”保育料ゼロ円”をみんなで実現する”みん営” 学童施設「fork toyama」が、日本一小さな村で始まった理由 富山県舟橋村

“保育料ゼロ円”をみんなで実現する“みん営” 学童施設「fork toyama」が、日本一小さな村で始まった理由 富山県舟橋村

民間事業の意味ではなく、「みんなで営む」といった意味での“みん営”で運営されている学童施設がある。そのしくみが画期的だ。子どもを預ける親に保育料はかからない。その分をサポーターと呼ばれる会員が支えている。「親であり会員でもある」人もいるが、いま登録児童は54人で、世帯数でいえば40世帯。それを支える企業・個人のサポーターが約70名いる。子どものいない人も高齢者も子育てに参画できて、社会全体で子どもを育てようとするしくみを提供している。
しかもこの学童がある舟橋村(富山県)というのが、日本で一番小さな面積の村ながら子育て世代が増え続け、ここ30年で人口が倍増しているという。「fork toyama」の現場を見てきた。

富山県舟橋村は、富山平野のほぼ中央に位置する農村で、国内の自治体でもっとも面積が小さい(撮影/竹田泰子)

富山県舟橋村は、富山平野のほぼ中央に位置する農村で、国内の自治体でもっとも面積が小さい(撮影/竹田泰子)

40世帯、子ども54人の利用を約70名のサポーターで支える

どこまでも広がる平野、遠目には雄大な山の連なりが見える。そんな富山らしい風景のなかに学童施設「fork toyama」はあった。越中船橋駅へは電鉄富山駅から6つめ、車ではわずか20分ほどだ。駅の駐車場に隣接するこんもりと緑に覆われた一角に、“fork”のロゴの形の看板がある。
小学校から歩いてわずか3分、図書館も役場も近く、舟橋村の玄関口のような好立地である。緑の中へ入っていくと、木にロープを張ってつくられた遊び場やブランコがあり、何だか秘密基地のような、入る前からワクワクする気配のある場所だった。屋内へ入ると、大きな窓から木漏れ日のさす開放的で明るい空間が広がる。

“fork”とは「選択肢」の意味。入り口にロゴの形の看板がある(撮影/竹田泰子)

“fork”とは「選択肢」の意味。入り口にロゴの形の看板がある(撮影/竹田泰子)

古い民家を改築した学童施設(撮影/竹田泰子)

古い民家を改築した学童施設(撮影/竹田泰子)

「fork toyama」は、みんなで運営する “みん営”の学童施設として、2022年7月にプレオープンした。同年8月から行われたクラウドファンディングで、約250人から860万円を調達。銀行融資と自己資金も加えて計4500万円で、広い庭付きの古民家を改修した。23年5月、「fork toyama」の運営を本格的に始動。プレオープン時に14名だった登録児童は増え、現在、54人の小学生が通っている。

民間の施設だが、一般的な民間学童と違うのは利用料が無償であること。サポーターの寄付金などで運営費をまかない、子育て世帯の負担をゼロにしている。2024年には村の認可を受けて公的な補助金も出るようになり、運営費の6割が寄付金、3割が助成金、1割がカフェの売上でまかなわれている。

学童施設の横には、カフェも併設されている(撮影/竹田泰子)

学童施設の横には、カフェも併設されている(撮影/竹田泰子)

発起人は岡山史興(おかやま・ふみおき)さん。こうした形態で学童を始めた理由を問うと、こんな答えがかえってきた。

「今、子どもを育てる環境って、どうしても親だけが抱える問題になりがちです。子育てしながら共働きしている人も多いのに『子どもを持ったのは親の自己責任、不便な場所に住んでいるのも自己責任』と。そこで住んでいる場所や家庭環境、経済状況などに関係なく、みんなで子どもを育てていくことはできないかなと考えたんです。親や行政だけじゃなくて、社会全体で子育てに責任持っていけるようなしくみができたらいいなと」

たとえば地域の大人たちが、年代に関わらず子育て世帯を応援するようなしくみができれば、地域を未来につなぐ一つの手段になるんじゃないか。fork toyama の“みん営”は、そうした意図からできている。

発起人の、岡山史興(ふみおき)さん(撮影/竹田泰子)

発起人の、岡山史興(ふみおき)さん(撮影/竹田泰子)

全国的に足りていない学童施設

14時を過ぎると、学校を終えた小学生が一人、また一人と集まり始める。ここでの過ごし方は自由。走り回って遊ぶ子もいれば、室内でブロック遊びをしたり、宿題をしたり。決まっているのはおやつの時間と外遊びの時間制限くらいで、あとは子どもたちの自主性に任せて自由に過ごしてよい。最長19時まで、親が安心して働ける環境も同時に提供している。

