高齢化・老朽化団地の理事長に就任するや鳴りやまない電話! 突然の断水トラブルで住人の団結力が試される【ポンコツ理事長奮闘記3】
私、フリーライターの水野康子と申します。
50代、非正規、単身世帯、マネジメント経験なし。そんな私が築42年の団地で手探りしながら理事長として駆け抜けた1年を振り返ります。
3回目となる今回は、理事長就任直後の断水にフィーチャー!
名ばかりの理事長=私はひたすらオロオロするばかり。
団地のピンチを救ったのは、他ならぬ団地のベテラン住人たちでした。
■前回までのあらすじ
水野が暮らすのは1980年代に建てられた公団の分譲団地。全住人が持ち回りで管理組合・理事の役を担ってきた。任期はたったの1年だが、高齢者には重い負担となっている。
「若い人に任せたい」の声も日増しに高まる中、誕生したのが「親の代から団地に暮らす2代目」の理事長=水野だった。
・高齢化・老朽化団地の管理組合理事長に突然就任! 預かったのは2億円、管理会社&個性的すぎる代表11名と挑む戦いの幕開け【ポンコツ理事長奮闘記1】
・高齢化・老朽化団地の理事長決めは理不尽な押し付け合いと心理戦の連続! ベテランと新世代の対立も表面化【ポンコツ理事長奮闘記2】
新役員が総会で承認された直後に断水発生!
9年ぶりに顔を出した団地の理事会で、私が突然理事長に就任させられたことは前回の記事でお伝えしたとおり。ベテラン理事勢の“謎ムーブ”に翻弄された挙げ句、正直“押し付けられた“ともいえる状況だっただけに、内心「誰も頼れない……」という疎外感を抱いていました。
そんな中、ベテラン理事勢の一人であり、9年前の理事長でもあるFさん(75歳)(今回は「耳がアカン」という理由で理事長を固辞)が活躍する日がいきなり訪れます。
2023年5月22日の21時すぎ。総会で新役員が承認されたとはいえ、初回の理事会は6月の第2土曜と決まっていますから、これはまだ2023年度の理事会が開かれる前の話です。
断水が発生したのは21時ごろ。一般住人たちは理事長の水野宅とベテラン理事・Fさんのお宅に交互に電話。しかし、水野はパソコン作業中で着電に気付かず。新理事たちの対応もさまざま分かれた(イラスト/てぶくろ星人)
「ピンポーン」。21時ごろ一人で仕事をしていると、誰かが我が家を訪ねてきました。「こんな時間に……誰だろう?」いぶかしく思いながらインターホンを確かめると、モニターに映し出されたのは元・理事長のFさんでした。
Fさん「うち、水、止まってんねん。水野さんとこは出るか?」
私「え? あ、しばらくお待ちください」
蛇口をひねると確かに水が出ません……断水です!!!
