独Axel SpringerがスタートアップElevenLabsと提携、AI吹き替えでグローバル市場にリーチ
5月16日、ドイツメディア大手Axel Springer社発行のタブロイド日刊紙「BILD」は、AI音声スタートアップのElevenLabsとの提携、英語でのポッドキャスト配信実施を発表した。実際の吹き替え音声は、ElevenLabsサイトのブログ記事から試聴可能だ。
ElevenLabsは、感情豊かで自然な合成音声を生成するAIモデルを開発。日本語を含む29言語に対応した同社の「AI吹き替え」ツールは、話者の声質や話し方を維持したまま、異なる言語間で音声を翻訳できる。
BILD側はドイツ語話者約1億3000万人にくわえ、およそ15億人の英語話者というグローバルな聴衆へのリーチがAI吹き替えによって可能となる。
ドイツ語の人気ポッドキャストを英語で展開
両社の合同プロジェクトの第一弾として、国際的にも人気の高いドイツ語コンテンツ「RONZHEIMER.」と「FC BAYERN INSIDER」の英語版を配信開始。合成音声を用いたエピソードには「AIによる音声」と明記し、自社サイトBILD.deをはじめAmazon MusicやApple Podcast、Spotifyなど各ポッドキャストポータルの専用プレイリストに掲載する。
今回の提携について、両社は次のようにコメントを発表している。
BILD社CEO、Claudius Senst氏:
「我が社はAIを活用し、ジャーナリズムを強化しデジタルリーチを拡大する可能性を積極的に探っている。ElevenLabsとの協業により、パーソナライズされた音声でどのようにコンテンツの魅力を高められるか、英語圏のオーディエンスに向けて試していきたい」
ElevenLabs共同創業者Mati Staniszewski氏:
「BILDのポッドキャストが言語の壁を越えてグローバルにリーチできるようになり、アクセシビリティが向上する。私たちのAIは翻訳時に話者の声と話し方を維持するため、クリエイター本来の特徴を活かしつつ母国語で楽しめるようになる」
急成長するAI音声市場、伝統メディアとスタートアップの提携加速
Axel Springer社は創業78年の歴史を誇る老舗だが、AI技術を積極的に取り入れている。2023年12月にはOpenAIと提携し、大手新聞社として世界で初めてChatGPTへの自社コンテンツ提供を発表。AIの台頭に否定的な見解を示す伝統的メディアが多いなかで、AI活用ジャーナリズムの可能性を探る数少ない企業だ。
BILDは、Axel Springer社が自社開発したテキスト読み上げアプリ「aravoices」も活用し、月間200万ストリームを超える人気コンテンツを配信。BILDだけで年間4万本もの記事音声化を実現している。ElevenLabsとの提携でブランドボイスをさらに拡張し、英語圏リスナーの開拓を目指す。
他方、2022年に創業したばかりのElevenLabsは、リアルタイムの多言語音声変換やリップシンク、複数話者への対応など、高度なAI音声合成技術を有するスタートアップだ。IT先進国であるポーランド出身の若い技術者2人がニューヨークで起業した。
両社の取り組みは、AI音声の技術進歩と市場拡大を背景としている。Grand View Researchの報告によると、世界のAI音声クローン市場は2022年に14億5000万ドル規模に達し、2023年から2030年にかけて年平均26.1%の成長が見込まれている。
AI音声市場が急拡大するなか、BILDのような大手メディアとElevenLabsのようなAIスタートアップの提携が増えている。「伝統と新興のハイブリッド」によって多方面での可能性を広げ、AIの力でグローバルなリーチ拡大を図る動きが加速しそうだ。
実際に、AI導入に積極的なAxel Springer社の2023年度上半期の売上高は前年同期比で1.4%増の19億ユーロ。デジタル部門が全体の85%を占め、厳しいメディア市場環境にも関わらず先端技術を取り入れることで成長を遂げている。
(文・嘉島亜麻実)
ウェブサイト: https://techable.jp/
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