「思春期は非常に雑多で不完全なもの」フィンランド発の“リアル”青春映画『ガールピクチャー』監督インタビュー

第38回サンダンス映画祭でワールドシネマドラマ部門観客賞受賞のほか、第95回(2023年度)アカデミー賞国際⻑編映画賞部門フィンランド代表に選出。子どもと大人のはざま、17歳から18歳に差し掛かる3人の少女、ミンミとロンコとエマ。3度の金曜日で、ミンミとエマはお互いの人生を揺るがすような運命の恋をし、ロンコは未知の性的快感を求め冒険する――。北欧発〈ジェネレーション Z〉のみずみずしい⻘春映画『ガール・ピクチャー』が現在公開中です。

経験も振り返りながら綴った。監督は、自分の声を見出していく女性作家を描いた映画『Love and Fury』(16)でデビューし、強い女性たちが主導するストーリーを生み出しているアッリ・ハーパサロさん。監督に作品へのこだわりなどお話を伺いました。

――映画楽しく拝見させていただきました! まずは本作を手掛けようと思ったきっかけを教えてください。

脚本を手がけているイロナ・アハティさんと、ダニエラ・ハクリネンさんからアプローチを受けました。その時点では脚本は完成していなくて、「こういった話を書こうと思っている」という概要しかありませんでしたが、それを読んで「これまでに無い作品になるな」と思いました。何をそう感じたのかというと、10代の少女たちの描き方です。この描き方がこれまでに無いものだったので、ぜひ映画にしたいなと思ったんです。私が10代の頃、映画を観ていて、すごく共感出来るキャラクターがなかなかいなかったんですね。今を生きている10代の女の子の等身大の姿を描きたいなという使命感みたいなものを感じました。

――これまでの映画の10代の少女の描き方に対し、ステレオタイプさなどを感じていたのでしょうか?

その通りです。これまでの多くの映画での10代の少女の役割というのが、誰かの“彼女”であったり、大人の製作者が「10代ってこういう感じだろう」と上から目線で描いていたり、あるいは自分を懐かしんで書いていることが多かったと思います。あとは、必要以上にドラマティックに仕立て上げていることも多かったと思います。例えば妊娠をしてしまった、性被害にあった、という描写です。この映画では、そうではなくて本当にありのままの10代の女の子たちの日常を描きたかった。日常の中の出来事や事件に向き合っている彼女たちの姿を描くことで、結果的にフェミニズム的な描写が生まれるとも思いました。10代の日常をとらえるだけで、十分に魅力的な物語になるのですよ、ということを伝えたかったんです。

彼女たちの目線を非常にリアリスティックに描きたかった。見た目も、映画の中だとはいえ、女優さんたちの見た目がいつも完璧すぎるんですよね(笑)。そうではなく、そこらへんにいそうな少女のリアリティさを持たせたかったのと、彼女たちの良い面だけでは無く、すこし悪い面も描きたかった。その両方があって人間ですものね。そして、周りに振り回されるのではなく、彼女たちが“決めている”、物語の主人公であることを伝えたかったんです。

――私は30代ですが、すごく胸がキュッとするというか、どの年代の方でも楽しめるストーリーが素晴らしいなと思いました。

私たちにも10代の時があったわけで、時代や個々の差はあれど10代の時に感じていた気持ちや葛藤というものは誰にでも経験がありますよね。10代って“はじめて”を色々経験するわけですし、毎日に新しい可能性が秘めていて、「今日すごく良いことが起こるんではないか!」とワクワク、キラキラした気持ちを持っていますよね。今回の映画のために、10代にリサーチをするということは、結果的にしなかったのですが、キャストの3人には「セリフに少しでも違和感があったら言って欲しい」と伝えて、しっかりとすり合わせをしたあと、3ケ月間のリハーサルをしました。彼女たちのおかげで、この映画がリアリティを持ってくれたと思います。

10代の女子たちって、お互いがプラトニックであっても肉体的に近い距離でコミュニケーションをとったりしますよね。メイクをしてあげる、髪型をやってあげる、一緒にゴロゴロする…。そういったことを、実際には仲良く無い同士がやってしまうとすごく不自然に見えてしまうと思ったので、そういう意味でもリハーサルの時間をしっかりとりました。

――映画の中のファッションや美術がとても素敵ですが、特にこだわった部分を教えてください!

衣装は、着せ替えの様に3人に色々と着てもらって、こちらで決めたものをフィッティングしてもらうのではなく、「このキャラクターはどういう子だろう」と考えながら組み立てていきました。何を着ているかによって、メイクによって、そのキャラクターが画面に与える印象が決まりますよね。

若い女の子ってお互いに服を貸し借りしたりしますよね。それを今回映画の中でもやっています。別の子の服を着たりしています。その話に通じるのですが、映画の中の10代が何着も高級ブランドの服を持っていたり、というのはリアリティさに欠けるので、同じアイテムを何回か着回しています。部屋も、10代と20代のはざまの年齢ということで、一人暮らしをしている部屋に大きなテディベアが置いてあったり、魅力的なアンバランスさを表現しています。

思春期は非常に雑多で不完全なものだし、女性は幼い頃から「正しい女性になるべき」、さらにそのためには「とても狭い道を進まなきゃいけない」ということを思い知らされています。私もそう感じていましたし、そう思っている方も多いと思います。そうではなくて、不完全だから、アンバランスだから、雑多だから、人間なのだし魅力的なのであるということを、この映画を通して少しでも多くの方に感じていただけたら嬉しいです。

――今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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