Interview with Softcult about “see you in the dark”




2010年代にバンド、Courage My Loveのメンバーとして活躍してきた、メルセデスとフェニックスの双子姉妹によって結成された、Softcult。前身バンドとは雰囲気を変えた、シューゲイザーやグランジなど90年代のインディー・ロックからの影響を感じる鋭いサウンドと、社会・時代が抱えるフラストレーションを吐き出したメッセージ性の強い歌詞、さらにそれらを包み込むようなイノセントなヴォーカルのコントラストが壮絶さと美しさを紡ぎ出している。すでに現代のライオット・ガールのアイコン的な存在として注目されている彼ら。先日には(現バンド名義で)初の来日公演を敢行し、圧巻のステージを披露。最新EPである『see you in the dark』の世界と共に、現代と闘うすべての人へ捧げたメッセージとは?


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━━お二人はもともと、Courage My Loveに加入して活動。そして2021年よりSoftcultとして活動をスタート。ふたりになったことで制作環境に変化はありましたか?また、お二人で音楽を制作することの意味とは?


メルセデス「正直、全てが変わったと思う。私たちが二人で活動を始めたのは、全てを自分たちでやりたいと決めたから。今はフェニックスが全部プロデュースして、全部ホームスタジオでレコーディングしている。以前と比べてもっとDIYになったし、そういう意味で制作環境はかなり変わったと言えるね。Courage My Loveはメジャーレーベルと契約していたから、見た目、サウンド、全てがコントロールされていた。でもソフトカルトを始めてからは、全てを自分たちでやるようになって、よりクリエイティブな自由を得ることが出来た。だから、以前はやり方を知らなかったことも、学んでそれができるようになった。そんな感じで、全てが変わったよ」


━━フェニックスさんが主に楽曲のプロダクションを担当し、メルセデスさんがヴィデオのディレクションなどをおこなう制作スタイルだそうですね。どういうルールをもって楽曲の世界を完成させていくのですか?


メルセデス「ルールがあるわけじゃないんだけど、私たち二人とも、同じものが好きなんだよね。で、それを変えずにいこうってお互いに確かめ合ってる。自分たちの雰囲気、自分たちの美学を大切にしようって。過去には、枠からはみ出そうとしたこともあったけれど。無理やり変えようとするんじゃなくて、もしそれが機能するのならそれに従う。私たちの世界観は、90年代のZineの文化に影響されている。だから、自動的にカラーパレットはモノクロになって。Zineってコピー機で白黒コピーして刷るよね? サウンド面では、ドリームポップやシューゲイザーが大好きだから、リバーブやディレイをたくさん使ってる。それがルールがどうかはわからないけど、自分たちが好きなものを見つけて、それがサウンドやヴィジュアルを繋ぎ合せているんじゃないかな」





━━音作りにおいて、毎回絶対にやることはあるのでしょうか?


メルセデス「どうやってこういう役割分担になったのかは自分たちでもわからないんだけど、フェニックスが自然にプロデュースやレコーディングをするようになった。私たちがバンドを始めた時はパンデミックの真っ最中だったから、それが理由かも。ずっと家に閉じこもっていたから。あの時は、レコーディングはしたかったけど、スタジオに行くことも、ほかの人と一緒に行動することもできなかった。でも幸い、家にはたくさんのレコーディング機材があったから、自分たちでやってみようっていう流れになって。で、自分たちで実際にやってみたら、それをすごく気に入って続けることにした。ビデオに関しても同じで、家にカメラがあったし、私がもともと映画や映像が好きだったんだよね。ずっと前から興味を持っていた。だから2人とも自然とその役割に引き寄せられたんだと思う。やってみたら、それがうまく機能した」


━━先ほどお話されていたように、サウンドは1990年代のシューゲイザーやグランジを連想させる没頭してかき鳴らしているようなものでありながらも、ドリーミーな雰囲気を感じる世界ですね。影響を受けているバンドやミュージシャンはいますか?


メルセデス「私たちは、本当にたくさんのバンドから影響を受けてる。コクトー・ツインズも大好きだし、マイ・ブラッディ・バレンタイもスロウダイヴも大好き」


フェニックス「デフトーンズも」


メルセデス「そうだね。それに、ライオット・ガールの倫理観にも影響を受けている。ビキニ・キルとか」


フェニックス「ブラットモービルも」


メルセデス「それからギターでは、私はケビン・シールズの大ファン。あとは、スマッシング・パンプキンズやヴェルーカ・ソルトも好き。だからある意味、90年代と80年代という同じ世界にいるアーティストが好きなんだよね。でも、それぞれのアーティストたちが違うテイストを持っていて、私たちはその全てから影響を受けている」


━━あなたたちの音楽では、その全てが一つの曲の中で混ざり合っているんですね。


二人「そうそう」


━━まだ若いのに、どうやってその時代の音楽を発見したんですか?


