【オフィシャルレポ】筋肉少女帯、超満員のWアニバーサリーライヴで魅せたノスタルジーを超えた説得力ある音世界
お祝い事は多いほうがいいと、デビュー35周年に名盤『レティクル座妄想』の発売30周年を加え、Wアニバーサリーの記念盤として5月8日には『医者にオカルトを止められた男』をリリースした彼ら。それと連動して開催された本公演では、タイトルが示す通りセットリストの大半を『レティクル座妄想』の収録曲で構成しながらも、音楽シーンの第一線で35年以上も戦い、生き抜いてきた彼らだからこそのノスタルジーを超えた説得力ある音世界で、満員のオーディエンスを魅了し尽くした。
実験的な作品が多い筋肉少女帯の作品ラインナップの中でも、ボーカルの大槻ケンヂ自身が「最も実験的」と評する『レティクル座妄想』。自分を拒絶する“ここではないどこか”や“今ではないいつか”への強烈な希求と、その“ノゾミ”を“カナエ”る彼岸への猛烈な憧れ、それらすべてを司る“妄想”への熱烈な信奉と冷めた疑心が渦巻き、不可解な物語で魅了する本作は発表時一大センセーションを巻き起こした。それから30年、当時のアルバムツアーでも使用していたというFrankie Goes To Hollywoodの「Two Tribes」をオープニングSEに登場したメンバーを、推しメンカラーのペンライトで色とりどりに輝くフロアが出迎える光景は、まさしく時の流れを感じさせるもの。そしてサポートメンバーの三柴理(Pf)と長谷川浩二(Dr)を交えた6人で一発音を鳴らして喝采を浴びると、『レティクル座妄想』の幕開けと同様に「レティクル座行超特急」の衝撃的なSEが響き渡り、長谷川のドラムがリズムを刻み始め、沸き立つオーディエンスを乗せて遂に30年ぶりの超特急は走りだした。分厚いユニゾンは30年もの間メンテナンスを欠かさなかった車輪の巡りを彷彿とさせ、さらに “オイ!”とフロアから上がるペンライトの光は石炭代わりの燃料となって、レティクル座への運転スピードを加速させていく。しかし、その最中では、この世で愛されなかった少女の呟きにメンバーが代わる代わる“妄想だよ”とささやきかけ、大槻のアナウンスが最後通牒を突きつけるのだから容赦ない。車輪の回転速度を表すかのように演奏のBPMもグッと上がり、破滅的な結末へとフルスピードで突き進んでいく恍惚感は凄まじく甘美で、曲が終わると拍手喝采。人間の抗いがたい“業”を、たった1曲で浮き彫りにしてみせる。
2曲目の「ハッピーアイスクリーム」でも、音の一つひとつがピタリと噛み合った極上のグルーヴと互いへの信頼感に満ちたバンドパフォーマンス、そして可愛らしいピンクの照明で、死んだ少女の蘇りを華やかに彩るというギャップが痛快。“死ぬか?「死ぬわ」”と“怖い「平気」”のコール&レスポンスも熱く、死に対するどうしようもない恐怖と憧憬という人類発祥以来変わらぬ一大テーゼを、エンタメに昇華してオーディエンスとの一体感へと落とし込んでいく手腕には惚れ惚れとするばかりだ。そして、年月の積み重ねが楽曲の感じ方をも変えてしまったのが「蜘蛛の糸」。学習教材のCMでも印象的だった“大丈夫”のリフレインに振られるペンライトの光や練り上げられた演奏から感じられるのは、詞世界に綴られた悲愴や憤怒ではなく、むしろ勇気にも似た温もりだ。それは本来“大丈夫でない”ことを前提に疑問形で発せられた“大丈夫”が、この35年を生き抜き、我々の目の前に勇ましく立ち続けている彼らが放つことによって、真の“大丈夫”として響くからだろう。その思いは、続く「香菜、頭をよくしてあげよう」でも、さらに強くなることに。着席でアコギを爪弾く橘高文彦(G)らの厚みある演奏に、「どうもありがとう!」と客席のペンライトに合わせて大きく手を振る大槻の歌声は実に温かい。この曲も微笑ましい男女の関係を描いているかと思わせて、しっかり“終わり”が前提になっているが、そもそも筋少楽曲の救済力の高さは終わりを直視しているからこそ。その温もりは慈悲にも似て、時が経ち、バンドが経験を重ねるほどに輝きを増している。
