障がい者テレワークオフィスが切り拓く障がい者雇用課題

障がい者テレワークオフィスが切り拓く障がい者雇用課題

障がい者雇用に関する制度改正と現状

障害者雇用率制度とは、障がいのある方を対象に職業の安定を目的とした雇用制度のことで、企業や自治体は法律に基づいて障がいのある方の雇用が義務付けられている。今年(令和5年度)の法定雇用率は2.3%だが、令和6年4月から段階的に引き上げられることになっている。

そんな中、社会的に問題になっているのが“障がい者雇用代行ビジネスサービス”だ。これは雇用率達成のみを目的とする事業主に代わって障がい者に職場や業務を提供する業者を指す。その実態の悪質さから今年1月18日行われた参議院厚生労働委員会において障がい者雇用代行ビジネスサービスを規制する内容が可決され、事業主にはこのサービスを利用することがないよう周知、指導等の措置を検討することになった。

その実態は、企業の本業とは関係ない農園での農作物栽培などで、実際に働いた人からは「1日の大半が休憩時間だった」という証言もあったという。本業とは関係ない農作業、しかも作物は販売されないという手法は「ビジネス事業者にお金をはらい、雇用率を買うようなもの」と問題視されている。

こうした背景から、今年4月17日の第128回労働政策審議会障害者雇用分科会にて「把握した事例と課題等への対応に求められる望ましい取組のポイント」なる資料が、さらに同6月12日にはこれをもとにしたリーフレット「障害者が活躍できる職場づくりのための望ましい取組のポイント」が発信された。

このリーフレットには「明らかに法令に反する事例は確認されていませんが、障害者雇用促進法の趣旨に照らして疑義が残る事例等があった一方で、能力開発・向上につながる事例もみられた」とまとめられている。そう、この制度の本来の目的は働く障がいのある方が、能力開発の機会を得て、やりがいを持って、成長しながら職場で活躍する雇用の機会を実現するというものなのだ。

まったく新しい障がい者雇用の試み
障がい者テレワークオフィス「こといろ」

企業や障がいのある求職者の就労支援を行い、雇用する企業の本業に寄与でき、かつ障がいのある方がやりがいやプライドを持って仕事できる状況づくりを目指す綜合キャリアトラストでは、障がい者雇用に対する新たな試みを開始した。

それは企業等に雇用される障がいのある社員向けに設置した、共同利用型の“障がい者テレワークオフィス「こといろ」”の運営だ。自社通勤という従来の方法ではなく、テレワークで障がい者を雇用するという形のこのオフィスのメリットは、障がい者が常に安心できる環境の中で仕事ができるというところにある。自社に通勤すれば周りは健常者ばかり、在宅勤務であれば生活の場と仕事の場の切り替えの難しさや孤立感などがあるが、所属する組織の枠を超えて障がい者が集まり、支援者もそばにいるから心強いというわけだ。

この事業のスタートは令和2年9月。福岡県からの受託事業から始まり、今年4月からは綜合キャリアトラストの自社事業となった。開設後の利用状況は全15ブース中13ブース、利用人数は53名となかなかの盛況だ。利用者の障がい内容は統合失調症やうつ病などの精神疾患から自閉症スペクトラム障がいなどの発達障がい、下肢障がい、視覚障がい、聴覚障がいなどの身体障がいなど多岐にわたるが、いずれも対応可能だという。また雇用する側の企業にとっても、通勤が不便で人が集まらない、いっしょに働く社員の障がい者雇用への理解が得られないといった課題がクリアされると好評なようだ。

「こといろ」は、福岡県でも屈指のアクセスのよさを誇るJR博多駅の筑紫口から徒歩4分の場所に位置し、さまざまな公共交通機関での通勤が可能。オフィス内には支援員が常駐し、日常的な精神面のフォローや業務上の簡単な相談も受け付けてくれる。ブースは圧迫感のない半個室で、利用者からも安心して自分のペースで仕事に集中できると好評だ。

また「こといろ」は福岡県障がい者雇用拡大事業の求人窓口と連携しており、人材のマッチングを無料で実施してくれるとあって、企業にとってもメリットは大きい。自社で苦労して人材を探すより、わりとすんなり決まるかもしれない。

東京や大阪など遠方の企業にとって、上記のような技能を持った人材を遠い福岡で探すことは考えられなかったかもしれないが、通勤ではなくテレワークなので「こといろ」を活用するメリットもありそうだ。綜合キャリアトラストが属するキャムコムグループでは、これをさらに進化させ、メタバースを活用した障がい者雇用の仕組みも構築しているという。そちらの早期実現にも期待したい。

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