子どもたちの未来を変えるICT教材。「すらら」開発元に聞く、“データをもとにプロセスを褒める”次世代の学習サポートとは

子どもたちを取り巻く学習環境が大きく変わろうとしている今。学校などの教育機関では1人1台の学習用デバイスが配布されるなど、GIGAスクール構想のもと、子どもたち1人ひとりに個別最適化されたICT教材の整備がすすんでいます。

一方、実際の教育現場では「ICT教材を取り入れたものの、いまいち効果的な使い方ができない」といった声も。また、保護者のなかにはデジタルデバイスやICT教材との付き合い方に頭を悩ませている人もいる様子。

今回は、ICT教材を開発・提供する株式会社すららネットの執行役員・マーケティンググループ統括 松本梢氏に、デジタル教材の効果的な活用方法や教室・学校運営のコツ、効果的な導入方法などについて詳しくお話を伺いました。(取材日:2023年7月)

子どもたちの勉強を本質からサポートしたい

--御社が開発したICT教材「すらら」は、国内外のさまざまな教育シーンで活用が広がっていますね。主に小中学生向けに活用されていると伺っています。

松本:はい。当社はもともとベンチャー・リンクというコンサルティング事業を中心に行う企業でした。その当時、いわゆる1対3でアルバイト講師が教えるタイプの個別指導塾を展開する企業から、店舗開発の依頼をいただいたことがあったんです。

教育領域の受注が初めてだったので、まずは生徒募集から保護者面談まで、とにかく現場で教室運営業務を全部やってみました。その過程で課題が2つ見えてきまして、まず1つは、講師のスキルによって提供できる内容や質が変わってしまうことです。

たとえば数学で、まったく同じ1次方程式の解き方を教えるとなっても、生徒によってつまずくポイントが違う。それによって、どこの単元から学び直しをする必要があるのかが変わってきますよね。

これを1対3での指導でどこまで対応できるかというと、やはりすべての講師がすべての生徒に定量化された質の指導を提供するというのは難しいのです。

--多店舗展開となると、どの教室でも一定の成果を提供していく必要がありますよね。

松本:そうなんです。2つめの課題として、そもそも生徒側に勉強の習慣がない、勉強の仕方がわからないことによって自己肯定感が低いという場合もあります。このケースでは、まずは学習する習慣を身につけるところから始めたいので、本当は、塾側としてはもう週4回でも5回でも来てほしいんです。

とはいえ、中学生の平均的な通塾回数は週2回ぐらい。平均的な受講料は月2万5000円前後なので、週に3回も4回も来ようと思うと、3万4万…という金額がかかってしまいます。

家庭にかかる負担が大きくなるので、それなら週2回でどうやって成績を上げていくかという話になるのですが、どうしても絶対量が足りなくて上げきれないということが起こります。

そこで、子どもたちの勉強を本質からサポートするためにはどうしたらいいんだろう…って考えたときに、“eラーニングで課題解決できるのではないか”と、開発を始めたのがきっかけになります。

“家庭学習を見える化”する、デジタル学習の変革

--当時、「eラーニング」はどのくらい世の中に浸透していたのですか?

松本:まったく浸透していない、と言っていいと思います(笑)。2005年に「すらら」の開発に着手したのですが、リリースした2007年ですら、“パソコン学習”と言った方がまだわかるというような状況。当時はまだLL教室などがあった時代ですね。

--LL教室、今となっては懐かしいですね。そもそも「eラーニング」とはどういった定義づけがされているのでしょうか?

松本:じつは今でも「eラーニング」の定義ははっきりしてないところもあるんです。たとえばネット回線を使って勉強することを定義するならば、予備校が大学受験生向けに、講師の動画をいつでもどこでも見れますよというようなサービスは以前からありました。

ただこれは「eラーニング」として認知されていたわけではなかったように思います。

「すらら」のような、いわゆる小中学生向けのデジタル教材を学習塾で取り入れることによって“家庭学習を見える化”することで先生が把握できる領域が広がって、先生がいなくても個別最適な学習ができる…という局面に変わったのは、我々の開発が先駆けになるかと思います。

モデル校を開校、前例のない塾スタイルに挑戦

--2007年にICT教材「すらら」がリリースされた当時、どのように活用が広がったのでしょうか?

松本:「すらら」をリリースしたあと、当社では、駒沢大学駅前にモデル校(実験校)としてキャッチオンという学習塾を開校したんです。私は当時そこで教室長をしていました。

自社で開発したものを売っていくとなったとき、自分が「本当にこれは世の中のためになる」「子どもたちや先生にとってメリットがある」というところをやはりどうしても自分で体感して確信したかったというのがあります。

--モデル校はどのような教室だったのですか?

松本:教室に入ると、パソコンが25台ぐらい並んでいる。塾に来たら、子どもたちが自分でそれぞれパソコン開いてIDパスワード入れて学習する…そんなスタイルは当時、他にはほぼなかった。つまり、保護者からも市民権を得てなかったんです(笑)。

実際に生徒を募集したところ、新しい業態ですし、もちろんまだ認知度もなくて、「安かろう悪かろうなのかな…?」という不安をもちながら申込をされたご家庭もあったと思います。

ただ「それでも申し込みたい」というのが、たとえば“1科目10点しかとれなくて、大手塾、有名塾の集団クラスも個別クラスも家庭教師も全部やった、それでも成果が上がらないからとにかくすがる想いで…”など、そういった親御さんからの声は実際にありました。

さまざまな境遇にいる子どもたちに出会い、現場で実際に自分が生徒指導をして感じたのは、とにかく子どもたちをなんとかサポートしてあげたい、という強い思いでした。

『当時のモデル校「キャッチオン」(※現在は閉校)』

--具体的にどのように子どもたちをサポートされたのですか?