ここで「今日は今年初めての筋肉少女帯のライブ!」と、本城聡章(G)が「LIVE HOUSE」を歌唱するや、客席のペンライトは一斉に彼のカラーであるピンク色に。軽快な手拍子に乗って豪快に歌う本城に橘高が下手から寄り添って速弾きソロをかませば、大槻もステージ上でペンライトを振って、和気藹々ムードを繰り広げる。その後のMCでも『レティクル座妄想』をリリースした頃の思い出話に花が咲き、当時タレント活動も活発だった大槻が自身のやや自己中心的だった挙動を省みてメンバーに頭を下げ、会場の笑いをかっさらうシーンも(笑)。そして『木曜スペシャル』然としたスリリングなイントロからは新曲「医者にオカルトを止められた男」へとなだれ込み、“アイドルの握手会”を舞台に取った筋少らしい奇想天外な物語の序章を、ブルージーなバカテクプレイにオーディエンスの合いの手やクラップも交えて、ユーモラスに奏でていく。『レティクル座妄想』のサイドストーリーとして作詞された本作は、内田雄一郎(B)による「ラップ」(by大槻)など新たな試みを為しつつ、「蜘蛛の糸」イントロの笑い声など過去楽曲のさまざまな要素が盛り込まれた温故知新ナンバー。大槻が『月刊ムー』で連載している同名エッセイとも一人タイアップして、ここから如何なる音楽世界が展開していくか楽しみだ。
そんな期待をかきたてたところで、「医者にオカルトを止められた男」のカップリングにセルフカバー収録された2曲が前半戦のクライマックスを飾る。空へと飛んだ桃子について大槻が語り始めれば大歓声が湧き、続く“Woh~Oh~”の猛々しい声に拳とペンライトが振りあがったのは「さらば桃子」。分厚いユニゾンにツーバスが映える激メタルチューンで熱狂しながら、橘高のギターソロではフロアのペンライトが一面の青になる場面もあり、こんなアイドルライブ的な情景とヘッドバンギングが同居するのも、まさに令和の筋肉少女帯ならではの楽しみ方だろう。さらに、三柴がプレイする『エクソシスト』な冷たい音色からは「ノゾミ・カナエ・タマエ」へ。背筋の凍えるような空気の中で訥々と歌われる悲嘆と憎悪はステージの照明を寒々しい青から紅蓮の炎の赤へと変え、全メンバーの演奏にも投影されて重厚な響きで観る者の魂を鷲掴む。中でもステッキを手に、まさしく歌詞中の桃子のように朗々と歌い上げる大槻の歌唱は鬼気迫るもの。それまで垣間見せてきた温かみを擲ち、すべての血を流し切ってしまった無情な神の視点でひたすらな不条理を荘厳に演じ上げて人の心を震わせることのできる彼らは、やはり至高の存在だ。
大喝采を贈るフロアに「さらば桃子」を『ストリートファイターIIターボ』のCM曲として改変した「1,000,000人の少女」が流れ、しばしの休憩を挟んでのMCでは、現在の筋肉少女帯に対して「重厚感が出た」と橘高が納得の自賛。また「決めましたよ、バンドとしてのモチベーション……長生き」と大槻が語れば拍手が湧き、自身が「良い年になる」という再来年には「大きな会場でやりたい」と嬉しい言葉も伝えられた。その喜びを引き継いで、アコースティックな「愛のため息」をオーディエンスと共に歌い、優しく美しい時間を堪能しながらも、大槻が“ゆうべ一人の男が死んだ”と「ワダチ」の冒頭フレーズを呟けばフロアにはどよめきが。“大いなる妄想”という歌詞の通り鬱屈と歪んだ男の心情を荘重な音絵巻で描き出し、“闇に帰るならば”という印象的な文言に続くスネアドラムがカットアウトして大喝采を巻き起こす。この救いの無さこそ筋肉少女帯の真骨頂……!と痛感させたところで、ゆるすぎるメンバー紹介が始まるのもまた同じく筋少ライブの醍醐味に違いない。
