AirPods(無印)に新型・新ラインナップ追加もAirPod ProとPro Maxは据え置き 補聴器機能追加には憶測まじりの意見も飛び交う様相
Appleから「AirPods 4」および「ANC(アクティブノイズキャンセリング)搭載のAirPods 4」が発表されました。9月10日より予約受付を開始し、20日に発売となります。通常モデルの「AirPods 4」は2万1800円、ANC搭載モデルは2万9800円です。なお、AirPods Pro 2にはアップデートがなく3万9800円で継続販売となります。
ANC搭載がお得なAirPods 4シリーズ
AirPods 4シリーズは、いずれもH2チップを搭載しノイズキャンセル機能などAirPods Pro 2に相当する機能を体験できます。充電ケースはUSB-Cに対応し、充電ケースの使用で最大30時間の再生が可能です。
ANC対応モデルの充電ケースにはワイヤレス充電器を搭載し、Apple WatchやQi規格の充電器が使用可能。さらに、ケースにスピーカーが追加され、「探す」アプリに対応します。非搭載モデルとの価格差が、8000円ですので機能差を考慮すると、ANC搭載モデル一択なのでは? という気もします。
AirPods 4のノイズキャンセル機能は、AirPods Pro 2のノイズキャンセル機能から推察すると非常に効果的に機能することが予想されます。しかし、他媒体が記載する、アップルが言うところの毎秒4万8000回のノイズキャンセル処理というのは、おそらく48kHz(サンプリングレート)のことと思われます。だとすると、48kHzの再生に対応するANCイヤホンは、この数値だけならAirPods Pro 2と同等と言うことになるわけで、この記載をもってノイズキャンセル機能が優れていると評するのは違うのかなと思わざるを得ません。実際の効果としては他のANC搭載TWSイヤホンよりもAirPods Pro 2の方が数段優れていると感じる場面があるのは事実なので、自信を持って評価すればいいのにとは思います。
シリコン製イヤーピースでフィット感を調整するAirPods Pro2に対して、AirPods 4シリーズは形状で耳穴にフィットするよう設計されています。耳栓のように耳を塞ぐのが嫌、違和感があると言う人には、AirPods 4は向いてるかもしれません。一方で、多くの人の耳の形状にフィットするよう改良されていると言うことですが、イヤーピースで調整できる余地がない分、「どうしても合わない」と言う人が出てくるのは否めません。
補聴器機能の真価は
今回の発表でアップルは、AirPods Pro 2において難聴を予防するなど、聴覚の健康をサポートする機能を今秋に追加すると発表しました。米国、ドイツ、日本を含む100を超える国や地域でこの秋に利用可能になる予定とのこと。米国向けリリースでは「補聴器」(Hearing Aid)機能とあり、高額な補聴器を代替するのでは? という期待も寄せられました。
9月12日(現地時間)には、米連邦政府保健福祉省食品医薬品局(FDA)が、「AirPods Pro 2」で補聴器機能を提供するソフトを承認したと発表。米国では補聴器メーカーの株価が急落するという現象も見られました。一方で、補聴器機能と言ってもOTC(=over the counter)クラスの補聴器に分類されると類推され、専門医や技師が装着者に合わせて調整したり型取りするいわゆる「処方箋補聴器」クラスと異なり、ソフトウェアで聴覚を診断して聴力サポートの効果を自分で設定できるものです。
FDAが認証するのも、聴力検査機能と補聴器機能が追加されるソフトウェア(機能)に関してなのではないかと言うことです。聴力検査機能は、ユーザーがAirPods Proと接続したiPhoneまたはiPadで使える約5分の「直感的な臨床レベルの聴力テスト」としており、このテストで、軽度から中度の難聴であると診断されたユーザーは、AirPods Proの補聴器機能を利用できる(難聴でない場合と、重度の難聴の場合は使えない)というものです。テストで得られた聴覚プロファイルに基づいて、補聴器機能が自動的に利用可能になり、セットアップするとユーザーの聴力に合わせた調整が可能と言うものです。
むしろ、今回のAirPods 4シリーズで実現した、通話時に周囲の騒音を消す「声を分離」機能や、ANC搭載モデルやAirPods Pro 2で実現する「会話感知」機能が追加されることの方が日常で効果的だと思いました。また、補聴器的な機能ではないですが、ヒアリングチェックによって得られる聴覚のパーソナルプロファイルを使って、AirPods Proのサウンドをパーソナライズする機能にも注目です。難聴の度合いが小さい人や難聴がない人でも、個別の周波数で特定の調整を行なうことで恩恵を得られるのでは。
また、通勤時の地下鉄、自宅の芝刈り、スポーツイベントなど、「3人に1人は聴覚に影響を及ぼす可能性のあるレベルの大きな環境騒音に日常的にさらされている」という調査結果より、AirPods Pro 2を装着した状態で、大きな音を低減する機能、ユーザーが聞いている音の特徴を維持しながら、大音量の騒音にさらされるのを予防する機能も追加されました。
