一人暮らし87歳母の賃貸探し、内見しても高齢者を理由にすべて拒否。ようやく出会えた物件は不動産会社の入居支援がカギに 名古屋
近年、一人で暮らす高齢者が増えています。親が高齢になると子どもの立場としては「できれば近くで暮らしてほしい」と考える人は多いはず。しかし、健康で身元保証人がいても、高齢というだけで賃貸への入居を断られてしまうことも多いようです。
そこで、高齢者と賃貸物件の実情とともに、独自の見守りシステムを取り入れて高齢者の入居をサポートしている名古屋の不動産賃貸仲介・管理会社、ニッショー 営業本部副部長の佐々木靖也さんに同社の取り組みについて聞きました。
千葉に一人で暮らす母親を愛知県豊橋市に呼び寄せることに……
以下は、2024年3月に千葉県の実家で一人暮らしをする母を自身が住む愛知県豊橋市の近所に呼び寄せたIさん(50代)の実体験です。
Iさんは、結婚して現在は愛知県豊橋市に居住中。お母さんは87歳になりますが、心身ともに健康で持病もなく、お父さんの死後は千葉の実家で一人暮らしをしていたそうです。
しかし、近所で仲の良かった知人たちが引越したり、施設に入居したり、亡くなったりしたことで、次第に寂しさを感じ、娘のIさんの近くで暮らしたいと思うように。お互いに家族で気を使うなどの理由から、Iさんと一緒に暮らすよりは「まだまだ元気だし、自分のことは自分でやりたい」と、Iさんの家の近くで入居できる賃貸物件を探すことになりました。
ところが、いざ部屋を探し始めるとなかなか住まいが決まりません。
最初はIさんが以前に世話になったことがある地元密着型の不動産会社に相談したのですが、紹介してもらった3 件はいずれも築40年を超える古い物件で、魅力的に感じなかったといいます。それでも、と内見に行った物件のオーナーはお母さんと同じ年代の人。最初は入居OKの返事をもらっていたにもかかわらず、その家族が年齢を理由に反対したことで入居を断られました。
「母は元気ですし、認知症の傾向もないと伝えたのですが、『お年を召していらっしゃるので』と言われるばかりでした」(Iさん)
他の2物件についても、不動産会社の担当者から「借りるとなると審査があるので、覚悟してくださいね」と言われ、Iさんはその対応が「事務的で冷たく」感じたそう。
Iさんのお母さんは、認知症の症状もなく、少し離れたスーパーにも歩いて通うほど自分のことは自分でできる健康な人。にもかかわらず、年齢だけで入居できる賃貸物件はなかなか見つからなかった(画像提供/PIXTA)
高齢者「受け入れていない」オーナーが約4割
しかし、Iさんが最初に相談した不動産会社だけが特別に不親切だったわけではないようです。65歳以上の高齢者に特化して入居できる物件を紹介している不動産会社、R65不動産が2022年9月に実施した調査では、不動産会社の4社に1社は高齢者が入居可能な物件が「全くない」と答えたのだとか。
また、2024年3月に同社が全国の賃貸オーナーを対象に実施した「高齢者向け賃貸に関する実態調査」の結果からは、高齢者の受け入れに消極的なオーナーが一定数いることがわかります。高齢者を積極的に受け入れている賃貸オーナーは19%に過ぎません。対して、受け入れていないオーナーは41.8%となっています。
賃貸のオーナーに向けたアンケート調査では、4割以上の人が65歳以上の高齢者の入居を受け入れていない(資料提供/R65不動産)
なぜ、高齢者が入居できる物件がないのか
なぜ、ニーズがあるにもかかわらず、高齢者の入居できる物件が少ないのでしょうか。
オーナーや管理会社が高齢者を断る理由として一番に考えられるのは、孤独死への不安でしょう。家賃滞納などの問題は、家賃保証会社を活用することで解決できるケースが多くありますが、孤独死の場合はそうもいきません。残置物撤去やその後の入居募集への影響など、問題解決までに時間も手間もかかります。
ニッショーの佐々木さんもこう話します。
「私たちのお客さまでも、『70代で元気だから』と話していた人が入居して3日目に亡くなられたケースがありました。一見、元気で何の問題もなさそうでも、心筋梗塞や脳梗塞など、何が起こってもおかしくないご年齢であることは確かです。
