Interview with Pretty Sick about “Makes Me Sick Makes Me Smile”
ビーバドゥービーやザ・ジャパニーズ・ハウスが所属する〈Dirty Hit〉から昨年デビュー・アルバム『Makes Me Sick Makes Me Smile』をリリースしたプリティ・シック。フロントウーマンのサブリナ・フエンテスはモデルとしても活動するファッション界で知られた存在だが、いま23歳の彼女がプリティ・シックを結成したのは13歳の時のこと。すでにキャリアは10年近くと長く、メンバー・チェンジを重ねながら数々のシングルやEPを制作して地元ニューヨークの音楽シーンで評判を築いてきた。様々なスタイルを取り入れて音楽性を広げてきた彼女たちだが、現在のプリティ・シックは90年代のUSオルタナティヴやブリット・ポップの影響も窺わせるラフなロック・サウンドが醍醐味。数年前からロンドンに拠点を移し、新たなミュージック・ライフを謳歌するサブリナに話を聞いた。
―今回の来日は急遽決まったみたいですけど、日本でライヴをするのは初めて?
サブリナ「いえ、2018年か2019年のファッション・ウィークの時にX-girlのエキシビションで一度演奏したことがあります」
―日本に来たら必ず立ち寄るスポットってありますか。
サブリナ「BEATCAFE、JBS(Blues Soul Bar)……あとBreakfast clubも好き。それとミスタードーナツ(笑)」
―(笑)去年リリースしたデビュー・アルバムの『Makes Me Sick Makes Me Smile』ですが、制作にあたって日本の音楽やポップスも参考にしたと聞きました。具体的にどんな音楽を聴いていたんですか。
サブリナ「プレイリストがあるので見せますね。アソビ・セクス、ゆらゆら帝国、Aya Gloomy、ヤプーズ、Lamp、フリッパーズ・ギター、POiSON GiRL FRiEND……とか」
―前から日本の音楽が好きだったんですか。
サブリナ「ここ3、4年ぐらいですね。日本語が持つ言葉の響きが魅力的で。その独特なリズム、リズミカルな歌い方が好きなんです。日本語って、英語と違って硬い音が少なくて、言葉の響きや音の手触りが柔らかい感じがする。そこに惹かれるし、日本語を歌っている時の音の響きが好きなんです」
―どんなきっかけで日本の音楽と出会ったんですか。
サブリナ「日本に来るようになって、アヤ(Aya Gloomy)と友達になって。彼女が自分のプレイリストに私たちの曲を入れてくれたんです。それを聴いていろんな曲を知ったり、友達から勧められて聴くようになりました」
―音楽以外で好きな日本のポップ・カルチャーはありますか。
サブリナ「アニメは『エヴァンゲリオン』しか観たことないです。それとまだ読んだことがないんだけど、『NANA』は読んでみたい。親友が大好きだって言っているので。日本は人も食べ物も大好き。特に日本はナイトライフやストリート・カルチャーが充実していると思う。私は基本的に夜行性で、24時間365日いつでもやることがあるから、ここは最高。いつも誰かと一緒にいるし、だからここでは決して寂しくない。たくさんの人に会って話をすることができるし、みんなとてもフレンドリーだから」
―『Makes Me Sick Makes Me Smile』がリリースされて1年になりますが、時間がたってみて作品に対する理解が深まったり、作った当時と印象が変わったりしたようなところはありますか
サブリナ「うーん、歌詞に共感することが少なくなったかな。でも、それはいいことだと思います――とても悲しい歌詞ばかりだから。それと、あのアルバムが出る前から、サウンド面ではいろいろなジャンルや楽器を試したりして“実験”していて。だから今これを聴くと、とても昔に書いた曲のように感じます。今も月に平均35から40曲くらい書いているから」
―1日に1曲以上書いている?
サブリナ「はい。音楽以外に趣味がないので、毎日他のことは何も考えていない(笑)。だから40曲×12ヶ月、年間でいうと500曲くらい書いていて――自分でもなんだかよくわからないんだけど(笑)、とにかくたくさん曲を書くんです。アルバムのほとんどの曲は、パンデミックが始まった頃、つまり2020年の最初の頃に書いたもので。今が2023年だから、とても遠くのことのように感じる。どの曲も、私の人生のなかでとても苦しかった時期について歌ったもので、だからそれを書くことで“手放す”ことができたんだと思う。アルバムを作ることは私にとってセラピーのようなものでした」
―今はロンドンを拠点にされていますが、アルバムで歌われていることは、ニューヨークでの経験がベースになっている?
