キングコングの監督がゴジラの部屋で若きクリエーターに教えてくれたこと
『ゴジラ-1.0』がヒットする中、キングコングの監督が来日しました。
『キングコング:髑髏島の巨神』を手掛けたジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督。この『キングコング:髑髏島の巨神』はハリウッド版ゴジラが活躍するモンスターバース・シリーズの1本で、この作品で再フィーチャーされたキングコングが後にゴジラと戦う『ゴジラvsコング』に繋がるわけです。(この『キングコング:髑髏島の巨神』は本当に怪獣映画としても、秘境冒険映画としても大傑作なのでぜひご覧ください)
今回、ジョーダン監督が来日したのは映画の宣伝ではなく、彼は東宝さんと集英社さんが手掛けている「東宝×World Maker 短編映画コンテスト」の審査員をやっており、その一環として、今回本コンテストのショートリスト(大賞候補)に残っているクリエータ―たちに映像作りのティーチインをするために来日したのです。
僕はこの「東宝×World Maker 短編映画コンテスト」自体には関わっていないのですが、『キングコング:髑髏島の巨神』で監督が来日した時にインタビューしたことがあるので、それが縁でこのティーチインの取材をしました。
まず「東宝×World Maker 短編映画コンテスト」とはなにか?
これは集英社さんの「少年ジャンプ+」編集部が提供しているアプリサービス「World Maker」のためのコンテスト。このアプリを使うと漫画ネームや、アニメ、映画、ドラマ、CMなど様々な映像コンテンツのコンテをつくることができるのです。
で、このアプリを使って映像作品(短編映画)の企画コンテを作って応募、大賞に選ばれた作品は、東宝さんで実写映画化されるわけです。
脚本コンテストとかありますが、これはコンテで企画を競い合うわけですね。
なので今回の応募者はコンテから映像を作ろう、というクリエーターたちです。
そんなに彼らに対し、ジョーダン監督がハリウッド流コンテづくりについて教えてくれるわけです。
実は僕自身、広告畑の人間なのでCM等を作る時、コンテ(絵コンテ)というのはなじみがあるんですが、日本の実写映画やドラマにおいてあまりコンテは使われないらしいんですね。これはジョーダン監督も自身がつくる映画がVFX(特殊視覚効果)等を使う作品が多いから、VFXチームにイメージを伝える意味でもコンテを使うことがいいと言っていました。言い換えればVFXをあまり使わない映画ならコンテの必要はないのかも、なんですが、
やはり映像作品で”いい絵”を見せたいならコンテは重要だろう、と。
それで今回、監督が言うコンテの概念は、大雑把にいうとコンセプトボート、ストーリーボード、プリビズがあります。コンセプトボートというのはその映画の世界観やハイライトシーンを現す1枚絵ですね。で、ストーリーボードというのはいわゆる絵コンテ。そしてプリビズというのは、ストーリーボードを元に実際アニメみたいに動く映像を作ってみる、というものです。
監督曰く、自分のビジョンを形にする、こういうシーンを撮りたいのだ、と形にするのがコンセプトアート。そしてスタッフやキャストに対して自分の目指すイメージや撮り方、演出方法を伝えるのがストーリーボード。で、さらにストーリーボードをわかりやすく伝えられるのがプリビズとなります。
今回は監督の代表作である『キングコング:髑髏島の巨神』を題材にティーチインしてくれたのですが、まずビックリしたのは実際完成した映像とプリビズの内容がほぼ同じだったということです。言い方を変えればプリビズの段階でほぼ映画の内容は完成されていて、実際の撮影はこのプリビズを頼りに作って行けばいいわけです。
こんな感じでジョーダン・マジックが続いていくわけですが、すごく興味深いのがジョーダン監督は日本のアニメや漫画、ゲームのファンらしい。従って実写映画でありながらもアニメのようなCOOLなカットや漫画の”見せゴマ”の概念がとりいれていることなのです。つまり実写でもありながらも、アニメっぽい撮り方、演出をしている。だからなおさらプリビズみたいなものが有効なんだなと思いました。
何が言いたいかというと、映画を志す人は尊敬する映画監督の映画を何度もみてカット割りとか演出を学ぶわけですよね。ジョーダン監督ももちろん映画から映画作りを学んだんでしょうが、日本のアニメ、ゲーム、漫画からも多くをとりれているわけです。
従ってこれからの映画監督というのは、映画だけでなくこうしたカルチャーのセンスもいるのでしょう。ということは子どもの頃からマンガ、アニメ、ゲームに浸ってきた日本人の若者から世界的な映画監督が生まれる可能性は高いのでは?
だから今回のコンテストが「少年ジャンプ+」と「東宝」という掛け合わせの中から次なる世代の映像クリエーターを発掘する、というのはすごく興味深いです。
ただジョーダン監督はプリビズが実際の映画作りには有用だと認めながらも、必ずしもプリビズ至上主義になってはならず現場での直観で「こうした方がいいだろう」と変えていくことも大事だと言っていました。要はプリビズどおりにこだわりすぎると”小さくまとまってしまう”こともあるのだと。このへんの塩梅がプロになって身に付けていくことなんでしょうね。
非常に面白いティーチインだったし、ジョーダン監督はNETFLIXと実写版ガンダムを作る予定があるらしい。彼ならアニメ的なケレン味をうまく活かした実写ガンダムを作ってくれるだろうなと思いました。
個人的に嬉しかったのは、まず会場が東宝の「ゴジラ会議室」。
ゴジラの部屋でキングコングの話が聞けたこと(笑)そしてジョーダン監督彼が手掛ける最新作(ガンダムではない)のさわりを見せてもらえたこと。詳しくは言えませんが来年配信予定のホラードラマ。すごく面白そうでした。期待が膨らみました。
(文/杉山すぴ豊)
写真向かって左から
「少年ジャンプ+」編集者 林 士平氏
ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督
東宝株式会社エンタテインメントユニット開発チームリーダー 馮 年氏
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。