松本:まずはたくさん学習してもらえるように「学び放題」というかたちで、“パソコンが空いているときは週5回いつでも来ていいよ”っていうふうにしたんです。これは、人件費がかからないからこそできるのです。これによって、生徒1人ひとりが圧倒的な学習量を確保できるようになりました。

さらに特徴的だったのが、神奈川や埼玉など、遠方から通ってくれる生徒さんがいて驚きました。

--遠方の学習塾に通うとなると、本人や家庭の負担は増えそうですが…。

松本:そう思いますよね。じつは違うんです。なぜかというと、塾には月に1回ぐらいしか来ないからです。

今でいう通信制高校のスクーリングみたいな形で、目標設定や振り返りを月1回塾でやって、あとは“すべて家でやる”のです。

--なるほど。しかし、家で自主的に勉強することのほうがハードルが高いのでは?

松本:私が1週間に1回ぐらい架電するんです。「すらら」では、管理画面で家庭学習のログが見られるので、そのログイン履歴を見て「目標ちゃんとクリアできているね」「自分でやるって言った時間帯でちゃんとできてるじゃん!」といった感じで声をかけるようにしていました。

ログでは、学習時間も見える化されるので、1分でも10分でも学習時間が増えれば、それが明らかに数字でわかるんですね。

成績って、テストで10点が30点になったとか、点数でしか褒めることができなかったりする。でも本当はそこに上がるためのプロセスが必ずある。

“もともと白紙だったのが途中式は正しく書けたけど最終的には間違っちゃった…”とか、そういうのって点数には現れないところだと思うんですよ。

その努力のところを数値化して、きちんと本人自身も見える形で褒めることができるようになるというのが、ICT教材のいいところなんです。さらに周りも、その生徒に特化した褒め方ができるようになるので、より個別最適な学習が実現できます。

ICT教材が“子どもたちの人生を変える”。学びの多様化へ

--褒められれば、本人の自信にもつながりますね。

松本:そうなんです。「今週毎日ログインしたの?すごいじゃん!」っていうところから褒められると、やる気スイッチが入って、自分でもできるかも、とか今まで勉強のやり方が合ってなかったんだっていうふうにマインドセットできるんですよね。

子どもたちの成績、さらに自己肯定感がどんどん上がっていくのを実際に目の当たりにして、私は自信をもって「これはいける!」と思いましたし、もっと多くの子どもたちに「すらら」を使ってほしい、広げたい、と思いました。

--ICT教材の導入後、保護者の反応はどうでしたか?

松本:子どもに対して怒ってばかりだったお母さんに、お子さん凄いですよ!って「すらら」のログやデータを見せながら伝えると、“たしかに”って納得されるんです。それを機に、保護者と子どもの関係が良好になると、勉強だけじゃなくて部活も頑張ろうとか、将来に夢をもてるようになるんです。

当時、当社の塾に通っていた勉強が苦手だった生徒の1人が、のちに海外留学をするという報告をしに会社へ来てくれたことがあって、英語でスピーチしてくれたときにはもう感動しましたね。「すらら」での学習を通じて自分の夢を見つけ、それに向かっている姿が嬉しくて、今でも鮮明に覚えています。

--ICT教材の広がりは、子どもたちの生き方に影響を与えそうですね。

松本:はい。我々がやりたいことは、表面的に学習をこなすとか、学習をDX化するとかそういうことではなくて、本当に“子どもたちの人生を変える”くらいのことなんです。

たとえば今、不登校の子どもがすごく多くて、少子化なのにフリースクールや通信制高校の市場は伸びている。最近ではそういった教育現場でも、学校に復帰することをゴールにするのではなくて、“どこかで社会との接点をもとう”というようなことが取り組まれています。

つまり、いろんな特性や個性をもつ子どもたちが、一律でみんなが同じ学校へ行って、同じことを学ぶのが当たり前、みたいなところがもうなくなってきているのが現状なのです。

学校だけでなく、さまざまな教育シーンでICT教材が活用されることで、本当の意味での「学びの多様化」を支えるものであると考えています。

(後編に続く)

後編では、なぜICT教材が十分に活用されない教育現場があるのか、現場ではどういった課題が挙がっているのかなどを踏まえながら、実際の教育現場においてICT教材を上手に活用する手法や、子どもたちとの向き合い方についてお話を伺います。

<インタビュイープロフィール>

松本 梢(まつもと こずえ)
執行役員/マーケティンググループ長 大分県生まれ

地元大分県で大学生時代から個人家庭教師のアルバイトを始めたことから教育業界への道に入る。(株)すららネットの前身の会社である、ベンチャー・リンク(東証一部上場)に2007年入社。ICT教材「すらら」で教える初のモデル校兼実証実験校「次世代型学習塾」の塾長として塾経営と学習指導の両方を担う。2010年MBOで独立後、学校部門の責任者として週7日のうち5日は地方出張するなど、営業活動に従事。2016年から塾部門の責任者となり2017年の東証マザーズ(現.東証グロース)上場に貢献。2018年執行役員就任、2021年よりマーケティンググループ統括を兼任する。現場の先生の状況や課題を把握し、人の力が最大限に発揮される『AI教材×人』のベストミックスについて、それぞれの現場にフィットした活用提案をし続ける。1女の母。

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