ザ・リンダ・リンダズ 来日インタビュー/Interview with the Linda Lindas in Japan




2021年5月、ロサンゼルス公立図書館で撮影された一本の動画が話題を呼んだ。そこに映っていたのは、ザ・リンダ・リンダズという名のアジア系とラテン系の4人の少女からなるパンクバンド。当時10歳だったドラマーが、「学校で男子が、『パパから中国人には近寄るなと言われた』と言って、中国系の私を避けました。その経験から生まれた曲です」と説明し、「Racist, Sexist Boy」(=人種差別主義で、性差別主義の少年)と題されたパワフルな楽曲を演奏した(https://www.youtube.com/watch?v=J5AhU5Q7vH0)。世界中がパンデミックの閉塞感に包まれ、アメリカではアジア系を標的とするヘイトクライムが相次いで発生していた時期に配信されたこの動画は、すぐさまSNSで拡散され、著名なアーティストたちにも絶賛されて、バンドは一夜にして注目の的となった。

ザ・リンダ・リンダズのメンバーは、ルシア・デラガーザ(15)とミラ・デラガーザ(12)の姉妹と、2人のいとこにあたるエロイーズ・ウォン(14)、そして、幼なじみのベラ・サラザール(17)。ここでは、SUMMER SONIC 2022で初来日を果たした彼女たちにインタビューを行い、バンドの誕生秘話やデビューアルバム『Growing Up』について、たっぷりと話を聞かせてもらった。インタビューの翌日に行われたサマソニDay 1ではMOUNTAIN STAGEに登場し、アルバム収録曲をたっぷりと披露。ラストはバンド名の由来にもなったブルーハーツの「リンダリンダ」を日本語でカバーし、フロアいっぱいのオーディエンスを大いに沸かせた。 (→ in English)

――日本へようこそ! 今回が初来日ですか?


全員「イエス!」


――日本に来て楽しかったことは?


ベラ・サラザール(G/Vo)「ミラの誕生日(※取材の数日前に12歳になった)に、猫カフェに行ったこと。私は原宿でたくさん買い物もした」


ミラ・デラガーザ(Dr/Vo)「東急ハンズに行って、文房具をたくさん買ったこと」


ルシア・デラガーザ(G/Vo)「タワーレコードにも行ったよね。昨日はディズニーシーにも」


エロイーズ・ウォン(B/Vo)「私はペンを2本買った!」


ルシア「あとは、食べまくっている」


ベラ「めちゃくちゃ食べてるよね」





――日本を楽しんでいるようでよかったです。4人は姉妹(ルシアとミラ)と、そのいとこ(エロイーズ)、そして幼なじみ(ベラ)だそうですが、なぜバンドを始めることになったのですか?


エロイーズ「ダム・ダム・ガールズのクリスティン・コントロールが、“ガールスクールLA”というイベントに私たちや他の未経験のキッズを招待してくれて、一緒に演奏させてくれた。そのイベントに出演するために、2週間で5曲のカバー曲を覚えたんだ。まったく完璧ではなかったけど、本当に楽しかったし、それが重要だった。そのイベントでは、クリスティン・コントロールと演奏することができて、ウェスト・コーストのべサニー(・コセンティーノ)とボブ(・ブルーノ)も一緒に一曲やってくれたし、カレン・Oも共演してくれた。本当に素晴らしい体験だった」


――それはいつ頃のことですか?


ルシア「2018年2月だったかな」


ミラ「その年の夏に、ベラが友だちから誘われてライブに出ることになって、私たちをバックバンドとして誘ってくれたの。その時点ではバンド名もなくて、“ベラ&フレンズ”として出演したんだよね」


ルシア「あのライブに出演したことで、失敗したり、あまり上手とは言えないカバー曲を披露したりしても、ステージを楽しむことはできるし、自分たちが夢中になれるようなエネルギーを生み出すこともできるんだってわかった気がする」


――小さい頃から音楽には親しみがあったのですか?


ルシア「私たちは音楽に囲まれて育って、ピアノを習ってた」


ベラ「私はクラシックギターを習っていて」


ルシア「ずっと音楽は大好きだったけど、もっと大きくなるまでできないと思っていた」




――まさに今、成長中の4人に聞くのは変な感じがしますが、どんな音楽を聴いて育ちましたか? 小さい頃からパンクに夢中だったのですか?


