”三軒茶屋好き”集うコワーキングスペース。利用者同士で事業スタート、マーケット開催など「地元をもっと面白く」 東京・世田谷区「三茶WORK」

コワーキングスペースの利用者をつなげて三軒茶屋をおもしろくしていく。「三茶ワーク」

近年、コワーキングスペースが全国的に増えているが、三軒茶屋(東京都世田谷区)のコワーキングスペース「三茶WORK」はひと味違う。ただパソコン作業等をするだけの場所ではなく、三軒茶屋(通称・三茶)を大好きな住民たちが働きながらつながりを生み、つながった人たちと一緒に事業を始めたり、地域で餅つき大会を開催したりと、三茶の住民自身やその家族の暮らし、そして街を豊かにすることにつなげている場所だ。楽しく働くことで、街や生活を良くしていく。どういうことか取材した。

「自分が使いたくなる仕事場を住んでいる街に」つくったらみんなにも働きやすい空間になった

駅の真上のキャロットタワー(中央)は三軒茶屋駅のシンボル。スーパー、飲食店、雑貨店、本屋、シアターがテナントとして入っている(写真撮影/片山 貴博)

駅の真上のキャロットタワー(中央)は三軒茶屋駅のシンボル。スーパー、飲食店、雑貨店、本屋、シアターがテナントとして入っている(写真撮影/片山 貴博)

渋谷駅から田園都市線の各駅停車で2駅目、約5分。三軒茶屋は東京都世田谷区に位置する利便性の高い住宅街。マンション、アパート、一戸建てが建ち並ぶなかに商業施設や学校、公園がひととおり揃い、駅周辺や三宿エリアには個性的なショップが点在。クリエイターや若い世代からも支持される魅力的なエリアだ。

ただ、三茶にはコワーキングスペースがなかった。

そんな三茶で、コンサルタントや会社経営などを務める住民たちが「住んでいる街に働く場所が欲しい」と盛り上がった。都心部のコワーキングに通ったりしていたが、電車は混むし、移動時間ももったいない、と感じていたのだ。

想いを語り合い、自分たちにとってベストなワーキングスペースを追求。「人と情報が交わるきっかけの場」にしたいという願いに共感してくれる知人を巻き込んでいき、クラウドファンディングも活用して、2019年8月、駅近のビルの3階と4階に「三茶WORK」が誕生した。

会員が24時間使える4階のスペース。快適に働けるようインテリアや家具にもこだわった。オフィスチェアは丸1日でも座っていられるものをチョイス(写真撮影/片山 貴博)

会員が24時間使える4階のスペース。快適に働けるようインテリアや家具にもこだわった。オフィスチェアは丸1日でも座っていられるものをチョイス(写真撮影/片山 貴博)

「三茶WORK」を運営する三茶ワークカンパニー株式会社には、創業に携わった吉田 亮介さんと千田 弘和さん2人の共同代表を含め会社専任の正社員がほとんどいない。建築家、エンジニア、ヨガインストラクターなど別の職業を持つメンバーが、必要に応じて仕事をする業務委託契約がほとんどなのだ。

人と人とを繋げてくれる「コミュニティマネージャー」が存在するのも三茶WORKの特徴。食堂のある3階フロアに日替わりで常駐していて、会員への利用案内から始まり、さりげなく会員の要望をキャッチしてくれる。

コミュニティマネージャーの中山こころさん(左)と熊本亜記さん(右)。運営メンバー専用のスペースはなく、会員と同じ場所で業務を行う。「社内の業務分担はあまりはっきりしてなくて、やりたい、やれる、と思ったメンバーが自主的に引き受けて進めています」(中山さん)、「気持ちいい仲間たちです」(熊本さん)(写真撮影/片山 貴博)

コミュニティマネージャーの中山こころさん(左)と熊本亜記さん(右)。運営メンバー専用のスペースはなく、会員と同じ場所で業務を行う。「社内の業務分担はあまりはっきりしてなくて、やりたい、やれる、と思ったメンバーが自主的に引き受けて進めています」(中山さん)、「気持ちいい仲間たちです」(熊本さん)(写真撮影/片山 貴博)

働くことでつながりを増やしたい、地元のコミュニティの場にしていきたい、という想いが表れているのがコワーキングスペースにあるさんちゃワーク食堂。会員だけではなく、誰でもランチやカフェを利用できる。500円以上の飲食で90分間のドロップイン利用も可能。三軒茶屋駅周辺にはいくつもカフェがあるが、いつも混雑していて席も狭いところが多い。比較しても、とてもお得なワークスペースだ。

