Web3技術が拓く国際協力と地方創生~地方のNFT活用事例から見る、地域活性化の新しいかたちとは~

株式会社奇兵隊のCEO、阿部遼介さんにWeb3技術が拓く国際協力と地方創生ついて、実際のプロジェクト事例とあわせて解説していただく本企画。

前編では、株式会社奇兵隊がアフリカの農村で実践しているWeb3型クラウドファンディングプロジェクト「Savanna Kidz NFT」を事例として、Web3技術が現行の国際協力の課題を解決できる可能性について解説していただきました。

今回の後編では、持続的な地域活性化におけるWeb3技術の有用性について、「ふるさと納税NFT」をはじめ、株式会社奇兵隊と埼玉県横瀬町のプロジェクト事例とともに解説していただきます。

NFTを用いた地域活性化の事例

それでは、NFTを用いた地域活性化の事例として、株式会社あるやうむの「ふるさと納税NFT」、山古志住民会議の「Nishikigoi NFT」、そして株式会社奇兵隊・埼玉県横瀬町による「Open Town Yokoze」を紹介します。

①「ふるさと納税NFT」by 株式会社あるやうむ

ふるさと納税NFTとは、株式会社あるやうむが展開している、ふるさと納税の返礼品として限定数量のNFTを発行する取り組みです。

返礼品としてのデジタルアートに地域の景観や名産品などを描くことで、その自治体や地域の魅力発信を促進することができます。

また、地域を訪れたNFT購入者に対する限定特典を用意することで、ふるさと納税の購入をより効果的に地域振興につなげる仕組みをつくります。

たとえば、2022年5月7日に開始した北海道余市町のふるさと納税NFT第一弾「Yoichi Mini Collectible Collection No.1」では、余市町の特産品であるワインをモチーフに作成された全54種類のふるさと納税NFTが1枚あたり12万円で発行されました。

予約受付開始からわずか2時間ほどで約100名からの予約が入り、5月31日までに全ての寄付が集まりました。

人気NFTクリエイターのPoki氏による描き下ろしのイラストによってアート作品としての魅力が高まったことや、NFTアート保有者に対して付与された「余市町産の希少ワインの優先購入権の抽選に参加できる権利」などが、多額の寄付金を短期間で集めることに成功した理由として考えられます。

ふるさと納税NFTはアートという切り口で人々の地域への関心を呼び起こし、さらに直接足を運ぶ動機づけを設計することで、商品の購入と地域活性化をより直接的に結びつけるきっかけとなっています。

②「Nishikigoi NFT」by 山古志住民会議

人口わずか800人ほどの新潟県長岡市山古志地区(旧山古志村)もまた、NFTを活用した地域活性化に取り組んでいます。

山古志地区は長岡市に編入合併され、市の一部となっていますが、深刻な少子高齢化や、市の財源分配における優先順位が低いことなどにより、地域活性のために動ける人々を外部から受け入れたり、地域おこしにかかる費用を自ら確保したりする必要がありました。

そのような状況に危機感を感じた地域づくり団体「山古志住民会議」によって、NFTを「電子住民票」、NFT所有者を山古志の「デジタル村民」と名づけてグローバルなデジタル関係人口の創出を目指す「仮想山古志プロジェクト」が開始されました。

NFTデザインのモチーフに選ばれたのは、山古志が発祥とされる「錦鯉」のイラストです。

販売から約1年後の2022年11月時点で、Nishikigoi NFT所有者の数は1,000人を超え、「デジタル村民」が、山古志地区の実際の住民の数を超えました。

特産品販売のターゲット顧客に直接アプローチできる環境ができたことは、山古志地区の実体経済に大きなプラスの影響を与えました。

③「Open Town Yokoze」by 株式会社奇兵隊・埼玉県横瀬町

埼玉県横瀬町では住民が自由にアイディアを出し、NFTアートを使った資金集めとプロジェクトの実行を行えるプラットフォームが盛り上がりを見せています。

横瀬町は人口約7,800人の中山間地域です。自然豊かで歴史的な文化遺産が多く、首都圏の観光地として知られています。しかし教育分野での機会・情報格差や、消滅可能性都市の一つであるという課題を抱えています。

そこで、横瀬町は2022年12月より、株式会社奇兵隊と連携して「Open Town Yokoze」プロジェクトの運営を開始しました。「Open Town Yokoze」は、町民や関連機関が自ら世界中から資金と応援者を集め、町が抱える課題を解決するための施策を実行できるような自律型のまちづくりを目指すプロジェクトです。

「Open Town Yokoze」では、2023年12月26日より横瀬町の魅力を描いた2種類のNFTアート「Yokoze Color Pass」と「Yokoze Pass」の販売を開始しました。

「Yokoze Color Pass」と「Yokoze Pass」にはそれぞれ、Web3教育に特化した連続講座「JOY LAB」の全課程に参加できる権利と、「JOY LAB」のオンラインコミュニティに参加できる権利が付与されています。

講座への参加を希望する横瀬町の小中学生には「Yokoze Color Pass」が無償で配布され、販売と無料配布を含めて、これまでに合計44個の「Yokoze Color Pass」が発行されました。