(撮影/竹田泰子)

(撮影/竹田泰子)

賃貸物件のため、仏壇だけはそのままになっている(撮影/竹田泰子)

賃貸物件のため、仏壇だけはそのままになっている(撮影/竹田泰子)

働く親にとって、放課後に小学生を預けられる環境があるかどうかは大きな問題だろう。

共働き世帯は増える一方だが、小学生が放課後を過ごす学童や放課後児童クラブは、全国的に数が足りていない。こども家庭庁の発表によると、待機児童の数は、2023年5月時点で1万8462人にのぼり、過去最多。学童の数は地域によってばらつきが大きいものの、待機児童は昨年より2186人増加している(※1)。

学童施設の不足に加えて、もう一つの課題は、暮らす地域によって子どもが享受できる環境に差があることだ。都市部には月額20万円以上もする高級学童保育サロンがあるかと思えば、学童施設そのものが少ない地域もある。

学童保育には、「民間学童保育」と自治体が運営する公設の学童(学童クラブ、放課後児童クラブ)がある。民間学童は保護者の仕事の有無や対象年齢を問わず比較的遅い時間まで開所しており、延長も可能。塾のような教育プログラムが充実していたり、夕食のサービスもあったりと提供内容は多岐にわたる。
利用料金の差も大きい。公営で月額4,000円~8,000円程度だが、民間では平均月3万~5万円前後。送迎や延長保育、夏休みや冬休みなどの長時間保育によって、月5万~7万円になる場合もある。
子どもたちが放課後をどんな環境で過ごすかは、どんな地域に暮らし、そこにどんな学童施設があって、親が利用料を払えるかといった条件に委ねられることになる。それを子ども自身は選べない。
ある調査によると、今どきの小学生が放課後を過ごす場所は「自宅」が圧倒的に多く68.7%。次はぐっと減って「公園・運動場」25.0%、次に「友達の家」21.3%、「学童」は4位の18.4%となっている(※2)。

舟橋村には「fork toyama」ともう一つ、公設で民間に運営委託されている学童がある。そちらは一般的な鉄棒や砂場などの遊び場が完備された民間保育施設。

「いま舟橋村では待機児童はいないのですが、運営方針が違うので、保護者にとっては選択肢があることが重要なのではないかと思っています」(岡山さん)

社会みんなで子育てを支援するこのモデルが実現すれば、“みん営”の学童施設を、各地にも増やせるかもしれない。「fork toyama」はその一つのチャレンジなのだと思う。

(撮影/竹田泰子)

(撮影/竹田泰子)

「子育て共助」の奇跡の村

岡山さんが初めて舟橋村を訪れたのは、自身の立ち上げたWebメディアの取材がきっかけだった。

「日本一面積が小さい村で人口が増え続けている。その背景に子どもを第一に考える村の姿勢があるんだと知って面白い村だなと思ったんです。合併して自治体が大きくなると小学校の統廃合が起きて、歩いて行ける範囲に学校がない家が増えます。そうならないために舟橋村は独立を選んで、小学校、中学校を守ってきた歴史がありました」

そんな村の姿勢に惹かれ、岡山さんは舟橋村へ移住を決意する。

村へ移住してくる多くが子育て世代とあって、いま村民の平均年齢は40歳。1990年に1371人だった人口は、2024年9月時点で3303人と2.4倍に(※3)。周囲の自治体で人口が減り続けるなか「奇跡の村」と呼ばれるのもわかる。富山駅まで20分という立地の良さもあるが、もともと村では「子育て共助」(※4)が推進され、「子育てしやすい村」として有名だった。

現村長の渡辺光村長に話を伺うと、その要因は、制度にあるわけではないという。

「子育て制度という意味では、ほかの市町村にはもっと手厚い地域があるくらいで、うちの村だけが突出していいわけではないんです。じゃあなぜ子育ての村として評価されるのかと改めて考えると、子育支援センターや図書館、公園づくりを通して、安心して子育てできる顔の見える関係性が育まれているんだろうなと思うんです」

舟橋村の渡辺光村長。2022年に就任(撮影/竹田泰子)

舟橋村の渡辺光村長。2022年に就任(撮影/竹田泰子)

村長が話すキーマンの一人が沙魚川(はせがわ)恵子さんだ。沙魚川さんが率いる子育て中の親を支援する一般社団法人「さくらんぼくらぶ」の活動が活発で、2015年には「子育て支援センター」がオープンし、この団体が運営することに。このセンターが評判になり登録者数は延べ利用者数8000人。そのうちなんと85%が村外の住民なのだという。