ベラ「私はけっこう大きくなるまでパンクは聴いていなくて。子どもの頃は親が聴いている音楽を聴くものだから、80年代のロックをたくさん聴いていた。トーキング・ヘッズとかね」


ルシア「我が家では、イェー・イェー・イェーズとか、スリーター・キニーとか…」


エロイーズ「私はパンクを聴いて育ったような感じ。我が家では、しょっちゅうライブに行ったり、ミックステープを作ったり、レコードを聴いたりしていた。私はアドレセンツやザ・ウィアドーズ、ザ・ジャームス、アリス・バッグとか、そういう音楽をたくさん聴いていた」


ベラ「それに、全員ゴーゴーズが大好き」


ルシア「ジーナ・ショックとプレイできたときは、すごく嬉しかったよね」


エロイーズ「うん、あれは全員にとってびっくりするような出来事だった。親たちにとっても(笑)」





――なぜバンド名をザ・リンダ・リンダズにしたのですか?


エロイーズ「もちろん、ブルーハーツの曲が由来なんだけど、最初にあの曲を知ったきっかけは、『リンダ リンダ リンダ』という日本のインディー映画だった。だから、私たちのバンド名は映画と曲に由来しているんだ」


――2018年にバンドを結成して、2019年にはビキニ・キルのオープニングを務めたそうですね。


ルシア「あれはヤバかったね」


ベラ「確かキャスリーン・ハンナが、私たちがカバーした『Rebel Girl』の動画を観てくれたんだと思う」


ルシア「そんな感じだったね! 一体何が起こったのかよくわからないんだけど、彼女が私たちにチャンスを与えてくれて。どうしよう、とにかくがんばって、必ず良いライブにしなきゃ、と思った」


ベラ「ルシアのパパ(※グラミー賞受賞歴のある音楽プロデューサー/エンジニアのカルロス・デラガーザ)は、私たちのパフォーマンスについて多くを語らないんだけど、あのライブについてはとても感心していた。どうやったのかわからないんだけど、あの日の私たちはとてもタイトだったよね」


ルシア「あのときに初めて、自分たちにもできるんだ、と実感できた。バンドを結成してから一年も経っていなかったのに、あのライブができたのは本当に良かった」





――そして2021年には、ロサンゼルス公立図書館での「Racist, Sexist Boy」のパフォーマンス動画をきっかけに、世界中でたくさんの人がザ・リンダ・リンダズを知ることになりました。あの動画がバズった時は、どう思いましたか?


ベラ「私は歴史の授業中だった。机に置いてあった携帯のバイブが止まらなくなって、先生にイラっとされて、『緊急かもしれないから、念のため確認しなさい』と言われた。それでチェックしたら、ものすごい量のメールが届いていたの。それからインスタを開いたら、タイムラインがすべて自分たちの動画になっていた。びっくりしたし、変な感じだった!」


ルシア「ミラと私はリモートの授業中で、私は科学の授業に集中していなかった(笑)」


ミラ「私は違う部屋で机に向かっていたんだけど、パパが何度も部屋に来て、『君たちバズってるぞ!』って」


ルシア「マジで50人くらいフォロワーが増えたのかなと思ってた(笑)」


ミラ「そんなにたくさんの人たちが自分たちの動画を観たとは思わなかったよね」


ルシア「びっくり!」


エロイーズ「私もZoomで授業を受けていたら、ミラからメールが来た。『私たち、バイラルヒットしてる!』って。バイラルって、(ViralとVirus=ウィルスを勘違いして)コロナにでもなったのかな、と思ってた。でも、私は学校の課題の真っ最中だったから、両親も教えてくれなくて。次の日まで全然知らなかったんだ。そしたらみんなが『サプライズ!』って。課題は無事に終わったから良かったけどね」


ルシア「翌日には3つくらいインタビューを受けたよね。インタビューを受けたのも、あれが初めてだった」


ベラ「また移動ができるようになって最高だね。ずっと(ヒットの)背後にいる人たちの姿が見えていなかったから。いろんなことがバーチャルで、実際に会うことはできなかった。初めて本当に実感できたのは、LAのトルバドールという会場で演奏したとき。同じ空間にファンが500人くらい集まって、みんなが曲を知っていて、一緒に歌ってくれた。最高に奇妙な感じだったけど、やっと自分たちが経験してきたことを目にすることができた」





――アルバムを聴いていると、その若さで世の中をしっかりと見つめていて感心します。曲作りのときは、どのようなことからインスピレーションを得ていますか?


ベラ「私たちはたくさんのものを目にする年頃なんだと思う。少なくともキッズの方が、少し警戒心が強いし、意見をちゃんと声に出していると思うんだ。だから、自分たちが頭の中で整理している様々なことが(インスピレーションになる)」


エロイーズ「私の考えていることの多くは、激しい感情から来ている気がする。私は時々、怒りとかを強く感じることがあって、それを吐き出す手段が必要になるんだ。いつだって曲を書くときは、書かなきゃ爆発しそう!と感じている」


――だからこそ、パンクに魅了されるのですか?


