『キラーコンドーム』ビジュアルを手掛けたロッキン・ジェリービーン氏、再鑑賞して驚き「今の時代にマッチしてる」
牙の生えたコンドームが男の“ナニ”を喰いちぎる! カルト的な人気を博すドイツ製ホラーコメディ『キラーコンドーム』が、本国の基準でカットされていた11分を加え、美しくレストアされた“ディレクターズカット完全版”としてカムバック。8月4日よりいよいよ公開だ。
クリーチャーデザインを『エイリアン』のH・R・ギーガーが手掛けている本作は、1999年に日本公開され、劇場の記録を塗り替えるほどのヒットを果たしている。『アメリ』や『ムカデ人間』をヒットさせたことで知られる叶井俊太郎氏が本作を買い付け、国内外で活躍する覆面画家ロッキン・ジェリービーン氏がアイコニックな日本版ビジュアルを手掛けた。
『キラーコンドーム』といえばこのビジュアル! 99年公開時のチラシ。レトロな紙質と縦長サイズは叶井氏のこだわり。
クリーチャーの姿を敢えて隠し、コンドームの前で慄く下着姿の女の子を描いた日本版ビジュアルは、そのインパクトで本作のヒットを後押し。そして同時に、ロッキン・ジェリービーン氏にとっても代表的な作品のひとつとなった。
“ディレクターズカット完全版”の公開の報を受けた際、新ビジュアルに心が踊った。ロッキン・ジェリービーン氏が新たに描き下ろしているのだ。やっぱり『キラーコンドーム』はそう来なくちゃ!
およそ25年ぶりに、ふたたび『キラーコンドーム』のビジュアルを手掛けることになった同氏に、当時について振り返ってもらった。
新ビジュアルのポスターとロッキン・ジェリービーン氏。小学生の頃に見て感銘を受けた76年版『キングコング』のポスターが創作の原点だそう。
ロッキン・ジェリービーン(以下、RJB):「映画祭でこの映画を買い付けてきた叶井君が、“エッチな女の子を描くアイツにビジュアルを描かせれば絶対イケる(=ヒットする)!”と思ったらしく、友人の中原昌也君を通して連絡してきて。映画のポスターって自分が昔から一番影響を受けていたものだから、是非やりたいです、と。映画ポスターっぽい作品を作ったりはしていたけど、仕事としては多分これが最初。めちゃくちゃ思い出深いですね。
当時叶井君が、完成した広告を持って日本中の雑誌200誌以上に“これ取り上げてよ!”って持って行ったんです。パチンコ雑誌からファッション誌から何から、色んな雑誌の映画コーナーにこれを載せてもらって。今はネットの時代だけど、当時はみんな雑誌で情報を見てたじゃないですか。それで観に来たお客さんの間で、「なんだこれは?」ってブームになった作品だった。なので、どれだけ露出されたか、人に見てもらったかってことが大切。当時おそらく(絵の)仕事をして5年目ぐらいだったと思うんだけど、それをすごく感じた仕事だったね」
『キラーコンドーム』に時代が追いついた!
クリーチャーデザインはH・R・ギーガー。本作がギーガーの一番のお気に入り?
ラルフ・ケーニッヒによるゲイ・コミックを映画化した本作は、人喰いコンドームが大暴れするいわゆるB級映画に違いないが、実は意外な感動作(!?)でもある。
連続“喰いちぎられ”事件を捜査することになったゲイのマカロニ刑事。うっかり片タマを喰われたり、カワイイ青年との恋に寄り道をしたりしながらも、人喰いコンドームを操っていた真犯人にたどり着く。そのとき、マカロニ刑事が放った言葉とは……? 初見の方のために詳細は避けるが、予想外のクライマックスは必見だ。ロッキン・ジェリービーン氏も今回改めて作品を観て驚かされたという。
RJB:「(99年の)当時観たときはまだ日本語字幕がつく前だったので、ストーリーの細かいところまでは全然分かっていなかった。今回描くにあたって字幕付きで観てみたら、もうびっくりしたというか。めちゃくちゃ今の時代にマッチしてるなと思った。当時は、“まあ、B級ホラーだろう”ぐらいの感じで観てたと思うんだけど、実はかなり奥が深い作品だったんだな、と。まさに時代が追いついた感じだね。追いついたというか、“時代がここまで落ちたか!”みたいな(笑)。
今観て斬新に思った部分もあったので、当時観た人が“あの映画かぁ”なんて言いながら観たりもすると思うけど、今の若い人たちや、色んな性の人たちにも観てもらいたい」
主人公のマカロニ刑事。彼の甘酸っぱいロマンスの行方も映画の見どころ。
最初のビジュアルを超えられるか?