支援センターは各地域にあるはずだが、わざわざ舟橋村まで通ってくるのは、ここで親同士のいい関係ができて、その後もその人間関係を維持したい人たちが移住してきているのだ。

ほかにも、村立図書館、通称「かもしか図書館」も村内外問わず多くの人に利用されている。スタッフが来館者とのふれあいを大切にするという方針から、住民一人当たりの年間貸出冊数は、開館以降、全国1位の記録を更新し続けているという。

2017年には小学生を「こども公園部長」とし、「ここに来たら一緒に遊びたくなって、いつの間にか友達ができちゃう公園」を目指して、造園事業者とともに公園の企画・運営から遊具の整備や資金集めまでを担ってもらう試みも行われている。

つまり、子育て支援センターや図書館が村外の人たちからも愛される形で運営されていて、そこで親同士のつながりが生まれ、村への転入を望む人が増えて、村も受け入れるための「子育て賃貸住宅」を充実させるという好循環で、人口増につながってきた。

オレンジパークで放課後に行われている「駄菓子屋」イベント(撮影/竹田泰子)

オレンジパークで放課後に行われている「駄菓子屋」イベント(撮影/竹田泰子)

「お母さんたちが元気になるための場づくり」が土台に

「さくらんぼくらぶ」理事長の沙魚川(はせがわ)恵子さんに会いに、オレンジパークへ出向いた。久々に晴れた日で、沙魚川さんは「外でやろう!気持ちがいいから」と活動場所をオレンジパークに急遽変更した。

「ごめんなさいね。いいお天気になったから、外でやるほうが子どもたちも喜ぶと思って」

子どもたちの喜ぶほうをできるだけ選択する。

「さくらんぼくらぶ」では毎週この公園で、放課後に駄菓子屋を出店している。子どもたちは小銭を握りしめて好きなお菓子を買い、公園で走りまわって遊ぶ。
「どっから来たの~?」「どれが好き?」「何してるの?」見知らぬ我々にもどんどん話しかけてくる。子どもたちはいきいきしていた。

運営スタッフの多くはボランティアで、子育支援センターでお世話になったという人も多い(撮影/竹田泰子)

運営スタッフの多くはボランティアで、子育支援センターでお世話になったという人も多い(撮影/竹田泰子)

沙魚川さんに話を聞いた。
学童が子どものための施設だとすると、「さくらんぼくらぶ」は「お母さんたちが元気になるための場」なのだという。

「富山に来る前は東京にいたんですけど、転勤族でしたし、知り合いもいない中で子育てして、ほかのママたちと出会える場が頼りだったんです。富山へ来て公園に誰もいないのにびっくりして。集まる場所があればみんな出て来られるんじゃないかと始めたのが、『さくらんぼくらぶ』でした」

「さくらんぼくらぶ」理事長の沙魚川(はせがわ)恵子さん(撮影/竹田泰子)

「さくらんぼくらぶ」理事長の沙魚川(はせがわ)恵子さん(撮影/竹田泰子)

そこから13~14年、ボランティア組織として、場所を借りて活動を続けてきた。

「そのころはまだ子育て支援センターはなかったんです。役場に必要だよって言い続けて、支援センターができました。ボランティア団体として運営委託を受けていましたが、もっと自由にママたち目線で色々やりたいってことで独立して一般社団法人にしたんです」

「fork toyama」の設立に協力したメンバーには、子育て支援センターで知り合った保護者が多い。ずっと公営だった村の学童が民間事業者に委託されると決まった時、「安心して子どもを任せられるかどうか」で不安に思った保護者が少なからずいて、「じゃあ僕が新しく学童つくります」と手を挙げたのが岡山さんだった。

利用者のなかには、今も「さくらんぼくらぶ」でのつながりを大事にしている人たちがいる。つまり「fork toyama」は岡山さん一人の思いで生まれたというより、沙魚川さんや、「さくらんぼくらぶ」を中心に培われてきた子育てコミュニティが土台にあって、子どもに寄り添う保育の考え方や、村の子育て共助の思想をベースに生まれた施設だといっても、言い過ぎではないかもしれない。

「ただやっぱりね、“みん営”ってしくみは、岡山さんたちのこだわりではあると思うけど、すごく大変だと思うの。頑張ってほしいなと思って応援しています」(沙魚川さん)

(撮影/竹田泰子)

(撮影/竹田泰子)