断水パニックも担当理事はどこ吹く風であてにならない
さっそくパニック状態に陥った私とは対照的に、Fさんは淡々と「次の一手」を打ち出します。
Fさん「ポンプ室のカギはあるか?」
私「え?!(断水とポンプ室に何の関係が?←全然、分かってない)」
Fさん「理事長のハンコの箱についてたやろ?」
私「ハンコですか? えーっと、ハンコの箱、ハンコの箱……あ、これかな?」
前年度の理事長から引き継いだ一式の中から、小さなプラスチック製の箱を取り出すと、Fさんは慣れた手つきでカギだけを外し、風のように立ち去りました。「ポンプ室の担当は副理事長のEさんや。電話しといて」とだけ言い残して。
Eさんは私に理事長職を押し付けた張本人ですが、なんといっても竣工当時から団地の歴史を知る最長老の理事です。こんなピンチにはさぞかし……と急いで連絡したところ、返ってきたのは「俺は6月からや~」という呑気な返事でした。
すっぴんのまま玄関の外へ出ると、各棟のベランダから複数の男性の声がしています。
「断水や!」
「どないなっとんねん!」
こ、怖い……怒号が飛び交う中、水野も駆けだしました。「ポ、ポ、ポンプ室に、行ってきま~~~す!!!」と震えるポンコツ声を上げながら。
理事長経験のあるFさんはポンプ室に向かってまっしぐら。水野はポンプ室のカギを外したプラスチックボックス(←実は無用)と携帯(←これは必要)を持って、外へ(イラスト/てぶくろ星人)
管理会社もあてにならない……
けたたましく非常ベルが鳴り響くポンプ室に着くと、すでに20人近い人だかりが。扉は大きく開けられ、理事以外の住人たちも含め、数人が陣取っていました。集会所担当のB君がひとり大企業並みのガバナンスを発揮。「集会所を開けましたので、皆さんどうぞ中へ!」と声を上げましたが、誰一人集会所に入る人はいません。前へ進むと、操作パネル前の最前列にFさんがいるのが見えました。
水野「Eさんに電話しましたが、俺は6月から、とおっしゃっています」
Fさん「!」
水野「どうしましょうか?」
Fさん「しゃあない。ほっとこう」
断水の原因が分からないため、自治体の水道部に電話してみました。しかし夜の21時では誰も出ません。
次に鳴らしたのが管理会社のフロントマンの携帯電話です。すると、「断水は僕の仕事じゃないので……共用部分の対応をする緊急センターに通報してもらえますか?」と言われてしまいました。
ちょっと待て。営業マンたるもの、こういう困りごとの相談に乗ってこそなんぼじゃないのか? ポンプ室担当理事があてにならないだけでなく、管理会社のフロントマンも役に立たないとは……。喉から出かかった言葉を飲み込んで、現場の対応に戻ります。
緊急センターに通報すると、緊急センターは管理会社の委託先で連携を図るコールセンターのようなもの。実際に調査にあたる水道業者は管理会社の下請けで遠方にあることが分かりました。
「こちらに到着するのは2時間後だそうです!」
「2時間……(絶句)」
てっきり近くの業者がすぐに来ると思っていたベテラン住人たちは一様に驚いています。
プロ住人の登場。「俺はポンプのプロや!」
ここへ来て、腕に覚えのあるベテランたちが動き出しました。
周りから「御大(おんたい)」と呼ばれているおじいさんがいます。このおじいさん=Yさんは私の実家のお隣の住人で、3年前の理事長でもありました。
Yさん「今日、何かあったか?」
私「ええ~っと……午前中に受水槽の清掃があって……」
的を射ない説明でも、現場が分かる人には響いたよう。
Yさん「定位置は……このスイッチとあのダイヤルが合ってないな……さては……」と何やらブツブツ言いながら、ダイヤルに手をかけます。すると、
「どうして勝手に触るんですか!!! 壊れたらどうするんですか!!!」と叫ぶ人が。
はっとして振り向くと、仕事帰りの若手住人が必死の形相をしています。彼が心配するのも無理はありません。私たちの団地では、自治体の水道部から送られてくる水をいったんポンプ室にある2つの受水槽で受けてから、電気とポンプの力で各戸へ水を届けています。このポンプがダメになれば、団地120戸全ての水が数日にわたって使用不能になってしまうからです。
「理論武装は立派だが現場を知らないインテリ住人」と「現役を退いてはいるものの現場を知り尽くしたプロ住人」が対立! 眠そうな目をして出てきたA君に状況を説明すると、「あぁ……」としたり顔をしてすぐに帰ってしまいました(イラスト/てぶくろ星人)
