目指すは“ニュースの築地市場” ニュースアプリvingow開発元 平均年齢22歳のベンチャー企業『JX通信社』インタビュー

JX集合

JX通信社とは、2008年に設立されたIT系ベンチャー企業。平均年齢22歳という若さあふれる企業で、目指すところは“仮想通信社”。主力サービスは自分の興味に沿った記事を自動的に収集してくれるニュースアプリ『vingow』。“5年後の新聞”というキャッチフレーズの名の通り、従来の新聞やニュースメディアとは全く異なるニュース提供サービスだ。今月、国内で初めて、ニュース記事を自動要約する機能をリリースする。今回はそのJX通信社の代表取締役 米重克洋さんと、取締役の細野雄紀さんに、ニュースアプリvingowを中心に“ニュースの築地市場”こと“仮想通信社”について話を伺った。

――vingowとはどのようなサービスなのでしょうか。
米重:一言で言うと自分に必要なニュースだけをリアルタイムにザクザク集めるニュースエンジンです。自動収集のニュースエンジンと言う感じです。vingowは、ウェブ上にある無数の記事を解析して、自動的にタグ付けをします。ユーザーは自分が興味・関心のあるキーワードのタグをフォローしておくことで、自動で好みの記事を読むことができます。更に、使えば使うほどユーザーの志向・関心を学習するため、よりユーザーにマッチした、かなりニッチなものも含めてニュース記事を収集し、提供することができます。

――このサービスを作ろうと思ったきっかけは?
米重:オンラインニュースメディアの収益化に関心があったからです。過去20年間オンラインニュースメディアってまともに収益化されてないんですよ。例えば新聞社が取り組んでも、紙と比べてとても取材・編集コストを賄えるような収益規模にならない。この問題は誰かが必ず解決する必要があります。オンラインニュースメディアには基本的に“課金”か“広告”しか収益源がありませんが、いずれもユーザーとニュース、ユーザーとメディアが“マッチング”したときに収益が生まれます。まずはこの“マッチング”の瞬間をたくさん作ることでオンラインニュースメディア収益化の第一歩にしようと思い、消費者サイドにアプローチするツールであるvingowを作りました。

――マッチングするメディアということですが、vingowの名前の由来は何でしょう?
米重:単純な話で、まさに“ビンゴ”なんです。「これが知りたかったんだ、ビンゴ!」という瞬間を作ろうということで、“bingo”というドメインを探しましたが、さすがに取得できませんでした。そこで次に頭文字をとりあえず変えてみようかということでBからVに変えたんですね。それでもまだダメだったのでもう草でも生やしてみようかと(笑)。草生やしてみたらそれっぽく見えるじゃん、ドメインも取れるし!っていう、そういう理由です。

――vingowの“w”は草だったんですねw
細野:昨年入社したのですが、僕の入社前から名前の由来を聞いても同じ事を言うので本当にそうなんだと思います(笑)

――面白いサービスですよ、というアピールも含まれているのでしょうか?
米重:そうですね。楽しく使ってもらえればいいかなと思って。サービスとしてはちょっとクールぶってますけども(笑)

――使っていて、思いもよらないところの情報が引っかかったりして面白いと思いました。
米重:基本的にはニッチな所に強いというのが重要だと思っています。Gunosyさんとよく比較されますけど、vingow独自の価値としては“ニッチ”な所にとにかく強く、さらに“リアルタイム”であるというところですね。全然“いいね!”されていない、ソーシャルでバズっていない記事であってもvingowだったら拾える、というユーザー体験が極めて重要だと思っています。例えばスポーツなら、野球やサッカーだけでなく“セパタクロー”のタグもあったりしますね(笑)そういうタグが現在10万以上あって、日々自動生成で増えていっています。

効率的な情報収集のための“要約機能”を実装

要約機能

――利用者に対してはどのような使い方を想定していらっしゃるのですか?

