日本初「3Dプリンター製サウナ」を高知の絶景スポットで体験してみた! 安全性×機能性を両立、”ととのい”具合はいかに? 一般住宅だけじゃない3Dプリンターの実力 「サウナメランジュ」

サウナーも熱視線!? 高知県に日本初の3Dプリンターで建築したサウナ「ナミテラス芸西」が誕生!

高知県高知市内から車で東へおよそ30分。雄大な太平洋と白砂青松の海岸が広がる高知県芸西村(げいせいむら)の琴ヶ浜のほど近くに2024年2月、コンパクトなリゾート宿泊施設「NAMI TERRACE GEISEI(ナミテラス芸西)」がオープンした。この施設の目玉は、「日本初」とも言われる3Dプリンターで建築したサウナを併設していること。「建築界のDX化」の担い手のひとつとして、今注目を浴びる3Dプリンターの可能性を現場で見て、体験してきた。

日本で初めての建設用3Dプリンターによる常設型サウナ

働き手の高齢化や担い手不足による業務の効率化は、建設業界でも喫緊の課題だ。近年、それらを解決する一つの方法として熱い視線を浴びているのが建設用3Dプリンター。同プリンターで建てられた個人用住宅が販売されるなど、徐々にではあるが確実にその地位を築きつつある。

そこに登場したのが3Dプリンターによる常設型のサウナ。「取引先からの紹介で建設用3Dプリンターの開発を手掛けるPolyuse (ポリウス/東京)の代表・大岡航さんと出会い、3Dプリンターの可能性を感じました」と語るのはナミテラスをPolyuseと共同で施工し、現在「ナミテラス芸西」の運営管理を行っている和建設の中岡竜太郎さん。「ちょうど当社が所有する土地もあり話が盛り上がり、実験的な意味も込めて取り組むことにしました」ときっかけを振り返る。

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ナミテラス芸西の施工・運営管理を行う和建設の中岡竜太郎さん。バックにあるのがサウナ棟の「サウナメランジュ」の外壁(写真撮影/藤川満)

ナミテラス芸西の施工・運営管理を行う和建設の中岡竜太郎さん。バックにあるのがサウナ棟の「サウナメランジュ」の外壁(写真撮影/藤川満)

ナミテラス芸西があるのは太平洋に面した小高い丘。そこに船内が客室になっているヨットを中心に、一棟貸しの宿泊施設計4棟と「サウナメランジュ」と名付けられたサウナ棟1棟が並ぶ比較的小さなリゾート施設だ。サウナの監修は全国のサウナーにも知られる「SAUNAグリンピア」が請け負い、オープン以来、高知県でも数少ない本格サウナリゾートとして、県外のサウナーのお客を中心に支持を集めつつある。

ナミテラス芸西の全体パース図。基本的に無人で運営されチェックインは備え付けのタブレットで行う(画像提供/ナミテラス芸西)

ナミテラス芸西の全体パース図。基本的に無人で運営されチェックインは備え付けのタブレットで行う(画像提供/ナミテラス芸西)

建物としての安全性とサウナの機能性を両立

このプロジェクトがスタートしたは2022年1月。Polyuseも小規模な3Dプリンターによる建築は行っていたが、不特定多数の人が利用する施設の建築は初めて。そこで入念な施工方法の検証を行い、サウナの構造を約60パーツに分けて印刷することになった。印刷と建設は同年8~9月の約1カ月に渡り、高知県内の倉庫内で行われ、その後現場で組み立てられた。

「本来なら現場で型枠にコンクリートを流し込み、組み立てていきますが、天候に左右されない3Dプリンターだけに、この規模の建物としては、現場での施工時間はかなり短い」と中岡さん。その一方で「現在ほど3Dプリンターの需要がなかったために材料費は高くついた」と苦笑する。

高知県内の倉庫で行われたサウナ棟の印刷の様子。配合等は企業秘密とされる特殊なモルタルを重ねていく(画像提供/ナミテラス芸西)

高知県内の倉庫で行われたサウナ棟の印刷の様子。配合等は企業秘密とされる特殊なモルタルを重ねていく(画像提供/ナミテラス芸西)

現場での建設風景。約60のパーツを鉄骨の周りに積み上げていき、それぞれを接着させる。少人数での作業を可能とした(画像提供/ナミテラス芸西)

現場での建設風景。約60のパーツを鉄骨の周りに積み上げていき、それぞれを接着させる。少人数での作業を可能とした(画像提供/ナミテラス芸西)

完成したサウナ棟は「サウナメランジュ」と名付けられた。3Dプリンターによるサウナルームと通常の工法で建てられた更衣室と水風呂が併設されている。「メランジュ」とは、芸西村で見られる起源や時代の異なる岩石の混在堆積物の天然記念物に由来する。

実際にサウナルームの壁は、3Dプリンターの特殊なモルタルの層がミルフィーユのように重なり合い、独特の紋様を描いている。「表面をならして平坦に仕上げることもできましたが、“メランジュ”を表現するためにあえて荒い層のままにしました」と中岡さんは狙いを語る。

左側が更衣室。屋上のデッキが外気浴エリアになっている(写真撮影/藤川満)