孤独死があった物件でも一定の条件を満たしている場合は事故物件には該当しないことが国土交通省のガイドラインで明文化され、告知義務はなくなりました。しかし世間の認識や感情の問題は制度の整備と同じようにはいきません。トラブルを避けるために告知する方針をとっている不動産会社が多いため、孤独死が起きることで貸しにくくなったり賃料を下げざるを得なくなったりすることを、オーナーさんが憂慮するのは仕方のないことでしょう」(ニッショー佐々木さん)
一方で「高齢者の入居を拒まない不動産管理会社に物件を管理してほしい」と考えるオーナーは先のR65不動産の調査によると4割以上。現在高齢者を受け入れていなくても、「不動産会社などのサポートがあれば受け入れたい」と考えているオーナーも25%以上います。
オーナーの約4割以上が「管理会社などのサポートがあれば高齢者を受け入れたい」と答えている。高齢者を受け入れていないオーナーも、25%は不動産会社がきちんと管理してさえくれれば、高齢者を受け入れてくれる可能性がある(資料提供/R65不動産)
これは高齢者受け入れのためのシステムやサポートがあれば、高齢者入居可の物件が増える可能性もあるということではないでしょうか。
名古屋の不動産管理会社ニッショーが高齢者の入居を支援するワケ
健康上の問題もなく、近くに住んでいるので見守りもできるのに、高齢だというだけで断られてしまう。この現実に直面したIさんは、ほかの不動産会社にも相談してみようと夫の単身赴任時に縁のあったニッショーを訪れました。
Iさんは、最初の不動産会社での経験から住まい探しは難しくなるだろうと思っていましたが、ニッショーの担当者から「大丈夫ですよ、何とかしましょう!」という言葉をもらえて、大変心強かったと振り返ります。
結果、Iさんが1カ月以上はかかるだろうと覚悟していた住まい探しは、2週間で終わりました。紹介されたいくつかの物件の中から、ニッショーが管理する築20年ほどの2LDKの物件にスムーズに決まったのだそう。Iさんは「母にキレイで広く、お風呂やコンロの設備も充実している理想の部屋に入居してもらうことができた」と嬉しそうに話してくれました。
そもそもニッショーが高齢者の入居を積極的に支援していこうと舵を切ったのは2016年ころ。超高齢化社会を迎えるにあたり、世間では「サ高住(サービス付き高齢者住宅)」が話題になっていましたが、富裕層以外で高齢者が入居できる物件はまだ少ない時期でした。
「一人でも多くの高齢者が入居できるように、私たちが管理している物件を使って何かできないか、と考えたのがきっかけです。しかし、そのためには物件のオーナーさんに、高齢の方に貸すことを理解、承諾していただかなくてはなりません。無責任にお願いするだけでは、何か起こったときに問題になります。会社として、きちんとサポートするシステムや体制が必要だと考えたのです」(ニッショー佐々木さん)
ニッショーが高齢者の入居に取り組み始めた2016年頃は、サ高住が話題になる一方、高齢者が入居できる賃貸住宅はほとんどなく、あっても古くて借り手が見つからない物件など、選択の余地があまりなかった(画像/SUUMOジャーナル編集部)
高齢者の入居支援を「オーナー負担ゼロ」で実現
ニッショーは、入居する人の安否を毎日確認し、何かあった場合に駆けつける「シニアライフサポート」を導入することでオーナーと高齢者が安心して入居できるように後押ししています。65歳以上の人が入居を希望する場合には賃貸契約書でサポート加入を義務付け、入居者が機器の設置などにかかる初期費用3万円+税を負担します。月々のサービス料6600円ほどは家賃と一緒に口座から自動で引き落とされる仕組みです。
ニッショーが導入しているシニアライフサポート。65歳以上の入居には加入を必須とすることで、孤独死のリスクを減らすことができる(画像提供/ニッショー)
これまでは、このような見守り機器を導入しようとすれば、オーナーが設置費用を負担するのが一般的でした。その費用負担がゼロになるので、多くのオーナーに受け入れられたのです。
