クリーンでフェアな水素エネルギーで業界をディスラプトするスイス発Neology

4月27日から東京都が開催しているSusHi Tech Tokyo 2024。5月15・16日の2日間にはグローバルスタートアッププログラムが東京ビッグサイトで行われ、世界各国から400社近いスタートアップが集まった。

イノベーション大国であるスイスのパビリオンで、同国スタートアップNeologyの設立者兼CEOであるAris Maroonian氏に話を伺った。Neology社は、アンモニアをエネルギーキャリアとして活用し、クリーンでフェアなエネルギーソリューションを提供するスタートアップだ。

車両や船舶にアンモニア分解装置を搭載、水素に変える

――「Neology」ですから、新しいエネルギーということですよね。
 Maroonian:はい、Neologyはより低価格かつより容易な方法で水素を作る方向を提案しています。つまり、アンモニアをキャリアとして使って水素が必要な場所に運ぶシステム(AHGS:Ammonia to Hydrogen Generation System)です。

Image Credits:Neology

私たちが開発しているのはアンモニア分解装置。こちらはミニチュアで、実物はもっと大きくて冷蔵庫くらいになります。(車両デモンストレーターの画像を示して)このボックスの中にあるのがリアクターなんですが、これが当社の技術です。それ以外の電圧・圧力制御盤、アンモニアタンクなどは既存のものです。

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これをトラックなどの大型車や船、電車に搭載して、その(乗り物の)上で直接アンモニアを分解して水素を作ります。アンモニアは液体で運びやすくエネルギー密度も高いし、水素と違って爆発しないので。水素と同じで炭素を排出しません。アンモニアはNH3ですから、エミッションがまったくない。燃料電池に入れたら、水しか出ないんです。

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主要な水素生産拠点はアフリカやオーストラリア

――クリーンエネルギーですね。
 Maroonian:そうです。クリーンでサステナブル、アフォーダブルなエネルギーです。

日本の政府やいろんな日本企業には、水素の需要はあるんです。ただ、日本ではそんなに水素を作れない…スイスも同じ課題を抱えているんですけど、場所がない。(水素を作るための)太陽光発電や風力発電は、最も効率が高い所でやります。基本的にはアフリカやオーストラリアなど南半球の方で水素を作って、消費地まで輸送しなくてはならないんです。

その時に、水素ガスをそのままでは運べません。大量に必要だと、ものすごい体積になるんです(大気圧下で1リットルあたり90mg=0.090キロ/立方メートル)。そこで、輸送方法のひとつがアンモニアにして運ぶというもの。日本に持ってきてから、アンモニアをそのまま使うか水素を取り出す。それが、当社がやっている技術です。

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――オーストラリアやアフリカが水素生産のリーダーという状況なのでしょうか。
 Maroonian:水素は広いところ、オーストラリアやアフリカなど土地が多い場所で作るので。あとは、水と太陽と空気があれば水素を作れるし、窒素と水素でアンモニアも作れます。水素は水から、窒素は空気から得られ、この二つでアンモニアを作れる。当社ではその反対のプロセスでアンモニアを分解して、水素や窒素も作るんですけど、そこから水素を燃料電池に入れたら電気と水が出てくる。だから完全にエミッションフリーです。

アンモニアを肥料ではなくエネルギーとして活用

――アンモニアと聞いて思い浮かぶのは「尿」なんですけど、有用な物質だったんですね…
 Maroonian:アンモニアは臭いし、毒性もあります。これまでは、アンモニアは基本的には水素ではなく窒素から肥料として使うために作られてきました。

地球上にこれだけ人間が存在できるのは、アンモニアのおかげなんですよ。アンモニアがなかったら、こんなに早く食料を作れません。「おかげ」という言い方でいいのか分かりませんが(笑)、アンモニアが大量にあるおかげで、人類は食べられるんです。今後もアンモニアは肥料として使われるでしょうが、当社はエネルギーとしても使っています。

――アンモニアの分解技術自体は以前からあるものですよね?
 Maroonian:プロセスとして新しくはないです。当社が新しくやっているのは、触媒を使ってメンブレンを組み立てたシステムですね。その最適化を見つけて装置を開発したのが新技術です。

基本的にはでかいプラントや大規模な建屋などでやるようなことを、冷蔵庫サイズの誰でもエネルギーを買える・使えるようなシステムを展開しています。誰でもといっても(一般消費者ではなく)基本は企業向けで、重工業の分野などで使われるものです。

アイデアはトヨタの燃料電池車「MIRAI」から

――起業はいつ頃で、きっかけは何でしたか?
 Maroonian:アイデアを思い付いたのはトヨタの社員時代ですが、このスタートアップを始めたのは2022年末です。2年で頑張ってチームを作って開発しました。日本はやっぱりアンモニアや水素への興味が高いし、私はもともとトヨタ勤務で日本にはよく来るし、妻も日本人。日本とのつながりはいっぱいあるので、何かできるんじゃないかなって思ってます。日本でのクライアントはまだいませんが、私は日本語もできますし、いつでも日本に来ますので(笑)。

日本へは、大学卒業後にスイスの1年間のプログラムで来ました。3ヵ月日本語を学習して9カ月は研修するというものです。奈良県にあるトヨタグループの企業ジェイテクトに勤務して、その後、ドイツのトヨタガズーレーシングヨーロッパで勤務しました。

――アイデアはトヨタ時代からあったんですね。
 Maroonian:トヨタで勤務していた時に、燃料電池の車「MIRAI」を見ました。これはすごい、なんでもできると思ったんですが、やっぱり水素の運搬・貯蔵に課題が残っていました。それで、どうしてトヨタではこの問題に取り組まないんですかと聞いたら、「うちは車しかやらない」と。それは当然ですよね。その時にじゃあ、何ができるのかいろいろな人や大学から話を聞いて。こういう技術ってないんですよねということが分かって、やっぱり自分でやりたいと思い独立しました。

Neologyがうまくいったら将来的にはトヨタと提携する一緒に協力するとか。同じ水素の未来を担えるかと思います。これは私の「夢」ですね(笑)。

安価でフェアなエネルギーで業界を変革

――将来的には提携の可能性もあるんですね。やっぱり環境負荷を下げるのが目的ですか?
 Maroonian:そうです、ビジョンはデカーボニゼーション。CO2を減らす。それともうひとつ、エネルギーをクリーンで誰でも安く使えるものにしたいと思っています。それが水素、アンモニアのことなんです。Fossil fuel…石油から離れたくても、方法があまり多くない。そのうちのひとつが水素ですね。

特に今、ロシアとウクライナのようにエネルギーが原因で戦争が起こっていますよね。でも、水素やアンモニアは水と太陽があれば誰でも作れるフェアなエネルギー。だから当社は、いろんなエネルギー企業から、あんまり…あのーまあ…

――歓迎されていない?
 Maroonian:というのもありますね、はい(笑)。市場をdisturbしすぎて。それがスタートアップの目的でしょう? 今のスタンダードをちょっとdisruptする。一方で、アンモニアの業界はこれを見て、エネルギー業界に入れるということもあるので。まあ、業界や市場が変わるということですね。

――エネルギーの民主化ですね。

 Maroonian:revolutionize、そうです。「Revolutionizing Hydrogen Supply」です(Neology社サイトトップにある言葉)。

Image Credits:Neology

ディスラプターとして業界を変革するNeologyは、現在シードラウンドで投資家を探している。また、現在交渉中の4社のうち1社は日本企業ということで、近い将来日本でも同社のシステムを目にすることになりそうだ。

引用元:Neology

SusHi Tech Tokyo 2024

(取材/文・Techable編集部)

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