メルセデス「今の時代って、皆ノスタルジアに憧れているんだと思う。昔に戻って、より具体的でリアルに感じられるものを求めているんじゃないかな。レコードとか、カセットテープとか、Zineとか、ハンドメイドのもの。憧れるものがデジタルからアナログに切り替わって、その質感やユニークさが評価されるようになってきた。だから私たちも、エッジの効いたサウンドに惹かれて、自然とそういう音楽に没頭していった。でも同時に、さっきあなたが指摘したように、ドリーミーな柔らかさや繊細さも入っている。それは、私たちがそれを気持ちが良いと思うから。そういうサウンドって、私たちが生まれた90年代を思い起こさせるんだ。つまり、子供時代を思い出させてくれるんだよね。写真の世界観もそうだし、全てが私たちにノスタルジックな懐かしさを感じさせてくれる」


━━皆、持っていないものが欲しくなりますよね。


メルセデス「そう。私たちにとっては、昔のいくつかの時代のほうが、今よりもっと優れた時代に感じられる」





━━そのサウンドにのせる歌詞は、おそらく多くの人が心の奥に潜めている感情、フラストレーションをむき出しにしたような内容が多いような。そういうトピックに正面から向き合うようにした理由とは?


フェニックス「簡単に言うと、アートって自己表現だと思う。そしてアーティストとして、自分の世界や感情を、他の人が共感できるようなものにする。私たちにとっての歌詞は、カタルシスのようなもので自然に出てくるんよね。それに、私たちがインスパイアされたアーティストたちも、政治や社会的な問題を音楽で表現していた人たちばかり。特に、私たちが曲を作っていた頃は、まだトランプがアメリカの大統領で、BLM運動やジョージ・フロイド事件、ブリオナ・テイラー事件といった政治的な出来事がたくさん起こっていた。そんな中、私たちは家に閉じこもっていて、ネットにアクセスするたびにスマホの画面でそういうニュースを見ているだけだった。だからあの時は、何も出来ない、何も変えらえないっていう苛立ちがあったんだと思う。それを強く感じていたから、私たちはそれを音楽に込めた。変な言い方だけど、愛とかよりもそういうことを書く方がインスピレーションが湧くんだよね。そういうトピック以外には心が燃えなかったし、皆が一緒に経験していることにそれほど関連性があるとは思えなかった」


━━楽曲制作プロセスは、お二人にとって感情を極限にまで引き出すハードなものですか?それともセラピーのような効果をもたらしますか?


メルセデス「カタルシスみたいなものだと思う。だから、ハードなものというよりは気分を良くしてくれる方かな。私たち二人とも、そういう感情を吐き出す方法を持っているということにすごく感謝している。感情を吐き出すために、多くの人はセラピーに行かなければならないし、それは誰にとっても良いこと。でも私たちには、音楽という自分たちの感情を吐き出す術があって、それはすごく健康的だと思う。日記を書いて、自分の気持ちをそこに書き留める人もいるよね。でも私は、そういう衝動に駆られることがない。それはきっと、音楽ですでにそれをやっているからだと思うの。時々、自分たちでも曲が完成するまで何について書いているのかわからないときもある。でも曲が完成して、自分たちはこういうことを考えていたのかっていうのがハッキリすることもある。曲を書きながら、曲の中で自分たちの思いを吐き出している感じかな」


━━ヴォーカルに関しては、あえて一定の感情で歌い上げているような印象。エモーショナルなサウンドとの美しいコントラストを描いていますね。そのバランス感覚は大切にしていますか?


メルセデス「そうだね。多くのバンドは、感情的な音楽を作る時、叫んだり怒鳴ったりする。でも私たちは、人々に私たちの音楽をしっかりと聴いてもらいたいから、それとは逆のことをしている。ささやき声だと、少し頑張って聴こうとしないといけないよね? それが、もっと人々に耳を傾けさせるんじゃないかと思うんだよね。あえてそれを意識してるってわけでもないけど、それが私たちのやり方。そういうバランスが取れているのって良いことだと思うし、私にとってのシューゲイズのイメージがそれだから。演奏は壁が轟くように超ラウドで、ヴォーカルはすごくソフトな感じ。そして、その両方を併せ持つことができるのって、すごく女性的なエネルギーだと思う。私たちのバンドはフェミニスト・バンドのようなバンドで、怒りと同時に柔らかさも持ってる。そして私たちはいつも、大胆不敵でいようとする代わりに、自然な形で存在しているんだ」





━━リリースされた最新EP『see you in the dark』について教えてください。収録曲「Dress」のフレーズから取られたものと思いますが、なぜこのタイトルにしたのですか?


