「高カカオチョコレート摂取による脳機能の効率化」明治と理化学研究所が研究成果を発表

「高カカオチョコレート摂取による脳機能の効率化」明治と理化学研究所が研究成果を発表

カカオポリフェノールを豊富に含む高カカオチョコレートを、健康や美容のために食べている人は多いのではないだろうか。これまでチョコレートやココアに含まれるカカオポリフェノールは、動脈硬化や高血圧予防、便通改善など、さまざまなエビデンスで健康効果が証明されてきた。今回、株式会社 明治と理化学研究所が共同研究で行った2つの研究において、高カカオチョコレートの摂取により、認知パフォーマンスの維持や脳活動の効率化に寄与する可能性が明らかになった。その研究成果発表会が2024年2月27日(火)、虎ノ門ヒルズフォーラムにて行われた。

はじめに、株式会社 明治 グローバルカカオ事業本部 本部長 萩原秀和氏が登壇し、「カカオの新たなエビデンスを紹介するのは、明治として約4年ぶり」と喜びを述べ、これまで明治が実施してきたカカオに関するエビデンス開発の歴史や、同研究に至った背景を説明した。同社はおいしいチョコレートづくりに向き合い続けて約100年、その中でチョコレートの主原料であるカカオの健康効果について研究をスタートして約30年となる。これまでの研究では、カカオポリフェノールを多く含む高カカオチョコレートの健康効果として、血圧が高めの人の血圧を下げる効果、善玉コレステロールの増加、便秘の改善などを実証してきた。これらの研究結果は徐々に世に浸透し、高カカオチョコレートの注目も高まり、高カカオチョコレート市場規模はこの2010年から2020年の約10年間で11倍ほど拡大したそうだ。そして最近は、20代~40代の購入率が増えていることを受け、これまでカカオの健康効果を中心に50代以上の中高年層に向けた研究を行ってきたところを、これからは若年層も含めた幅広い世代に向け、カカオのポテンシャルを追求したいとの思いから理化学研究所と新たな体制でカカオ研究をスタートしたという。

次に、理化学研究所 生命機能科学研究センター 客員主管研究員 渡辺恭良氏が登壇し、「脳疲労のメカニズムとその対策」について講演が行われた。1990年より慢性疲労症候群の研究など、長年疲労研究に携わってきた渡辺氏。成人なら6カ月以上、子どもなら1か月以上の疲労感が続く“慢性疲労”の割合は年々増加しているという。2016年から行われている疲労感の調査によると、最新の2023年では81.8%の人が疲れを感じており、特に20代~50代の働き世代が男女ともに疲労を感じているという結果に。その原因としては、現代人の特徴である、情報過多、オーバーワーク、睡眠不足、先行き不安などが考えられるそうだ。脳は使える活動容量(脳資源)に限りがあり、脳は体を動かしていない安静時も多くのエネルギーを消費していて、体のあらゆる働きを脳がコントロールしているため、体の疲れが起こる際、脳にも疲労が蓄積している。つまり、慢性的な疲労感の根底には“脳疲労”が関わっており、脳疲労の予防=脳を“省エネ化”することが重要となるのだという。脳疲労を改善、予防するためには「睡眠・休息を最優先した生活」「軽く体を動かす」「五感を使って脳を癒す」「疲労回復にいい食べ物を摂る」、そして「脳を省エネ化する」ということが挙げられる。同研究で示された高カカオチョコレートの摂取による認知パフォーマンスの維持や脳活動の効率化に寄与する可能性は、「脳の省エネ化」につながることが期待される。

ここから、理化学研究所 生命機能科学研究センター 客員主管研究員 水野敬氏より、今回「高カカオチョコレートの摂取による脳機能の効率化」を示すことになった、2つの研究内容が説明された。これまでカカオポリフェノールを含む食品が認知機能に及ぼす影響を示す論文は国内外で多く報告されているが、間食として適切な用量のチョコレートで認知機能の維持について報告した事例はほとんどないという。さらに、これまでは数日間や継続的な摂取で調査したものが多いが、同調査では単回摂取による調査が行われた。また、認知機能検査成績および自律神経活動が指標となる脳機能のうち、特に集中力(注意力)に及ぼす影響を明らかにすることを目的として行われた。