「万が一、入居者が亡くなり未収賃料が発生しても、家賃保証会社が死亡した月の家賃をカバーする契約です。お身内や緊急連絡先の方がなく残置物がある場合は撤去・明け渡しまで家賃保証会社が行うため、オーナーさんの経済的・心理的・物理的な負担は少なくなります。そもそも、シニアライフサポートを導入しているので万一があった際にも早期発見が可能で、特殊清掃(遺体の発見が遅れ、遺体の腐敗などによりダメージを受けた室内を原状回復するための消臭、汚染除去など、特別な清掃)が必要になることは、まずありません」(ニッショー佐々木さん)
自分が貸す部屋が事故物件になることを望むオーナーなどいませんから、回避できる可能性が高いこのようなシステムは、オーナーにも好評です。多くの不動産会社で高齢者に紹介できる賃貸物件が少ないなか、ニッショーが管理する高齢者入居可の管理物件は、なんと3000棟近く(2024年6月時点)になりました。
シニアライフサポートは入居者が設備費等を支払うため、オーナーに負担はかからない(画像/SUUMOジャーナル編集部)
シニアライフサポートは、賃貸物件の契約後に都度、見守り機器を設置するため、高齢者でも入居できる物件が限定されません。先に触れた家賃保証会社への加入も必須とすることでオーナーだけでなく入居を検討する人にとっても、多くの選択肢の中から自分の希望に合った部屋を選べるメリットがあるわけです。そして不動産会社にとっても、自治体の支援や補助金などをあてにせず、独自に継続していけるシステムと言えるでしょう。
Iさんにとっては、お守りのようなものだと話します。
「このサポートに加入しているおかげで、今のところ母の暮らしに心配はありません。毎日午後1時に自動音声の電話が母に入って、母はボタンを押して切るだけ。すると私のところに『お母さんは元気です』と連絡が来る仕組みです。お風呂のところにも人感センサーがついているので、母が通るたびに元気に動いていることがわかるので安心できます」(Iさん)
また、Iさんのように家族が近所に住んでいなくても、安否確認が取れなかった際には、駆け付けの依頼ができるので遠くに住んでいても安心です。
さらに、このような取り組みを行うことは、ニッショーにも大きなメリットがあったといいます。
「管理する物件は空室が減り、多くのお客様に喜んでもらうことができ、このような取り組みをしている会社だという認知度が上がりました。社員の採用や自社の業績向上にもつながっています」(ニッショー佐々木さん)
オーナーにとっては空室対策になり、高齢の入居者は住まいを選べるようになり、ニッショーも成約数が上がる、win-win-winの仕組みといえる(画像提供/ニッショー)
これからの日本では世帯数人口が減少していくことが確実な中で、いかに空室を減らし、賃料を得ていくかはオーナーにとっても切実な問題です。高齢者を積極的に受け入れていくことは、その一つの解決方法でもあるはず。オーナーに負担をかけず、孤独死などのリスクを減らせることは、高齢者が入居できる賃貸物件の増加に大きく役立つに違いありません。
このような、入居希望者やオーナーに喜んでもらいながら業績アップにつなげていく取り組みが、当然の企業活動として全国的に広まっていくと良いですね。
同時に、これからの課題だな、と思うのは、年金生活をしている高齢者の中には、見守りサポートの費用負担や緊急連絡先確保が難しい人もいるだろうということ。そして、入居者がさらに年齢を重ねたとき、どうなっていくのだろうということも気になりました。
行政と連携した助成金の利用や、単身高齢者が一人で暮らせなくなったときの次のステップについて話し合っておくことなども視野に入れて、社会全体の仕組みをさらに展開・進化させられるよう一人ひとりが考えていきたいものです。
●取材協力
・株式会社ニッショー
・ニッショーの高齢者見守りサービス「シニアライフサポート」
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