「フランス語で」という大槻の無茶振りで内田が「Bienvenue(=ようこそ)」と誘った「パリ・恋の都」でも、合いの手を入れながらペンライトを突き上げるオーディエンスに、並んで愛器のネックを振る弦楽器隊など、亡霊との旅という喪失をはらんだ物語を楽しく描くヤバい光景にテンションは上がりっぱなし。大槻の「50を過ぎたらー?」という問いかけに楽器隊が「バンドはアイドル!」と応えての「50を過ぎたらバンドはアイドル」ではミラーボールが回り、50を過ぎてバンドを続けていられることの喜びを快活な演奏で軽やかに謳い上げる。さらに「楽しいことしかない」へと続くが、山あり谷ありを乗り越え、すべてを呑み込んできた彼らが歌う“楽しいことしかない これからは”と歌い切る文言の説得力たるや! 橘高のギターソロも晴れやかに、ステージに向かってきらめくカラフルなペンライトとクラップが大いなる多幸感をもたらしていく。「楽しいことしかない」は2021年の、「50を過ぎたらバンドはアイドル」は昨年2023年のリリース楽曲だが、歳を重ねないと表現できないエンタメもあるのだと、今の彼らは如実に教えてくれている。
そして三柴が前に出てマイクを握り、声と拳を振り絞るメタルチューン「ディオネア・フューチャー」で本編は終了。同じく拳を振り上げるオーディエンスは、サビに至ると手扇子でペンライトの花を咲かせ、あらゆる世代とカルチャーの融合たる景色を広げていく。その美しさに目を奪われていると、ペンライトと共に大きく手を振る大槻から「もう雨は上がってると思うよ。でも、気をつけて帰ってね!」と、豪雨のなか来場した人々を気遣う言葉が。ごくごく日常に息づく自然体とディープな世界観が、これほど違和感なく同居するアーティストが、果たして他に存在するだろうか?
おなじみの“問うならば!”の掛け合いで始まったアンコールの「サンフランシスコ」でも、各自のソロになると他メンバーがステージ上で“捧げる”仕草を見せるのが微笑ましい。一方で正確なリズム、弦楽器隊による厚み満点のプレイ、そこに壮大さを加える厳かなピアノ、哀愁の物語を綴る歌詞に喉が張り裂けんばかりに放たれる歌唱は、やはり筋肉少女帯の最高峰。互いを挑発するような橘高と三柴のソロバトルにつられてドラムビートも音量と速度を増し、観るたびに爆発力が高まっているという事実に戦慄を覚えざるを得ない。エンディングSEとして「レティクル座の花園」が流れると会場中が合唱し、終演アナウンスには拍手が起こったのも当然。橘高が「次のリキッドルームで35周年を締めて、36周年、新しい未来に一緒に行きましょう!」と呼びかけた通り、5月31日には恵比寿LIQUIDROOMでデビュー35周年の最終公演が、メジャーデビュー日の6月21日には豊洲PITで36周年の一発目として『#筋少の日2024』の開催が決まっている。「医者にオカルトを止められた男」のリリースに際し、大槻は「筋肉少女帯は現在進行形で実験的だ!ということです。多分」とのコメントを発表したが、筋肉少女帯が現在進行形で進化していることに疑問の余地はない。ノスタルジーを未来へと進む新たな動力源に変えて、彼らは歴史のバトンを36周年へとつないでいく。
TEXT: 清水素子
PHOTO: コザイリサ
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