PR TIMESより

そして、その売上収益を活用して2023年1月にはWeb3学習講座「JOY LAB」が実現。

横瀬町に住む人々と世界中のNFT保有者が、Web3に関する幅広い知識をともに身につけ、生まれ育った場所に関係なくグローバルに活躍できる可能性を広げることを目的として全7回開催された本講座には、毎回町内外の小中学生から大人まで、約30名が参加しました。

参加者はNFTアートを自ら制作して販売する過程を通してWeb3に関する基礎知識を身につけ、講座の最後には横瀬町で実現したいまちづくりについてアイデア出しを行いました。

その結果、具体的に6件の案がOpen Townに提出され、そのうち一つのプロジェクトが、実行に向けて実際に動き始めています。

「Open Town Yokoze」では2023年3月より、横瀬町の官民連携プラットフォーム「よこらぼ」との連携も始まり、横瀬町の地域活性化に挑戦したい人がより自律的に資金や応援者を集めることができる仕組みができ上がってきています。

今後も別の切り口からWeb3学習講座「JOY LAB」が継続開催されるほか、年内にも町民主体のまちづくりプロジェクトが複数リリースされる予定です。

従来の地域通貨の課題

全国各地でさまざまな地域活性施策が実施されているなか、近年増えてきている取り組みの一つが地域通貨の導入です。

地域通貨とはある特定の地域内でのみ使用できる通貨のことで、地域経済の活性化や地域コミュニティの強化を目的としています。地元の事業者や住民が積極的に利用することで、地域内の資金循環が促進され、経済活動がより活発になる効果が期待されているのです。

一方で、地域通貨にはいくつかの課題が存在します。

1. 地域通貨の流通範囲が限定的であるため、普及が難しい
2. 物理的な通貨の製造や管理にかかるコストが普及の妨げとなる
3. 地域通貨の受け入れ先が限定的であるため、利用する機会が限られ普及が阻害されることがある

地域通貨は地域経済活性化の効果が期待される反面、これらの課題を原因に実用化が困難であるという実態があります。

ブロックチェーン技術で地域通貨の課題解決へ

これらの課題は、ブロックチェーン技術を活用することで解決できる可能性があります。

たとえば…

1. ブロックチェーンを利用して地域通貨をデジタル化することで、地域外の人も利用しやすくなり、流通範囲が拡大され、普及が進む
2. デジタル化により通貨の製造や管理にかかるコストが削減されるため、運用が効率化される
3. ブロックチェーン技術を用いた地域通貨は、取引の透明性が向上し信頼性が高まるため、消費者や事業者が積極的に利用しやすくなる

また、ブロックチェーン技術を活用した地域通貨は、グローバルな分散型金融(DeFi)プラットフォームとの連携が可能になります。

これにより、地域通貨がより広範囲の金融サービスと組み合わせて利用されるようになれば、地域内外の投資家や消費者の関心を惹きつけることができるかもしれません。

ブロックチェーン技術は、地域通貨の課題に対する有望な手段になり、地域経済の活性化やコミュニティの強化に大きく貢献できる可能性を持っています。

今後の技術進化や実証事例によって、より多くの地域で普及が進むことが期待されます。

進化し続ける技術を適切に活用し、住みやすい世界をつくろう

Web3技術の進化は今後も続き、新たな可能性をもたらすでしょう。

国際協力においては、スマートコントラクトを使った支援の透明性や円滑性の向上、分散化が進んでいます。地方創生においては、NFTアートなどのWeb3ツールを使って、地域の魅力を発信する新しいアプローチや、地域内外の人々を巻き込んだボトムアップのまちづくりがますます普及・発展していくと考えます。

私たちは、進化するWeb3技術を適切に活用することで、大企業や国家だけでは手の行き届かない課題にも自分たちの力で対処できるようになるでしょう。

株式会社奇兵隊は、今後もWeb3クラウドファンディングサービス「Open Town」の運営を通じて、分散型の自律したまちづくりを実現する仕組みと、各国・地域で課題解決に取り組む人々をつなぐネットワークの構築を加速させていきます。

具体的には、地域のNFTアート制作や販売によるまちづくりの実施と、支援者(NFT購入者)へのリワードの提供を循環させる仕組みを構築しています。

各地域の住民、NGO、自治体、企業が主体となり、自律的にプロジェクトを運営できるよう支援します。ご興味をお持ちいただける方は、お気軽にご相談ください。自分たちの力で、身近なところから少しずつ住みやすい世界をつくっていきましょう。

<著者プロフィール>

阿部遼介
株式会社奇兵隊CEO

1982年生まれ。
2007年国際基督教大学卒業後、アクセンチュア株式会社入社。
アクセンチュアでは3年間にわたり、金融機関、官公庁、化学メーカー、新聞社などの顧客に対して、新規事業立ち上げ支援、業務改革、BPO 立ち上げ支援など複数のプロジェクトに従事。

2011 年株式会社奇兵隊の代表取締役に就任。
奇兵隊の代表取締役として、会社全体の事業戦略の策定、資金調達、採用及びサービスのマーケティング全般を管掌。奇兵隊の従業員の出身国は10カ国以上にもわたり、多国籍メンバーで構成されたチームを率いる。

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