倉敷の木密地域が「防災大賞グランプリ」! 美観地区を防災とにぎわいの拠点に 岡山・あちてらす倉敷
全国にある木造住宅が密集する地域は、木密地域(もくみつちいき)と呼ばれ、火災の発生や、細い路地を緊急車両が通れないなどの防災上のリスクを抱えています。岡山県倉敷市では、長年、駅前の木密地域の再開発を構想し、2021年10月に複合施設「あちてらす倉敷」をグランドオープンしました。地域防災の強化とともに住環境を改善したプロジェクトは、強靭な国づくり、地域づくりの活動等を実施している企業・団体を評価・表彰する「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2022」で最高位の「グランプリ」を受賞。こちらの事例を通じて、木密地域における街づくりの課題と、どう乗り越えてにぎわいに結びつけたのかを取材しました。
木造住宅が密集する市街地は、火災や自然災害のリスクが高い
倉敷市では、倉敷駅に近い市中心部(阿知3丁目東地区)に老朽化した木造住宅が密集する地域があり、過去には火災が発生していました。さらに狭小敷地が多く、狭い道路や行き止まり道路が多いため、消防車による消防活動が難しいという防災面での課題がありました。
再開発前の阿知地区の木密地域。駅前に老朽化した住宅や店舗が立ち並んでいた(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
再開発前の商店街。シャッターを下ろしたままの店舗が多く、人通りが少なかった(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
2011年の東日本大震災で住宅密集地域が甚大な被害を受けたことから、翌年、国土交通省は「地震時等に著しく危険な密集市街地」を公表。当時、全国で約6000haにのぼり、そのうち東京都が約1683ha、大阪府が約2248haを占めていました。首都直下型地震が予想される東京都で、一層の木密地域解消を目標に「不燃化10年プロジェクト」がはじまったのもこの時期でした。
一方で、木密地域には、固有の文化やコミュニティが形成され、特色をもった地域の魅力がつくり出されている場合もあります。阿知地区の南側は、白壁土蔵のなまこ壁、軒を連ねる格子窓の町屋など日本の伝統的で美しい街並みが保全されている美観地区と接しています。再開発では、防災力を向上するだけでなく、倉敷の個性や魅力が伝わる街づくりを目指しました。
柳並木が連なる倉敷川沿い。国から重要伝統的建造物群保存地区に指定されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
古い商店街を含む市街地が、ホテルと分譲マンション・商業・公共施設を有した複合施設「あちてらす倉敷」に生まれ変わった
JR岡山駅から在来線で約20分、JR新大阪駅からは新幹線と在来線で約1時間半の倉敷駅。南側には、昭和初期から続く一番街商店街がありましたが、近年は空き店舗が目立ち、建物の老朽化が進んでいました。倉敷市では、1994年ころから、木密地域の再開発を構想していましたが、建て替えが進みにくい状況でした。2007年4月から始まった「倉敷市阿知3丁目東地区第一種市街地再開発事業」に2016年1月から参画した旭化成不動産レジデンス開発営業本部齋藤淳さんに開発の経緯を伺いました。
再開発エリアは、倉敷中央通りと倉敷一番街商店街にはさまれた約1.7haで、駅からは徒歩5分。倉敷駅と美観地区の中間地点にある(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
「再開発事業は、倉敷市の意向をふまえながら、事業コンサルタントで設計監理者のアール・アイ・エーと工事を請け負った特定業務代行者藤木工務店と共に官民一体で推進してきました。旭化成不動産レジデンス、株式会社NIPPOは、マンション事業者としてマンションの商品開発を担いました。過去に何度も火災があったと聞いていましたし、再開発途中に西日本豪雨による真備町の洪水がありました。火災、水害への備えはもちろんですが、美観地区の玄関口として、街全体の魅力を高める街づくりが必要だと考えていたんです。それらをふまえ、『あちてらす倉敷』の開発に着手しました」(齋藤さん)
再開発工事中の阿知3丁目地区。再開発事業では、施行地区内の木造建築物を解体し、建て替えや道路整備を行った(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
