行き詰る相場優先内閣 -ミスリードする大手メディア-

行き詰る相場優先内閣 -ミスリードする大手メディア-

今回は脇田栄一さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

行き詰る相場優先内閣 -ミスリードする大手メディア-

株式市場も国債市場も荒い値動きが続いている。

新しい悪い金利上昇

株式市場に関しては、極端な割高とは思えないので、乱高下が続く中、特に慌てる事もない。気になるのは国債市場に関してで、メディア報道では「経済成長が好転したので金利上昇は当たり前」といったものが流れ、また、麻生財務相に至っては「債券から株式に資金がシフトしたので当然」といった(疑わしい)事を言っていた。

どちらの論調も、いわゆる「良い金利上昇」を指していると思うのだが、しかしまた、どちらの論調も的を得ていないように感じるのは自分だけだろうか? 現在の金利上昇は、教科書的な「良い上昇」でも「悪い上昇」でもないだろう、敢えて言うなら「悪い上昇」に決まっている。

ただそれは、財政ファイナンスの悪い上昇、という意味とはちょっと違っている。取引が何度も中止になるような金利上昇に、経済成長や資金シフトといった教科書的な根拠をはめ込むには無理があるというもので、現在の金利上昇はただ単に、黒田政策が国債市場に悪影響を及ぼしただけ、といえるだろう。
一言でいえば黒田バズーカが、国債市場に流動性リスクを与えただけ。良い金利上昇でも何でもない。日銀政策が市場に悪い影響を与えただけ、バズーカによって市場環境が脆弱になっただけだ。

2%インフレが起こるとはほとんどの人が思っていないだろうし、(その時にも突っ込んだが)麻生財務相の言う「資金シフト」なんて取って付けたような話にしか思えない。実際に株式は乱高下している。

金利1%を大したことない、という人がいるが、累積債務が拡大する中での1%と過去の1%は全く意味合いが異なっている。黒田総裁はプライド高く、軽率な人だが、その辺の深刻さはよく分かっている。それは、彼の狼狽ぶりから伝わってくる。問題は、事態の深刻さが分かっているのかどうかよく分からない、首相や財務相、いわゆる政治の方だ。

個人投資家のような安倍政権

円安と株高で浮かれていた安倍首相も、相場に関してはダンマリを決め込んだらしい。麻生財務相もそうだ。相場がトレンドを築いている時は、自分の手柄とばかりにペラペラとよくしゃべっていたが、旗色が悪くなるとコメントなし、というのは、ちょっと調子が良すぎるのではないだろうか?揚げ足を取られる事を分かっているからなのだろうが、この変わり身の早さは無責任だと言われても仕方がないだろう。

繰り返しになるが、全くと言っていいほど報道されない「物価」は下落し、給与は下がっている。「高額なものが売れている」といった偏重報道に走っている恣意的なメディア報道も今後どうなるかは分からない。自分たちが煽りに煽っていた株高に変化の兆しが見え始めたからだ。

ただし、冒頭で述べたように株式については割高とは言い難い。言いたいのは、市場の値動きに一喜一憂する相場優先内閣に歯がゆさを感じる、という事。その空気は個人投資家と変わらず、経済の事をどこまで本気に考えているのかよく分からない。 本気に考えているのかもしれないが、実はそうではないのではないか?と思われても仕方がないだろう。

アベノミクスの目的は金利を抑え込み、給与を上げ、物価を上昇させる事ではないのだろうか? 実際にはすべて逆をいっている。「タイムラグ」をもってくる人たちがいるが、その波及根拠は乏しく、効果ラグが存在するようにも思えない。 

さらに内閣発足当初は、「インフレ」を強調し、給与上昇についての言及はほとんど無かった。世論の空気を感じ取り、全ては受け身だ。 世論の意見を受け止める事は政治家として当然だとしても、自分が問題視しているのは、賃金インフレの話もそうだが、政策に対するその立案過程だ。デフレだからインフレ、株安だから株高、円高だから円安、とリップサービスというか、政策に対する考え方が世論受けの良いビジュアル先行になっており、立案過程に一抹の不安を覚えざるを得ない。きつい言葉でいえば、後先考えない人気取りのバーゲンセールをやっているようにも映る。

アベノリスクを膨張させる大手メディア

これには、今回の大手メディアによる印象操作が大きく関係している。彼らの論調次第で安倍政権はどちらにも転ぶ事になる。 発足当初から思っている事だが、政策の本質的意図を報じず、円安と株高をアベノミクスの成果や目標として位置付けるメディア報道に大きな問題があると言えるだろう。毎日のように株高を報じ、従来の政策目標であるインフレ目標や賃金推移は全くといっていいほど報じない。政権を、間違った方向に持ち上げ続け結果、批判を浴びるのはその政権自身になってしまう。

一方的に持ち上げた結果、政策目標が達成できなかった場合には、とことん叩かれる事になるだろう。黒田総裁は就任早々、窮地に追い込まれているようにも思える。メディアは金融市場ではなく、物価や給与、雇用、設備投資などに関し、相場に対してそうであるように「数字の議論」をすべきではないか。株高を取り上げるなとは言わないが、少なくとも、こちらの方を大きく取り上げるべきだろう。政策進捗状況をチェックし追究するという、メディアの使命ともいえるモニタリング機能は、今現在破綻している状態だ。

消費税が上がる頃、世間の空気はどうなっているだろうか?行き過ぎた偏重報道は、政権自身にとっても最終的には迷惑な話になる事だろう。

執筆:この記事は脇田栄一さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年5月27日時点のものです。

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