このような、時としてサングラスのように、時としてメガネのように、身体を保護したり拡張するための、常に身につけていられるデバイスということの意義の方が高いのではないかと思います。今でも「ライブリスニング」というiPhone や iPad がマイクのように働き、音声を AirPodsで聞くことができる機能があります。
アップルは、AirPodsやApple Watchなど、常に身につけているものから身体の情報、計測値の推移を検出し、異常が起こったり、急激な変動があった際に注意を促す健康管理の機能をはじめ、AirPodsなどで、外部からの大きな音などから聴覚を守ったり、騒音の中から必要な音を強調するなど本来人間が持っている体の機能を補助する機能を提供するなど、「常に身につけていることで身体機能をアシストする」ような世界を目指しているのかもしれません。将来的には、異なる言語の話者が、それぞれ自分の言葉で会話したとして、AirPodsが自動で翻訳して会話をサポートしてくれるようなこともありえるでしょう。
今回はベースラインを上げるアップデートに注力か
Apple WatchやiPhone同様、スタンダードモデルが大幅に進化した一方で、Proモデル、ハイエンドモデルが据え置きだったのが今回の発表で印象的でした。AirPods Maxに関しても同様で、USB-C充電に対応した「AirPods Max」が5色のカラーバリエーションで発表されただけでした。
ある意味今回(今年)は、ベースラインを上げる(最低スペックを満たす)ためのアップデートに注力し、ハイエンドモデルはApple Intelligenceなど「今後、当たり前になってゆく機能」をより効果的に活用するためのスペックとなるよう次回に持ち越し(既存ラインナップを継続販売しても十分最低スペックは満たせるということでもある)という選択と集中をおこなった可能性もあります。また、iPhoneとタイミングを一緒にしないで別のタイミングで発表、発売される可能性もありますし、来年のiPhoneと合わせてProモデルが一新ということもあります。いずれにしても、今回以上の機能強化が図られることは確実なので、新型の登場が非常に楽しみです。
補聴器機能の論争に考えたこと
余談ですが、今回の発表の後、「AirPods Pro 2が補聴器の機能を得て補聴器代わりになる、もう補聴器は要らない」と言ったある意味極端な意見が飛び交い、AirPodsの補聴器機能に万能感を抱くのはまだ早いというような意見に対しても、既得権益側の意見なのでは?(AirPodsが既得権益を破壊する)的な揶揄も出て、ハレーションが生じました。
筆者は、iPodが発売されてからずっと、ポータブルオーディオの楽しさや、イヤホン、ヘッドホンのレビューなど、ポータブルオーディオを楽しむ情報を発信してきました。一方で、ウォークマンが発売されてからずっと言われてきたことですが、長時間イヤホンで音楽を聴いていると耳に良くないとか、交通安全の面で悪い影響があるのでは? という懸念もあり、安全にポータブルオーディオを楽しむための情報発信も手がけてきました。時には、ヘッドホンメーカー、補聴器取扱店、アーティストなどを交え、音楽の楽しみ方や安全な視聴環境についてのイベントなども開催してきました。
難聴だけではなく、例えば耳に合わないイヤホンを使用することで耳や周辺の皮膚を傷つけて炎症を起こすなどの外傷のおそれもありますので、ポータブルオーディオと耳、聴覚の健康は切り離して考えられない重要なことだと思います。
難聴者の多くは、特に加齢性難聴に関しては、本人が聴覚の衰えを自覚していない、衰えを認めたくないという心理的なものなどもあり、聴覚をサポートする機器を使用しないまま難聴が進んでしまうということも問題になっています。聴覚の衰えは、認知症を進行させるなどの面もあり、適切なケアが必要ですので、今回、AirPodsなど普段から使用している機器に聴覚サポートの機能が盛り込まれたのは僥倖と言えます。
一方で、より進んだ難聴や、難聴の種類、症状によってはAirPodsの機能ではサポートできないものもあります。そのような場合には、医師のサポートのもと、個人に最適化された調整をエンジニアによって行うタイプのいわゆる「処方箋が必要な補聴器」を使用することもあります。幸い日本では、処方箋がなくてもこのレベルの補聴器を購入することができますが、聞こえの問題に対して適切な調整を行うのは難易度が高いので、結局エンジニアによる調整は必要になってしまいます。
難聴者に接する立場の方、例えば補聴器屋さんや耳鼻咽喉科の先生などによると、そもそも補聴器を求めてくるタイミングは、軽度、中度のタイミングではなく、コミュニケーションが成立しないレベルまで進行してからというケースが非常に多いということです。特に、加齢による難聴の場合はそれが顕著とのことです。今後、ウォークマン世代、iPod世代が年を重ねてゆく中で、身体拡張、ウェアラブルサポートデバイスとしてのAirPodsが、騒音から耳を守り、緩やかに聞こえをサポートしてくれることで、聞こえの問題に対して一定の効果が得られる可能性が示されたのは良いことだと思います。
あえて殊更に対立構造を生むのではなく、それぞれの機器がそれぞれの状況にフィットする、役に立つようになったことを歓迎し、多くの人が笑顔で過ごせる未来を目指すのが良いのではないでしょうか?
(執筆者: ipodstyle)
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