エロイーズ「私が思うパンクミュージックは、その中にある自由であり、やりたいことをやるということ。それに、他人がどう思おうが構わない、という姿勢も。自分にとって大切なことをしている限り、あとはどうでもいいよね? 愛する人たちに囲まれて、自分が大好きなことをしていれば、それでいい。パンクは精神状態のようなもの。パンクがかっこいいのは、たとえ変でもかっこいいところだと思う」


ベラ「自分は他の人とは違うと感じている人が多くて、安心して自分の気持ちを共有できる場所なんだ」


エロイーズ「そうだね。もし自分が変わり者で、自分には居場所がないと感じているのなら、自分の周りに居場所を作って、何か誇りに思えるものを築けばいい。みんなDIYするためだけにパンクをやっているんだと思う。もし他に誰もやる人がいないのなら、自分でやるべき! そんなエネルギーって、本当に特別だと思うんだ」





――今年4月にリリースされたアルバムは、なぜ『Growing Up』というタイトルにしたのですか?


ルシア「正直言って、私は最初、反対していた(笑)」


ベラ「このアルバムには様々なトピックが収録されているんだけど、面白いことに、それらを集めるとまとまりがあるように聴こえるんだ。しかも、パンデミックで会えない時期に、ほとんどの曲を別々に書いたわけだから、変な感じだよね。だから、すべてが腑に落ちたのは本当にクールなことだし、私たちが感じていたことを一番よく表しているタイトルだと思う」


ルシア「そうだね。成長する(growing up)ということは、自分自身について、もっとよく学ぶこと。曲作りのプロセスを通して、私たちは成長したんだと思う」


エロイーズ「私たちの曲は、周りの世界や自分たちの心の中を映し出している。私たちは今、たまたま成長している途中なんだと思う。それに、誰だって常に成長しているでしょ? だから、そういう意味でもこのタイトルがいいと思った」


――パンデミックの最中に成長したり、曲作りをしたりすることについては、どう感じましたか?


ルシア「パンデミックによって、私たちは世間に惑わされることなく、自分自身について学ぶことができた。“バズった”後、自分自身を振り返る時間を持つことで状況を把握することができたし、自分たちが経験したすべての感情を受け入れることができるようになった。だって、本当に怖かったから。でも、それはとても楽しい時間でもあって、私たちにも変化が生み出せるんじゃないか、という力が湧いてきたんだ」





――あの動画がきっかけでバズって以来、最もクレイジーだった出来事は?


ベラ「日本に来られたこと!」


ルシア「よくインタビューで『将来やりたいことは?』と聞かれるんだけど、私たちはいつも『日本に行きたい』と答えていて」


エロイーズ「私たちはどこへ行くときも、親たちが一緒。だから、サマソニのおかげで両親も日本に来られたし、フェスにたくさん出たからヨーロッパにも行くことができた。これまで私たちを育ててくれて、いろんなことをしてくれた両親に、こうやってお返しができて、たくさんの冒険をしてもらえることが嬉しいんだ」


――ベラはバンドの衣装デザインも担当しているそうですが、他に音楽以外に夢中なことはありますか?


ベラ「うん、今回も東京と大阪の衣装をデザインした。私は写真も大好きで、中野でカメラをいっぱい買ったんだ。すごく安かったから、地元にはないようなレアなカメラを買うことができた」


ルシア「エロイーズはバンドのグッズとかのアートを手掛けているんだよね。今回のフェスのために作ったTシャツでも絵を描いてくれて、すごく良いものができた」


エロイーズ「ルシアとミラは、とてもダンスが上手なんだ。ルシアはとても優雅。歩いているときでさえ、踊っているみたいに見える」


ベラ「ミラはシャーピー(油性マーカー)が好き」


エロイーズ「それに、ミラは側転家。側転がとても上手い。なわとびも得意だよね」


ミラ「つまり、エロイーズはアート、ベラは写真とファッション、ルシアはダンス、私は側転が得意」


ベラ「それが私たち(笑)」





――今後の予定は? そろそろ新学期ですか?


ベラ「3人はね。私は違う」


エロイーズ「ベラは卒業したんだよね!」


――おめでとうございます! 今後は音楽活動に専念するのですか?


ベラ「少しの間はそうするつもり。どんな感じか知りたいから、大学にも行きたいんだ。今学期は休んで、1月に入学する予定」


――これからも音楽を作り続けますか?


エロイーズ「そう願ってる!」


ベラ「間違いなく、イエス。できる限り、何年も続けたいな」




photography Satomi Yamauchi
text nao machida



the Linda Lindas
『Growing Up』
Now on Sale
(Epitaph)

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