さんちゃワーク食堂の店主は日替わりだが、いずれも「仕事や家事や勉強で頑張る人に向けた美味しい食事」を提供してくれる。飲食業を志す人がスタートできる場所でもある(写真撮影/池上香夜子)

さんちゃワーク食堂の店主は日替わりだが、いずれも「仕事や家事や勉強で頑張る人に向けた美味しい食事」を提供してくれる。飲食業を志す人がスタートできる場所でもある(写真撮影/池上香夜子)

会員の成長に応えるさまざまなワークスペース

2025年1月現在、三茶WORKは5カ所のワーキングスペースを提供。

利用する会員の仕事が順調になるにつれWEBミーティングが増えたり、集中できる個室スペースが欲しくなったり、チーム打ち合わせ用のデスクが必要になったり。事業が成長しても三茶で仕事をし続けたいというニーズに応えられるよう進化してきた。

ゆったりと仕事を進められるソファー席もある(画像提供/三茶WORK)

ゆったりと仕事を進められるソファー席もある(画像提供/三茶WORK)

集中できる個室ブース。電話やWEBミーティングにもちょうどいい。月額会員は無料で予約できる(画像提供/三茶WORK)

集中できる個室ブース。電話やWEBミーティングにもちょうどいい。月額会員は無料で予約できる(画像提供/三茶WORK)

チームで打ち合わせができるスペース。ハーブを植えたテラスが用意されている(画像提供/三茶WORK)

チームで打ち合わせができるスペース。ハーブを植えたテラスが用意されている(画像提供/三茶WORK)

コワーキングスペースとは別に、パンと焼き菓子をつくる人のための菓子製造業許可付きシェアキッチン「三茶 BAKEs」も運営している。マルシェやネットでの販売のための利用者が多いが、併設の「やおやのファミリーレストラン」や、三茶WORKが主催するイベント「SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!」での販売も可能(画像提供/三茶WORK)

コワーキングスペースとは別に、パンと焼き菓子をつくる人のための菓子製造業許可付きシェアキッチン「三茶 BAKEs」も運営している。マルシェやネットでの販売のための利用者が多いが、併設の「やおやのファミリーレストラン」や、三茶WORKが主催するイベント「SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!」での販売も可能(画像提供/三茶WORK)

仕事も趣味も共有して膨らませる。つながりを生む「場」と「人」

三茶WORKの会員数は約200名(2024年12月時点)。職種で最も多いのはエンジニアで約7割、他にはフリーライター、イラストレーター、コンサルタント、医師、税理士など多種多様な会員が存在。今はコロナ禍で増えたリモート勤務の会社員は少なくなり、若干名が資格試験の勉強のためなどに夜・土日会員として利用しているのだそう。

会員は会社登記もできる。2024年12月現在では40社ほどが登記しているが、「三茶WORKは登記目的の場所貸しはやっておらず、コワーキングとしての利用をメインとしています。あくまで個人と個人のつながりを重視している場所です」(中山さん)

三茶WORKの運営者にもエンジニアがおり、HPやWEBシステムも自前制作だ。「会員同士が繋がりやすくなるように“NEIGHBOR WORK(ネイバーワーク)”というコミュニティツールもつくっています」(中山さん)

「NEIGHBOR WORK」には職業や経験などのプロフィールを共有できる場があり、また、グルメ部・ファーム部・キャンプ部など、趣味の部活動が紹介されている。

一方で、新しい出会いを期待していても、自分から行動を起こすことは難しいもの。そこで、新規会員でも知り合いをつくれるように、三茶WORKは毎月のランチ会なども催している。

ワークスペースに食堂が設けられていることも、お互いをよく知ることができる大きな要素だ。
「そもそも仕事場なので仕事中は話しかけにくいです。でも、ランチで来てくれている間はたわいもないこともお話しできますから」(中山さん)
コミュニティマネージャーとの何気ない会話が、新たな出会いに繋がることも少なくない。

「ほかに、エンジニア70名ほどが参加するグループチャット“三茶エンジニアーズ”が活発に使われています」(中山さん)。例えば誰かがWEBサイトの制作において、WEBマーケター・デザイナー・コピーライター・ITエンジニアなどの専門家を探したり相談したり、三茶WORK 内でメンバーがそろうことも日常なのだそう。

組織ではないけれど、信頼できる仲間が近くにいて協力し合える安心感は大きいに違いない。

好きな街を、働きながらもっと好きになる

「会員のほとんどが三茶や三茶周辺に住んでいることが都心のコワーキングと大きく違う点です」と熊本さん。

「みんな三茶が大好きなんですよ。渋谷や表参道のような観光客が集まる場所じゃない。でも三茶は買い物も便利だし子育てもしやすいし、“スン”とした高級住宅街でもないから気取らずに生活できるのがいい。この仕事をしていると知り合いが増えて、三茶を歩く時はいつも口角上げて笑顔です」(熊本さん)

