米国のシェールガス「売り惜しみ」戦略が市場価格暴落で裏目?

シェールガス採掘場

米国で大規模な商業採掘に成功し、石炭・石油に代わるエネルギー資源として有望視されているシェールガス。これまで米国は自国で採掘したシェールガスの輸出を自由貿易協定(FTA)締結国にしか許可しない「売り惜しみ」方針で他国に対する市場開放圧力のカードとして来ましたが、ここに来てその戦略の継続が怪しくなって来ています。

世界に先駆けて商業採掘を実用化した米国では2008年頃に100万BTU(英国熱量単位)につき13ドルだった市場価格が、輸出市場開拓前に採掘規模の急拡大で国内需要の飽和状態を招き、2012年末には3ドル前後と価格が大暴落。4月1日には大手のGMXリソーシズが連邦破産法11条の申請を適用したのを始め、採算が合わなくなって倒産や撤退に追い込まれる事業者が続出しているのです。

日本政府は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加すべき理由の一つとして前述の自由貿易協定(FTA)締結国にしかシェールガス輸出を許可しない米国の方針を挙げていますが、今やその米国は供給過多でシェールガスを他国への市場開放を迫るカードに使えるような状態ではなくなっていると見ざるを得ません。

しかも地続きの隣国・カナダでも商業採掘が本格的に始まり、3月には日本の三菱商事が多国籍の4社で構成されるジョイントベンチャーに参画して西部のブリティッシュコロンビア州モントニーで20%の権益を獲得しました(輸出開始は2020年頃からの予定)。カナダ政府は米国と対象的にFTA締結などの許可条件を相手国に求めていないので、米国から見れば従来の「売り惜しみ」戦略が裏目に出た格好となってしまっています。

日本政府は電力会社の相次ぐ値上げ申請に対し、原発再稼働を認める代わりに価格高騰が続いている液化天然ガス(LNG)の代替として米国からのシェールガス輸入を奨励する方針です。しかし、当の電力会社はLNGを「石油の補助燃料」程度にしか位置付けておらず、日本が米国やEUに比べて割高なLNGを買わされている一因である原油連動(原油に連動した価格決定)方式をやめて原油とLNGの価格交渉切り離しをするなどの努力が見られないことが問題だとの指摘も出ています。この局面で政府がすべきことは米国の「売り惜しみ」戦略が失敗しつつある事実を認識してTPP参加の是非とは切り離した交渉、米国以外の産出国に関してはほとんど民間まかせになっている供給源の多様化、そして日本のメーカーが高度な技術を持っているにも関わらず電力会社が導入に消極的なガスコンバインドサイクル発電の普及による受け入れ態勢の拡充ではないでしょうか。

画像:米国・ペンシルベニア州のシェールガス採掘施設(撮影者:Nicholas_T)

http://www.flickr.com/photos/nicholas_t/7770508920/ (from flickr YAHOO!)

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