騙されるのは自己責任? 社会にはびこる「マインド・コントロール」の巧妙な手口とは

騙されるのは自己責任? 社会にはびこる「マインド・コントロール」の巧妙な手口とは

 反社会的なカルトによる事件が注目されるたび話題になる「マインド・コントロール」。ワイドショーなどでたびたび耳にし、一般に使われる機会も多い言葉だ。しかし私たちは、マインド・コントロールそのものをどの程度理解できているだろうか。

 今回紹介する『決定版 マインド・コントロール』(アスコム)では、誤解されやすいマインド・コントロールの実態や、マインド・コントロールを受けた人間の心理などが詳しく解説されている。

 著者である紀藤正樹氏は、消費者被害の支援に尽力した経験を持つ弁護士だ。同書において彼は、「マインド・コントロール」を下記のように説明している。

「自分以外の人や組織が常識から逸脱した影響力を行使することで、意識しないままに自分の態度や思想や信念などが強く形成・支配され、結果として物理的・精神的・金銭的などの深刻な被害を受ける状態」(同書より)

 マインド・コントロールに似たしくみを持つ事例は、日常生活でも起こりうることだ。たとえば教育熱心な親に「勉強が全てだ」と教え込まれた子どもが、親の言うことは絶対的に正しいと思い込み行動するといったケースが挙げられる。しかし紀藤氏いわく問題性を判断する際のポイントは、社会的な常識などを前提とした「法規範」や「社会規範」に基づく視点を持つことだ。

「マインド・コントロールには、何らかの目的があり、さまざまな方法をともない、強弱の程度があって、ある結果を生じるわけです。目的、方法、程度、結果などを見て、それらが『法規範』や『社会規範』から大きく逸脱している場合は、これを『マインド・コントロール』と判断して問題視すべきである。私はそう考えています」(同書より)

 ここで言う「法規範や社会規範を逸脱した行為」とは、個人の権利を不当に制限したり、健全な社会生活を営めなくしたりすることだと言える。ただし前提となる社会常識や通念は、時代や環境によって変化するものだ。現代では社会的に容認されない行為が、ある時代では問題視すらされていなかったということも少なくない。一義的な判断が難しいからこそ、ケースごとに詳細を検討し是非を問い続けなければならないだろう。

 また同書では、マインド・コントロールにも利用される6つの心理学的な原理を紹介している。

「1変報性……『人から何らかの恩恵を受けたら、お返しをしなければならない』という原理。

2コミットメントと一貫性……『自分が何かしたら、その後も以前にしたことと一貫し続けたい(一貫していると人から見られたい)』という原理。

3社会的証明……『人は、他人が何を正しいと考えるかに基づいて、物事が正しいかどうかを判断する』という原理。

4好意……『人は、自分が好意を抱いている人からの頼みを受け入れやすい』という原理。

5権威……『人は権威に弱く、権威者の命令や指示には深く考えずに従いがちである』という原理。

6希少性……『あるものが手に入りにくくなればなるほど、それを得る機会が貴重と思えてくる』という原理」(同書より)

 タイムセールや期間限定販売などでつい商品に手が伸びてしまうのは、6つ目の「希少性」が影響している。また5つ目の「権威」が働くケースとして、「専門家からのお墨付きがある」「有名人が広告に出演している」などの理由で情報の信憑性が増したように感じられることが挙げられるだろう。

 上記の6つの原理は、アメリカの社会心理学者・チャルディーニ博士が提唱したメカニズムだ。他者の行動をコントロールするテクニックとして、合法・違法問わずさまざまな場面に当てはまる。マインド・コントロールされてしまうのを防ぐためには、人間心理に関する知識と状況を客観視できる冷静さが必要だろう。

 ただし悪質なカルトがマインド・コントロールをおこなう際、個人の特性に応じて用いる手段を巧みに変えることも多い。

「マインド・コントロールには、もともと対人カウンセリング的な要素があり、相手によってやり方が異なります。

相手の状態と使った手法がうまくマッチしたときは、マインド・コントロールがどんどん深まってしまいます」(同書より)

 相当な知識と経験をあわせ持つ専門家でもない限り、マインド・コントロールの罠から自力で抜け出すことは難しいのではないだろうか。

 同書では他にも、カルト集団がおこなうマインド・コントロールの詳しい手口やマインド・コントロールからの脱却方法などを紹介している。また昨今話題に挙がる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教をはじめ、実在する宗教団体の実態も解説。霊感商法やカルトといった社会問題が再び注目されている今こそ、手にとってもらいたい一冊だ。

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