米重:一言で言うとビジネスですね。ニュースの収集目的は主に3つあると思っています。1つは「ビジネス」もう1つは「暇潰し」、そして最後は「世間の話題についていくため」、と。だいたいどんな用途もこの3つに分類されると思うんですね。その場合、僕らとして取り組むべきところであり、またvingowの強みも活きるところは「ビジネス」だと。ビジネスにおいて、情報の取り漏らしは許されないじゃないですか。そして、細かくニッチな情報であっても必要だし、欲しいというニーズがある。これこそvingowの強みが活きる部分であり、且つvingow自身のビジネスモデルの確立にも重要です。結果、毎日通勤電車に乗って会社に行くその間にスマートフォンを見ている人たちが便利に使えるというユーザー体験が一番重要ですし、実際そういう風に使っていただいている感じですね。露骨に朝の通勤時間とお昼休み、帰ってからの深夜にかけての時間のアクセスがすごいので。先ほどお話した、ニュースの自動要約機能は、忙しいビジネスマンでもサクサク情報収集できる強い味方になるはずです。

細野:情報がピンポイントにコアな情報まで勝手に来るので、電車内でささっと、短時間に漏れなく効率よく細かな情報収集まで出来るところが強みだと思っています。

――情報収集の効率化が図れると。
米重:僕は個人的に航空業界に興味があって研究していますが、航空関連のニュースなんてググってもなかなかまとまった量が出てこないんですよね。その点、Googleニュースでも出てこない記事がvingowだと出てくることが多くて、手前味噌ですが最近は航空関係の記事は全部vingowで見るくらい重宝してますね。細かいものでもザクザク拾えるので、いちいちGoogleニュースで検索することもなくなりました。実際、それが一番vingowとしては強みが生きる使い方です。どんな人でも仕事や趣味に関わることで、周囲はあまり興味を持っていないけど自分はすごく興味がある、そんな分野が多少はあると思うんです。仮にそれが人に言えないようなジャンルだとしても(笑)

細野:vingowは社名も拾えます。例えば、競合他社さんの社名のタグがあれば、それをフォローしておくことで常時動向を探ったりすることもできます。逆に、自社のタグがあれば、それをフォローしておくことで自社に対するニュースやブログ記事での言及を拾うこともできます。

――たくさん拾えてしまうと逆に1つの記事に対して読者がかけられる時間も減りそうですが。
米重:その課題に対しては要約サービスで解決するのではないかと思っています。国内で初めて、日本語のニュース記事を完全自動で要約する機能を提供します。livedoor・LINEニュースで言う“ざっくり言うと”を完全自動で出来るようになります。海外でも、アメリカのヤフーに買収されたSummlyというニュース自動要約アプリがありましたね。あれは英語ですが、こちらは日本語でそれを実現しています。基本、3文で要約するので、2ch風に言えば“今北産業”機能ですね(笑)
最初はβ公開ですが、まずはiPhone版から提供しています。ぜひダウンロードしてみてください。

――以前炎上していたGunosyという似たようなサービスがあるのですが、それについてはどう思いますか?
米重:Gunosyさんと比べると、vingowは1日1回ではなくリアルタイムで、且つニッチな記事も重視しているという点は先ほどお話しました。あとは、量に制約がない点も全然違いますね。その他で言えば、Gunosyさんはソーシャル性がすごく強いですよね。ソーシャルニュースリーダーという位置付けなのかな、と。その点、vingowはソーシャル性はあまり考慮していません。ソーシャルはフィルターとして有用なのでもちろん活用はしますが、それ以上に記事自体の解析をいかにリアルタイムに、大量に、正確に行うかということに重きを置いています。要はソーシャルグラフよりも記事の方を解析しているわけですね。そこが出てくる記事の違いになって現れているのだと思います。

――根本的に思想が違っている感じがしますね。
米重:そうなんですよね。だから別にvingowのユーザーでもGunosyさんと一緒に使っている人って結構いるんです。よく比べられるんですけど、あまり比べられる理由がわからなくて(笑)確かに「ニュースをパーソナライズして届ける」というトレンドの中では同じなんですが、それを言ったらYahoo!ニュースさんだってパーソナライズの方向ではあるんですよね。もっと言えば、今主要なほとんどのニュースサービスがパーソナライズの方向に向かっているわけです。だから、日本でそれに対して取り組んでいる会社がそんなに多くないからという理由で雑な比べ方をしていいの?という感覚はあります。Gunosy福島さんのインタビューも読みましたが、彼らもそう思っているみたいですよ?(笑)

vingowは“ニュースの築地市場”を目指している

――オンラインニュースの収益化についてですが。
米重:僕は有名人やアルファブロガーのような人ばかりが強い発信力を持ち続けるということはあまり望ましくないと思っています。ところが、ソーシャルメディアはそれを助長しやすい。だから、それを克服して「ニッチなメディア」、「ニッチな記事」と、「それに付加価値を見出すユーザー」をいかに適切にマッチングするかということがオンラインニュースメディアの最大の課題だと考えています。それが出来なければニッチなニュースメディアはみんな回らなくなってしまうので。もちろんニッチメディアだけじゃなく、大きな会社だって同じです。2010年頃から多くの新聞社が営業赤字ですから、紙でも既に回りにくくなっているわけですよ。要はオフラインでもうまく回っていないものが、オンラインにきて更に回らなくなってしまうというのは非常にまずい。