左側が更衣室。屋上のデッキが外気浴エリアになっている(写真撮影/藤川満)

ガラス張りの内部からは鉄骨と積層模様がよく分かる。当時のプリンターの精度により積層は不揃いだが、あえてそのまますることで自然の地層のように見える(写真撮影/藤川満)

ガラス張りの内部からは鉄骨と積層模様がよく分かる。当時のプリンターの精度により積層は不揃いだが、あえてそのまますることで自然の地層のように見える(写真撮影/藤川満)

サウナルームは高さ3m、直径約6.5mの円錐台形。容易に曲線を描けるのが3Dプリンターの強みでもある。3Dプリンターのパーツで組み立てただけでも十分な強度はあるものの、現行の建築基準法には適さない。そこで内部に鉄骨を組み立てることで、それをクリアした。

さらにサウナとしての保温性を高めるために、内部の壁をガラス張りにした。これによりメランジュを彷彿させる壁の模様を活かしつつ、サウナの機能性も併せ持つことができた。

洞窟の中にいるような感覚で波音を聞きながらリフレッシュ

「それぞれの方法でサウナを楽しんでほしい」という中岡さん。それだけに利用客への細かい説明は控えている。そこで実際に「サウナメランジュ」を体験してみることにした。扉を開け一歩入ると、フィンランドサウナに倣い、薄暗い必要最小限の照明でメランジュの壁を照らす。

客室に置かれたサウナの案内図。細かいルールは表記せず、直感で分かるビジュアルにこだわった(写真撮影/藤川満)

客室に置かれたサウナの案内図。細かいルールは表記せず、直感で分かるビジュアルにこだわった(写真撮影/藤川満)

サウナの内部(写真提供/ナミテラス芸西)

サウナの内部(写真提供/ナミテラス芸西)

サウナの温度は95~100℃に設定され、ものの数分で汗が吹き出る。それでも絶妙な加減で設けられた通気口と波音のBGMで不思議と息苦しさは感じない。まるで天然の洞窟に入ったような雰囲気のなか、静かに自分とじっくり向き合う時間が過ぎていく。次は、白樺のアロマ水のロウリュを楽しむ。備え付けのストーブで熱されたサウナストーンに水を掛ければ、室内は蒸気に満たされ、さらに発汗が促される。

ひとしきり汗を流したら、隣接する水風呂へ。13度に設定された水風呂は、キリッと体が引き締まる水温。外気浴スペースは階段を登りサウナルームの屋上にある。木々の間からは太平洋が望め、波音と潮風がさらにリラックス効果を高めてくれる。夜は満天の星空の下でくつろげると、サウナと同じくらいこの外気浴スペースは好評なようだ。

わずかな木以外は遮るものがない外気浴スペース。波音を聞きながら太平洋と星空を満喫できる(写真撮影/藤川満)

わずかな木以外は遮るものがない外気浴スペース。波音を聞きながら太平洋と星空を満喫できる(写真撮影/藤川満)

構造上のトラブルなく新たな展開で利用客増を目指す

「オープン以来、サウナの機器や水風呂の排水トラブルはありましたが、サウナ自体の構造のトラブルはまったくない」と手応えを感じている中岡さん。また、オープン当初は水着着用のルールを知らなかった利用客からの問い合わせがあったものの、水着の自動販売機を設置することで問題を解決した。

サウナの利用は宿泊客のみだが、利用時には水着着用がルール。水着を忘れても自動販売機で購入ができる(写真撮影/藤川満)

サウナの利用は宿泊客のみだが、利用時には水着着用がルール。水着を忘れても自動販売機で購入ができる(写真撮影/藤川満)

現在、同施設はサウナと宿泊棟のみのため、利用客の食事は自炊か外食で済ませなければならない。将来的には隣接するログハウスをレストランとしてオープンさせる計画が進行中だ。「小規模な施設だからこそ、大人数での施設丸ごとの貸し切りも可能です。サウナを通じて職場や仲間の交流の場になってほしい」と抱負を語る中岡さん。3Dプリンターによる常設サウナというニュース性だけでなく、芸西村の豊かな自然に囲まれた環境はサウナリゾートとしての魅力も十分兼ね備えていると感じた。

最大6人が利用可能な宿泊棟ドーヴィル。地元木材を地元製材所で板引き、木工CNCルーターで最終材まで加工し現場で組み立てる「ネスティング工法」で建てられた(写真提供/ナミテラス芸西)   

最大6人が利用可能な宿泊棟ドーヴィル。地元木材を地元製材所で板引き、木工CNCルーターで最終材まで加工し現場で組み立てる「ネスティング工法」で建てられた(写真提供/ナミテラス芸西)

なお和建設では現在3Dプリンターによる建築に加え、「木材の3Dプリンター」とも呼ばれる木工CNCルーターを使った「ネスティング工法」にも取り組んでいる。同工法はナミテラス芸西の一部の宿泊棟でも採用されている。今後、同社の取り組みが、サウナーだけでなく、建築業界全体にも新たな話題をもたらすかもしれない。

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●取材協力
ナミテラス芸西

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