「タイニーハウス」での暮らしとは? 日本の最先端が集結
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近年、日本でも広がりを見せつつある「タイニーハウス」。「断捨離」を経ての「ミニマム」な生活に憧れ、自分のライフスタイルを簡潔にしたいと考える人は多いようだ。タイニーハウスは、まさにそれを体現している。そもそも、タイニーハウスとはどのようなものか? どんな暮らしが可能なのか? 2019年11月、ずらり小さな家が並んだイベント「TINY HOUSE FESTIVAL 2019」へ足を運んだ。
コンパクトで手軽な家ならではのメリットとは?
池袋駅から徒歩5分ほどの南池袋公園。家族でランチを楽しみ、子どもが芝生を駆け回る都会のオアシスのような場所に、この日は15軒の「タイニーハウス」が並んでいた。
これは、2020年に開催される東京ビエンナーレのプレイベントである「TINY HOUSE FESTIVAL 2019」。3日間限定で小さな暮らしを営むタイニーハウスが集まったというわけだ。
もともとは2000年始めにアメリカで生まれた「タイニーハウスムーブメント」。2007年に住宅バブルの崩壊とともにサブプライム住宅ローンが破綻。さらに翌年のリーマンショックがきっかけとなり、消費社会に縛られないカルチャーとして注目され始めた。
そういった背景があるため「お金と時間の自由」を大切にするライフスタイルを体現できる家として広まってきている。
「TINY HOUSE FESTIVAL 2019」の主催者の一人であり、さまざまなタイニーハウスを手がけてきた建築家の中田理恵さんに話を聞いた。

中田さんは夫の裕一さんと建築事務所「中田製作所」を運営。「妄想から打ち上げまで」をコンセプトに施主も設計士も職人も一緒に家づくりに取り組む「HandiHouse project」や今回出展した「断熱タイニーハウスプロジェクト」や「FLAT mini」にもかかわっている(撮影/相馬ミナ)
「家を建てたり、新築を購入したりする際に、誰もが自らの暮らしを考えると思います。リビングが広いほうがいいのか、キッチンに重きをおくのか、スタイルはさまざまなはず。そんななかでの『タイニーハウス』は、選択肢の一つ。小さいからこそ手に入れやすいし、住み手側も手を加えやすい。理想の暮らしに近いものが自らの手で生み出せるというのが『タイニーハウス』の良さだと思っています」(中田さん、以下同)

イベント目当てに足を運んだ人だけでなく、公園に遊びにきた親子連れも自然と興味をもち、のぞき込んだり、写真を撮ったりしていた(撮影/相馬ミナ)
そもそも、タイニーハウスとは、どのようなものを指すのだろう?
「実は、明確な定義はないです。今回集まっているタイニーハウスの延べ床面積は20平米以内のものがほとんど。本体価格として100万円以下でできるものもあれば、高いものだと800万円ほどです。タイニーハウスの多くは800万円以下におさまっているので、一般的な住宅よりも低コストではないでしょうか。形態としては、車で牽引できて移動が可能なものもあれば、基礎つきの固定されたタイプもあります」
小さいということは、建てるまでの期間が短くて済む。また、低価格であれば、ローンを組まないで済むか、もしくは最小限の期間のローンでいい。
また、光熱費も抑えられるのでランニングコストもそれほどかからないというメリットもある。
「お金や時間にしばられずに、自由に身軽に暮らすための家といえるかもしれません」
暮らしや用途に合わせた、さまざまなタイニーハウス
展示されていたタイニーハウスを回ってみると、さまざまなタイプがあることが分かる。
「断熱タイニーハウスプロジェクト」は、建築科の学生である沼田汐里さんによるプロジェクト。中田さん自身もプロの建築家の視点から設計、監修としてかかわっている。
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普通免許で牽引できるサイズである750kg以下で製作したという延べ床面積1坪(約3平米)ほどのコンパクトな空間。その名のとおり、壁と天井に断熱材を入れているので、夏でも冬でも24~26℃をキープした実績がある(撮影/相馬ミナ)
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壁は一面を黄色に塗り、かわいらしい内装に。入口や窓は小さく、茶室をイメージしたつくりにしている(撮影/相馬ミナ)
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断熱材の効果を高めるために自作でパッキンを取り付けたという窓枠(撮影/相馬ミナ)
「エネルギーまちづくり社」は、建築家であり「みかんぐみ」の共同代表である竹内昌義さんによる会社。低燃費なエコハウスを手がけてきたノウハウを活かし、断熱材を使った小屋を展示。2トントラックに乗るサイズに設計されていて、ジャッキで気軽に上げ降ろしできるのが特徴だ。庭やイベント会場に気軽に設置したり、乗せたままキャンピングカーとして使用したりと汎用性が高い。
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今回のイベントの主催者でもある竹内さん自ら、ジャッキを使って実演(撮影/相馬ミナ)
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本体価格は150万円。取材時は外の温度(屋根表面温度)が34℃だったが、室内の温度は20℃に保たれていた(撮影/相馬ミナ)
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ドアも窓も機密性の高いサッシを使用することでより断熱材の効果を高めている(撮影/相馬ミナ)
「杢巧舎(もっこうしゃ)」は、一般住宅だけでなく社寺建築、数寄屋造り、古民家の新築や改築などを手がけ、伝統工法を大切にしている工務店。展示している小屋にも、その技術はふんだんに活かされている。建物は基礎に固定しない「石場建て」で、壁は伝統工法の「落とし込み板」など金物は使わず「木組み」だけで仕上げている。
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会場に資材を運び入れてから、職人3人によって5時間だけで建てたという小屋。親方曰く「100年先まで使い続けられる小屋を目指しました」(撮影/相馬ミナ)