――vingowには広告が見当たりませんが収益はどこから得ているのですか?
米重:vingowのビジネスモデルは主に3つです。ひとつは“広告”。ご指摘の通り今はまだほぼないですが。もうひとつは“課金”。3つ目は“エンジン提供”ですね。課金は今後やる予定ですが、具体的にはまだこれからです。エンジン提供は実はもう始まっていて、詳細は言えませんが他のニュースサービスに対してvingowのエンジンを既に提供しています。vingowは、日に何万件という記事を解析して、本文抽出して全部自動でタグ付けして、更にそれをひとりひとりのユーザーの好みに応じて配信しているので、うっかりすると相当なサーバーコストがかかります。その問題をテクノロジーで克服しているのがvingowのエンジンです。まだまだ改善、向上の余地は山ほどありますが、こういったエンジンは既存のニュースメディアにはなかなかないので、サービスに使って頂くという点においても引き合いがままあります。

――運用を継続するほどものすごい有力なデータベースが出来上がりますね。
米重:今流行りのビッグデータというわけではないですけど、「でかいデータ」ですね(笑)このデータベースは今後さらに進化していく予定です。

――vingowやJX通信社はどういったオンラインメディアを目指しているのでしょうか?
米重:ゴールとしては、ニュースコンテンツを売買する“ニュースの築地市場”を目指しています。これは誰かがやらなくてはならないので、それなら我々が一番最初にやりたい、と。ニュースって魚と同じだと思うんです。私たちは現代に生きていて、毎日、新鮮で美味しい魚を沢山の種類食べられるじゃないですか。なぜそういうことができるかといえば、市場・流通機能が整っているからです。つまり、“寿司屋さん”と“漁師さん”がいて、その間に“築地市場”があるわけです。だから仮に漁師さんがマグロやサーモンみたいなメジャーなネタじゃなく、赤貝みたいなマイナーなネタを築地に持ち込んでも、どこかの寿司屋さんがそこに来て買ってくれるわけですよ。でもニュース分野にはそういう場がないわけです。新聞社の報道もよく金太郎飴などと言われていますが、これは皆が同じ大衆を相手に漁師兼寿司屋をやっていて、ひたすら人気のマグロやサーモンを握って出してる状態なわけです。つまり、ジャーナリズムとか精神論云々は関係なく、ビジネスモデルの問題じゃないかと。

――同じ情報源で似たような記事がいろいろなたくさん出回る状況ですね。
米重:そうですね。新聞に限らず、“2chまとめブログ”でさえあまり区別つかないじゃないですか。独自の色が出ているところが非常に少ない。だから、それを解決するためには汎用的なニュースコンテンツは市場原理に任せて、メディア同士で流通させてしまえばいいと思うんです。例えばA社が書いた政治に関する1つの記事をB社、C社、D社、E社の5社で載せたら、コストが頭割りで5分の1になるじゃないですか。結果、浮いた5分の4のコストをもっと自社の強い、得意分野の取材に振り向けられますよね。例えばうちは経済が強いというメディアは経済分野でもっとコストをかけて取材して、できたコンテンツを他社やユーザーに売るでもいいし。課金モデルのメディアなら課金の金額を下げて読者に還元することもできます。そうしてメディアにとってコスト削減と収益向上のチャンスが生まれるんです。1世紀前の通信社と同じ発想ですが、今はネットの時代。だから、それに合った新しい仕組みは誰かが作らないといけないんですよ。