メルセデス「タイトルを考えていた時、全ての曲に当てはまって、EPの内容を要約できるような名前を見つけようとしていた。そしたら、”see you in the dark”って歌詞が頭の中にポンと浮かんで。この言葉は、文字通り暗い道で自分を追いかけてくるような誰かを意味しているけど、比喩的には、自分自身の問題や課題に直面することを表してる。あの曲は、社会をより良く変えるために自分自身で変えられる何かがあることを認識することについて書いた曲で、EPには、他にもそういった内容の曲が収録されている。気候変動とか、企業の強欲さ、メンタルヘルスについて歌った曲もある。あの言葉の意味は、その全てに結びついていた。物事に対して責任を持ち、それについて話すことを恐れないってことだね」


━━前半はエモーショナルな楽曲で、後半になるとドリーミーでイノセントは余韻が響く内容になっていますね。全体的にどんな感情やトピックを、どんなサウンドで構築させたものなのでしょう?


メルセデス「このEPのメインテーマは、責任だと思う。その責任とは、政府や企業の腐敗や貪欲さ、偏見に満ちた決定に対して責任を問うことかもしれないし、あるいは、自分自身の有害性、もしくは自分を育てた社会から有害な行動を学んだことに対して、個人に責任を負わせることかもしれない。でも、そういうサイクルを続けるんじゃなくて、またそれが存在しないふりをするんじゃなくて、存在を認めて、そのサイクルを断ち切り、より良い方向へと変えていく、というのがこのEPのメインテーマ。曲の雰囲気がそれぞれ違っていても、どの曲にも当てはまるテーマ。そして、ハードな部分とソフトな部分があるのは、さっきも話したけど、私たちはダイコノミー(二分法)が好きだから。そして、冒頭が重い感じで、最後にいくにつれ軽くしたのは、最初の法で人々の注意を引きたかったから。そのあと、アルバムが進むにつれて夢のようなトランスに導いていくような、そんな感じにしたかったんだよね」





━━ミュージックビデオも印象的ですね。「Dress」では若い世代の葛藤を、また「Love Song」ではこれまでの人生を振り返るような甘い雰囲気。ヴィデオに関しても、何か統一的なテーマを持って制作されたのですか?


メルセデス「今回のビデオは、より映画的で、よりストーリーを感じさせるものにしたいと強く思っていた。最初の2枚のEPでは、美的感覚や雰囲気、バンドのルックスやフィーリングを伝えることに重点を置いていたと思う。でもこのEPでは、それはもう十分だと思って。私たちはの存在は、もうすでに確立されていると思ったんだよね。それは、昔のビデオを見てもらえれば伝わると思った。だから、今回は曲の歌詞にもっと焦点を当てたくて。と同時に、それぞれのビデオを短編映画みたいにしたいとも思った。歌詞と組み合わせたビジュアルで、曲をより深く理解してもらえたらいいなって」


━━ヴィジュアル全体に関してどうでしょう?ビデオに限らず、EPのジャケットなど、ヴィジュアル全体に共通点はありますか?


フェニックス「私はずっとコラージュが好きで、子供の頃からずっとコラージュを作ってきたんだ。すごくクールだなと思って。だから、自分たちが作るZineのためにはもちろん、自分たちのレコードやポスターのためにもコラージュをしてきた。あと、すごく強烈な印象があるから、ブラッグ・フラッグのアートにはインスパイアされてきた。ダークブラックをたくさん使ったコントラストがすごく好きだし、あのアートワークを見れば、すぐにブラッグ・フラッグのものだとわかる。あれは本当に象徴的だよね。だから私たちも、見たらすぐにソフトカルトのものだとわかるようなデザインを意識している」


メルセデス「そして、今回のEPのジャケットでは、目が暗闇を見てるでしょ? あれがEPのタイトルにピッタリだと思った。アルバムの内容を説明しているなって」





━━今回のEPを制作したことで、見えた次のヴィジョンはありますか?


