舌切雀のお宿に昔ながらの磯部せんべい店。群馬・磯部温泉の旅
諸国の民話と不思議な話がお好きなみなさま、こんにちは! 江戸文化と妖怪好きライターの櫻庭由紀子です。
今回は、民話『舌切雀』がうまれた群馬県磯部温泉と、安中市に伝わる「チャンコロリン石」をこの目で確かめるという列車旅に行ってまいりました。
東京駅
文人たちが愛した磯部温泉へ
JR東京駅から出発です!
東京駅から上越新幹線「とき」に乗って約1時間でJR高崎駅まで、高崎駅から信越本線に乗り換え20分ほどでJR磯部駅へ。
東京から1時間半ほどで行けてしまう温泉。思いついたときに行ける距離がうれしいですね。
磯部温泉
日本最古の温泉記号は磯部温泉にあり
安中市の南西部に位置する温泉地、磯部温泉の最寄りである磯部駅。駅の「のれん」に、見たことあるようなマークが並んでいますね。これは一体……?
実は、磯部温泉は「温泉記号発祥の地」なんです。
1661年(万治4年)、付近に住む農民たちによる土地争いを決着させるため、幕府が評決文を出しました。そこには、磯部温泉を指す、3本の湯気のようなものから成る記号が2つ。この、温泉を指す記号は日本で使われた最古の温泉記号とされ、磯部温泉は温泉記号発祥の地になったというわけです。
駅前の広場には「日本最古の温泉記号発祥の地」碑があります。
さて、その発祥の地碑の後ろには「恐妻碑」。恐妻とは、穏やかならぬ碑です。この伏線は後ほど明らかになるのでお楽しみに。
hitoritoiro.cafe
映えまちがいなしのカラフルベーグル
本日のお宿に入るには、まだ時間があります。腹ごしらえとまいりましょう。
磯部駅から徒歩1分ほど。トラックのコンテナを利用したかわいいカフェがみえました。「hitoritoiro.cafe(ヒトリトイロ)」です。
白い内装と広い窓が、コンテナとは思えないほどの開放感をもたらしています。
こちらでいただきたいのは、なんといっても、カラフルなベーグルサンドのランチ。これは映えまちがいなしです。
「カラーベーグルランチ(税込1,200円)」は、ベーグルのサンドとドリンクのセット。今回は、レインボーカラーベーグルとサラダチキンをチョイス。ドリンクは、地元の秋間梅林で収穫された青梅からつくった梅ジュースをいただきます。
ベーグルはもちもちで歯ごたえがしっかりしていて、こんなにカワイイ見た目なのに意外とボリューミー。しっかりおいしくお腹いっぱいになります。
hitoritoiro.cafeでは、恋人の聖地である磯部温泉にちなんだ「誓いの絹紐」を購入できます。誓いの絹紐とは、縁結びなどのご利益を願って、磯部温泉内の赤城神社境内にある「結び処」にこの絹紐を結ぶというもの。
誓いの絹紐は、全7色。価格は税込550円です。日本の約6割の生糸を製糸している群馬県安中市の碓氷製糸株式会社が、特別に生産したものだそうです。
赤城神社
恋人の聖地で想いを結ぶ「誓いの絹紐」
磯部温泉は2019年7月、「恋人の聖地」に認定されました。その由来は、さきほどの恐妻碑にあります。
恐妻碑の文字を書いたのは、9代目のNHK会長である阿部真之介氏。磯部温泉を気に入りよく訪れていたそうで、彼が残した「恐妻とは愛妻のいわれなり」という名言から、磯部温泉は愛妻の湯となり、そして恋人の聖地となったのです。
誓いの絹紐を携え、hitoritoiro.cafeから徒歩3分ほどの「赤城神社」にやってきました。
この境内にある結び処で、恋人同士、または夫婦が誓いの絹紐を結ぶことで、お互いに想いあう2人になれるとのこと。
結び処は、手で繭から糸を引き出す昔ながらの手法「座繰り」で使われる糸枠(糸を巻き取るための木枠)をイメージしています。
本日はおひとりさまなので、旦那のことでも思い浮かべながら結んでみました。絶対に解けないであろう強い撚り……。強烈な縁結びを感じさせます。
磯部詩碑公園
磯部を訪れた文人の詩碑
本殿に良縁と旅の無事を祈願して、奥に行ってみましょう。
奥は緑があふれる「磯部詩碑公園」となっていて、かつて磯部を訪れた15人の文人たちの作品が刻まれた詩碑をみることができます。
こちらは、大手拓次の詩碑。大手拓次は、1887年(明治20年)に碓氷郡磯部町(現在は安中市の一部)に生まれた詩人です。怪奇豊麗な幻夢と暗鬱な香気を漂わす詩風で、室生犀星、萩原朔太郎とともに白秋門下の三羽烏といわれました。
公園のすぐ横は碓氷川です。せせらぎを聞きながら川沿いをのんびり歩いて、本日のお宿へと向かいましょう。
舌切雀のお宿 磯部ガーデン
児童文学者が認めた『舌切雀』発祥の地
本日のお宿は、磯部駅から歩くと5分ほどにある、90年を超える老舗宿「舌切雀のお宿 磯部ガーデン」です。
磯部温泉は、明治の児童文学者・作家である巌谷小波氏がお墨付きを与えた、民話『舌切雀』
発祥の地。このホテルは、その民話に登場する「雀のお宿」をモチーフにしています。
敷地内には舌切雀神社の祠があります。商売繁盛・家内安全などのご利益があるそうです。
磯部ガーデンの公式キャラクター「おちゅん」がお出迎えしてくれました。
妖精です。中の人などいません。2016年生まれのお嬢さん。おべべは自慢の抗菌仕様です。
館内1階の一角にある宝物殿には、『舌切雀』ゆかりの品が残されています。
雀の舌を切ったと伝えられている「はさみ」や、雀の宿から持ち帰った「つづら」、舌切雀絵巻の額などの貴重な資料が展示されています。
舌切雀のお宿 磯部ガーデン
うれしい美肌の温泉と上州の食を堪能
今回は碓氷川を望む部屋に泊ります。
部屋でくつろいだら、大浴場へ!
