「クリエイターの文法が明らかに変わってきている」リリー・フランキーと斎藤工が“異色のドラマ”制作現場を振り返る

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豪華キャストながら独特の空気感でも話題となった、ドラマ『ペンション・恋は桃色』が「season2」となり4年ぶりに帰ってきました。

2020年1月に発表された前シリーズは、リリー・フランキー、斎藤工、伊藤沙莉、細野晴臣といった超豪華キャストによる異色のハートフルコメディ作品。

ちょっと古いペンション「恋は桃色」を舞台に繰り広げられる“騒動”は観てみないとわからない、──いや、観ても少し説明が難しいけれど、なんだかずっと心に残る“物語”なのです。訳アリな珍客が織りなす人情ドラマで、個性的な役どころとしても作品を支えたのはリリー・フランキーさんと斎藤工さん。

リリー・フランキーさんからは「今までのモノづくりを振り返る作品になってる」といったコメントもありました。また、斎藤工さんは俳優でありつつ、これまでの監督・プロデューサー経験を活かしての本作参加とも言えます。

そんなお二人に、この唯一無二なドラマをクリエイター目線で振り返っていただきたいと思います。

独特のスケジュール感での集中力

──『ペンション・恋は桃色 season2』はインプロ(※アドリブなどを交えた即興的な演技。インプロビゼーション)による構成が多いとお見受けしたんですけれども、いかがでしたか。

リリー:実際にそんなにアドリブしてるかって言ったらそうでもないですね。

斎藤:(アドリブの)余白はいただきましたけど、本筋は結構緻密な台本として制作の過程を経てるので、そこは一応守っていたつもりではあります。

リリー:直前で「ここはもう言わない方がいいんじゃないかな」みたいなパターンはあったとは思うんですけどね。

──「合宿のような、部活みたいな日常を共にした制作現場」とうかがっています。合宿のように泊まり込んだ現場だったからこそ、前日の何気ない会話の流れを踏まえたり、あるいは当日その場で決めるといったような場面があったと。

リリー:それは多かったと思います。通常のドラマ制作の中では無いやり方だとは思います。

斎藤:そうですね。

──今回の現場では、足並み揃えないとなかなかできない部分、コミュニケーションが重要だったかと思います。

リリー:スケジュール的に2日しか居ない人や全部居る人が混在した、時間的な制約は各々ですごくあった現場でした。でも最初からその中で最大限やるっていう前提だったから、集中力は出ましたね。
そしてとにかく、スタッフのみなさんが優秀で、待ち時間ないんですよ! あと大体1発オーケーでした。

──脚本の余白も活かしつつ、スケジューリングのところでも、皆さんが集中力をもって、ギュッと縮められる力量があったと。

斎藤:そうですね。それがいいのか悪いのかっていうのは正直わかんないとこではあるんですけど(笑)

“自主ドラマ”の空気

リリー:ある意味、従来のドラマの方法論のように、(カメラ位置などを)決め決めで「こっち行ったらやっぱこっち側返して」っていうのを、もうやらなかった。そのやり方を逆に否定してるというか、新しいやり方をやろうとしたというか。

だから実は(ドラマの構造的に)説明不足なところもいっぱいあるんですよ。 もうちょっとここ寄った方がわかりやすいだろう、ってところがあったりしましたけど、そうはしなかった。“半舞台”みたいなドラマなんですよね。

──観る側としても、良い感じで補う余白のある、「いい空気」を感じました。

リリー:今、いろんな人が映像作品を作ることができるじゃないですか。学生がつくる自主映画というのはあるけど、“自主ドラマ”っていうのはない。今回のは自主ドラマに近いやり方になってるのかなと思います。皆さんも自主ドラマやったらどうです?