サブリナ「すべてニューヨークでのことです。学校のために(ロンドンと)行ったり来たりしていた時期のことで、でも悪いことはニューヨークで起こっていた。そしてロンドンに行ったんです。ニューヨークで経験した悲しい気持ちを引きずったまま」
―長年暮らした場所を離れるのって、感情的にもいろいろと難しいところがあると思います。とくに多感な時期を過ごした場所ならなおさら。
サブリナ「引っ越すのは本当に大変でした。なかなか気持ちを切り替えられなかった。仕事で何度も戻っていたし、だからロンドンに慣れるのに時間がかかりました。うまくコミットできなくて。私にとってニューヨークは地球上で最も好きな都市のひとつで、私の故郷であり、私の“世界”なんです。(ニューヨークは)常に変化しているのに、なぜか変わらない。ニューヨークに移り住んだ人の多くは、いずれそこを去っていく。でも、そこで生まれ育った人のほとんどは、そこをけっして離れない。私の友人の多くも、他の場所に引っ越すことなくそこで暮らし続けている。だから今でも私はニューヨークが大好き。ニューヨーク出身であること自体が、指先ひとつで世界中を飛び回れるようなものだから。なので自分はとても恵まれているし、とてもラッキーだと思います」
―ちなみに、サブリナさんから見て最近のニューヨークのシーンはどんな印象ですか。
サブリナ「ニューヨークって実は、みんなライヴがあまり好きじゃなくて。人気がないんです。そもそもニューヨークはヴェニューの数が少ないんです。アルコールの販売免許や騒音に関する法律のせいで、ライヴ・ミュージックのイベントが制限されているから。でも、好きなバンドはたくさんいます。Clovis、Tara Renee、Comet、Suzy Clue、Hello Mary……ただ、バンド・シーンは小さいかもしれない。コミュニティもそれほど多くないし。ロンドンもそうだけど、ニューヨークの人たちはみんな競争心が強いから」
―プリティ・シックはこれまでに何度かメンバー・チェンジがあって、過去にはオニキス・コレクティヴ(Onyx Collective)のオースティン・ウィリアムソンがドラムを叩いていたこともあったそうですね。
サブリナ「オースティンは世界最高のドラマーのひとり。今まで出会ったドラマーのなかで間違いなく一番だと思う。彼との共同作業は本当にクレイジーだったし、バンドのサウンドに大きな影響をもたらしてくれました。一緒にやっていてもとても自然だったし。彼のドラムの叩き方って、いわゆるセオリー通りでは全くなくて、とてもクリエイティヴで、彼自身のなかから溢れ出てくるような独自のスタイルなんです。オースティンと初めて一緒に演奏したのは、友達のアダム・ズー(Adam Zhu)のアート・ショウで。その時、私とウェイド(・オーツ、元メンバー)の2人だったんだけど、ドラマーがいなくて、アダムがオースティンに『ショウに出ないか?』って声をかけてくれて。一緒に練習する時間もなかったのに、彼はその場ですぐに曲を覚えてステージに登場したんです。当時の私たちはヴォーカルとギターだけで、ドラムのパートはなかった。それで彼に曲を渡したら、私たちが練習したことのないドラム・パートを書いてくれて。彼は一度も一緒に音合わせすることなく、ショウでは完璧に演奏をこなしてくれました」
―オニキス・コレクティヴとプリティ・シックは音楽的にスタイルがかなり違いますが、そうしたエクスペリメンタルなバンドとも付き合いがある?
サブリナ「そうですね。オニキスが作るエクスペリメンタルなジャズは最高。それと友達のXmalも、あらゆるジャンルをミックスしたようなアバンギャルドな音楽をやっていて。つまり私はすべての音楽が好きで、あらゆるジャンルの音楽を聴いている。だからそういうアーティストとも仲がいいんです」
―今のプリティ・シックのサウンドを形作ったもの、サブリナさん自身の音楽遍歴となると?
サブリナ「私はビートルズとピンク・フロイドを聴いて育った感じ。それにニルヴァーナとスマッシング・パンプキンズ――スマッシング・パンプキンズは一番好きなバンドです。あとはソニック・ユース、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド。それとラナ・デル・レイもたくさん聴いたな。子供の頃はビョークも大好きでした」
―「この曲に出会ってなかったら音楽をやってなかったかも?」みたいな曲ってありますか。
サブリナ「なんだろう……でもやっぱり、スマッシング・パンプキンズかな。どの曲も大好きだけど、強いて選ぶなら“1979”。まさにクラシックだと思う」
―プリティ・シックを聴くと、今挙げてくれたアーティストを始め、サブリナさんが影響を受けたであろう様々な音楽の要素を感じられるんですね。ただそうしたなかで、自分なりのカラーやテイストを出すためにサブリナさんが心がけているのはどんなことですか。
サブリナ「歌詞かな。音楽って私にとってとてもパーソナルなものだから。私は自分が歌っていることについて、リスナーに対しては正直でありたい。ここ数作のリリースでは、私が好きなあらゆるジャンルのハイブリッドな音楽を作りたいと考えていて。だから私たちの音楽からは、そうしたバンドや様々なジャンルの影響が聴こえるんだと思う。ストレートなロック・バンドである必要はない。常に新しいことに挑戦したいんです」
―歌詞について言うと、例えば90年代のロック・ミュージックの場合、男性ミュージシャンが歌うとそれは男性の物語になり、女性が歌うと女性の物語になるような傾向が強かったと思います。対して、サブリナさんの歌詞は、もう少しジェンダー的に自由で、開かれた印象を受けるところがあります。