「俺はポンプのプロや!」
Yさんも言われっぱなしではありません。堂々と制した言葉どおり、止まっていたポンプが再び動き出し、30分ほどで水が再び出るようになったのです。
最初こそ怒りに身を震わせていたインテリ住人でしたが、次第にプロ住人に対する敬意が芽生えたよう。最後は素直に頭を下げました。
「さっきは大きな声を出してスミマセンでした!」
するとポンプのプロは小さな声で「うん、まぁ、気持ちは分かる」と矛を収め、照れくさそうにきびすを返しました。「業者はいらん。業者は帰れ」とブツブツ言いながら。
あぁ、団地のコミュニティは健在です。
「自分が暮らす団地だから、と管理会社や理事会任せにすることなく、能動的に支えてくださる人もいるんだ……」。私はなんだか感激してしまいました。
ベテラン住人が中心となって断水解消。しかし水道業者はまだ現れません。興奮冷めやらぬ様子の住人たちは「どんな奴が来るんか、顔見たろうや!」と鬨(とき)の声を上げています。新理事のBさん・Jさんは終始、冷静でした(イラスト/てぶくろ星人)
その後、23時ごろから業者が点検開始。
すべてのチェックが完了して、団地に静けさが戻ったのは日付が変わるころでした。
ポンプ室から来た道を戻ります。この日、大活躍だったFさんがこれから1年の道筋を照らしてくれました。
「本来は副理事長とフロントマンがしっかり連携するべきやったけど、まぁええやろ。
もう総会は終わってるからな。今日のことは俺らの代の仕事や。
6月は排水管の洗浄工事、
7月は植栽の剪定、
8月は止水バルブの交換、
後半になったら団地の将来のことも検討しないと。
今年は始めから赤字予算でおかしなことになってる。
去年は補修員会の立ち上げにも失敗してるしな」
青白かったFさんの頬に赤みが差して、気力を取り戻しつつあるように見えます。
“住人の底力”を目の当たりにした私は、
「団地の建物は老朽化してるけど、うちの住人たちは捨てたもんじゃないな~♪」
と心を強くしたのでした。
【後日談】断水の原因は管理会社から委託した業者の凡ミスだった
ポンプのプロの活躍で、自力で断水から復旧した我らが団地。
すっかり影が薄くなってしまったのですが、実は、断水の顛末を最後まで見守ってくれた人たちの中に、管理会社のフロントマンと営繕部の2名もいました。
最初の通報時は「僕の仕事じゃない」と緊急センター任せにしたがったフロントマンでしたが、1時間後、同じフロアで残業していた営繕部の2名を伴って現地に到着。駆け付けるなり、ポンプのプロから雷を落とされたのでした。
●管理会社に100%委託している項目(受水槽の点検)で、
●管理不足(監督不行き届き=スイッチの戻し忘れ)によるミスが起こり、
●団地全体に大きな迷惑をかけた
のですから、ポンプのプロのお怒りはもっとも。
ちなみに、新理事の一員であるBさんが「理事長からも一言お願いします!」と私を前に出したのですが、元から強い態度を取れない水野の言葉はあまりに弱々しく、後ろで住人一同ずっこける音がしました。だから無理だって言ったのにぃ~。
さて、今回の断水について、後日上げられた報告書によっても、やはり5月22日午前中に実施された受水槽清掃における人為的ミスが原因だと示され、フロントマンからお詫びのメールもありました。
この人為的ミスですが、「俺もプロや!」と翌日に登場した別のベテラン住人によると、回避のコツがあるそう。
「スイッチの戻し忘れは業者あるあるなんや。誰かが作業中に顔を出して、『定位置に戻しといてや』って伝えるだけで、『お、この団地は分かっとるな』ってなるんやで」
なるほど……。そこで翌年の清掃日(なぜか総会の前だった)には副理事長のEさんと水野が代わる代わるポンプ室をのぞいてチェック! 結果、連続の断水は免れました。
今回の出来事は、第一回でもお話したように、管理会社への委託の難しさを物語っています。自主管理から管理委託へ移行して7年経ちましたが、いざという時に安心を与えてくれたのは管理会社ではありませんでした。
団地のコミュニティや住人同士の結束はやっぱり必要です。
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