斎藤:自主ドラマ、いいですね。

モノづくりにおける「コミュニケーション」

──今回の作品の根底には、人との繋がりみたいなテーマもあったと思うんです。
コミュニケーションってできる方も苦手な方もいる。実はその裏返しが、こうしたモノづくりや創作だったりする側面もあると思います。

クリエイターにはコミュニケーションが得意な方もいれば、苦手な方ももちろんいらっしゃると思います。個人制作も楽しいんだけど、みんなでモノを作り上げる楽しみ、そこに行きつくために必要なこととかありますか?
モノを作る時の関わり合いの中で、こういう風にすると、これができるといいよ、みたいな。

リリー:ある程度人見知りの人の方が、なんか信用できますけどね(笑)。

斎藤:わかります。

リリー:だから、コミュニケーション能力がモノづくりに大切だって考え方も、疑問に思ったりします。「たくさんの人とコミュニケーションして、そこでの出会いが宝だから」みたいな意見もある一方で、僕は「果たしてそうかな?」と。

斎藤:広く浅いだけのこともありますしね。(世の中との関係性を)閉じるってわけじゃないと思うんですけど、(外部との関係性を)制限したり外にオープンにしない代わりに、スペックが 自分の中で身についていくっていうタイプのクリエイターの方たちが今、花開いてる時代な気もしますね。

リリー:昔みたいに、監督とプロデューサーが飲んでるからって俳優・女優が呼ばれて、そこで出会いやチャンスがあるかって言っても、果たしてそんな「チャンス」って昔から存在してたのかなって僕は思うんです。

斎藤:そうですね。

──コミュニケーションそのものを、過剰に崇める必要はないかもしれない。

リリー:「じゃあ、どうすればいいんですか」と、チャンスを待ってる人たちは言うのかもしれないけど、僕は「その時間に映画とか見た方がいいんじゃないですか」と思います。

クリエイターとして若い時の自分に言うとしたら


──そこはまさにお伺いしたいことのひとつなんですが、クリエイターを志す人たちに、「これをしといた方がいいよ」とか、ありますか? あるいはリリーさんや斎藤さんご自身が、若い時の自分にこれやっとくといいぞって、アドバイスするとしたら、今だったらどんなことを言いますか。

リリー:若い時の自分が、ゲームして麻雀して、ずっと寝てたこと考えれば、 まぁ、もうちょっと英語の勉強しといて、とかは思います。後々、大人になって困らないことはやっててほしいけれど、……でもまあ、最低限、映画の仕事をしていくんだったら、映画を好きになってほしいと。

斎藤:うん。

リリー:人との出会いが何かを作るというのは確かなことなんですが──お芝居ができる環境がなくて無尽蔵に人と会って疲弊していく時間があるんだったら、お芝居を観る環境を持っといた方がいいと思います。

僕もお芝居の勉強とかしたことはないけど、映画をずっと見ていたことに、今、助けられてると思います。

斎藤:今って「これが正解だ、これがルールだ」みたいに思ってたものが、「むしろ、ほんとにそれは良かったのか」っていう、 そういう時代に差し掛かっていますよね。コロナもあったりして、今まで足場を固めてきたものが、それで良かったのかっていうことを問いただされている。いろんなことが“ルール改正”の時期にあると思うんですよね。だからむしろ若い方のほうが、 僕から見ると新しい答えを提示してるように見えますね。

リリー:昭和の頃とかは、人に直接会って何かをもらわないと何かできない、ってのは確かにあったと思うんですが、 今は変なコミュニケーションするくらいだったら、本当、家でシコシコなんかやってる人の方が絶対なんとかなる時代だと思うんです。

斎藤:そうですね。

リリー:自分から発信できますからね。

「昔の方法論で物事考えない方がいい」

斎藤:『JUNK HEAD』の堀(貴秀)さんとか(※)、内側に向けてる人たちが光輝いてる時代。まぁ全部じゃないとも思うんですけど、明らかに文法が変わってきてる。
(※堀 貴秀:映像監督として、ストップモーション・アニメーション『JUNK HEAD』を、7年かけてほぼ1人で完成させた)