メルセデス「帰国したら、次のEPを仕上げる予定。もう新しい曲はほとんど出来ていて、あとは仕上げてレコーディングするだけなんだ。でも、今の時点ではどんな内容になるかを話すのは早すぎるかも。何かはこれまでと違う特徴があるかと聞かれたら、今の時点ではわからない。でも、楽曲を作るたびに違いを感じていることは確かね。新しいことに挑戦して、成長していると思う。そして、自分たちのアイディンティティの中でより心地よく過ごせるようになってきているし、いろいろ実験したり、どこまで出来るか限界まで試すことに関しても、より快適さを感じるようになってる。音楽性もそうだし、毎回少しずつ冒険しているって思いたいな」


━━今後バンドはどのように進化していきたいですか?


メルセデス「私たちの目標は、本物のミュージシャンのような生活を送ること。今、私たちは二人とも音楽以外の副業もしているから。だから、音楽一本で食べていけるようになりたい。フルタイムでツアーをして、レコーディングをできるようになるのが夢。あとは、もっと大きなスケールで世界中をツアーできるようになりたいな。今やっていることも、すでに自分たちが夢見てきたことなんだけどね。初のアジアツアーで、初めていろいろなことをやって、会えるなんて思ってもみなかった人々に会うことができた。だから、このまま活動を続けて、もっと多くの人々に音楽を届けるために、もっとたくさんの国にいって、もっとたくさんの人々に会いたいと思ってる」





━━日本での初パフォーマンスの感想は?


フェニックス「日本でのパフォーマンスは、夢が叶ったような体験だった。カナダから遠く離れた場所で、違う言語で歌っているのに、こんな遠くで歌詞を知ってくれている人たちに会えるなんて本当に夢みたい。それに、私たちは日本の文化が大好き。食べ物はもちろんだし、日本の文化の全てが大好きなんだ」


メルセデス「多くのことを学ばせてもらっているし、本当に素晴らしい経験になってる。だから、まだ家に帰りたくないな(笑)。それくらい素敵な時間をすごしている。10年前にCourage My Loveで来た時に最高の時間を過ごせたから、また違うバンドで日本に戻ってくることができて本当にラッキーだと思う。10年ってすごく長い時間だし、まだ戻って来れるなんて思ってもみなかったから」


━━何かいい思い出はできましたか?


メルセデス「日本では、たくさんのことが経験できるように毎日早起きして、できるだけ夜更かしして歩き回ってる。その中でも、特に昨日の夜は本当に楽しかったな。バーに行って、そのあと夜遅くまでやってる小さなラーメン屋さんでラーメンを食べて。今まで食べた中で最高のラーメンだった。色々な人々にあって、みんなで同じことを経験できたのもすごく嬉しかったしね」


フェニックス「渋谷のスクランブル交差点も、他にはない特別な場所だと思う。日本には、映画でしか見たことがないようなクールな場所がたくさんあるよね。それを現実の世界で自分の目で見ることができてるなんて、本当にクレイジー」


━━日本のリスナーにはSoftcultの音楽を通じて、どんな景色や感情を持ってもらいたいですか?


メルセデス「リスナーのみんなが、私たちの音楽からパワーをもらったり、誰かと一緒にいるって思ってもたえたら嬉しいな。どの曲でもかまわないから、曲につながりを感じてくれたら嬉しい。もしバンドを始めたいって思ったら、自分たちにもできるんだって知ってほしいし、バンドじゃなくても、Zineを作りたいとか、政治や活動に参加したいとか、自分を信じて、やりたいことは何でもできると感じてもらいたい。そして、個人的な生活や社会、周囲の世界に不満があったら、そこで自己満足に陥らないこと。より良いものを求めて、努力を続けてほしい。そして、孤独を感じたとしても、自分と同じ気持ちを感じている人たちがいて、その人たちとの絆で結ばれていることも知ってほしいな」


フェニックス「自分は一人じゃないんだって思ってほしい」


メルセデス「そうだね。このバンドや、世界中の同じように感じている人たちと一緒に、コミュニティの一員であることを感じてもらえたら、それが一番だと思う」


photography Marisa Suda(https://www.instagram.com/marisatakesokphotos/
text Takahisa Matsunaga



Softcult(ソフトカルト)
EP『see you in the dark』
https://orcd.co/seeyouinthedark
(Easy Life Records)


カナダ、オンタリオ州を拠点に活動。2020年メルセデスとフェニックスの双子姉妹によって結成されたバンド。90年代のグランジ、ドリームポップの影響と混ぜ合わせた個性的な楽曲をはじめ、ヴィジュアル、ビデオに至るまでセルフプロデュースで活動。また、ライオット・ガール・ムーブメントの精神を継承したフェミニストとしての活動も精力的におこなっている。

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NeoL/ネオエル

都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。

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