メルカリの「ウチの実家」でタイムトリップ(辛酸なめ子)
パラレルワールドの実家に来たような……そんな懐かしさを覚えるイベントでした。11月29日~12月3日まで開催された「ウチの実家」は、原宿の一軒家スペース「UNKNOWN HARAJUKU」を貸し切って、メルカリで買える昭和や平成のアイテムで埋め尽くした空間。
開催中の休日に訪れると、約30分待ちの列ができていました。
二階建ての一軒家の前には洗濯物が干され、子ども用の遊具が転がっていて、窓から見える雑然とした室内にもさっそく実家感が。家の中から中年の男女が出てきて「おかえり~。もうちょっと待っててね」「よく来てくれたね」などと声をかけてくれました。「今、町内役員会があって忙しいの。お留守番よろしくね」と慌ただしく去っていきましたが……。どうやらお父さん、お母さん役の俳優さんのようです。窓から見ると室内にはもう一組、衣装が同じおじさんとおばさんがいるので、交代して休憩する時間なのでしょうか。など、つい現実的なことを考えてしまいますが、中に入る順番が近付くと、スタッフさんは「大きく『ただいま~!』と声をかけてください。こういうのはノリが肝心です」と、来場者を煽っていました。
懐かしいアイテムだらけの疑似実家といっても、ここは原宿。一軒家もよく見ると瓦屋根で、建物の造りに上質感が。セレブじゃないと住めなさそう……と思ったら、近くに並んでいる上品な母娘らしき2人組の実際のご実家だったようでした。「よくおじいちゃん台所でうどん打ったりお煮しめ作ったりしてた」「こっちの玄関はお客さん用で、お勝手口から出入りしてたよね」なんて声が聞こえます。やはり育ちの良さを感じさせるものが……。
ついに「ウチの実家」に入室。中に入ると意外と広くて、床の間、居間、台所がありました。床の間にはお父さんが座っていて「おかえり~」と声をかけてくれて、心暖まります。本棚の前には座布団や机が。マッサージチェアなども置かれています。この大量の本や家具もメルカリに出品されていたのでしょう。
「おみかんとかおやつあるから食べていってね」とお母さんに声をかけられ、居間に入ると、こたつでくつろぐ人々がいて疑似家族のようです。壁にはペナントやカレンダー、賞状などが貼られていて、昭和の懐かしい扇風機やレトロなざぶとんなど、かなりごちゃごちゃしているのが落ち着きます。若者が「エモくね?」と言いながらドンキーコングをプレイ。テープルにはたまごっちやフラワーロック、黒ヒゲ危機一髪などのゲームが置かれ、新聞のチラシで作った箱がゴミ箱代わりに置かれていました。遠慮なくみかんやハッピーターンなど食べさせていただき、一回座るとなかなか立てなくなる懐かしさの重力が。落ち着くのは多分、同じくらい実家がごちゃごちゃしていたからでしょう。先ほどのセレブ母娘など、実際きれいで整然とした空間で暮らしている方は居心地悪いのでは? と思います。
ところで驚くのは、昭和や平成のアイテムがメルカリで結構な高値で売買されているという事実。フラワーロックは1万7500円、振り子時計は2300円、マッサージチェア4万8000円、なんとチラシでつくった手作りゴミ箱も300円で売れることがあるそうです! 実家はゴミの山でなくて宝の山だったのかもしれません。台所ではお母さんが「チラシで作ったゴミ箱も売れるらしいのよ。母さん片付けるの下手って怒られるけど、いろいろ捨てないで持っていたら、こんな風にみんなが楽しんでくれるなんてね」と話していました。「みんな立派に育って。こんなに子ども増えちゃって」というお母さんの演技に乗れば、もっと楽しめます。
さらに2階には、実家を出ていった兄と妹の部屋が残されていました。こちらもかなりカオスで兄の部屋には、男子の部屋あるあるのスチール製エレクターが設置。古いパソコンやCD、カセットテープ、雑誌などぎっしり詰まっています。壁にはモー娘。ポスターが。
妹の部屋はギャル系で、アニマル柄のクッションにメイク道具、セシルマクビーの服、あゆのCDなど……。来場者の女性が「あっ! 法政一高のカバン! 人気だったよね。私は法政一高の子と付き合ってたのでもらったことあるけど」などひとしきり思い出話で盛り上がっていました。「ウチの実家」はタイムカプセルのようです。すごい物量で誰もが20~30年前に引き戻されます。
しかしこの大量の物はこのあとどうなるのでしょう。また出品されるのかスタッフの方に聞いたら、このまま保管するとのこと。いずれにせよ、このイベントはかなり物が多い実家の引っ越し級に大変な作業だったことと思います。売れる可能性があるとしたら、いつか自分の実家もこんな風にイベントで使ってもらって全て買い取ってもらえたらラクかもしれません……。売れそうだとしても一個一個出品するのはかなりの労力が必要だと改めて実感しました。でも、「ウチの実家」を見て、実家がごちゃごちゃしていたのは自分だけではない、とわかっただけでも共感や安心感で心暖まるイベントでした。
(イラスト・文:辛酸なめ子)
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