70歳男性がコロナ禍で無一文・ホームレス直前でたどり着いたシェアハウス、不動産会社が居住支援続ける理由とは。大家の理解広がる新展開も プライム・神奈川県座間市

「できる限り、社会と関わりを持てる環境に」事情のある人たちにシェアハウスの提供も。座間市・プライム

神奈川県座間市で住宅困窮者の住まい探しに尽力している不動産会社、プライム。さまざまな事情から、賃貸住宅への入居が難しい人たちに物件を紹介するほか、シェアハウスや無料低額宿泊所を自ら運営したり、行政やNPO法人と連携しながら、生活支援として食糧を配ったりと、忙しい日々を過ごしています。

コロナ禍を経て、支援を必要としている人たちの状況や彼らを取り巻く環境には、どのような変化があるのでしょうか。プライム 代表取締役の石塚恵さんとプライムの運営するシェアハウスに入居するSさんに話を聞きました。

「コロナ禍後も住まいに困る人が多い」座間の不動産会社としての実感

プライムは座間市や居住支援法人(※)であるNPO法人ワンエイド、社会福祉協議会や弁護士らと連携し、市役所に相談にくる人たちをワンストップで問題解決や支援につなげていく「チーム座間」の一員として、11年以上住まいの相談に乗り、解決に当たっています。2019年以降はコロナ禍に見舞われ、住まいに困る人の状況にも大きな変化があったと言います。

「派遣を切られて寮から出ていかなければならなかったり、職を失ってしまったり。収入を得ることが難しく、住まいを失ったたくさんの人たちが押し寄せてきました。
コロナ禍収束後も余波が大きく、高齢なのにそれまで入居していた賃貸アパートが老朽化して立ち退かなくてはならない人などが今も多くいます」(石塚さん)

※居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体など

コロナ禍で職を失う人が増え、住居の確保や、生活において支援を必要とする人がたくさんプライムに相談を持ちかけるようになった。そして今も、その数は減っていないという(画像提供/PIXTA)

コロナ禍で職を失う人が増え、住居の確保や、生活において支援を必要とする人がたくさんプライムに相談を持ちかけるようになった。そして今も、その数は減っていないという(画像提供/PIXTA)

生活保護などの行政からの支援は、住所がなくては受けられません。しかし、収入のない人が住まいを借りることは難しいため、住所を持てずに制度の狭間で行き場を失う人がいます。収入のない人は家賃未納などのリスクを懸念するオーナーや管理会社から賃貸物件への入居を断られることが多く、入居可能な物件はとても少ないのが現状です。時には他の居住支援法人からも「紹介できる物件がないか」と、プライムに住まい探しの相談が寄せられることもあるのだとか。

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事務所の隣にシェアハウスを開設。自身で運営も

このような状況を受け、プライムは2020年に事務所の隣にシェアハウスを開設しました。

2階建ての中古戸建ての1階を店舗として貸し出し、2階部分は1部屋7畳ほどの3LDK。個室にはそれぞれエアコンを設置済みです。キッチン・バス・トイレなどの水回りをシェアする形で、1人あたり月4万1000円の家賃のほか、光熱費や食糧支援の費用として、1万5000円がかかります。いずれも生活保護で支給される住宅扶助と生活費で賄える金額です。

プライムに相談に来る人たちの約8割は男性なので、現在、入居しているのも男性3人。30代~70代と年齢や境遇もさまざまな状況で生活保護を受けています。

事務所の隣の中古戸建てを手に入れ、リフォームしてシェアハウスをスタートした。相談に来た人の中でも、健康上の問題など“誰かが近くで見守る必要があるが、施設に入るべきかの判断のボーダーライン上にいる人”が入居している(画像提供/プライム)

事務所の隣の中古戸建てを手に入れ、リフォームしてシェアハウスをスタートした。相談に来た人の中でも、健康上の問題など“誰かが近くで見守る必要があるが、施設に入るべきかの判断のボーダーライン上にいる人”が入居している(画像提供/プライム)

「入居しているのは老人ホームなどの施設に行くか、自立して生活できるか、ギリギリの境界にいる人たちです。一人暮らしなら孤立死などのリスクがあるので、行政は施設への入所を勧めるでしょうが、私は可能性があるのなら、なんとか社会と関わりを持てる環境を提供したいと思い続けてきました。

そんなときにちょうど事務所の隣の建物が売りに出て、立地的に私たちの目が届きやすいと購入したのです。病気がちなど、より近くで見守りが必要な人も、シェアハウスなら互いに見守りができます」(石塚さん)

無一文でプライムにたどり着いたSさんのシェアハウスでの暮らし

住人の一人で、以前はフィリピンでレストランを経営していた経験もあるSさん(70歳)は、掃除や整理整頓をするよう他の住人たちに促すなど、自ら管理人的な役割を担っています。そのおかげもあり、石塚さんが多くを口出しせずとも、住人たちが自ら共用部の掃除やゴミ出しなどを行い、規律のある生活ができているそうです。

「コロナ禍でフィリピンでの事業が立ち行かなくなり、無一文になった私は大使館を頼って、やっとの思いで日本に帰ってきました。YouTubeでプライムの活動を知り、とにかく話だけでも伺いたいと門を叩いたんです。持病もあったのですが、ホームレスにならずに、こちらに入居することができました」(Sさん)

家族ではない人と一緒のシェアハウスの暮らしに不安はなかったのか尋ねると、むしろ「誰かがいるほうが心強い」との返答が。「夜遅くに電話して、うるさい」など、住人間でクレームがあっても、話し合いで解決できているとのこと。ただし、仲間というよりは同居人として「プライバシーには深く入り込まないのがうまくいくコツ」だとSさんは話します。

