追い風吹く水産養殖業、科学とデジタル技術で収益性向上|カナダのWittaya Aquaがアジア市場拡大へ

カナダ企業Wittaya Aquaは、養殖科学とデジタル技術を用いて、水産養殖業界の効率性、収益性、持続可能性の向上を支援している。

同社はゲルフ大学で20年以上の長きにわたり水産養殖栄養学の研究に取り組んできたDominique P. Bureau博士により、同社は2018年に設立された。Wittayaはタイ語で「科学」を意味し、同社は文字通り水産養殖業界に科学をもたらしている。

Image Credits: Wittaya Aqua

そもそも水産養殖には大きな課題がある。水産養殖の歴史は浅く、陸上分野と比較して水産養殖には科学的進歩が少ない。同社によれば、陸上動物では100年以上の研究の蓄積がある一方で、水産養殖はサーモンで約40年間しか研究されていないとしている。(参考

さらには、牛、豚、鶏、羊のメジャーな4種類を中心に扱う陸上産業とは異なり、甲殻類や貝類まで含め膨大な種類の個体を扱う水産養殖は複雑な産業である。つまり水産養殖は、必要となる知識の幅が広いにも関わらず、それに相応する科学的進歩は十分ではないのが現状だ。

昨今ではデジタル化により多くの情報が収集されるようになってきている。しかし、そこから意味のある解釈を導き出すだけの科学的理論が水産養殖には欠けており、結果として大量のデータによる混乱だけが残っているとWittaya Aquaは公式ブログにて結論づけている。

この課題の解決に向けて、養殖業者からのデータの収集と解釈の支援をするところから同社はスタートした。当初の目標は、養殖業者がデータを一元化し、動物の成長に関するトレンドと洞察を「つなぎ合わせる」ことだったが、今ではさまざまな業者を支援するための幅広いプラットフォームが開発されている。

Image Credits: Wittaya Aqua

養殖業社が収穫量を正確に予測できるAquaOp Farm

良好に成長した魚を収穫するには、飼育環境と飼料(餌)を適切にあたえることが養殖では望ましい。それにはどうすれば魚がよく成長するのか、魚の成長パターンへの理解が不可欠となってくる。魚の成長パターンを理解することで、養殖業者は最適な飼育環境や飼料を知ることができるのだ。

成長パターンの客観的な指標には、数学的成長モデルが用いられる。

数学的成長モデルにより養殖場の魚の体重を把握できれば、その時点で必要とされる飼料量を正確な推定ができる。さらには、特定の時点の体重を予測できれば、目標体重(例:市場重量)に達するのに要する時間の逆算も可能かもしれない。(参考

現在、ADGモデルやSGRモデルなどの成長モデルが水産養殖業界では広く用いられている。しかし、このモデルにはまだまだ正確さにおいて問題があることについて同社は言及している

そのため同社は、Bureau博士の長年の研究に基づいた独自の成長モデルを使用した。下の図からバツで示された観察値を、同社のモデルが正確に予測していることが確認できる。(同社ブログより)

Image Credits: Wittaya Aqua

AquaOp Farmは、この成長モデルを搭載した養殖業社向けのプラットフォームだ。養殖業者は成長モデルの計算に基づき、養殖種の成長、飼料要求量、死亡率などをより正確に予測することができる。

養殖場のデータはセンターで一元管理され、過去の生産サイクルと比較しながら、将来的な生産シナリオをシミュレーションすることが可能だ。

さらには、種別や飼料や設備などのユーザーが見たいデータを見れるようにするカスタマイズ機能、体重を予測し、最適な成長のための飼料の推奨を得るなど、多くの養殖業者へのサポート機能がある。

Image Credits: Wittaya Aqua

データと科学に基づいて飼料生産を支援するAquaOp Feed

養殖業における重要な要素のひとつが、飼料の生産である。飼料はさまざまな原料を配合して作られるが、同社は徐々に飼料業者と原料業者の間に大きな知識ギャップがあることがみえてきたと綴っている。くわえて、飼料の栄養が養殖魚にあたえる影響について誤った情報が存在していたことも指摘。

この課題に対し、科学的データに基づいた正確な情報を提供し、原料業者、飼料生産業者、養殖業社までの飼料業界全体のより良い意思決定を実現するために新たなプラットフォームが開発された。それがAquaOp Feedだ。

Image Credits: Wittaya Aqua

AquaOp Feedには、すべての主要な養殖魚種に必要な栄養の要件、一般的な飼料の配合、原料の成分組成、さらには世界の主要市場における養殖生産量、飼料量、原料成分量の最新推定値を含んだライブラリーが搭載されている。これは、飼料業社が現在の配合を最適化することや、新しい魚種に適した飼料の調合に役立てることができる。

さらには、原料に関するデータを一元管理するデータベースや原料の経済的価値を計算する機能もある。このことで原料業社は、自社原料の情報をデータベースにアップロードして、世界中の飼料の配合に対して自社原料をどのように役立てられるか、その価値の発見や飼料業者への自社原料の訴求ができる。飼料業社は、入手可能な原料とその価格の情報を収集したり、原料購入後の原料のロットごとの調達先の追跡が可能だ。

AquaOp Feedは現在、日本も含めた世界中のさまざまな地域の水産市場の情報をカバーしている。

Image Credits: Wittaya Aqua

水産養殖のデジタル化を目指して

このように同社はAquaOp FarmとAquaOp Feedで、飼料原料業者から養殖業者までをカバーするプラットフォームを開発し、水産養殖業界全体のデジタルエコシステムの構築を目指している。

Image Credits: Wittaya Aqua

同社はすでに、280万ドルのシード資金調達を行なった。2023年にシンガポール進出後、アジア市場の拡大を目指していることが報じられている

Precedence Researchによれば、世界の水産養殖市場は2023年の2,990億ドルから2033年には3,556億ドルに達すると予測されており、同社にとって追い風となっている。

参考・引用元:
Wittaya Aqua
Tech Crunch
Precedence Research
(文・松本直樹

 

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