サブリナ「私もそう思います。私はレッテルを貼るのが嫌い。音楽って、自分の経験を人と分かち合うためのものだと思うんです。一緒にいる誰かとお互いのストーリーを共有して、それを音楽を通じて一緒に体験する。それが音楽の醍醐味だし、だから私の音楽は誰が聴いても共感できるものだと思う。少なくともそうであってほしい。女の子だけとか、男の子だけとかじゃなくて、すべての音楽はみんなのものであるべきだと思うから」
―サブリナさんは現在〈Dirty Hit〉に所属していますが、レーベルの印象はどうですか。
サブリナ「彼らはとても誠実で、アーティストのことを本当に気にかけているし、 アーティストのリリースをサポートしている。素晴らしいレーベルだと感じたし、だから自分と同じように音楽に興奮している人たちと一緒に働きたいと思って」
―(The 1975の)マシューと話したりする機会はありましたか。ちなみにビーバドゥービは「時々うっとうしいお兄さん」みたいな存在と話していましたけど。
サブリナ「前にロンドンでThe 1975とショウをやることがあって。その時に少しだけ一緒にぶらぶらしたぐらいだから、彼のことはあんまりよく知らないんです。でもビーは最高。才能豊かで、大好きです」
―ビーバドゥービとプリティ・シックは一緒にツアーを行う間柄でもありますが、ロンドンで活動をするようになって、どんなところにニューヨークとの違いを感じますか。
サブリナ「ロンドンには(ニューヨークと比べて)たくさんのヴェニューがあります。イギリスではライヴ・ミュージックが、国の文化の一部として守られているように感じます。それと国民の間にも、イギリスは『音楽の国』だという意識が根付いているように思う。だから音楽をやることが奨励されているし、ミュージシャンを支援するプログラムも充実している」
―はい。
サブリナ「一方、アメリカでは多くの人にとって『ミュージシャンになる』ことは、もう少し夢に近いことだと思われているというか。ほとんどの人が、自分の子供がミュージシャンになることを望んでいるとは思えない。ロック・ミュージシャンになることなんて特にね(笑)。それにさっきも言ったように、ニューヨークはいろいろな規制もあってヴェニューが少ない。私が若い頃によく通っていたのは、数人の個人経営で、ガレージや倉庫を借りた、その場しのぎのようなDIYのライヴハウスでした。ただそれもどんどんクローズしてしまっている。それに比べてロンドンでは逆に(ヴェニューの)人気が高まっていて、ライヴ・ミュージックがとても盛んで。でも、どちらの都市も音楽は素晴らしいし、ニューヨークでは過去10年と比べてもシーンは活発だし、新しい音楽がたくさん生まれています」
―そういえば、ロンドンのThe Windmillでやったプリティ・シックのライヴをYoutubeで観ました。
サブリナ「最高でした! The Windmillは大好き。ついこの間も飲みに行ったばかりで。誰が演奏しているのかわからなかったんだけど、でもどのバンドも素晴らしかった。いつ行っても毎晩いい音楽が聴けるんです。私が今まで行ったことがあるなかで、毎晩本当にいい音楽が聴ける唯一の会場かもしれない」。
―ちなみに、ロンドンではどんなミュージシャンとハングアウトしているんですか。
サブリナ「ビーバドゥービーは大好き。ヴィジ(Viji)、bassvictim、Xmal。それにバー・イタリア。Mitsubishi Suicide、Suzy Clue――彼女は私と同じように、ニューヨークとロンドンを行ったり来たりしている」
―先ほど、音楽は「自分の経験を誰かと分かち合うためのもの」と話してくれました。デビュー・アルバムの『Makes Me Sick Makes Me Smile』を作ることはサブリナさんにとってセラピーのようなものだったとのことですが、アルバムを聴いたリスナーにはどんなことを感じて欲しいですか。どんな感情をシェアしたい?
サブリナ「(アルバムの曲は)どれも楽しい曲だと思う。いい意味でファッション・ロックンロールって感じだし。だから聴いている人たちが楽しんでくれて、エンパワーされたらいいなと思う。私が語っているストーリーを聴いてくれて、共感してくれたら最高だし、そこから何かを感じてもらえたら嬉しい。ライヴをやるとたくさんのファンが私のところにやってきて、『あなたの音楽に共感した』『自分が感じたことや経験したことを思い出させてくれる』って言ってくれて。それって、どこかシュールな感じもするけど、でも私にとって素晴らしい経験になっている。だからそういう感じに楽しんでもらえたら嬉しいし、みんなが私の音楽を聴き続けてくれることを願っています」
photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/)
text Junnosuke Amai(https://twitter.com/junnosukeamai)
Pretty Sick
『Makes Me Sick Makes Me Smile』
Now On Sale
(Dirty Hit)
https://dirtyhit.co.uk/artists/pretty-sick/
<トラックリスト>
1.Yeah You
2.Drunk
3.Human Condition
4.Sober
5.Heaven
6.Black Tar
7.Bound
8.Lilith Song
9.Dirty
10.Self Fulfilling Prophecy
11.Saturn Return
12.PCP
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
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