リリー:平成の時代に「オタク」って言われてたことが、今「作家性」って言葉に変わったようにね。

斎藤:そうですね。かつての自分は積み上げてきた歴史を信じすぎてるなぁ、っていうのは、今振り返ると思いますね。

リリー:今の若い子たちには「昔の方法論で物事考えない方がいいよ」っていうのは言いたいです。それはなんか、ジジイだから言えるアドバイスですね。 昔の方法論に振り回されてる人って、すごくかわいそうに思ってしまいます。

斎藤:うん。

──それでマウントしてくる大人もいますし。

斎藤:めちゃくちゃいますね。

リリー:それでマウントしてくる大人と仕事しても、1つもいいこと無いです。

忘れていたことを気づかせてくれたドラマ

──今回の作品では、雪が降ったり雨が突然降ってきたことを、アクシデントではなくイベントとして捉え、むしろ楽しめる視点を、現場のお二方含め、皆さんがお持ちだったと聞きました。

リリーさんは「撮っていて楽しい作品が初めてだった」ということを『ペンション・恋は桃色 2』の記者発表でもおっしゃってましたが、そういう風に、自由な心構えでいるために必要なことってなんでしょうか。

リリー:楽しいと思えるのは、もう理由はひとつですね。「仕事だと思ってない」ってことですね(笑)。

仕事だと思ったら、もう何事も楽しくないですから。だから、ある意味「短期留学」というか──自分の中でルーティーンになってることを1回バラしに行くっていう。

斎藤:はい、はい(笑)。

リリー:海外に行ったら、日本で気にしてることって「これ大したことないんじゃないのか」って思うことだってあるじゃないですか。

いや、時間が潤沢にあったら「雨が降るまで待ちましょう」にはなるんですけど。意外と降っててもアガり見たらそう大差なくない? ってこともあるわけで。そこに新たに「洗濯物入れなきゃね」ってセリフがあれば──

斎藤:成立しちゃう。あとは音を足したりすれば。

──限られた時間をうまく使うってところから来た発想ですね。

斎藤:照明部さん、ずぶ濡れになって大変そうだなとは思いましたけど。部署によって損とかあると思います(笑)。

リリー:だからこのドラマやってる時は、新しい気付きっていうか忘れてたことを思い出しました。

斎藤:おっしゃる通り。

リリー:なんか決まったルールの中でやらなきゃいけないっていう風なものになっちゃってたけど、「あ、これで良かったのに」って気が付く。

斎藤:そうですね。

編集への信頼感

──『ペンション・恋は桃色』という作品は、言語化の難しい不思議な雰囲気の作品だなって思っていましたが、今日のお話を伺ってすごく腑に落ちた部分がありました。

リリー:なんかほんと、『北の国から』みたいに普遍的なドラマとして続いていってほしいですけどね。

斎藤:奇跡的に、なんかわかんないけど、生き延びてほしいシリーズ。

リリー:ペンションの設定ってなんぼでも話できるんですよ。物語をお客さんが持ってきてくれる。

斎藤:そうですね。

──来年も再来年も観たい。

リリー:普通の設定だったらなかなか「サエキ」みたいな濃いキャラクター、登場できなかったりするけど、このドラマであれば、サエキが来ても不自然じゃないですもんね。

スピンオフでサエキの話が1本できる(笑)。

斎藤:1話2分ぐらいの短さで。

──早くみんなに見ていただきたいです。

斎藤:そうですね。特にサエキだけでも。

──いや、全部を!(笑)

