の妖精マルちゃん。ついたてで隠されていることもあるが、求めに応じてミラーボールの照明付きで開帳される。マルちゃんは、洞春寺の看板犬マル住職が変身した姿(写真撮影/内田伸一郎)

この企画で誕生した架空のお寺である「萌春寺」の妖精マルちゃん。ついたてで隠されていることもあるが、求めに応じてミラーボールの照明付きで開帳される。マルちゃんは、洞春寺の看板犬マル住職が変身した姿(写真撮影/内田伸一郎)

お寺に萌えキャラとはどういうことだろうか。
児童養護施設の職員の発案がきっかけに誕生した妖精マルちゃん。活動の目的は「萌えによる町おこし+萌えによる福祉貢献」。児童養護施設理事長でもある深野住職は「職員自らの提案が何より嬉しかった」と語り、多くの賛同者から積極的な協力を得て企画が実現した。

古刹とは馴染みにくい美少女キャラに苦言もありそうだが「あくまでも運営しているのは任意団体の萌春寺(この企画で誕生した架空のお寺)ですからね、スペースを少し貸しているだけです」と説明しているそう。
「キャラクターグッズの売り上げもその任意団体が管理していて、児童養護施設に寄付されています。児童養護施設の運営は半端な覚悟ではできません。携わる人全員で、いろいろな人を巻き込んで、本気でやっていかないと」と深野住職が言葉を添えてくれた。

また、コロナ禍で「令和の大仏造立プロジェクト」により制作された「令和の大仏」の安置も話題となった。
2020年3月から47都道府県を巡り、最終的な安置場所に悩んだアーティストが深野住職に相談したところ「話を聞いて3分で即決しましたよ。本堂脇だとさすがに反対されるかもしれないので、境内の奥に安置しました。自然の風化による味わいも出てきますしね。いつでも気楽にお参りできるので参拝者が増えました」(深野住職)

高さ約6mの「令和の大仏」。ワークショップ参加者が色塗りした約10cmの仏像1300体ほどが棚に鎮座している。最終目標は5000体。この日も散歩途中のご近所さんが「お参りさせてもらいます」と手を合わせていた(写真撮影/内田伸一郎)

高さ約6mの「令和の大仏」。ワークショップ参加者が色塗りした約10cmの仏像1300体ほどが棚に鎮座している。最終目標は5000体。この日も散歩途中のご近所さんが「お参りさせてもらいます」と手を合わせていた(写真撮影/内田伸一郎)

そして洞春寺の掲示板には直近の予定が告知されていて、ライブ、落語、芸術祭、ワークショップといったイベントがずらり並んでいる。まるで市民センターだ。

「着任したころ、児童養護施設の子どもたちが洞春寺の認知度を調べたことがありました。知っていると答えた同級生が30人のうちわずか3人で、その3人は施設の子どもたちだけだったと言う結果を聞いて、まずい、と心底思ったのです。子どもたちは正直ですからなおさらです」(深野住職)
何もしないままだと洞春寺は廃れてしまう、という危機感が常に深野住職の心にあるのだそう。

イベントのポスター 「来るもの拒まず」が深野住職の信条。結果として仏事よりもイベントが目立っている(画像提供/洞春寺)

「来るもの拒まず」が深野住職の信条。結果として仏事よりもイベントが目立っている(画像提供/洞春寺)

歴史ある寺としてもっとハードル高く、との意見もあるにはあるが「寺はこんなに広い。コミュニティのためにあるべき」と住職は意に介さない。
古来、寺院は地域のコミュニティの中心で、山口市では明治維新の舞台ともなった。そんな伝統を紡ぐかのように、洞春寺はコロナ禍でも人数制限しつつ映画鑑賞会を行うなど、今の時代に合わせた役割を担っている。

懐深い深野住職を訪ねたことをきっかけに、人と人がつながってコトが起こり、さらに多くの人が訪れ、洞春寺とその周辺に賑わいをもたらしている。

冠婚葬祭の要素をすべて詰め込んだ「水の上芸術祭」の告知ポスター。右下が洞春寺の看板犬マル住職(画像提供/洞春寺)

冠婚葬祭の要素をすべて詰め込んだ「水の上芸術祭」の告知ポスター。右下が洞春寺の看板犬マル住職(画像提供/洞春寺)

にぎわい創出に象徴的だったのは、2024年8月31日から3日間開催された「水の上芸術祭」。
前年にひとりの大学生が寺に駆け込むように1カ月ほど滞在して、「芸術祭をやりたい!」と言い出し「やれば」と応え、洞春寺にゆかりある芸術家が集結した。

音楽、ダンス、アート、マルシェに令和の大仏開眼式、結婚式、お食い初め、そして「受け入れるだけではなくて関わるほうが面白いでしょ」と深野住職も生前葬の主役を提案。
「棺桶から生き返って全力で読経弾き語りライブをして、午後に檀家の葬儀もあったのでリアル葬儀でリアル読経もしたというオチまであった」と笑顔の深野住職。

京都の南禅寺で修行し、命じられての赴任だったが「洞春寺で良かった」と深野住職は語る。
「京都に近すぎると影響を受けすぎるし、かといって田舎すぎると人が集まりにくい。寺としても地位がある程度はないと、やりたいことが認められない」
そして山口市に来て驚いたこと・印象に残ったことを聞いてみると、「飲み会でも政治の話が多かったこと。歴史あるこの地域の人たちは政治をつくる側にいて、能動的にものごとを考えるのが自然なのでしょう」(深野住職)

チャレンジを受け入れてくれる土地柄がピッタリとハマり、今や洞春寺は国内外からの交流を生み増殖させていくスポットとなっている。
深野住職は檀家の仏事に加えて日々のイベント開催やさまざまな相談に対応、心配になるほどの激務ぶりだが「ワークではなくライフですから」と、あらためて懐の深さも見せていただいた。

地元と訪問者をおおらかに融合するのが山口市の魅力

「20代から70代まで幅広い世代の方々が偏りなく来てくれます。地元の人と観光客がカフェやサウナで自然と打ち解け、絆を深めていく様子を見ると本当に嬉しくなります」と紅花舎の杉田さん。

「海外旅行に行く時間はほとんどなくなりましたが、いまでは世界中から魅力的な人たちがこの場所にやってきて予想以上の出会いや出来事が生まれています。まるで、ここに居ながら旅しているような気分です」と洞春寺の深野住職。

「昔から山口市には外国との貿易で栄えた歴史があるので、そういった他の文化を取り入れつつ発展させるという意識が高い場所なのかもしれません。その意識が脈々と受け継がれ、現在も日常生活の延長線上に、クリエイティブ的な活動や文化的なユーモア溢れるコミュニティがあるんだと思います」と丸本さん。

今回訪れたのは住民に憩いを提供し、訪れる人の心を惹きつけ、さらに大きなコミュニティを育んでいる場所だった。そこで見つけたのは地元を愛し自らも楽しむことを追求する紅花舎と洞春寺の皆さんの姿。
文化も人もおおらかに受け入れて融合していく地である山口市は、「2024年に行くべき場所」以上に、一度訪れただけでは通り過ぎられない魅力に満ちた場所だった。

●取材協力
紅花舎
洞春寺
山口の小さな旅行屋maru旅遊社(コーディネーター)

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