1階の「楽水の湯」の露天風呂には滝が流れる趣向。
岩風呂、樽風呂、庭園風呂などバラエティに楽しめます。
2階の「楽山の湯」。
露天風呂からは豊かな自然や満天の星を一望できます。
温泉をゆったりと堪能したら、お楽しみの食事! 地元の旬の食材を使った和食膳です。
上州牛のすき焼きは、お肉のおいしさもさることながら、肉のうまみがしみ込んだ野菜もおいしい!
活きあわびの踊り焼きは、やわらかくて弾む食感。磯の香りにバターが絡みあい、こんな贅沢を堪能してもよいのでしょうか。
夕食後は、サイボットシアターを観に行ってみましょう。『舌切雀』を、ロボットのおちゅんとおじいさんがコミカルに説明しています。19時半から21時まで、1日4回の上演です。(上映時間は約10分)
お部屋の湯呑にも、『舌切雀』のおじいさんとおちゅんが描かれていました。かわいい。
温泉は体にやさしくて、しばらく滞在したくなるほど。文人たちが磯部を愛したのもわかります。ほこほこに温まった身体を横たえ、ゆっくりと休みました。
せんべいストリート
名物「磯部せんべい」の食べ歩きも
2日目はお隣のJR安中駅に向かい、「チャンコロリン石」をたずねに行きます。
その前に、磯部温泉のお土産を買わねば。というわけで、チェックアウト後に「せんべいストリート」にやってきました。
せんべいストリートは駅前の通りにあり、磯部せんべいを扱う11のお店が軒を連ねます。
温泉の名物と言えば温泉饅頭ですが、磯部温泉は小麦粉と砂糖、磯部温泉の鉱泉水を使用してつくった「磯部せんべい」が名物なのです。
こちらの「栄泉堂」さんは、明治時代に創業された磯部せんべいの老舗です。
焼いているところを見ることができます。リズミカルに焼いていく様子は、まさに職人技!
「お菓子のゆもと」にも立ち寄りました。こちらのお店には、クリームが挟んであるゴーフルのようなせんべいや、唐辛子味の辛いせんべいなど、ちょっと新しいタイプの磯部せんべいもあります。昔ながらの磯部せんべいとの食べくらべが楽しみです。
大泉寺
宿場を転がり人々が恐れたチャンコロリン石
磯部せんべいをどっさりリュックに背負って、磯部駅から信越本線で1駅隣の安中駅へ。
伝説・民話ハンターの私、もうひとつの目的である「チャンコロリン石」を確かめにやってきました。
駅前のロータリーにあるバス停から、秋間中関・碓氷病院線に乗ります。2時間に1本くらいしかないので注意を。安中駅から約5分、3つ目のバス停「伝馬町」で下車します。
安中は中山道の宿場町でした。降りたバス停を進むと、郵便局の脇(敷地内)に「安中宿本陣跡」の碑があります。
チャンコロリン石が鎮座しているという「大泉寺」は、道路を挟んで本陣跡碑の向かい側を少し入ったところ。バス停から徒歩3分もかからない場所にあります。
昔むかし、安中宿に「チャンコロリン、チャンコロリン」と、音を鳴らしながら夜な夜な転がりまわる大きな石がありました。
役人が刀で斬ったり鉄砲で撃ったりしましたが、静まる様子はありません。助けを求められた大泉寺の住職は、お念仏を唱えながら石に釘を打ち付けて封じ込めました。
境内の一角で安中宿を見守るチャンコロリン石には、刀の傷や鉄砲の弾の跡が残っているといわれています。
安中駅
今度は腰を据えて長逗留
チャンコロリン石が転がったかもしれない道をバスで戻り、安中駅から高崎駅を経由して東京へ戻ります。
さて、帰ってからのお楽しみ! 自宅でお土産の磯部せんべいをいただきます。
まずは、老舗の栄泉堂さんから。昔ながらの磯部せんべいの味を守っている様子は、懐かしい包装にも表れています。
磯部温泉に含まれる炭酸で膨らませてあるので、パリパリのサクサク! 口溶けも風味も良く、いくらでも食べられます。
次は、お菓子のゆもとさん。磯部せんべいに、ホワイト・抹茶・チーズ・胡麻の各種クリームを挟んだタイプと、胡麻・アーモンドがそれぞれまぶされたタイプの詰め合わせ。優しい甘さのクリームが、磯部せんべいのパリパリ感と絶妙にマッチ。適度なボリューム感もうれしい。モダンなパッケージで、お土産にもピッタリです。
民話『舌切雀』と「チャンコロリン石」伝説を探求しながら、磯部温泉の湯とグルメをたっぷり堪能できた列車旅。東京から1時間半ほどなので、1泊でも十分にゆっくりのんびり楽しめました! 温泉につかりながらのおこもり旅にも最高な安中市磯部温泉。ワーケーションもいいかもしれませんね。また参ります!
東京駅
掲載情報は2022年11月15日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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