“はたらく”と“育てる”の両方を支援

17時を過ぎると、「fork」には次々に親が迎えに訪れる。
小学生の女の子を「fork」に預けているという藤井梨恵さんが、「fork toyama」を選ぶ理由を聞かせてくれた。

「一般的な保育施設では鉄棒や砂場など遊具が完備されていますが、「fork」では土や虫や草木など、自然の中で思い切り遊ぶことを奨励されていて。安全面で多少気になるところはありますが、自分たちで遊びを考えたり、これは危ないって体験して分かったり。うちの子は制服のまんま木登りしちゃうような子で。そうしたことを学べるのが子どもにとっては大事かなと思ったんです」

藤井さんの娘さんは、お母さんの顔を見ると「なーんでいつもいい時に迎えに来るかな~」と帰りたくなさそうにしていた。それほど、ここが楽しいのだろう。

(撮影/竹田泰子)

(撮影/竹田泰子)

「こんなことしたよ、あんなことしたよ、って家でもよく話してくれます。拾った枝でつくった何かを持ち帰ったり。forkでは講師の方を呼んでくださって魚のさばき方を教えてくれたり色々な機会を用意してくださって。だから感謝しかないんです。子どもをみてもらえてなかったら、私たちみんな安心して働きに行けないから」

藤井さんは、これだけお世話してもらっているのだから、自分たちも感謝の気持を示すためにできることをしたいと岡山さんに提案したのだそうだ。たとえば、庭の草むしりなら、自分たちでもできるからと。

「会員になって一口1000円からの会費を支払う形でのサポートもしていますが、お互いさまで運営していけたらもっと理想的だなと思っていて。個人的に何か資格があって「fork」のお手伝いをしている親御さんもいたり、虫が多くて心配な時に自分の子どもだけじゃなく他のお子さんのためにも防虫対策のスプレーを用意した人もいらっしゃったり。みんなそれぞれできることで、ちょっとずつ協力し合うような形ができているのかなと思います」

藤井さん自身、「さくらんぼくらぶ」のボランティアをしていて、最近はセンター入り口の花壇に花を植えたりしているのだそうだ。よそから移住してきた人たちばかりだが、みなが少しずつそうして助け合うのは、子育て支援センター時代からの縁が大きいという。

fork toyamaの庭。木々の間にロープが張ってあり自前の遊具になっている(撮影/竹田泰子)

「fork toyama」の庭。木々の間にロープが張ってあり自前の遊具になっている(撮影/竹田泰子)

“みんなで育てる” をもっと自由に

「fork toyama」はクラウドファンディングを通してマンスリーサポーターになってくれている人も多い。月額1000円から5万円まで。インターネットはよくわからないからと、現金を手に定期的に直接訪れる高齢の男性もいる。

世の中には「高齢者ばかりでなく子育て世代にもっとお金を使ってほしい」といった意見もあり、逆に「高齢者にももっと支援を」という声もある。子育て世帯か高齢者支援かといった二項対立の議論になりやすい。子どものいない他者が子育て世帯を応援するなんて、現実的に成立するものなのだろうか。そう問うと、岡山さんはこう話した。

「たとえば税金の使い道って、必ずしも納税者の望んでいる通りになるわけじゃないですよね。最低限のセイフティネットを整えるためにみんなが負担するもので、それによって救われる人もいるし、逆に無駄遣いも起きたりします。でもいずれにせよ自分の意思とは違うところで使われている印象が強い。それが“みん営”では、お金の使われ方に一人一人の意思がのっている。こういうことに使ってほしいという人たちの気持をちゃんとのせて、意思が届くお金の使い方をする。反映させるのが“みん営”のしくみです」

(撮影/竹田泰子)

(撮影/竹田泰子)

お金の使い方に、一人一人の意思がのっているかどうか。そこが大事なポイントだという。買い物は投票だともいわれる。

「こういう世の中になったらいい」「そのためにこの人に、この会社に、このサービスにお金を使おう」。お金の使い方が、個人の意思を表す時代になり始めているのかもしれない。

それによって新しい子育てのしくみができて、維持できる地域が増えるとしたら。未来への希望になるのではないだろうか。

●取材協力
fork toyama

(※1)令和6年7月「令和6年度 放課後児童クラブの実施状況(速報値)」こども家庭庁の発表より
(※2)学研総合研究所『小学生白書』(2023年10月調査)による
(※3)「第2期舟橋村人口ビジョン」より
(※4) 子育て共助とは、子育て世帯以外にも高齢者や地域内の住民同士が助け合うしくみを導入して、みんなで子育てしやすい環境を整えることを指す

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