赤染晶子のエッセイ集『じゃむパンの日』が最高だ!

 なんじゃこれは! 読み始めてすぐに、心の中でそう叫んでしまった。この感情をどう表現しよう。よそのクラスにいる物静かで上品と思っていた女子が、実はかなり面白い人だという噂を聞き、話しかけてみたら異次元レベルに愉快な時間を過ごすことになり、興奮しまくってる感じと言えばいいのか。インパクトという点では、マツケンサンバを初めて見た時の驚愕と戸惑い含みのときめきを、いろんな人と共有したくなった感じにもちょっと似ている気がする。書けば書くほどわけがわからなっている気がするが、2010年に芥川賞を受賞した作家・赤染晶子氏のエッセイが、説明しづらいんだけど最高だからとりあえず読んでほしいということを、私は皆さんに言いたいのである。

 最初に掲載されている表題作「じゃむぱんの日」は、勤務先のビルでいつも他のテナントの従業員と間違えられて困惑するというエピソードから始まり、ビル内にある狭い給湯室で終わる。ただそれだけの短いエッセイなのだが、その間に繰り広げられる著者の妄想のなんと力強く斬新で愛らしいことよ。基本的には、家族やご近所、同級生や職場の同僚、入院病棟の子どもたちなど身近な人々の個性的な振る舞いだとか、生まれ育った京都や大学院進学後に住んだ札幌の特徴を描いたエッセイなのである。しっとりと味わい深いエピソードや、身近な人々への温かい感情、どこか懐かしいような日常に、独特の彩色を施していく著者の脳内世界に圧倒される。読みながら何度も意表をつかれ、驚き呆れ、むせび笑いが止まらなくなり、背中が痛くなった。周囲の環境と健康状態には、十分留意して読んでいただきたい。

 最後に掲載される岸本佐知子氏との「交換日記」で、私の感情制御機能は完全に崩壊した。突出してユニークな脳内世界を持つもの同士の夢の共演!超一流の妄想と妄想のぶつかり合いが生み出す至高の世界!夢のような時間を過ごせた興奮と喜び!声を出して笑いながら、部屋中をスキップしたくなるような気分である。

 著者は2017年に他界している。次の作品を待つことができないのが、とてもとても残念だ。晶子、もっと早く会いたかったよ……。もっともっと、書いてほしかったよ。会ったこともないのに、いきなりなれなれしく呼び捨ててごめんね。勝手ながら心の中の大切な友達として、これからも時々語りかけてみたいと思う。  

 そういえば、芥川賞受賞作である『乙女の密告』の重要なテーマだったアンネ・フランクは、日記にキティという名をつけていたよね。ねえ晶子、あなたが遺した小説は3冊あるけれど、残念ながらどれも新刊書店では入手不可能だよ。もう一度店頭に並べられる日が来る事を、私は強く願ってる。

(高頭佐和子)

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