――現場からネタ仕入れてくる人と、読者(客)向けに加工する人。その間に築地市場のようなメディアがいるというイメージが湧いて来ました。
米重:課金って、『niconico』とかではうまくいっていますけどオンラインニュースメディアでは非常に難しい。広告も、需要は線形にしか増えないのに供給は指数関数的に増えるので、長期的に0円に限りなく近づく。現に、オンラインニュースメディアでも広告・課金収益だけではしんどいのでイベントをやったり、オフラインと両立させるビジネスモデルになっていることが多いですよね。だから、課金、広告に次ぐ第3の収益源が必要だ、と。そしてそれは、僕らの仮説では多分「コンテンツ売買」になるだろうと思っています。つまり、メディア同士のマッチングをする市場機能が必要。それを担うのが私たちの中長期的なゴールで、そのためにまず消費者サイドで必要なことを全てやるというのが短期的な課題ですね。

――“ニュースの築地市場”というのがありましたが、出てくる情報に偏りが生じる気がしました。
米重:偏りが出てくるように思えますが、実際にそうはならないというのが僕の考えです。それは市場機能があるから。大きい市場があれば、マイナーなネタでも誰かが必要として、買って行きます。そして、必要とされなければ淘汰される。淘汰されそうになった側は、より必要とされるネタをニッチな方にも探し求め、提供していく。その市場機能を通じたマッチングを僕たちがやっていきたいと思っています。

――“マッチング”がキーとなっているわけですね。
米重:ニュースには事実を伝えるだけのストレートニュースと、深く掘り下げたり編集されたニュースがあると思うんですが、恐らく普段ネット上に流通しているニュース記事の9割くらいはストレートニュースだと思います。でも、実際に多くの消費者がより付加価値を感じるのは残りの1割の方なんですよね。市場機能が回りはじめると、その“1割”にメディアが注力できるようになるので、記事の幅も広がるし、内容も深くもなると思うんです。それでもって初めて、オンラインでもビジネスとジャーナリズムが両立する。オフラインの例で見ても、フランスのル・モンド紙などは既に速報性を追わずに専門性を追うようになっている、と。そうしてメディアとしての付加価値を強める動きはひとつのトレンドだとも思っています。

――1割の部分はまさに『ガジェット通信』がやっているところだったりすると思います!
米重:そうですよ!インターネットで生まれてインターネットで育ったメディアってやっぱりエッジが立っているじゃないですか。それはインターネットがすごくおもしろい夢のような場所だからというわけではなく、エッジを立たせないと誰も見てくれないからだと思うんですね。紙の場合でもそれは同じですが、やっぱりオンラインにくるんだったらそれ以上にエッジを立たせないといけない。だけどいま既存メディアが仮にオンラインにきてエッジをガンガン立たせても、それを支えるのに十分なビジネスモデルがないのでそれを作りましょうということです。

――人に見てもらう難しさは日々感じています。
米重:オンラインニュースメディアには、自分たちでネタもあたってオフラインに対してもソースを持っている“1次メディア”と、1次レイヤー発の情報を編集、再構成して発信する“2次レイヤー”がいます。過去20年間のオンラインニュースメディアの歴史上、どちらかと言うと2次レイヤーのほうがお金儲けがうまいので、1次レイヤーにそれがうまく還元するような仕組みにすればまずはもっと回るんじゃないかというのが僕らの考え方ですね。そういう仕組みは僕らも考えています。そうすれば世の中必ずよくなると。

――これは既存メディアの解体みたいなのを目指しているのではないんですね。
米重:そうです。全く違います。僕、恐らく“インターネット側”にいる人間のなかで一番、紙や電波といったメディアの方々と仲良く共存していくビジネスを考えてますよ。基本的にマスメディアとネットメディアが相反する意味がよくわからないんですね。マスメディアで何か問題や気に障ることがあるとすぐゴミとか何とか言って吊るし上げる向きがネットにはありますけど、逆に適当なこと書いているブログやオンラインメディアだって山ほどあるじゃないですか。ところがマスメディアって目立つからネットでガンガン批判される。こんな「正義のネットvs悪のマスメディア」なんていう構図は虚構で、意味がないですね。

――ネットで流行っているネタのほとんどがマスメディアネタだったりしますしね。
米重:そうですよね。テレビなんて、キャプチャ画像だけでもまとめブログじゃコンテンツになったりしますし、すごいんですよ(笑)

細野・米重

――JX通信社の“通信社”の意味がわかった気がしました。ありがとうございました。
米重:ありがとうございました。
細野:ありがとうございました。

JX通信社
http://jxpress.net/

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srbn

ネットで流行っているものを追いかけていたら、いつの間にかアニメ好きになっていました。 http://com.nicovideo.jp/community/co621

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