『ディアブロIV』レビュー:時間も脳もとろける! エグくて甘美な地獄の快楽

ここが地獄だ! 恐怖を取り戻した『ディアブロ』
また「ハクスラ」要素やオープンワールド要素と連携することで、本作の楽しさを高めている要素がストーリーだ……いや、読み間違いではない。確かに筆者はここまで、「ハクスラにストーリーは余計」という文脈で話を進めてきた。
だが『ディアブロIV』において、ストーリーがおもしろさを高めていることは間違いない。それはなぜか? その理由は、本作のストーリーのモチーフである「恐怖」にある。

「ディアブロ」シリーズは天使と悪魔の対立と、それに翻弄される人類とを描いたダークファンタジーだ。天使・イナリウスと悪魔・リリスは対立を忌避し、逃避の地としてサンクチュアリを創造。ここでイナリウスとリリスの間に、最初の人類である「ネファレム」が誕生する。

「最初の人類」とある通り「ネファレム」は人類ではあるのだが、天使と悪魔の力をストレートに引き継いでいる。このため、強大な力を宿していた。
この力がきっかけとなり、イナリウスとリリスは対立。さらには天使と悪魔を巻き込む大戦争へと発展する。
大戦争を経て、天使と悪魔の間に「サンクチュアリへ手を出さない」という協定が結ばれた。また、「ネファレム」の力はイナリウスの手によって、世代を重ねるごとに失われていくこととなる。
だがここにやってきたのが、シリーズのタイトルにもなっている悪魔「ディアブロ」。悪魔たちの世界からサンクチュアリへと追放された「ディアブロ」は、人間たちに恐怖と狂気をもたらすことになる……。

人類が天使や悪魔といった強大な存在によって翻弄される展開は、ダークファンタジーの王道。とはいえ「ディアブロ」シリーズは「ハクスラ」なので、これまでドラマティックなストーリー展開よりもゲーム性の方を重視してきた。少なくとも筆者は初代『ディアブロ』からプレイしてきて、ストーリー展開で感情を揺さぶられたことはない。
ただ、「ディアブロ」シリーズというゲームには感情を揺さぶられてきた。つまり本シリーズはこれまで、ストーリーではなくゲーム性によって感情を揺さぶってきた作品だったといえるだろう。
たとえば、初代『ディアブロ』には「ブッチャー」という敵がいた。「フレッシュミィィィト!」と叫びつつ、圧倒的な攻撃力で襲い来る強敵だ。ガチで怖い。また、強敵に襲われる不安を感じつつ、ダンジョンを一人進んでいく初代『ディアブロ』の構成も、間違いなく恐怖を感じさせていた。
つまり、初代『ディアブロ』は「怖いRPG」なのだ。これはその後、「ディアブロ」シリーズが持つ特徴のひとつとなる。

(画像は、『ディアブロIII』)
ただ、残念ながら前作『ディアブロIII』では恐怖が減っていた。『ディアブロIII』も世界観はシリーズを踏襲しており、悪魔や死体が大量に登場する王道ダークファンタジーだ。しかし、画面が明るめに調整されていたこと、敵の強さよりプレイヤー側の爽快感を重視した調整だったことなどによって「怖いRPG」ではなくなっていた。
だが、『ディアブロIV』は再び「怖いRPG」へ回帰した。ストーリーによって!

オープンワールド要素を取り入れた『ディアブロIV』には、多くのサブクエストが用意されている。このため、メインストーリーである天使・悪魔の戦い以外に、一般の人間たちをフォーカスしたストーリーが味わえるのだ。そしてこのサブクエストのストーリーはいずれも救いがなく、しかもエグい。

たとえばサブクエストのひとつは、「とある女に誘惑され失踪した夫を探す」というもの。現代劇なら週刊誌の記事にでもなりそうな、ゴシップ的なサブクエストのように思える。
だが実際に夫を見つけてみると、磔(はりつけ)にされていて血まみれ、息絶える寸前。これが普通のゲームなら、夫は実は被害者だったということになり「こんなことしやがって許せないわ!」と正義のバトルへなだれこむところだろう。
しかし、夫は快楽によって恍惚としている。「もっと、もっと……!」と、さらなる快楽を求める夫。しかも、ただ快楽を求めているのではない。苦痛をセットで求めてくるのだ。

「快楽と苦痛」……ホラー映画好きならこの言葉をテーマにした映画『ヘルレイザー』をご存知なのではないだろうか。「組み替えることで最高の性的快楽が味わえる」という「ルマルシャンの箱」を組み替えると、地獄から魔道士セノバイトが出現。体を引き裂かれたり皮を剥がれたり……といった目にあう。
セノバイトにとって最高の快楽とは、最高の苦痛なのだ。
体を引き裂かれたり皮を剥がれたり……といったビジュアルを直接的に表現しているので、グロテスクな上になんとも痛そう。これだけでもホラー映画としては十分成り立つのだろうが、そこに「性的快楽」という苦痛とは真逆の要素が加わることで、背徳的で冒涜的な恐怖を生んでいる。
「冒涜的」という言葉が当てはまるのは「快楽と苦痛」という組み合わせだけではない。「修道服」と「ボンテージファッション」を融合させた魔道士セノバイトのキャラクターデザインもそうだ。そもそも「セノバイト」という言葉が「修道士」という意味。
「快楽と苦痛」「修道服とボンテージ」「信仰と冒涜」……本来相反するはずの概念をあえて融合させることで、背徳的で冒涜的なエグみを味わわせてくれる……『ヘルレイザー』とはそんな一作だ。そしてこの、「背徳的で冒涜的な恐怖」と同じものが、『ディアブロIV』にも存在している。

個人的には、『ディアブロIV』開発スタッフは意図的に『ヘルレイザー』をモチーフの一部として取り入れたのではないかと思う。オープニングでリリスを蘇らせるくだりなど、映画『ヘルレイザー』のみならず、原作作家クライブ・バーカーのテイストを彷彿とさせるからだ。
ちなみに映画『ヘルレイザー』はコミック『ベルセルク』をはじめ、様々なダークファンタジー作品に影響を与えている超傑作。筆者も大ファンなので、ブルーレイボックスを所有している。興味を持った人はぜひ配信などで鑑賞してみてほしい。
Hellraiser (1987) Trailer:
https://www.youtube.com/watch?v=8mOn4h0lgKQ

- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。