ローンチ1年で導入広がるTreble、音響エンジニアが設立|空間音響のシミュレーションを高速・低価格化かつ簡単に
建物、自動車、テック製品などの音響設計は、これまで極めて高額な「外注業務」だった。利用が簡単で設計プロセスに統合可能、かつ正確なシミュレーションツールが存在しなかったためだ。完成した建物もしくは製品が音響要件を満たさなかった場合、調整には大幅な時間とコストがかかる。
そこで、アイスランド・レイキャビクに拠点を置くTreble Technologies(以降Treble)は、簡単かつ高速で音響シミュレーションができるプラットフォームを2023年に開発。
従来のシミュレーションツールと比較して桁違いの高速化と低価格化を実現した同プラットフォームは、ローンチから1年ですでに建設や音響、テック分野の国際的有名企業に採用されているという。
国際的な注目を集める同社は、9月にシリーズAラウンドで1,100万ユーロの資金調達を発表したばかり。ラウンドを主導したKOMPAS VCは、建築環境に特化したアーリーステージVC。アイスランドの大手VCであるFrumtak Venturesや欧州イノベーション評議会 (EIC) ファンドも参加している。
建物などの音響シミュレーションを正確かつ簡単に
Trebleは2020年、音響エンジニアであるFinnur Pind博士およびJesper Pedersen氏によって設立されたスタートアップ。
同社のプラットフォームの最大の売りは最先端のシミュレーションエンジンで、これは波形ベースおよび圧力ベースの幾何音響学メソッドを組み合わせたもの。あらゆる形状、大きさの空間をモデル化し、回折、位相、干渉などの複雑な現象を捕捉する。
専用のハードウェアや端末などは不要で、いつでもどこでもブラウザからアクセスできるうえ、ほぼ無制限の同時シミュレーション、履歴バックアップ、同僚や外部パートナーとのシームレスなコラボレーションが可能だという。
合成音声データ生成で機械学習に活用可能
何より、Trebleはこのプラットフォームを発展活用するためのSDK(ソフトウェア開発キット)を提供している。同社のプラットフォームは、シミュレーションだけでなく「合成音声データ」の生成プラットフォームでもあり、ユーザーの機械学習モデル用のトレーニングデータセットを作成可能なのだ。
“騒音”による環境ストレスが課題視される一方で、音響技術・生成AI・AR分野でのAIベースオーディオモデル急成長に伴い、音声トレーニングデータの不足が大きな課題となっているのだが、Trebleのツールで生成した合成音声データを機械学習のトレーニングに活用することができるという。
同社ロードマップによると、現在SDKのバージョン2を開発中とのことだ。
30日間無料トライアルで実際にプラットフォームを実体験
今回、同社プラットフォームの30日間無料プランを実際に利用してみた。アカウント作成は必要だが、この時点でクレジットカードの登録は求められない。
レアケースかもしれないが、あえて「定員30人の教室の中央で1人の生徒が楽器を弾いている」という状況を設定。2人掛けの机が15個、正面には教壇、後方に物入れのある一般的な教室だ。実際には、家具の材質や壁や床の建材、カーペットの有無とその材質まで細かく指定できる。
テストの結果、当然ながら聴衆の位置によって楽器の音はまったく異なる形で届いていた。奏者の隣にいる場合は美しい音色なのだが、少し離れただけでビリビリという不快な音が伝わるようになる。楽器の音色が騒音扱いになる理由がよく分かるシミュレーション結果だった。
今回は楽器の演奏を想定したが、ほかに3Dプリンターの稼働音、会議での会話、キーボードの打鍵音などさまざまな音声が用意されている。「30人の生徒が一斉にPCのキーボードを叩いている」という設定も可能だ。
デモの様子は、CEOのPind博士自ら登場・解説するYouTube動画でも確認できる。
(文・澤田真一)
ウェブサイト: https://techable.jp/
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