さまざまな事情を抱えた人たちが役割を分担しながら、一緒に暮らすシェアハウス。石塚さんも近くで見守りや食糧支援などを行っている(写真はSさんとは別人)(画像提供/プライム)

さまざまな事情を抱えた人たちが役割を分担しながら、一緒に暮らすシェアハウス。石塚さんも近くで見守りや食糧支援などを行っている(写真はSさんとは別人)(画像提供/プライム)

理解あるオーナーからの物件提供が増えてきている

自社経営のシェアハウスの経営から4年。一方でプライムが管理を担当している大家さんへの理解も深まってきているようです。

無職や低所得など事情のある人が不動産会社で断られることについて、石塚さんもかつて不動産会社に勤めていたことがあるので「オーナーと賃借人の間でトラブルになることを恐れ、断ってしまう気持ちは理解できる」と言います。しかし、オーナーの中には、体制さえ整っていれば受け入れたい気持ちを持っている人は多いと感じているそう。

「今私たちに管理を任せていただいている大家さんは、高齢者でも受け入れたいという気持ちがあり、『投資として成立してトラブルがなければなお良し』と思ってくれている人たちです。私たちの活動を理解して、もっと提供する物件を増やしたいと言ってくださる人も増えてきました」(石塚さん)

不動産管理会社として、常に満室を目指しオーナーの資産を守ることも、入居者を守ることと同じくらい大切な役割です。今ではプライムの活動に賛同してくれるオーナーが増えて、低所得など事情のある人が入居できるプライムの管理物件は約220室。そのうち、空室は10室程度で、空きが出てもすぐに次の入居者が決まるそうです。

プライムで住まい探しに困っている人たちに紹介する部屋は、自社で管理する物件がほとんど。活動に賛同するオーナーの理解があって成り立っていて、救われた命もたくさんある。一方で、入居可能な部屋は必ずしも入居者の希望通りにはいかないことも多い。「借りる側にも妥協は必要」と石塚さんは言う(画像提供/プライム)

プライムで住まい探しに困っている人たちに紹介する部屋は、自社で管理する物件がほとんど。活動に賛同するオーナーの理解があって成り立っていて、救われた命もたくさんある。一方で、入居可能な部屋は必ずしも入居者の希望通りにはいかないことも多い。「借りる側にも妥協は必要」と石塚さんは言う(画像提供/プライム)

しかし、プライムに助けを求める人の中には生活保護を申請しても審査を通らず、収入がない人も。そうなると、無料低額宿泊所といわれる宿泊施設を頼るしかありません。ところが、「無料低額宿泊所といわれる場所は、劣悪な環境である場合も多い」と石塚さんは言います。一時的な仮住まいであっても、なるべく過ごしやすい環境を用意したいと考えた石塚さんは、23人を受け入れられる無料低額宿泊所も運営しているそうです。

無料低額宿泊所の利用者にはいろいろな人たちがいる。中には家賃を滞納した上、写真のように部屋の中もそのままに夜逃げをする人も。リスクヘッジも考えつつ運営していかなくてはならない(画像提供/プライム)

無料低額宿泊所の利用者にはいろいろな人たちがいる。中には家賃を滞納した上、写真のように部屋の中もそのままに夜逃げをする人も。リスクヘッジも考えつつ運営していかなくてはならない(画像提供/プライム)

多くの団体や企業と連携して居住支援の輪を広げたい

長年にわたる活動が評価されて、プライムは2024年に国交省による「地域価値を共創する不動産業アワード」優秀賞に選ばれました。

第2回地域価値を共創する不動産業アワードで優秀賞を受賞したプライムの石塚さん(前列向かって右)(画像提供/プライム)

第2回地域価値を共創する不動産業アワードで優秀賞を受賞したプライムの石塚さん(前列向かって右)(画像提供/プライム)

しかし、石塚さんは「もともと私がやりたいと思ったことをやってきたに過ぎない」と話します。評価されたり、感謝されたりするよりも、オーナーや入居者とコミュニケーションが増えて、人として関わり合えるところにやりがいを感じているそう。そして「受賞を機に、ポータルサイト運営会社や行政、同業者の反応が増えた」とも。

「全国には、住まいの支援について相談をしても、納得いく対応が得られない自治体もある中、居住支援や生活支援について積極的に知ろうとする動きが見られるようになったことは、良い変化だと感じています。座間市のように官民の連携がここまでうまくいっている地域は珍しいらしく、『どうやって協働ができているのか』とお問い合わせを多くいただくようになりました」(石塚さん)

さらに「このような機会を通じて同じ志を持った団体や企業と出合い、連携することで、支援活動にさらなる広がりを持てたら」と石塚さんの夢は広がります。

プライムに助けを求める人は、年齢や健康上の理由から部屋を紹介してもらえなかったり、入居費の捻出すらままならなかったり、さまざまな困難に面しています。しかし、住む場所があり、近くに気にかけてくれる人がいれば、そんな境遇から抜け出せるかもしれません。

プライムが運営するシェアハウスは、自立した生活が難しかったかもしれない人が生活を立て直し、リスタートのきっかけとなり得ます。プライムの活動を通して、居住支援が支援を必要としている人たちの助けになるだけでなく、オーナーにとっては投資ビジネスになり、そして不動産会社が事業を継続させていくことができる三方良しの取り組みとして、これからの発展に期待したいです。

●取材協力
株式会社プライム

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