惚れ惚れする新ビジュアル。画材は鉛筆+リキテックスから、鉛筆+Photoshopに変わったそう。
『キラーコンドーム』の仕事は自身にとっても「エポックメイキング的だった」と振り返るロッキン・ジェリービーン氏。大きな存在であるだけに、新たなビジュアルを手掛けるにはプレッシャーもあったそうだ。
RJB:「叶井君から、“最初のやつを超えるものを描いてよ!”って言われて。“え~~~~、絶対超えられないと思ってたのに、超えないとダメなのか!”って。今回はそこは悩みましたね。(最初の)『キラーコンドーム』のビジュアルってすごくシンプルで分かりやすくて、ロゴとの兼ね合いもすごくいいバランスなので。“これを超えるものを作りたいな”と常日頃から考えてるんだけど、それを本当に超えないとダメな時が来た、みたいな。で、最初のを超えるためにどう変えたらいいかと。何種類かラフがあったんだけど、前回はメインの女の子が立ってたから、じゃ今回は座った方がいいかなとか。最終的に、前回と違う方へ違う方へ行ったって感じかな。
昔の作品って、今見るとまだまだ手が足りないなっていうのは感じるんだよね。永遠にそうなんだと思うんだけど。だからこそ、じゃあ今はこれ描けるかっていったら描けない。青臭さが良かったりすることもあるので、そこはせめぎ合いですね」
映画の冒頭に出てくる女の子。イラストでは、厳密にではないがほんのりと彼女がモデルに。
数々のロッキン・ジェリービーン作品で描かれてきた、魅力的で個性的な女性たち。彼女たちは一体どんな発想で生まれているのか? 実は、“そのビジュアルを見るであろう人”の好みを想定して描いているのだとか。
RJB:「シチュエーションに合わせて、“こういう女の子だったらいいな”というのを一番最初に考えて。この世代にはこういう女の子がいいんじゃないかとか、こういう映画だったらこういう女の子の方が好きなんじゃないか、とか。その仕事、仕事で、“ささる女の子”を提供している。“こういう子、どう?”っていう(笑)。写真だったら(モデルを)探してこないとだめだけど、自由に描けるじゃない? それがやはり、自分の仕事で一番楽しいことであって、醍醐味だと思う」
ギーガーは『キラーコンドーム』を覚えていなかった?
99年公開時のチラシ裏。「『キラーコンドーム』だけが唯一気に入っている映画だ」……本当か?
本作の大きな売りでもある、H・R・ギーガーが手掛けたというクリーチャーデザイン。その印象について伺うと、根本的な疑問が出てきた。それを発端に、同席していた叶井俊太郎氏が当時のギーガーの様子を語ってくれたのだが――。
RJB:「ギーガーの描いた指示画みたいなものって存在するのかな? そういえば一度も見たことないよね? 本当にギーガーがやったの?(笑)」
叶井:「やってるよ! 25年前、ちゃんとギーガーの家に取材しに行った子がいるから。ギーガーにインタビューしたんだけど、2~3時間ずっと『エイリアン』の不満を語ってたらしい。1、2ではクレジットされてるんだけど、3ではクレジットされてないとか」
RJB:「わははは! 愚痴を聞かされたと(笑)」
叶井:「ギーガー自身もあんまり覚えてなかったみたいだよ。『キラーコンドーム』をやったこと」
ホラー通信:「覚えてなかったんですか?? 今作の資料に、ギーガーが“自分の手掛けた作品の中で『キラーコンドーム』だけが唯一気に入っている”と語ったって書いてあるんですが……」
RJB:「俺もそう聞かされてて、みんなにそれ言ったんだけど!」
叶井:「あれ、違ったっけ?(笑)」
『キラーコンドーム』のクリーチャーのデザインがギーガーによるものであることは間違いないが、宣伝上で謳われていた「ギーガーが“唯一気に入っている作品”だと語った」ということの真偽は闇に包まれてしまった。ギーガー亡き今、本人に確認することは不可能だが、気に入っているといいな、人喰いコンドーム……。
そして、当時ギーガーが延々語った『エイリアン』への愚痴は、今回新たに制作される『キラーコンドーム』のパンフレットに収録されるとのこと。『エイリアン』のファンは必読、か?
『キラーコンドーム ディレクターズカット完全版』
2023年8月4日 (金) シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ他 全国ロードショー
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