完成した「あちてらす倉敷」。中央通路をはさんで右側が分譲マンションや市営駐車場のある南棟、左側がホテルや店舗のある北棟(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
倉敷市に再開発の構想が浮上してから約27年、2021年10月10日、「あちてらす倉敷」がグランドオープンしました。白壁や木格子など倉敷美観地区の建築表現を取り入れた外観の施設には、「ホテル グラン・ココエ倉敷」が入る北棟、分譲マンション「アトラス倉敷ル・サンク」を中心に商業・医療施設、市営駐車場を含む南棟があります。
北棟外観。1~2階が店舗とホテルエントランスで、上階はホテルの宿泊施設(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
南棟外観。左にある住宅棟に隣接する2~4階が市営駐車場、さらに上階はマンション居住者専用駐車場になっている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
木造住宅の建て替えや雨水浸透桝で火災・水害に備え、施設内の市営駐車場を避難場所へ
「あちてらす倉敷」には、防災のための工夫が随所に設けられています。
「再開発前は、幅4mに満たない道路や路地が多く、倉敷駅南口周辺には避難場所がありませんでした。そこで、耐火性能の高い鉄筋コンクリート造へ建て替え、道路を拡幅するなど、防災性の強化を行っています」(齋藤さん)
そのほか、力を入れたのは、豪雨による水害対策です。洪水ハザードマップによると、このエリアは、洪水浸水想定区域で想定浸水深は約1.4mあり、雨水への対策が必要でした。
「公共空地などに浸透性ブロック舗装と雨水貯留ブロックを用い、全域に雨水浸透桝を設置。雨水浸透桝は、エリア内の民間企業の協力も得られ、開発街区全体で108カ所設置でき、街全体で雨水処理能力が大幅にアップしました。さらに、避難のため、南棟にある24時間利用可能な市営駐車場の台数を再開発前より増やし、緊急時、車ごと避難できるようにしました。南棟にある市民交流施設の『あちてらすぽっと』も、避難場所として使えます」(齋藤さん)
市営駐車場と「あちてらすぽっと」の2階の床は、想定浸水高さを上回る高さに設計(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
「あちてらすぽっと」。常時はワークスペースや休憩場として利用されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
再開発エリア内の公共空地と民有地の一部をオープンスペースとして活用し、にぎわいを創出
再開発で改善されたのは、防災面だけではありません。中央通路や、芝生広場を公共空間として設けることで、さまざまなイベントが催されるようになりました。
「エリア内には、約500平米ものオープンスペースがあります。中央通路や駅前古城池霞橋線の沿道は、市所有の公共空地ですが、都市再生推進法人制度を導入することで、民間がイベントの企画や運営など、にぎわいのための取組みを実施できるようになりました。芝生広場は、半分が公共空地で、残りが民有地ですが、あわせて誰でも使えるオープンスペースとして開放されています」(齋藤さん)
南棟と北棟の間にある中央通路は、歩行者専用(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
オープンカフェなど、人と集う場として中央通路が活用されている(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
周囲にデッキがある芝生広場(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
北棟1階西側は店舗が並び、旧商店街のにぎわいを取り戻しつつある。道路をはさんだ向かい側の商店街も人通りが増えてきた(画像提供/旭化成不動産レジデンス)
「倉敷駅近くに魅力のあるホテルや商業施設ができたので、美観地区や大原美術館をじっくり見ることができます。瀬戸内の美味しいものを食べたり、ホテルに泊まって、ゆっくり倉敷を堪能して欲しいです。今後は、街の滞在時間が増えていくと期待しています」(齋藤さん)
コロナ禍の影響で減少していた観光客はゴールデンウィーク明けに復調の兆しがあり、外国人観光客も多かった美観地区の客足はこれから戻ると予想されています。安全と暮らしやすさを両立しながら、街の個性を生かす取り組みは、全国にある木密地区の街づくりのヒントになると感じました。
●取材協力
・旭化成不動産レジデンス
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