研究①~行動評価~
カカオポリフェノールを豊富に含む高カカオチョコレート(カカオポリフェノールとして635㎎)の摂取が課題遂行時の認知機能に与える効果を調査

高カカオチョコレートと低カカオチョコレートをそれぞれ摂取したあと、15分後と40分後の2回、信号機の色と文字を活用したストループ課題を行った。信号機の「青色」部分に「青」の文字が表示される場合(非ストループ試行)と、信号機の「赤色」部分に「青」の文字が表示される場合(ストループ試行)で、信号機の色に関わらず「青」という文字が出たらマウスを右クリック、「赤」が出たら左クリックをするという課題。信号機の色と文字の2つの情報の意味が不一致している場合判断が難しくなり、注意力が必要となる。

■試験概要
・被験者:22名
(平均年齢=35.4±8.2歳、女性11名、男性11名)
・2期クロスオーバー比較試験
・試験食品:チョコレート25g
高カカオ:ポリフェノール量635㎎
低カカオ:ポリフェノール量211.7㎎
・試験項目
認知機能(信号機課題)、自律神経機能、主観評価(VAS)

【試験結果】

・低カカオチョコレート摂取の場合、1回目より2回目の正答率が低下したが、高カカオチョコレート摂取の場合は、1回目と2回目の正答率に有意な変化は認められなかった。

⇒高カカオチョコレートの摂取は、連続的な認知課題遂行時の認知機能のパフォーマンスの低下を抑制したと考えられる。

・集中力について主観評価を調査した結果、高カカオ条件では有意な変化は認められず、低カカオ条件では有意に低下した。

⇒高カカオチョコレートの摂取は、課題遂行前後において集中力を維持したと考えられる。

研究②~脳活動解析~
カカオポリフェノールを豊富に含む高カカオチョコレート(カカオポリフェノールとして635㎎)の摂取が課題遂行中の脳活動量に及ぼす影響を調査

2つ目の研究では、高カカオチョコレートを摂取したあと、課題に取り組んでいる最中の脳の血流や活動状態を評価するための試験を実施。1つ目の試験と同様のストループ課題を行いながら、脳の状態をMRIで撮像・計測した。脳の前頭前野の中でも、注意や作業記憶を担う「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」、注意の抑制を担う「下頭頂小葉(かとうちょうしょうよう)」の状態を調べた。

■試験概要
・被験者:26名
(平均年齢=40.6±5.0歳、女性15名、男性11名)
・2期クロスオーバー比較試験
・試験食品:チョコレート25g
高カカオ:ポリフェノール量635㎎
低カカオ:ポリフェノール量211.7㎎
・試験項目
機能的MRI、認知機能(信号機課題)、自律神経機能、主観評価(VAS)

【試験結果】

ストループ課題で、信号機の色と文字の2つの情報が不一致だった場合、本来であれば注意のネットワークである「背外側前頭前野」と「背外側前頭前野」を一生懸命働かせないといけない状態になり、脳活動が高まることが予想される。低カカオチョコレート摂取の場合は、予想通り1回目よりも2回目で脳活動が増大した。一方、高カカオチョコレート摂取の場合は、むしろ1回目よりも2回目の活動の値が低くなり、課題の遂行に必要な脳活動を「省エネ」して行うことができたという結果となった。

⇒高カカオチョコレートの摂取は脳活動の効率化に寄与した可能性が高いことがわかった。

今回の2つの研究から、高カカオチョコレートを摂取することは、脳のパフォーマンスを維持させ、脳資源を効率よく使える、すなわち「脳の省エネ化」に役立つ可能性が見い出された。仕事や学習などで作業効率をアップさせたいときは高カカオチョコレートを摂取してみるといいかもしれない。高カカオチョコレートの可能性に今後も注目していこう。

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