高砂熱学が世界で初めて作った! 月面で水素・酸素を生成する機械「月面用水電解装置」
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アニメやファンタジー小説の世界が現実になるかも──。空調設備の開発・設計・工事・保守などを手がける高砂熱学工業株式会社が18日、月面で水から水素と酸素を生成する「月面用水電解装置」の完成報告会を開催した。今年冬に世界初の「月面での水素・酸素生成ミッション」にチャレンジする。
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「月面用水電解装置」は、宇宙スタートアップ企業・ispace(アイスペース)社がアメリカで今年冬に打ち上げ予定のランダー(月着陸船)に搭載される。
「月面用水電解装置」完成、2024年冬に月面へ
月に水が存在する可能性は、近年の研究で示されている。実際に水があり、「月面用水電解装置」が運用可能になれば、水素はロケットなどの燃料として、酸素は人が月面で生活するための空気として利用できる。月で暮らすことが現実になる未来が来るかもしれない。アニメやファンタジー小説の世界が現実になるかもしれないのだ。
今年1月、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の無人月面探査機・着陸機小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」が、日本初となる月面への軟着陸を達成。しかも史上初となるピンポイント着陸に成功したことで、科学的な「月」への興味が盛り上がったことは記憶に新しい。この着陸成功も後押しとなったようだ。
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高砂熱学・小島和人社長「将来は月面で人類が長期滞在」
報告会の場であいさつをした高砂熱学の小島和人社長は、約20年前から空調技術を応用し、水を電気分解することで水素エネルギーを生み出す装置の研究を続けてきた。なぜ月に? という疑問には「環境革新で地球の未来を切り開きたい」と語り、「将来は月面で人類が長期滞在するために、月にあると言われる氷から水を採取して水素と酸素を生成する。同ミッションはその第一歩」とコメントした。
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「水に電気を流して水素と酸素を生成する技術は、皆さんも中学生の理科の実験でご経験されているかな」と話す同社研究開発本部の担当部⾧・加藤敦史氏。ただ、重力が地球の6分の1の月では難易度が高くなる。「月に到達するまで半年から1年かかる。その間に振動や衝撃、真空などの環境にさらされる。地球からの命令など、なにをするにも一つひとつ時間がかかる」と説明。対応できる設計や運用法に数年をかけたと、ミッションの概要を説明した。
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トークセッションでは、今冬にHAKUTO-Rミッション2を予定しているispace社代表取締役CEO&Founderの袴田武史氏も登場した。「多くの国が月の探査に乗り出している。民間でもアメリカの企業が初めて月面に着陸することを成功させている」と話し、輸送ビジネスで「人間が宇宙に生活圏を築けるような世界を作っていきたい。将来的には月で仕事をして経済を作っていく世界ができるのではないか」とそのビジョンを語ってくれた。
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今回のミッションに「超純水」を提供する水処理用の機械製造大手である栗田工業・執行役員の鈴木裕之氏も「月では水素と酸素の生成もありますし、飲料水の供給もある。さらに、水にはいろいろな可能性があるので、H2Oを宇宙で究めていきたい」と思いを語る。今回のような他業種間の連携で、民間が宇宙開発に乗り出す事例は今後さらに加速していくかもしれない。
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ミッションを監修したJAXA名誉教授の稲谷芳文氏は、「この10年20年の間に、日本でも民間の宇宙活動を実際にやる人たちが登場し、さらに国が支援するという仕掛けが作られようをしている中で、民間ならではの新しい発想でやっていく世界をぜひ作ってほしい」とエールを送った。
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会場には実際に打ち上げられる「月面用水電解装置」と外観・サイズがほぼ同一のエンジニアリング・モデルや「月面を想定して開発した純水システム」「ランダー」が展示された。2024年冬に予定されている打ち上げに向けて、がぜん期待が高まってきた。
<集合写真左から>
・JAXA名誉教授・稲谷芳文氏
・株式会社ispace 代表取締役CEO&Founder・袴田武史氏
・高砂熱学工業株式会社 代表取締役社長・小島和人氏
・高砂熱学工業株式会社 研究開発本部 カーボンニュートラル事業開発部 水素技術開発室担当部長・加藤敦史氏
・栗田工業株式会社 執行役員イノベーション本部長・鈴木裕之氏
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