リリー:なんかね、みんな、キャラ立ちがいいんですよね。 だからもうそこに目がいってくれれば、もうむしろ成功っていう。

でもやっぱ一番気を付けなきゃいけないのは、このやり方やっててチャチく見えないことなんですよね。これ、チャチく見えちゃったら元も子もないんで。

斎藤:クリエイティブチームの腕の見せどころだと思います。

リリー:あと、監督の編集能力っていうのにはすごく信頼してるんです。

斎藤:そうですね。

リリー:これ、エディットのやり方によっては、すごくチャチくなります。

斎藤:ヤバいですよ。結構危険な橋を渡ってる作品だとは思うんですけど(笑)、特に仕上げ。おっしゃるように、そこが担保されてるメンバーが集まってるから続けられる。

リリー:そうそう。だから、その(冒頭で話した結構過密な)スケジュールの中で、そんな感じでやるっていうのも、最終的にエディットに対する信頼があるからできる。

斎藤:そうですね。

リリー:それ無かったら怖いですもんね……。

斎藤:怖いです。「どう仕上がるのか」っていうことを考えながらだったらできない表現がたくさん、皆さんから生まれてるのは、 そこの安心感だと思いますね。

──『恋は桃色』の見どころの一つですね。そういったところにも是非、注目していただきたい作品です。今日はありがとうございます。

斎藤:ありがとうございます。

リリー:お疲れ様でした。

<ストーリー>
ちょっと古いペンション・恋は桃色。そのオーナー・シロウ(リリー・フランキー)と、娘・ハル(伊藤沙莉)、そして話が長くて気難しいバイトの青年、ヨシオ(斎藤工)。シロウは、ペンションの経営はあまり芳しくないが気にはしていない。ハルは、シロウに代わってペンションの切り盛りをしており、ほれっぽい性格や仕事を率先してやらないシロウはいつも突っ込まれている。ヨシオは話を小難しくとらえるところが周りから敬遠されがちだが、シロウやハルとの生活を通じて次第に心を開き、変わっていく。

楽しければなんでもいい。テキトーでいい。誰でも受け入れてしまうシロウの性格によって、どこかネジの飛んだお客が次々とおとずれる。そして今年の夏は、さらに変わったお客がやってくるのだ。

 4年に1度の夏になると東京から遊びにやって来る、ヒカリ(山口智子)。ヒカリの破天荒な様子が、新たな風をペンションに運んでくる。この変わりゆく時代に、不器用がゆえに時代にうまく融合できない彼らは、ペンション「恋は桃色」での生活を通してどう変わっていくのか?テキトーでのんびりなシロウたちが教えてくれるのは、我々が普段忘れかけている家族愛や思いやりを、改めて大切だと思わせてくれる物語、なのかもしれない。

■『ペンション・恋は桃色season2』(全5話)
配信:FODにて全話配信中
出演:リリー・フランキー/斎藤工/伊藤沙莉/山口智子/関智一/剛力彩芽
JOY/益子卓郎(U字工事)/眉村ちあき/大水洋介(ラバーガール) 他
スタッフ:
監督/脚本:清水康彦
主題歌:細野晴臣「恋は桃色(New ver.)」(ビクター/スピードスター)
挿入歌:グソクムズ「ユメのはじまり。」
音楽:細野晴臣/香田悠真
企画:橋爪駿輝
プロデューサー:鹿内植(フジテレビ)/小林有衣子(イースト・ファクトリー)
エグゼクティブプロデューサー:石井浩二(フジテレビ)/下川猛(フジテレビ)
制作著作:フジテレビ

■URL:
https://www.fujitv.co.jp/pension-koihamomoiro2/ (オフィシャルサイト)
https://fod.fujitv.co.jp/title/00fm [リンク] (配信ページ)

(C)フジテレビ

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オサダコウジ

慢性的に予備校生の出で立ち。 写真撮影、被写体(スチル・動画)、取材などできる限りなんでも体張る系。 アビリティ「防水グッズを持って水をかけられるのが好き」 「寒い場所で耐える」「怖い場所で驚かされる」 好きなもの: 料理、昔ゲームの音、手作りアニメ、昭和、木の実、卵

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