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親方の木村真一郎さん。こちらは、もともとは自身の事務所としてつくった小屋だったという。3畳タイプの本体価格は99.8万円(消費税や運搬費は別途)(撮影/相馬ミナ)
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小屋前では「金輪継ぎ」や「尻挟み継ぎ」など、釘やネジを使わない技術の実演に人だかりができていた(撮影/相馬ミナ)
「SAMPO Inc」が手がけているのは、軽トラックに乗せたモバイルハウス。「あなたのための動く個室」とし、住まいとしてはもちろん、店舗やレコーディングスタジオ、サウナとして幅広い使い方を提案している。住み手が自らつくり上げられるよう、工具の使い方からレクチャーしてくれるという。
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建築集団「SAMPO Inc」が手掛ける一台。運転席の上部を活用して寝るスペースもしっかり確保してある(撮影/相馬ミナ)
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コンパクトでかわいらしい薪ストーブを設置(撮影/相馬ミナ)
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普段は「SAMPO Inc」の倉庫兼事務所にモバイルハウスが6台ほど置いてあり、トイレやお風呂をシェアしながら、身軽に生活している(撮影/相馬ミナ)
「Tree Heads&Co.」は、タイニーハウスやツリーハウスのほか、ツリーワークやランドスケープのデザインまで手がけている会社。代表の竹内友一さんは全国を回って、個性的な小屋をつくり続けている。
展示されていた三角屋根のシンプルな小屋は、タイヤがついて牽引できるトレーラータイプ。中にはキッチンやベッドスペースまできちんと完備されているので、タイニーハウスでの暮らしが想像しやすい。
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三角屋根が特徴のタイニーハウス(撮影/相馬ミナ)
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正面にベッドがあり、その上部は収納にしても、寝るスペースにしてもいいつくり(撮影/相馬ミナ)
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水道がつき、排水設備も整っているキッチン。左端には冷蔵庫もある(撮影/相馬ミナ)
小さいからこそ、DIYに向いている
展示されていたタイニーハウスを見るだけでも、さまざまな形態があることが分かる。さらに自身のライフスタイルに合ったものをと考えると、一体どこから取り掛かればいいか迷うかもしれない。
しかし、タイニーハウスには、住み手が自分で手を加えやすいという大きなメリットがある。ひとまず今の暮らしに合いそうなものを選び、暮らしながらあれこれ変化させていけばいいのだ。
住宅一軒を自らの手で建てる、またはリノベーションするとなると、かなりの知識と労力、時間がかかるだろう。それがタイニーハウスだったら、ちょっとできるかもしれない、やってみようと思えないだろうか。キットタイプなら自らの手で建てることもできるし、小さな空間ならリノベーションも気軽に取り組める。空いた時間にコツコツとDIYに取り組み、自分好みの空間をつくり上げていく楽しみもあるだろう。
「暮らしていくうちに、ライフスタイルは変わっていくものです。家族が増えたり、仕事が変わったり、興味の対象が別のものになったり。その変化に合わせて家もカスタマイズできていったら、すごく居心地のいいものになるはずです」
タイニーハウスのデメリットとクリアする方法は?
では、逆にデメリットとしてはどのようなことがあるのだろうか?
まず、ガスや水道、電気などのインフラをきちんと確認しなければならない。特にトイレや浴室、エアコンを備える場合は準備が必要だ。
また、住み手それぞれのプライバシーを守る個室をつくるのは難しい。家族が増えた場合にはスペースが足りないということも出てくる。
さらに車で牽引する車輪付きの移動型タイプは住民票の取得にも問題があるのも事実だ。
とはいえ、実際にこれらのデメリットをさまざまな方法で解決している住み手はいる。
「インフラさえ整えれば、トイレも浴室も、エアコンもつけることは可能です。また、断熱材をきちんと入れることで、暑さや寒さを軽減することもできます。トイレはシェアオフィス、お風呂は銭湯にしているという人も。移動型の人は、住民票を実家にしている人もいますし、クリアする方法はいろいろです。
家族が増えたら広さも問題になりますが、もちろん、もう一軒タイニーハウスを増やしてもいい。資金ができたら増やすという考え方もあります。リビングで一軒、各個室で一軒でもいいんです。タイニーハウスは、デメリットを逆にライフスタイルに合わせて柔軟に楽しめる人に向いていると思います」
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「えねこや」によるタイニーハウスにはエアコンもペレットストーブも完備。屋根に取り付けた太陽光発電パネルによる蓄電を元に、電力会社の送電網に繋がない独立システムになっている(撮影/相馬ミナ)
どんな暮らしがしたいのか。今の生活がどういう状況で、どう変化していくのか。何に重きを置いて生活したいのか。
ローンを組み、広くて快適な家に住むのもいいし、コンパクトな家を選び、食や旅にお金をかける生活もいい。暮らし方は人それぞれ違うものなのだから、それを担う住まいの形も違っていて当たり前。
タイニーハウスは、自らの暮らしを考えるきっかけとなり、選択肢の一つとして存在している。暮らしを考えれば考えるほど、住まいの種類が多ければ多いほど、私たちの生活は自由で豊かになっていくはずだ。
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(撮影/相馬ミナ)
●取材協力
中田製作所
HandiHouse project
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