好きな三茶をもっと楽しい場所にしたい。

そんな思いがワーキングスペースを飛び出して、三茶WORKが年に数回主催しているのが「世田谷と地域のいいもの集まり交わるマーケット『SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!』」。
いい店が三茶の1カ所に集まると楽しいよね、と厳選された40店が並ぶひ広場には約4,000人が訪れる。
こだわりのフードやドリンク、農産物、雑貨、お正月にはお餅つきも!。まるでお祭りのようなマーケットでは、子どもからお年寄りまでみんなが笑顔になる。

2024年1月の「SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!」の様子 2024年1月の「SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!」の様子。餅つき体験は都会の子どもたちに大人気だった。マーケットのにぎわいが評判となり今や全国各地から400ほどの出店希望が殺到する(画像提供/三茶WORK)

2024年1月の「SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!」の様子。餅つき体験は都会の子どもたちに大人気だった。マーケットのにぎわいが評判となり今や全国各地から400ほどの出店希望が殺到する(画像提供/三茶WORK)

さらに、WORKでのつながりは世田谷区全域にも広がっている。

世田谷区が区内中小事業者の挑戦を支援する「地域連携型ハンズオン支援事業SETA COLOR」は、補助金(最大150万円)+専門家+ネットワークでサポートする事業。起業経験者やコンサルタントなど経営のプロフェッショナルと太くつながる三茶WORKが運営を受託し、挑戦者のビジョン実現に向けて伴走やネットワーク創出の機会を提供する。
三茶WORK会員にとっても専門を活かせる場であり、ネットワークの広がりとともに地域活性化にも貢献ができる。

「SETA COLOR」では、例えば「出張自動車サービスのプラットホーム開発・運営」「キャンプ場ポータルサイトの立ち上げ・マーケティング」「老舗呉服店の加工サービスと店舗づくり」など、多様な事業が採択されている※2024年の募集は終了。翌年以降は未発表 (画像提供/三茶WORK)

「SETA COLOR」では、例えば「出張自動車サービスのプラットホーム開発・運営」「キャンプ場ポータルサイトの立ち上げ・マーケティング」「老舗呉服店の加工サービスと店舗づくり」など、多様な事業が採択されている※2024年の募集は終了。翌年以降は未発表 (画像提供/三茶WORK)

また、「SETA COLOR」の取り組みの一環として三茶WORKのコワーキングスペースで行われているのが、5カ月間のプログラム「ネイバースクールSETAGAYA」。世田谷区の起業家・経営者のチャレンジを①先輩企業家によるバックアップ ②同じ街で挑戦する仲間たちとの出会い ③世田谷区・地域企業との連携、の3つの軸でバックアップする。受講は有料だが、仲間と励まし合いながら実力者揃いの経営者や投資家と向き会えることは貴重な経験だ。

三茶で楽しく働く。それは家族と街を豊かにする第一歩

三軒茶屋は、渋谷からほど近い便利な街でありながら、地域コミュニティが息づく温かな街。ここに住み、働き、つながりを育む人々がコワーキングスペースを通じて生み出しているのは、仕事のその先にある新しい豊かさだ。

働くことで地域の仲間と出会い、街を自分ごととして良くしていきたいと想う。家族にもその活気が伝わる。街に知り合いが増えていくと誰にでも親切にしておこうという、いい緊張感も生まれる。自然と街全体が元気になる。

そんな連鎖が、三茶WORKという場所から生まれている。都心の喧騒から少し距離を置きつつも、三茶愛のタネを撒き続けるこのコミュニティこそが、三軒茶屋の未来を支える存在のひとつといえるだろう。

栄通り商店街。国道246をちょっと入るとぶらぶらしながら買い物ができる、気取らない商店街があるのも住民お気に入りのポイント(写真撮影/片山 貴博)

栄通り商店街。国道246をちょっと入るとぶらぶらしながら買い物ができる、気取らない商店街があるのも住民お気に入りのポイント(写真撮影/片山 貴博)

●取材協力
三茶WORK
・SETA COLOR
・ネイバースクールSETAGAYA

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. ”三軒茶屋好き”集うコワーキングスペース。利用者同士で事業スタート、マーケット開催など「地元をもっと面白く」 東京・世田谷区「三茶WORK」

SUUMOジャーナル

~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。

ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/

TwitterID: suumo_journal

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。